過去、いじめの圧力に屈し裏切ってしまった私は彼と再会する。決死の謝罪に対し、彼が私に下すのは断罪か、赦しか────

鳳仙花

文字の大きさ
上 下
26 / 27

罪滅ぼしとそのメスイヌは別の話だよ!

しおりを挟む
「う、ううぅううう~~!」

 うなり声が聞こえる。

 いま、俺はりっちゃんの家に泊まりに来ている。彼女の家とは家族ぐるみで何かと仲が良く、本当にたまにだが、お泊まりイベントが発生する。

 建屋の広さなどの都合から、泊まるのはもっぱら、りっちゃんの家。無論、彼女のご両親もいるので健全なお泊まりだ。

 今回はちょっとしたイレギュラー……というか、いつもと違うところがあった。

 草薙の親戚筋から犬を預かって欲しいと頼まれたらしく……現在、草薙家にはダックスフンド──室内犬の【ショコラ】という名前の犬がいる。

 さっきのうなり声はそのショコラ──ではなかった。ショコラは実に大人しく人なつっこい。俺は犬も猫も大好きなのである。


 うなっていたのは…………何を隠そう、りっちゃんだった。

「りっちゃんって犬嫌いだっけ……?」


 とりあえず尋ねてみる。

「ううん。ワンちゃんは私も好きだよ。問題は……ショコラが居座ってる場所だよ!」

 居座ってる場所って……俺の膝の上?
 単に俺がソファーでくつろいでいるとショコラが膝の上に乗ってきて甘えてきたから、撫でてるだけなんだけど。

「えーっと……。良かったら、りっちゃんも、乗る?」

 途切れ途切れながら、そんな提案をしてみる。
 しまった。咄嗟に口から出ちゃったけど見当違いだったかも。これ、りっちゃんが膝の上でショコラを可愛がりたいとかいう意味だったら憤死モノの勘違いである。

 だがしかし。

「ッッッ!! いいの!?」

 どうやら俺の予想はど真ん中を打ち抜いていたようだ。そういえば、そこまでのスキンシップって滅多にしてないな。再開翌日に俺の上で寝こけていた時なんか以外では。手を繋いだり頭は撫でたりっていうのはあるけど。

「いや、まあ……。ショコラ、ちょっとごめんよ」

 膝の上からショコラを降ろすと、そのまま大人しくルカさんの方へ向かったようだ。本当によくしつけられている。

 別にショコラの毛が付いているわけでもないが、気分的に仕切り直す気持ちで、俺もショコラが座っていたあたりをパタパタとはたいてソファーへと戻る。

 そして。

「それじゃあ……おいで、りっちゃん」

「わんわん!」

 途端、目を輝かせながら彼女が俺の膝の上へとダイブしてきた。

 しかし、『わんわん』て。別に構わないけれど……それでいいのか、りっちゃんよ。

 さすがにショコラほど小さくはないのでソファーに身体がはみ出ている。
 強いて言うならお姫様抱っこ──横抱きの体勢に近いだろうか。

「よーしよしよしよし!」

 でもせっかくなので、俺もロールプレイに興じてみた。気分は動物王国の主だ。ワシャワシャと頭を撫でる。

 調子に乗った俺も人のことを言えた立場ではない。

 って、しまった、ちょっと乱暴に撫ですぎたか! これ、女の子相手には普通にアウトだな。

「ナ、ナオくん!?」

 ほら、さすがのりっちゃんもドン引きで──

「なにこれ!? すごい! かつてないほど満たされるんだけど! 私、こういうのを求めてたのかも!」

 なかった。全然引いてなかった。むしろ驚くほどに喜んでた。なんか興奮してるし。

 犬のように可愛がられて喜ぶ美少女……微笑ましいような、どこか闇を垣間見かいまみるような複雑な気分だ。

 まあいいか。そんなりっちゃんも可愛らしいし。

 そうやってでていたら、飲み物を持ったルカさんがショコラをともなって戻って来た。

「あら? ショコラの代わりに六花が可愛がってもらっちゃってるの? ふふ、六花はご主人様に尽くされっぱなしでいいのかしら?」

 ハタから見ると微笑ましい光景なのだろう。ルカさんはにこやかにそんな冗談を言った。

 すると。

「ぁ、わ、わ、わたし……」

 その言葉とともに、りっちゃんはピタリと動きを止める。心なしか青くなってる気もする。

 !?

 まさか……りっちゃん特有の拡大解釈の末、彼女のトラウマが刺激されてしまったか!?

 というか、イジメの顛末てんまつを知っていたとしても、こんな地雷ご両親でもわかるハズがない!

 途端に俺の頭脳は最適解を探し始める。

「りっちゃんりっちゃん、ほら、落ち着いて。ルカさんは『交代したら?』って言ってるだけだから。よしよし、誰も責めてないからね」

「こうたい……?」

 いつかのように背中をさすりながらはげます。

 で、気づくと。

「…………」

 なぜか俺がりっちゃんから膝枕をされていました。なんでやねん。

 ああ、でもなんだろうこれ。
 ものすごく快適なんだけど。

 そして気になることが一つ。りっちゃんの表情だ。
 最初はニコニコしていたのに、なにやら今は真剣に思案げな顔をしている。

「そろそろ起きようか? 重たいでしょ」

 人様の家まで来て、ここまで我が物顔するのもね。
 そう思い、少々なごり惜しいが終了を提案した。

 すると──

「…………ナオくん、私、今、人生の岐路に立たされてるかもしれない」

 なんか真面目な口調で語り出した。

「それ、過去の罪悪感的な話?」

「それとは違うんだけど」

「じゃあアレだ。甘やかされるのと甘やかすの、どっちが捨てがたいかとか」

「ナオくんエスパーなの!?」

 わからいでか。さっきから俺の頭は冴え渡っているのだ。第一、一瞬シリアスな空気っぽくはなったけど……今日のりっちゃん、いつにも増してお花畑だし。

「別にどっちかだけ取らなくても、気分と状況に応じて使い分けたら?」

「天才なの!?」

 あまり嬉しくない褒められ方をされてしまった。これ、以前に友人から借りた、異世界的な小説で主人公が奴隷から褒められてるシチュエーションと似た感じのやつだ。

 決して悪くはないんだけど、奴隷ポジションの話題が出ている当の本人から言われたらシャレにならない。

 過剰な罪悪感さえ無ければなぁ。

 と、そこで今まで黙っていたリヒトさん──りっちゃんパパが口を開いた。いつもは訥々とつとつと、むしろ口数が多いくらいに語るのに、こんな日も珍しい。

「……ルカ」

 ショコラと一緒にパタパタと動き回るルカさんに声をかける。

「はい?」

「今日は、一等いいやつを開けてほしい」

「まあ!」

 その一言でルカさんは手を合わせて顔を輝かせた。さすが夫婦。分かり合ってる感がすごい。

「良い日だな。実に良い日だ。これは、尚哉さんが来る日も近いな」

 常人では分からないであろう、ものすごく控えめにガッツポーズをしているリヒトさん。
 俺は知っている。アレ、ものすごく上機嫌な時にやるやつだ。

「ふふ、そうね。あの紙は六花が混乱した時に用意してるし」

 ルカさんもニコやかに答える。

「だから、【あの紙】って一体なんなんですかァ!? ちょっと怖いんですけど!?」

 りっちゃんの膝枕というパラダイスから脱する機会を完全に逸した俺は、快適なままそう叫んだ。

 膝枕の快適な状態でツッコミを入れる男。
 我ながら大層まぬけな光景だと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...