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ショッピングデート~ハイ、アーングググ~
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いきなり女性用下着コーナーに連れて行かれた時は驚いた。
しかも、俺の事を意識した上で誘惑したり、平気でスリーサイズを口にしようとするノーガードっぷり。
『襲ってもいい』同然の発言を聞いたときには、思わず頭を抱えてしまった。
これはすでに……いや、間違いなくスイッチが入っている。
学校の噂を聞いた限りでは、彼女はもの凄く身持ちが堅いという話だ。それはもう、【氷壁】の名に恥じる事がないくらいの鉄壁っぷりらしい。
今日の話をしても信じてくれる人は少なそうだなぁ。
……せいぜい、ノブくらいか?
そして待ち合わせから合流以降、【りっちゃんスイッチ】は未だ入りっぱなしだ。
下着コーナーを出てからは、普通に服や小物を見て回った。その流れで雑貨屋にも立ち寄った。
その中で彼女が買ったのは、部屋に置く小物とアロマオイルくらい。後は帽子を買うか迷っていたようだが、結局は買わなかった。
実は彼女の家はちょっとした資産家だ。住んでいる建屋も中々に大きい。だというのに、彼女の経済観念は世間一般並み……どころか、あまり物を買うイメージがない。
なんとなくだが、物欲が薄いイメージすらある。現に、「アレが欲しい、コレが買いたい」なんてセリフを、今まで彼女の口から聞いた事がなかった。
先ほど寄った服屋なんかでは、自分ではなく主に俺の服を色々とチョイスしていたほどだ。
それは別にいい。個人の自由だし、りっちゃん自身の服を買うタイミングなんかも俺が口を出すような事ではないだろう。
ただ、自分のお小遣いから俺に服を買い与えようとするのは止めて欲しい。まるでヒモになったような気分になってしまう。
そんな、元々が世話焼き気質の彼女。
本当に奴隷なんかになったら──待てよ? 仮に奴隷になったら、いくら世話を焼こうが俺を甘やかそうが、『奴隷だから』の大義名分でやりたい放題……。
まさか、償いのフリをして真の狙いはそれか!?
なんちゃってね。りっちゃんは、そういった小細工や打算が働くタイプじゃない。
やるなら正々堂々、正面から来るだろう。
……それはそれで純粋な分、厄介とも言えるが。
さて、それよりも俺の恐れていた【りっちゃんスイッチ】の件だ。
いつ突拍子のない言動が飛んでくるか戦々恐々としていたが、その真価が次に発揮されたのは……昼食時だった。
色々なお店を回った後のこと。せっかくだからということで、ショッピングモールのフードコートで昼食を食べる流れになったのだ。
りっちゃんはアッサリしたモノが良い、俺はある程度ガッツリいきたい。
両方の意見を取り入れた結果、うどんや蕎麦を出すお店へと入った。頼んだものは、俺がカツ丼。りっちゃんは、ざる蕎麦だ。
注文が滞りなく通り、メニューが運ばれてくる。
そして、二人して『いただきます』をした直後────
「ねえ、ナオくん」
「ん?」
「あのね……ナオくんに、食べさせてあげたいんだけど……」
「どういうこと? ああ、ざる蕎麦をお裾分けしてくれるってこと?」
「ううん。そのぅ、なんと言いますか……いわゆる『アーン』っていうのをやってみたいと言いますか……」
ふむ。りっちゃんが言っているのは恋人同士なんかでやるアレか。
そうだな……バカップルっぽいけど害があるわけでもなし。それくらいで彼女が喜んでくれるなら、俺としても吝かでない。
「いいよ。具体的にどうすればいいの? 俺が、りっちゃんの口まで持っていこうか?」
「あ、私の方はいいの。そうじゃなくて、私がナオくんにやってあげたいなって」
ああ、なるほど。世話が焼きたくなったのね。
「オッケー。じゃあ好きなようにして。あ、カツ丼の場合、コントみたいに熱々なのは勘弁ね」
「!! ありがとう! じゃあナオくん、動かないでね」
「承知」
しかし俺は……その時ウッカリ、スイッチの事を失念していた。
「ふ~、ふ~」
彼女は自分の髪をかき上げ、器用にカツ丼を自分の口元へ持っていき、温度を冷ましてくれる。
俺としたことが、その仕草を見て妙に色っぽいと思ってしまった。不覚。
ちなみに間接キスで照れるなどという次元は、とうの昔に超えている。
「じゃあ──はい、アーン」
「アーン……」
お約束の文言を口にして黙ってモグモグする。うん、美味い。
美少女が手ずから食べさせてくれるカツ丼は最高だ。よし、今度は俺の方からやってあげようかな、と思ったところで……
「ナオくん、美味しい?」
「うん、お陰様で」
「良かった。じゃあ、次──はい、アーン」
え?
