12 / 27
ショッピングデート~ウキウキの始まり?~
しおりを挟む
今日の俺は朝からウキウキしていた。
同級生や地元の人と会話をしていると、昔とのギャップというか……『数年の間に、この街も随分と変わったなぁ』と、どうしても実感してしまう。
とはいえ、それは悪い変化というわけではない。それも話のタネになるわけだし、俺は新鮮な気持ちで昔と違う部分を聞いていた。
そんな折り、親切心を発揮したのか世話を焼きたかったのか。りっちゃんが街案内を買って出てくれたのだった。
最近は何かと尽くしてくれようとする彼女。こちらが喜ぶと、りっちゃんも顔を輝かせて喜んでくれる。本当に良い子だ。
今回は新しく出来た大型ショッピングモールを中心に、目新しい所を回れるだけ回る。
彼女は気を遣ったのか、俺に負担をかけないよう『あっ! 奴隷や恋人じゃなく友達としてだから安心してね!』と言ってくれる。
恋人でこそなかったけど……元々、昔からの付き合いの時点で友達以上の関係ではあったし、そこまで予防線を張らなくても、と思わなくも無い。
まあ、ノンブレーキでいってしまうと、ある種の暴走状態になることがあるから、安全装置としては助かるのだけど……。
ある種の暴走状態──昔から色々とあったが、現在において具体的に指すならば【奴隷】の件だ。
平素から世話焼きな性質の彼女である。奴隷なんて立場を自他ともに認めてしまうと……滅私奉公レベルのお世話を、進んでやり始めかねない。
もう少しの間、友達という立場に甘んじさせてもらおう。
だが、仮に友達同士だとしても、そこは年頃の男女。これはもはや、ショッピングデートと言い換えても過言ではない。
そんな状況で浮かれない野郎がいるだろうか? いいや、控えめ目に言って狂喜乱舞まちがい無し。
もちろん俺も例外に漏れず、前日から楽しみでしょうがなかった。
しかし……超早起きをして、早々に準備を終わらせたタイミングで、フッと気づく。
──待てよ? 相手は変わり者のりっちゃんだ。そんなにスンナリと一筋縄でいくだろうか……。いや、ないな。
そこに思い当たった時、俺の頭脳回転数のギアが一段階上がった。なぜだか知らないが、りっちゃんが絡むと俺の頭は昔から冴え渡る事が多い。
……ん? そういえば、りっちゃんサイドもそうなんじゃないかな? 例の【りっちゃんスイッチ】が入るのって、大体は俺が……いや、ほぼ俺が…………。
あれっ、思い返すと100%俺絡みしかなくない!?
今さら気づいた事実に俺は愕然とする。
現在は昔と違い、他の人という比較対象がいる。しかし、ほぼ無難な対応とでも言おうか。スイッチが入ったような状況は、ついぞ見たことがない……。
いや、それは一旦おいておこう。それよりも今日のデートの事だ!
そうだな……まず、りっちゃんが遅れてくる可能性。これは、よほど特別な事情でもない限り無視して良い。
次に、予定より早く来る可能性。……うん、これだ。これしかない。普通の人なら、まぁ十分くらいか。早くても三十分かな。
だがそれは、あくまでも普通の人ならという話である。
常人とは思考回路が違う彼女のこと。一時間……いや、二時間だな。今までの経験から、俺の頭脳が素早く答えをはじき出す。
よし、ここは二時間前──ではなく一時間半前に現地を確認してみよう。居なければ、それはそれで良し。もし予想通りなら……彼女は少し待つことにより満足感を得るはずだ。
そんなわけで、俺は定刻の一時間半前……もはや、待ち合わせとして機能してない時間帯に家を出るのだった。
◇
──で、結論から言うとズバリだった。
どうやら本当に二時間前から待っていたらしい。我ながら恐ろしい精度だ。
が、すぐにその選択を後悔する。そう、あの外見である。待たせ続けてナンパにでも遭うと思うと、気が気でない。
やはり二時間前ジャストに来るべきだったか。
そんな俺の想いなどつゆ知らず、本人はなぜか出会い頭からテンパっていたが。
らしくないツンデレモドキの発言はするわ、妙な情報をゲットしてないか聞けば気まずげに黙るわ。
……うん、まぁ今日はせっかくだから、ある程度は好きにしてもらうか。何か突拍子もないことをするにしても善意からだし、実害がない限りは野放しにする方針にしよう。
予定より随分と早まってしまったが、回る順序に関しては計画通り。
まずは新しくできた大型のショッピングモールへと移動する。
◇
そのショッピングモール自体は全国展開しているだけあって、テナント内容の差はあれど造りはそう変わったものでもなかった。どこの店舗に行こうと安定しているし、便利ではある。
だが今は、りっちゃんという美少女とデート中。確かに場所は大事だが、何より重要なのは誰と過ごすかだろう……!
