過去、いじめの圧力に屈し裏切ってしまった私は彼と再会する。決死の謝罪に対し、彼が私に下すのは断罪か、赦しか────

鳳仙花

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ショッピングデート~背負わされた十字架~

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 それから、つつがなく手荷物をロッカーに入れ現場に到着。

 そこでは『雑多』という言葉が相応ふさわしく、様々な物が並べられていた。

 恐らくは家に眠っていたのであろう古物から、先ほどのレジン細工のような手作りの物まで。なんともバラエティに富んでいる。

 ウインドウショッピング感覚で、あちこちを冷やかして回る……と、りっちゃんがとあるお店の前で立ち止まった。

 そこは手作りのシルバーや皮革製品等のアクセサリを扱っているお店だ。

 陳列ちんれつしているものを作った本人であろう、お姉さんが店番をしている。ジーッと品物を見ていると、お姉さんが話しかけてきた。

「いらっしゃーい。良かったら色々と見ていってね。……あら、可愛い子。アナタ、何でも似合いそうね」

 りっちゃん、お店に立ち寄る度に褒められすぎである。まあ分かるけど。

「ありがとうございます。あの、オシャレな物がたくさんありますね。お姉さんの手作りですか?」

「あは、褒めてくれてアリガト。そうそう、これ全部アタシが作ったんだよ」

 なんだかサバサバした雰囲気のお姉さんだ。

「へぇ~……」

 りっちゃんは並べてある物をポーッと見ている。何か欲しいのかな……。

 あっ、そうだ! 今回、付き合ってくれたお礼に、何かプレゼントでもしよう。

 そんな名案を思い付いた。

「りっちゃん、何か欲しい物ない? 良かったら今日のお礼にプレゼントするよ?」

 それを聞いた彼女は目を輝かせる。

「本当!? いいの? じゃあ……お言葉に甘えようかな」

 おぉっ! 彼女がこういう場面で素直に甘えてこようとは! 普段は遠慮しがちなのに。

 しかし、例えば金属のジャラジャラしたような野太いチェーンなんかは、さすがにイメージに合わない気がする。

 ……! もしかしたら指輪なんか欲しかったりして……! なんだかんだ、変わってはいても女性らしい子だし。

「うんうん、あんまり高額過ぎるのは買えないけどね。ある程度は大丈夫だから、遠慮なく好きなの言って?」

「やったぁ! じゃあ私──これがいい!」

 ほらやっぱり。全く迷いがなかった。彼女がチョイスしたのは指輪……じゃないな。革の……、なんだろうコレ。バンド?

 サイズ的に、腕に巻くには大きいような。なんというか、意外だ。

「えっ……」

 そしてなぜか困惑するお姉さん。ついさっきまで自信ありげだったのに、どうしたんだろう?

「えと。じゃあその革のやつ、ください」

 そんな様子のお姉さんを置き去りにして、りっちゃんは希望を口にする。

「えぇっと、あのー……。これ、リストバンドじゃなくて首輪なんだけど……」

 はぁ!?

「はい、分かってますよ?」

 りっちゃん分かってて選んだの!?

「いやあの。言いにくいんだけど……犬なんかにするペット用の首輪で……」

「はい、分かってますよ?」

 ………………これはマズイぞ……! 非常にマズイ流れだ。

 分かりづらかったけど、間違いなくスイッチが発動している。何とか止めなければ!

「あっ! なんだ、ペット飼ってるって事だね。焦ったぁ」

 ホッと胸をなで下ろすお姉さん。違うんです……!

「いえ、私用ですよ?」

「エッ!?」

「りっちゃん。ほら、お姉さん困ってるから」

 ここは申し訳ないが、お姉さんも巻き込んで説得に協力してもらおう。そう思い、自然に言葉を誘導する。

「──ナオくん、さっき、何でも買ってくれるって…………」

 ああッ!? ものすっごいヘコんでる! シューンとしてる! 耳と尻尾が垂れ下がった犬みたいに!!

「買いたくないわけじゃないんだよ! 用途がさ! ヒューマン用じゃないんだってば!!」

「そこはほら。奴隷ってある意味ヒューマン型のペットみたいな」

「ハイ!? 奴隷!? お兄さん、こんな可愛い子を奴隷にしちゃってるの!?」

 ファッ!? すごい勢いで飛び火していく! じきに大火事だよ! バーニング大炎上だよ!

 あらぬ誤解が加速し、俺の脳内語彙ごいがおかしくなってゆく……!

「未遂! 未遂ですから!」

 大慌てで弁解する。

「未遂って事は全く無根拠な話でもないんだ!?」

 あばばばば!!

「ナオくんからのプレゼント、嬉しいな……」

 りっちゃんは自分の世界にひたりきっている。ちょっと! 現実世界に帰ってフォローして!?

「アタシはまぁ……要望とあらば売りはするけど……」

 お姉さんも諦めないで!!

「人間用! ヒューマンタイプのチョーカーとかないんですか!?」

 なんとか妥協案を引き出すべく、交渉をこころみる!

「金属製のネックレスで良ければ……」

 よし! 新たな選択肢追加! ここだ、ここしかない!

「うん、ネックレス。りっちゃ──」

「私、これがいいな」

 もう! なんて頑固な子! というか話を聞いてない!

「サイズは大きめだし、調整が利くから合わなくはないけど……あ、ペット用だから金属の輪っかも付いてるけど、これは流石さすがに──」

「それも下さい」

 !?

「お兄さん、もしかして調教師か何かなの……?」

 お姉さんの目が……!

「いえ、ナオくんは普通の高校生です。特技は関節技。調教は私が勝手にされてるだけで」

「関節技で、普通……? うぅぅん、なんともコメントに困るね……」

 微妙に真実を混ぜてこないで!?

「あのっ待っ──」

 しかし、未だに【りっちゃんスイッチ】は入りっぱなし。もはや二人とも俺の話など聞いちゃいなかった。勝手に進んでゆく交渉。カオス過ぎる。


 で。


「毎度あり~。えーっと……お兄さん、何て言ったら良いか分からないけど……頑張ってね!」

 グリーンの(ペット用)首輪に金属の輪っかをラッピングしてもらった、りっちゃん。

 そのまま俺たちはお姉さんに見送られる。首輪を貰った彼女は、この上なく満足そうだ。

 俺は──もう諦めた。彼女が喜んでくれさえすれば、もはやどうでもいい。

「………………」

「ナオくん、ありがとう!! ここ最近で一番嬉しかった!!」

 ペット用の首輪をプレゼントして貰ったことで、とてつもなく上機嫌な彼女。俺は何を言えばいいのだろうか。

 りっちゃんを喜ばせるという意味でなら、今日のデートは大成功だ。

 だが、そういう問題じゃない。

 なんだか途方も無い大きさの十字架を背負わされた気分というか。俺、異世界転移した覚えなんかないのに……なんで奴隷をゲットしかけてるんだろう……。

 そのまま帰路につく俺たち。りっちゃんは……彼女にしては珍しく、鼻歌なんて歌っている。

 せめて。せめて付けるなら、自宅の室内だけにして下さい。

 そう願ってやまないが、その願いは俺の胸の内で虚しく響くだけ。

 今後の事を考えると、なんとも嫌な予感にさいなまれてしまうのであった。
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