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追憶編・メシウマを諦めない彼女の挑戦の決着
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逃げ去る六花を、琉果(ルカ)──六花の母が確保した。
ルカは、『どうせ、こんなことになるだろう』と待機していたのであった。
母は娘へと説教する。
「六花。恥じるなら己が逃げた事実を恥じなさい。それに、不味いって言われたわけでもないでしょう。テストは自分に課したのであって、尚哉くんの愛情を試すためじゃないわよね? ほら、まだ作ってるんだし、謝って仕切り直しなさいな」
ド正論で懇々と諭すのであった。
「ごめんなさい。私ったら混乱しちゃって、失礼な事を……。ナオくん、まだ料理は用意してるんだけど……食べてくれますか?」
「いや、俺の方こそ言い方が悪かったよ。愛云々は正直、言い過ぎたかなとも思ってたんだ。両方とも美味しいは美味しかったわけだし、まだいただけるなら喜んで」
実は献立は最初から二パターン用意されている。色々食べてもらうため、作った量としてはそれぞれ少しずつなのだった。
そして再び草薙家の食卓に誘われる尚哉。
「ナオくん、改めてようこそ」
「こちらこそ改めて──Hey! シェフ! 次のメニューを聞かせてくれるかね?」
そして気まずい空気を吹き飛ばすよう、冗談めかして陽気に振る舞う。
彼の中から時折り顔を覗かせる、陽気なアメリカン。その実、半分くらいは六花のネガティブさを吹き飛ばすためのキャラクターでもあった。
もちろん元から持っている変人的な素養の部分が、かなり大きいが。
閑話休題。
この2人は良い意味で、多少のトラブルが発生しても立ち直りの早いところがある。
「ふふっ、お次はね──ご飯は引き続きなんだけど……お味噌汁にポテトサラダ、唐揚げという黄金のコンボなんだよ!」
「WOOOO! Amazing! マジかよ! こいつぁ嫌でもテンション上がっちまうぜ!」
そして六花は、先ほどのようにご飯と汁物……今回はお味噌汁をお盆に載せて戻ってきた。
「はい、お待ちどおさま!」
「SAY! HO! 俺の腹に住んでる虫はヤンチャでね! 何遍言い聞かせても、どこ吹く風の風来坊! さっきの今で、もう騒ぎ始めちゃってるのさ! …………あの、りっちゃん?」
そこで急に素の状態になる尚哉。実は尚哉の天敵……というより、ジョークブレイク数は、他ならぬ六花がダントツだった。
「なあに?」
一切の邪気なく、応える少女。
「あの、さっきの今で、なんだけどね。なんで、唐揚げも……二皿あるんだろ」
「ごめんね。実は唐揚げの方も二種類用意してて。でも評価はもういいの。せっかくだから、味にバラエティを持たせてもいいかなって。あ、嫌なら食べなくても全然大丈夫だから! もちろん捨てたりせずに、私が食べるよ!」
「それって、りっちゃんが冷凍食品の方を食べるって事だよね?」
冷凍食品が悪いと言っているわけではない。むしろ昨今の冷食産業の発展は素晴らしい。
もはや、手抜き料理ではなく手助け料理と言い換えても良いくらいに。だが、それとこれとは話が違う。
「もちろん。そもそも私の手料理を食べて欲しいのが始まりだし。あ、もし冷凍食品の方が食べたかったら遠慮なく──」
「いやいや、そんなことは全くないからね。ただ、聞いてみただけだから。有り難くいただくよ」
尚哉は冷や汗をかきながら答える。必然、次第に上がってゆく尚哉の頭脳ギア。
(この状況は──りっちゃんは健気な子だ。確かに、言葉以上の含みなんて無いだろう。だが、彼女が自分に試練を課していたように、これもまた……。天が俺の愛情を試すために課した試練なのかもしれない)
そして、全然見当違いの解釈に辿り着いた。
彼の言う愛情。夫婦や恋人的というよりは、未だ親愛的な意味合いの強いソレだったが、どう見ても考えすぎである。
「そう? じゃあ──どうぞ召し上がれ!」
「いただきます……!」
楽しいだけの食卓のはずが、そこには緊張感が漂っていた。主に彼の周りに。
そして先ほどと同じような、まるで焼き増ししたような光景が流れる。
なおこの時、尚哉の頭脳回転数はギアの上げすぎでオーバーヒート気味だった。
その結果。
(どっちだ……どっちが正解なんだ!? ぶっちゃけ味の遜色が全く無い! どっちも美味いけど、そんなどっち付かずの答えは俺が納得できない。考えろ、考えるんだ八坂尚哉。お前が学んできた知識、経験は今この時のため。それを総動員して『気づき』を得るのだ……!)