「ア、アーン」
次は蕎麦を運んでくれた。しかし、箸を使って麺類をこうも上手に口元まで持ってくるなんて、本当に器用というか。……うん、こっちも美味い。
「じゃあ、次──」
「あの、りっちゃん? 自分も食べないと、」
「私はいいの。それよりも次、アーン」
そして強制的に食べさせられる。もぐもぐ。何か喋りたいんだけど、口の中の食べ物が。
「次、アーン」
ちょっとまだ飲み込んでないんですけどね!? 目でそう抗議する。
「あっ、そうだよね。私みたいな裏切りクズ女──」
言わせる前にマッハで飲み込んで受け入れた。俺、ことあるごとにこのセリフ言われちゃうの? 何か逆に、りっちゃんの武器と化してない? これ。
咀嚼しながら、そう思っていると。
「はい、次──」
!?
待って待って、無限ループに入ってる! どれだけ『アーン』したいの!?
慌てて飲み込んで、避けるべく身じろぎする。
すると。
「あっ──!」
まるで俺が粗相をし、それを目ざとく見つけたかのような声を、りっちゃんが上げる。
「え、もしかして口元に米粒でもついてる?」
こいつぁ失敬。そんな気持ちで口元へと手を──
「ナオくん、動いちゃダメ!」
どうやら単純に『動いてはダメ』。それだけだったらしい。
…………。
六花さんや。これ……『お世話や恋人のアーン』みたいな甘い話やない。
単なる介護や。
思わずエセ関西弁でツッコんでしまった。
……すでに食べ物を口に運ばれてたから、心の中でだけど。
この調子だと、今日は一日中ずっとスイッチオン状態なのかもしれない。
これでまだ半日。果たして、俺の身は保つのだろうか────
しかも、俺の事を意識した上で誘惑したり、平気でスリーサイズを口にしようとするノーガードっぷり。
『襲ってもいい』同然の発言を聞いたときには、思わず頭を抱えてしまった。
これはすでに……いや、間違いなくスイッチが入っている。
学校の噂を聞いた限りでは、彼女はもの凄く身持ちが堅いという話だ。それはもう、【氷壁】の名に恥じる事がないくらいの鉄壁っぷりらしい。
今日の話をしても信じてくれる人は少なそうだなぁ。
……せいぜい、ノブくらいか?
そして待ち合わせから合流以降、【りっちゃんスイッチ】は未だ入りっぱなしだ。
下着コーナーを出てからは、普通に服や小物を見て回った。その流れで雑貨屋にも立ち寄った。
その中で彼女が買ったのは、部屋に置く小物とアロマオイルくらい。後は帽子を買うか迷っていたようだが、結局は買わなかった。
実は彼女の家はちょっとした資産家だ。住んでいる建屋も中々に大きい。だというのに、彼女の経済観念は世間一般並み……どころか、あまり物を買うイメージがない。
なんとなくだが、物欲が薄いイメージすらある。現に、「アレが欲しい、コレが買いたい」なんてセリフを、今まで彼女の口から聞いた事がなかった。
先ほど寄った服屋なんかでは、自分ではなく主に俺の服を色々とチョイスしていたほどだ。
それは別にいい。個人の自由だし、りっちゃん自身の服を買うタイミングなんかも俺が口を出すような事ではないだろう。
ただ、自分のお小遣いから俺に服を買い与えようとするのは止めて欲しい。まるでヒモになったような気分になってしまう。
そんな、元々が世話焼き気質の彼女。
本当に奴隷なんかになったら──待てよ? 仮に奴隷になったら、いくら世話を焼こうが俺を甘やかそうが、『奴隷だから』の大義名分でやりたい放題……。
まさか、償いのフリをして真の狙いはそれか!?
