過去、いじめの圧力に屈し裏切ってしまった私は彼と再会する。決死の謝罪に対し、彼が私に下すのは断罪か、赦しか────

鳳仙花

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ショッピングデート~良き日の思い出~

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 なんとかお昼を切り抜けた。

 もう俺のお腹はパンパンである。今度、お弁当を作ってくれるって話だけど……重箱は使わないよう事前に訴え、先手を打っておこう。

 もし重箱持参で今日の流れと同じ風になったら──言い方は悪いが、フォアグラを連想してしまった。

 スイッチさえ入っていなければ、りっちゃんは極端な行動をしない。それがオンの状態になるのが、もしも好意ゆえにだったら、あまり強く注意することもできない。ツッコみはするけども。

 さて、昼食を終わらせたことで、モール内は一通り回ってしまった。ここからは腹ごなしがてら移動だ。

 建物から出る前に、コインロッカーに入れてあったわずかな荷物を回収する。

 その際、少し気になる事があった。

「りっちゃん、そのバッグに付けてるピンバッジって、もしかして──」

 彼女のピンバッジを指しながら問いかける。

「──そうだよ。私、物持ち良いでしょ?」

『ふっふ~』と笑顔を浮かべながら、どこか得意そうに答えが返ってきた。

 それは、とあるテーマをモチーフに作られたもの。彼女と同じ名前を冠する、雪の結晶の形をしたレジンの加工物である。経年劣化けいねんれっかから、今では多少色あせてしまっているが。

 ……これは驚きだ。現在はピンバッジに改造されているその結晶。元々はヘアピンとして使われていた。

 何を隠そう、かつての俺が贈ったものだ。彼女へのお返しに、何とか手作りのものを渡したいと考え、色々と探して行き着いたのがレジンアートだった。

『アート』なんて言うと大げさに聞こえるが、いわばDIY的な工作である。必要な道具さえ揃えられれば、素人でも手が出せる分野。少し手先が器用かつ手順さえ間違えなければ、初心者でも意外と何とかなる。

 大ざっぱな流れとしては、レジン液というモノを使い、それが固まらない内に造形を整えてしまう。そして、その状態のまま固まりきれば完成。イマジネーション次第で割りと色々なものが作れるのだ。

 もちろんプロの作家さんが作ったような作品のクオリティには、とうてい及ばない。しかし、既製品とは違い世界でただ一つ。りっちゃんのためだけに作られた結晶。

 俺はスターターキット的なものを入手したので、ラメやビーズ等の素材を始め、液を固めるための簡易的なUVライトまで付いていた。

 最初の内は何度も何度も失敗した。中々に細かい作業で……どうにも形がいびつになってしまったり、気泡が中に入ったりしてしまうのである。

 だが、彼女のためと思えば諦める選択肢など存在しない。『それならば』と、とにかくトライアンドエラーを繰り返し続けた。

 黙々と作業をこなし、数ある中で一番良い出来のモノにヘアピン素材をくっつけて完成。

 そして、後日それをラッピングして渡したのだ。りっちゃんはもの凄く喜んでくれた。それはもう……しばらくの間ほぼ毎日、髪に付けていたほどに。

 その時から、もう何年も経つ。普通なら無くしたり壊したりしていても、おかしくはない。

 これまでの時間の経過の中……恐らくは彼女自身の手を経て、その形を変えたのだろう。まるで『未だに私のお守りだ』と言わんばかりに、今現在、大事そうに手で包み込んでいた。

 …………なんというか、本当に嬉しい。その仕草は『俺との思い出はそれだけ大切なんだよ』、という事を何より雄弁に物語っている。


 お陰様で、ホッコリした気分のままモールから出発できたのであった。

 次の目的地は駅方面。雑談をしながら歩き続ける。無くなったり新しくなったり、さま変わりした部分の建物やお店の説明を丁寧に教えてくれた。

「そうだ。駅といえば、今日は近くの広場でフリーマーケットをやってるみたいなの」

 そして、雑談の流れでそんな情報を教えてくれる。

 色々と寄り道しながらという予定だったが、彼女の発言により、そちらの方に興味がそそられた。

「へぇ。それって頻繁にやってるの?」

「ん~……さすがに毎週ってわけじゃないけど、定期的にはやってるみたい」

 それがたまたま今日なのか。これは──運が良いのかもしれない!

「なんか面白そうだね……! よければ荷物、駅のコインロッカーに預けて行ってみない?」

「もちろんいいよ。もしかしたら、掘り出し物が見つかるかもね?」

 りっちゃんは即答してくれた。その上、俺の話にまでノリノリで……もう、ホントに良い子!

「いわゆるのみの市かぁ……いいね、お宝ゲットしたい!」

 それはまさに少年心。そう、ちょっとしたトレジャーハンター気分だ。

 現に、ものすごく価値がある物が極稀ごくまれにまぎれている。それが蚤の市。

「ふふ、ナオくんってそういうの好きだよねえ」

 俺の方を向いて微笑ましそうに口を押さえている、りっちゃん。とても可愛い仕草だ。

性分しょうぶんなのかも。意外な物が出てきそうでワクワクしない?」

「うん、それは分かる。見て回るだけでも面白いし」

 単に話を合わせてくれてるわけじゃない。心底、楽しそうな笑顔。

 もしも、りっちゃんと付き合ったり結婚できたりしたら……幸せそうな生活を送れそうだ。

 はは、なんちゃってね。

 そうしてワイワイと二人で話ながら、フリマをやっているという広場へ向かうのだった。
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