尚哉は勝手に使命に駆られていた。普段、六花の事をポンコツ扱いしてはいるが、それは本人も同様である。
「うーん。こっちが冷食かな? どっちも美味いけど、心なしかニンニクの風味が強い。そういえば、最近の唐揚げは香辛料強めって聞いた気がする」
覚悟の結果、成される結論。
「──それ、私が作った方だね」
六花は少しだけ悲しげではあったが、ルカの言葉もある。決して尚哉を非難しなかった。
だが。
「りっちゃん……俺たち、別れよう」
少年の脆弱な良心の方が、その呵責に耐えられないのであった。
「なんで!? そもそも私たち付き合ってないし、それって普通、言うとしても私の立場からじゃないの!?」
今回ばかりは六花の方が正論を吐く。
「ハハ……俺はね、美少女の手料理と冷食の違いすら分からない、違いの分からない男。そんなクズ野郎なんだよ……」
「ナオくん私、嫌だよ! こんな! こんな冷凍食品なんてものが存在する世の中が悪いんだよ!」
珍しくネガ発言をする尚哉に、冷食産業の全てを敵に回す発言をする六花。
「りっちゃん。冷凍食品を──彼らを悪く言うのはやめてあげてくれ。彼らは産業廃棄物でもなんでもない。食卓や弁当に彩りを持たせてくれる、正義の使者だ。悪いのは冷凍食品が存在する世の中じゃない。【真の産業廃棄物】たる、この、俺さ……」
場は混乱に満ち満ち……今や阿鼻叫喚の修羅場と化していた。このシーンだけ切り取ってしまえば、まるで昼ドラのような光景だ。
しかも引き合いに【産業廃棄物】なんて例えを使っている分、どちらかというと尚哉の方が冷食産業界の真の敵だった。『悪く言わないでくれ』などと庇っているようで、彼が一番悪く言っている。
さすがの六花も、そこまでは言っていない。
「ナオくん……冷凍食品と私を守るために、あえて自ら悪者に……!」
そして少女の中で巻き起こる、なぞの感動。
もはや収拾が付かなくなる、その時──
「いやアナタ達、何してるの? 言い争う声が聞こえてきたと思ってきたら、喧嘩じゃなくて何やら茶番を演じてるし……。どういう状況? これ」
修羅場のような会話が聞こえてきたので、心配したルカが入ってきた。
そのお陰で、すぐに場は収束したが……。
罰として、『しばらく六花は料理禁止』という沙汰が下ったのだった。
ルカは、『どうせ、こんなことになるだろう』と待機していたのであった。
母は娘へと説教する。
「六花。恥じるなら己が逃げた事実を恥じなさい。それに、不味いって言われたわけでもないでしょう。テストは自分に課したのであって、尚哉くんの愛情を試すためじゃないわよね? ほら、まだ作ってるんだし、謝って仕切り直しなさいな」
ド正論で懇々と諭すのであった。
「ごめんなさい。私ったら混乱しちゃって、失礼な事を……。ナオくん、まだ料理は用意してるんだけど……食べてくれますか?」
「いや、俺の方こそ言い方が悪かったよ。愛云々は正直、言い過ぎたかなとも思ってたんだ。両方とも美味しいは美味しかったわけだし、まだいただけるなら喜んで」
実は献立は最初から二パターン用意されている。色々食べてもらうため、作った量としてはそれぞれ少しずつなのだった。
そして再び草薙家の食卓に誘われる尚哉。
「ナオくん、改めてようこそ」
「こちらこそ改めて──Hey! シェフ! 次のメニューを聞かせてくれるかね?」
そして気まずい空気を吹き飛ばすよう、冗談めかして陽気に振る舞う。
彼の中から時折り顔を覗かせる、陽気なアメリカン。その実、半分くらいは六花のネガティブさを吹き飛ばすためのキャラクターでもあった。
もちろん元から持っている変人的な素養の部分が、かなり大きいが。
閑話休題。
この2人は良い意味で、多少のトラブルが発生しても立ち直りの早いところがある。
「ふふっ、お次はね──ご飯は引き続きなんだけど……お味噌汁にポテトサラダ、唐揚げという黄金のコンボなんだよ!」
「WOOOO! Amazing! マジかよ! こいつぁ嫌でもテンション上がっちまうぜ!」
そして六花は、先ほどのようにご飯と汁物……今回はお味噌汁をお盆に載せて戻ってきた。
「はい、お待ちどおさま!」
「SAY! HO! 俺の腹に住んでる虫はヤンチャでね! 何遍言い聞かせても、どこ吹く風の風来坊! さっきの今で、もう騒ぎ始めちゃってるのさ! …………あの、りっちゃん?」
そこで急に素の状態になる尚哉。実は尚哉の天敵……というより、ジョークブレイク数は、他ならぬ六花がダントツだった。