「ねえ、りっちゃん」
「なになに!? この愛の奴れ──じゃなかった、私に何でも言ってね!」
食い気味な返事はまだいい。今、奴隷って言いかけなかった?
「張り切ってるくれてるところ悪いんだけど、お願いがあるってわけじゃないんだよ」
「……そうなんだね」
途端に気落ちする。今日の彼女は不安定というか、テンションのアップダウンがかなり激しい。
「違ったら恥ずかしいんだけど……俺の手をチラチラ見てるから、昔と同じように手を繋ぎたいのかと思って」
あの頃は、その仕草をするたびに『あざとい』と思ったものだ。とはいえ、男冥利に尽きる贅沢な話なんだけど。
「っ!! いいの?」
「もちろん、りっちゃんさえ良けれb──」
セリフを言い終わる前に繋がれた。なにこの超反応。
「私もちょっと恥ずかしいけど、前と同じように接していいって嬉しいな……」
そう言って彼女は、はにかんだ様子で繋いだ手を軽く振ってくる。
「以前はこうやって歩いてるのが当然だったもんねえ……。主に、りっちゃんが迷子にならないように」
最初は手繋ぎではなく、彼女は俺の服の裾をチョコンと持って歩いていた。で、たまに後ろを振り返ると消えている時があり──なぜか迷子になっている。
「……その節はご迷惑を」
「いやいや、責めるどころか逆だよ。その大義名分のお陰で役得だったって意味。嬉しいのは俺も一緒。こんな恵まれた男もそういないよなぁって、しみじみとね」
「う”っ」
「どうしたの? 急に胸なんかおさえて」
「た、単に求められて嬉しかっただけなんだからっ! 勘違いしないでよねっ!」
「だからそれツンデレじゃないって! なにそれマイブームなの!?」
うーん。ちょっと様子がおかしけど、まぁすぐ復活するでしょ。
それよりも、合流から出発する際……何気に【りっちゃんスイッチ】が入ってた気がする。
俺としては、そっちの方が気がかりなのだった。
同級生や地元の人と会話をしていると、昔とのギャップというか……『数年の間に、この街も随分と変わったなぁ』と、どうしても実感してしまう。
とはいえ、それは悪い変化というわけではない。それも話のタネになるわけだし、俺は新鮮な気持ちで昔と違う部分を聞いていた。
そんな折り、親切心を発揮したのか世話を焼きたかったのか。りっちゃんが街案内を買って出てくれたのだった。
最近は何かと尽くしてくれようとする彼女。こちらが喜ぶと、りっちゃんも顔を輝かせて喜んでくれる。本当に良い子だ。
今回は新しく出来た大型ショッピングモールを中心に、目新しい所を回れるだけ回る。
彼女は気を遣ったのか、俺に負担をかけないよう『あっ! 奴隷や恋人じゃなく友達としてだから安心してね!』と言ってくれる。
恋人でこそなかったけど……元々、昔からの付き合いの時点で友達以上の関係ではあったし、そこまで予防線を張らなくても、と思わなくも無い。
まあ、ノンブレーキでいってしまうと、ある種の暴走状態になることがあるから、安全装置としては助かるのだけど……。
ある種の暴走状態──昔から色々とあったが、現在において具体的に指すならば【奴隷】の件だ。
平素から世話焼きな性質の彼女である。奴隷なんて立場を自他ともに認めてしまうと……滅私奉公レベルのお世話を、進んでやり始めかねない。
もう少しの間、友達という立場に甘んじさせてもらおう。
だが、仮に友達同士だとしても、そこは年頃の男女。これはもはや、ショッピングデートと言い換えても過言ではない。
そんな状況で浮かれない野郎がいるだろうか? いいや、控えめ目に言って狂喜乱舞まちがい無し。
もちろん俺も例外に漏れず、前日から楽しみでしょうがなかった。
しかし……超早起きをして、早々に準備を終わらせたタイミングで、フッと気づく。
──待てよ? 相手は変わり者のりっちゃんだ。そんなにスンナリと一筋縄でいくだろうか……。いや、ないな。
そこに思い当たった時、俺の頭脳回転数のギアが一段階上がった。なぜだか知らないが、りっちゃんが絡むと俺の頭は昔から冴え渡る事が多い。
……ん? そういえば、りっちゃんサイドもそうなんじゃないかな? 例の【りっちゃんスイッチ】が入るのって、大体は俺が……いや、ほぼ俺が…………。
あれっ、思い返すと100%俺絡みしかなくない!?