なんちゃってね。りっちゃんは、そういった小細工や打算が働くタイプじゃない。
やるなら正々堂々、正面から来るだろう。
……それはそれで純粋な分、厄介とも言えるが。
さて、それよりも俺の恐れていた【りっちゃんスイッチ】の件だ。
いつ突拍子のない言動が飛んでくるか戦々恐々としていたが、その真価が次に発揮されたのは……昼食時だった。
色々なお店を回った後のこと。せっかくだからということで、ショッピングモールのフードコートで昼食を食べる流れになったのだ。
りっちゃんはアッサリしたモノが良い、俺はある程度ガッツリいきたい。
両方の意見を取り入れた結果、うどんや蕎麦を出すお店へと入った。頼んだものは、俺がカツ丼。りっちゃんは、ざる蕎麦だ。
注文が滞りなく通り、メニューが運ばれてくる。
そして、二人して『いただきます』をした直後────
「ねえ、ナオくん」
「ん?」
「あのね……ナオくんに、食べさせてあげたいんだけど……」
「どういうこと? ああ、ざる蕎麦をお裾分けしてくれるってこと?」
「ううん。そのぅ、なんと言いますか……いわゆる『アーン』っていうのをやってみたいと言いますか……」
ふむ。りっちゃんが言っているのは恋人同士なんかでやるアレか。
そうだな……バカップルっぽいけど害があるわけでもなし。それくらいで彼女が喜んでくれるなら、俺としても吝かでない。
「いいよ。具体的にどうすればいいの? 俺が、りっちゃんの口まで持っていこうか?」
「あ、私の方はいいの。そうじゃなくて、私がナオくんにやってあげたいなって」
ああ、なるほど。世話が焼きたくなったのね。
「オッケー。じゃあ好きなようにして。あ、カツ丼の場合、コントみたいに熱々なのは勘弁ね」
「!! ありがとう! じゃあナオくん、動かないでね」
「承知」
しかし俺は……その時ウッカリ、スイッチの事を失念していた。
「ふ~、ふ~」
彼女は自分の髪をかき上げ、器用にカツ丼を自分の口元へ持っていき、温度を冷ましてくれる。
俺としたことが、その仕草を見て妙に色っぽいと思ってしまった。不覚。
ちなみに間接キスで照れるなどという次元は、とうの昔に超えている。
「じゃあ──はい、アーン」
「アーン……」
お約束の文言を口にして黙ってモグモグする。うん、美味い。
美少女が手ずから食べさせてくれるカツ丼は最高だ。よし、今度は俺の方からやってあげようかな、と思ったところで……
「ナオくん、美味しい?」
「うん、お陰様で」
「良かった。じゃあ、次──はい、アーン」
え?
「ア、アーン」
次は蕎麦を運んでくれた。しかし、箸を使って麺類をこうも上手に口元まで持ってくるなんて、本当に器用というか。……うん、こっちも美味い。
「じゃあ、次──」
「あの、りっちゃん? 自分も食べないと、」
「私はいいの。それよりも次、アーン」
そして強制的に食べさせられる。もぐもぐ。何か喋りたいんだけど、口の中の食べ物が。
「次、アーン」
ちょっとまだ飲み込んでないんですけどね!? 目でそう抗議する。
「あっ、そうだよね。私みたいな裏切りクズ女──」
言わせる前にマッハで飲み込んで受け入れた。俺、ことあるごとにこのセリフ言われちゃうの? 何か逆に、りっちゃんの武器と化してない? これ。
咀嚼しながら、そう思っていると。
「はい、次──」
!?
待って待って、無限ループに入ってる! どれだけ『アーン』したいの!?
慌てて飲み込んで、避けるべく身じろぎする。
すると。
「あっ──!」
まるで俺が粗相をし、それを目ざとく見つけたかのような声を、りっちゃんが上げる。
「え、もしかして口元に米粒でもついてる?」
こいつぁ失敬。そんな気持ちで口元へと手を──
「ナオくん、動いちゃダメ!」
どうやら単純に『動いてはダメ』。それだけだったらしい。
…………。
六花さんや。これ……『お世話や恋人のアーン』みたいな甘い話やない。
単なる介護や。
思わずエセ関西弁でツッコんでしまった。
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