「なあに?」
一切の邪気なく、応える少女。
「あの、さっきの今で、なんだけどね。なんで、唐揚げも……二皿あるんだろ」
「ごめんね。実は唐揚げの方も二種類用意してて。でも評価はもういいの。せっかくだから、味にバラエティを持たせてもいいかなって。あ、嫌なら食べなくても全然大丈夫だから! もちろん捨てたりせずに、私が食べるよ!」
「それって、りっちゃんが冷凍食品の方を食べるって事だよね?」
冷凍食品が悪いと言っているわけではない。むしろ昨今の冷食産業の発展は素晴らしい。
もはや、手抜き料理ではなく手助け料理と言い換えても良いくらいに。だが、それとこれとは話が違う。
「もちろん。そもそも私の手料理を食べて欲しいのが始まりだし。あ、もし冷凍食品の方が食べたかったら遠慮なく──」
「いやいや、そんなことは全くないからね。ただ、聞いてみただけだから。有り難くいただくよ」
尚哉は冷や汗をかきながら答える。必然、次第に上がってゆく尚哉の頭脳ギア。
(この状況は──りっちゃんは健気な子だ。確かに、言葉以上の含みなんて無いだろう。だが、彼女が自分に試練を課していたように、これもまた……。天が俺の愛情を試すために課した試練なのかもしれない)
そして、全然見当違いの解釈に辿り着いた。
彼の言う愛情。夫婦や恋人的というよりは、未だ親愛的な意味合いの強いソレだったが、どう見ても考えすぎである。
「そう? じゃあ──どうぞ召し上がれ!」
「いただきます……!」
楽しいだけの食卓のはずが、そこには緊張感が漂っていた。主に彼の周りに。
そして先ほどと同じような、まるで焼き増ししたような光景が流れる。
なおこの時、尚哉の頭脳回転数はギアの上げすぎでオーバーヒート気味だった。
その結果。
(どっちだ……どっちが正解なんだ!? ぶっちゃけ味の遜色が全く無い! どっちも美味いけど、そんなどっち付かずの答えは俺が納得できない。考えろ、考えるんだ八坂尚哉。お前が学んできた知識、経験は今この時のため。それを総動員して『気づき』を得るのだ……!)
尚哉は勝手に使命に駆られていた。普段、六花の事をポンコツ扱いしてはいるが、それは本人も同様である。
「うーん。こっちが冷食かな? どっちも美味いけど、心なしかニンニクの風味が強い。そういえば、最近の唐揚げは香辛料強めって聞いた気がする」
覚悟の結果、成される結論。
「──それ、私が作った方だね」
六花は少しだけ悲しげではあったが、ルカの言葉もある。決して尚哉を非難しなかった。
だが。
「りっちゃん……俺たち、別れよう」
少年の脆弱な良心の方が、その呵責に耐えられないのであった。
「なんで!? そもそも私たち付き合ってないし、それって普通、言うとしても私の立場からじゃないの!?」
今回ばかりは六花の方が正論を吐く。
「ハハ……俺はね、美少女の手料理と冷食の違いすら分からない、違いの分からない男。そんなクズ野郎なんだよ……」
「ナオくん私、嫌だよ! こんな! こんな冷凍食品なんてものが存在する世の中が悪いんだよ!」
珍しくネガ発言をする尚哉に、冷食産業の全てを敵に回す発言をする六花。
「りっちゃん。冷凍食品を──彼らを悪く言うのはやめてあげてくれ。彼らは産業廃棄物でもなんでもない。食卓や弁当に彩りを持たせてくれる、正義の使者だ。悪いのは冷凍食品が存在する世の中じゃない。【真の産業廃棄物】たる、この、俺さ……」
場は混乱に満ち満ち……今や阿鼻叫喚の修羅場と化していた。このシーンだけ切り取ってしまえば、まるで昼ドラのような光景だ。
しかも引き合いに【産業廃棄物】なんて例えを使っている分、どちらかというと尚哉の方が冷食産業界の真の敵だった。『悪く言わないでくれ』などと庇っているようで、彼が一番悪く言っている。
さすがの六花も、そこまでは言っていない。
「ナオくん……冷凍食品と私を守るために、あえて自ら悪者に……!」
そして少女の中で巻き起こる、なぞの感動。
もはや収拾が付かなくなる、その時──
「いやアナタ達、何してるの? 言い争う声が聞こえてきたと思ってきたら、喧嘩じゃなくて何やら茶番を演じてるし……。どういう状況? これ」
修羅場のような会話が聞こえてきたので、心配したルカが入ってきた。
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