今さら気づいた事実に俺は愕然とする。
現在は昔と違い、他の人という比較対象がいる。しかし、ほぼ無難な対応とでも言おうか。スイッチが入ったような状況は、ついぞ見たことがない……。
いや、それは一旦おいておこう。それよりも今日のデートの事だ!
そうだな……まず、りっちゃんが遅れてくる可能性。これは、よほど特別な事情でもない限り無視して良い。
次に、予定より早く来る可能性。……うん、これだ。これしかない。普通の人なら、まぁ十分くらいか。早くても三十分かな。
だがそれは、あくまでも普通の人ならという話である。
常人とは思考回路が違う彼女のこと。一時間……いや、二時間だな。今までの経験から、俺の頭脳が素早く答えをはじき出す。
よし、ここは二時間前──ではなく一時間半前に現地を確認してみよう。居なければ、それはそれで良し。もし予想通りなら……彼女は少し待つことにより満足感を得るはずだ。
そんなわけで、俺は定刻の一時間半前……もはや、待ち合わせとして機能してない時間帯に家を出るのだった。
◇
──で、結論から言うとズバリだった。
どうやら本当に二時間前から待っていたらしい。我ながら恐ろしい精度だ。
が、すぐにその選択を後悔する。そう、あの外見である。待たせ続けてナンパにでも遭うと思うと、気が気でない。
やはり二時間前ジャストに来るべきだったか。
そんな俺の想いなどつゆ知らず、本人はなぜか出会い頭からテンパっていたが。
らしくないツンデレモドキの発言はするわ、妙な情報をゲットしてないか聞けば気まずげに黙るわ。
……うん、まぁ今日はせっかくだから、ある程度は好きにしてもらうか。何か突拍子もないことをするにしても善意からだし、実害がない限りは野放しにする方針にしよう。
予定より随分と早まってしまったが、回る順序に関しては計画通り。
まずは新しくできた大型のショッピングモールへと移動する。
◇
そのショッピングモール自体は全国展開しているだけあって、テナント内容の差はあれど造りはそう変わったものでもなかった。どこの店舗に行こうと安定しているし、便利ではある。
だが今は、りっちゃんという美少女とデート中。確かに場所は大事だが、何より重要なのは誰と過ごすかだろう……!
「ねえ、りっちゃん」
「なになに!? この愛の奴れ──じゃなかった、私に何でも言ってね!」
食い気味な返事はまだいい。今、奴隷って言いかけなかった?
「張り切ってるくれてるところ悪いんだけど、お願いがあるってわけじゃないんだよ」
「……そうなんだね」
途端に気落ちする。今日の彼女は不安定というか、テンションのアップダウンがかなり激しい。
「違ったら恥ずかしいんだけど……俺の手をチラチラ見てるから、昔と同じように手を繋ぎたいのかと思って」
あの頃は、その仕草をするたびに『あざとい』と思ったものだ。とはいえ、男冥利に尽きる贅沢な話なんだけど。
「っ!! いいの?」
「もちろん、りっちゃんさえ良けれb──」
セリフを言い終わる前に繋がれた。なにこの超反応。
「私もちょっと恥ずかしいけど、前と同じように接していいって嬉しいな……」
そう言って彼女は、はにかんだ様子で繋いだ手を軽く振ってくる。
「以前はこうやって歩いてるのが当然だったもんねえ……。主に、りっちゃんが迷子にならないように」
最初は手繋ぎではなく、彼女は俺の服の裾をチョコンと持って歩いていた。で、たまに後ろを振り返ると消えている時があり──なぜか迷子になっている。
「……その節はご迷惑を」
「いやいや、責めるどころか逆だよ。その大義名分のお陰で役得だったって意味。嬉しいのは俺も一緒。こんな恵まれた男もそういないよなぁって、しみじみとね」
「う”っ」
「どうしたの? 急に胸なんかおさえて」
「た、単に求められて嬉しかっただけなんだからっ! 勘違いしないでよねっ!」
「だからそれツンデレじゃないって! なにそれマイブームなの!?」
うーん。ちょっと様子がおかしけど、まぁすぐ復活するでしょ。
それよりも、合流から出発する際……何気に【りっちゃんスイッチ】が入ってた気がする。
俺としては、そっちの方が気がかりなのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。



ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる