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追憶編・強制相合い傘(後編)
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そして授業も普通に進み、滞りなく1日が過ぎてゆく。
登校中に交わした会話もあり、しばらくはワクワクしていた六花。
だが結局、何のイベントも無いまま放課後を迎えていた。
その頃になると、朝の占いの事などスッカリ頭の中から抜け落ちているのだった。
しかし。
いざ帰ろうと、尚哉とともに下駄箱に向かっていると──にわかに雨がポツポツと降り始めてくる。
「おー……さっきまで晴れてたのに、急だねえ。間が悪いというか。どうせなら家に帰り着いてから降ってくれればなー」
そのセリフを聞いた瞬間、六花は朝と同じようにビビッと来た。
(これだ! これに違いない! そういえば、朝ナオくんは傘を持っていなかった。ラッキーイベントの正体は……乙女のドキドキイベント、【相合い傘】……!)
当の本人は今の今まで忘れていたくせに、一瞬でそこまで思い至る。なんとも現金なものであった。
「ナオくん、そういえば傘持って来てなかったよね?」
だがしかし、この流れから何度か痛い目を見てきた彼女。その経験からか、決して油断はしなかった。なぜなら、彼は妙に抜け目ない所がある。もしかすると、六花のように折りたたみ傘でも忍ばせているかもしれない。
「だね。傘、持って来てないや」
そこで彼は『ふう、やれやれ』といったリアクションをとった。
そのセリフを聞き、なおかつリアクションまで見た六花は今回の勝利を確信した。尚哉に悪いとは考えつつも、思わず内心ではガッツポーズ。
「ナオくんっ、良かったら──」
「はっはー! なぁんちゃってね。置き傘してるんだよなぁ、コレが!」
戯けたように尚哉がそう言った瞬間、六花は凍り付いた。
「ア、アハハ。ヨカッタ、ソウナンダネ」
そのぎこちない様子を見て尚哉の頭脳は覚醒し……例の如く、そのギアを一段階上げる。
(これは……? りっちゃんは今、俺に傘の有無を聞いて若干嬉しそうにした。だが、彼女は決して人の不幸を笑う子ではない。そして……置き傘の存在を聞いた時点でその様子が霧散した? コレが示すものは……。考えろ、八坂尚哉……! 彼女は何を望んで、俺は何を為すべきか。いざ、正答を導け──!)
そして、少年は【解答】へと至る。
「ふぅ~……」
おもむろに傘立てへと足を運ぶ尚哉。
「ナオくん……?」
その中から彼は自分の傘を見つけ出し、取り出す。
そして。
「フゥン!!」
ベキッという嫌な音。
「ナオくん!?」
なんと、尚哉はあろうことか、自らの傘を叩き折ったのだ!
火事場の馬鹿力でも発揮してしまったのか──無残にも折れ曲がる傘。
「いっけね! 傘、ウッカリ壊しちゃったよ!」
もはや、『ついウッカリ』でも何でもない。白々しさにもほどがあった。
「ナオくん!?」
「りっちゃん、厚かましくて申し訳ないんだけど……俺が傘を持つからさ、良かったら一緒に入れてくれない?」
「!! 喜んで!!」
大喜びの六花。
目的の【相合い傘】が出来る。その事実から、彼の奇行の事は頭から飛んでいたのだった。
そして、くっつきながら和気あいあいと帰りゆく二人。
そんな茶番めいた一部始終を見てしまった者がいる。帰り際の挨拶として声をかけようとしたら、いきなり尚哉が奇行に走り出したので、思わず声を失った少年──ノブだ。
(いやいや! あいつ何やってんの!? バカなの!? 草薙も草薙だよ! 最初は驚いてたくせに、今は嬉々として尚哉を受け入れてやがる! あいつら……どうなってんだよ!?)
至極、真っ当なその心のツッコみは、誰の耳に入る事もないのであった……。
登校中に交わした会話もあり、しばらくはワクワクしていた六花。
だが結局、何のイベントも無いまま放課後を迎えていた。
その頃になると、朝の占いの事などスッカリ頭の中から抜け落ちているのだった。
しかし。
いざ帰ろうと、尚哉とともに下駄箱に向かっていると──にわかに雨がポツポツと降り始めてくる。
「おー……さっきまで晴れてたのに、急だねえ。間が悪いというか。どうせなら家に帰り着いてから降ってくれればなー」
そのセリフを聞いた瞬間、六花は朝と同じようにビビッと来た。
(これだ! これに違いない! そういえば、朝ナオくんは傘を持っていなかった。ラッキーイベントの正体は……乙女のドキドキイベント、【相合い傘】……!)
当の本人は今の今まで忘れていたくせに、一瞬でそこまで思い至る。なんとも現金なものであった。
「ナオくん、そういえば傘持って来てなかったよね?」
だがしかし、この流れから何度か痛い目を見てきた彼女。その経験からか、決して油断はしなかった。なぜなら、彼は妙に抜け目ない所がある。もしかすると、六花のように折りたたみ傘でも忍ばせているかもしれない。
「だね。傘、持って来てないや」
そこで彼は『ふう、やれやれ』といったリアクションをとった。
そのセリフを聞き、なおかつリアクションまで見た六花は今回の勝利を確信した。尚哉に悪いとは考えつつも、思わず内心ではガッツポーズ。
「ナオくんっ、良かったら──」
「はっはー! なぁんちゃってね。置き傘してるんだよなぁ、コレが!」
戯けたように尚哉がそう言った瞬間、六花は凍り付いた。
「ア、アハハ。ヨカッタ、ソウナンダネ」
そのぎこちない様子を見て尚哉の頭脳は覚醒し……例の如く、そのギアを一段階上げる。
(これは……? りっちゃんは今、俺に傘の有無を聞いて若干嬉しそうにした。だが、彼女は決して人の不幸を笑う子ではない。そして……置き傘の存在を聞いた時点でその様子が霧散した? コレが示すものは……。考えろ、八坂尚哉……! 彼女は何を望んで、俺は何を為すべきか。いざ、正答を導け──!)
そして、少年は【解答】へと至る。
「ふぅ~……」
おもむろに傘立てへと足を運ぶ尚哉。
「ナオくん……?」
その中から彼は自分の傘を見つけ出し、取り出す。
そして。
「フゥン!!」
ベキッという嫌な音。
「ナオくん!?」
なんと、尚哉はあろうことか、自らの傘を叩き折ったのだ!
火事場の馬鹿力でも発揮してしまったのか──無残にも折れ曲がる傘。
「いっけね! 傘、ウッカリ壊しちゃったよ!」
もはや、『ついウッカリ』でも何でもない。白々しさにもほどがあった。
「ナオくん!?」
「りっちゃん、厚かましくて申し訳ないんだけど……俺が傘を持つからさ、良かったら一緒に入れてくれない?」
「!! 喜んで!!」
大喜びの六花。
目的の【相合い傘】が出来る。その事実から、彼の奇行の事は頭から飛んでいたのだった。
そして、くっつきながら和気あいあいと帰りゆく二人。
そんな茶番めいた一部始終を見てしまった者がいる。帰り際の挨拶として声をかけようとしたら、いきなり尚哉が奇行に走り出したので、思わず声を失った少年──ノブだ。
(いやいや! あいつ何やってんの!? バカなの!? 草薙も草薙だよ! 最初は驚いてたくせに、今は嬉々として尚哉を受け入れてやがる! あいつら……どうなってんだよ!?)
至極、真っ当なその心のツッコみは、誰の耳に入る事もないのであった……。
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