過去、いじめの圧力に屈し裏切ってしまった私は彼と再会する。決死の謝罪に対し、彼が私に下すのは断罪か、赦しか────

鳳仙花

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ショッピングデート~ウキウキの始まり?~

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 今日の俺は朝からウキウキしていた。

 同級生や地元の人と会話をしていると、昔とのギャップというか……『数年の間に、この街も随分と変わったなぁ』と、どうしても実感してしまう。

 とはいえ、それは悪い変化というわけではない。それも話のタネになるわけだし、俺は新鮮な気持ちで昔と違う部分を聞いていた。

 そんな折り、親切心を発揮したのか世話を焼きたかったのか。りっちゃんが街案内を買って出てくれたのだった。

 最近は何かと尽くしてくれようとする彼女。こちらが喜ぶと、りっちゃんも顔を輝かせて喜んでくれる。本当に良い子だ。

 今回は新しく出来た大型ショッピングモールを中心に、目新しい所を回れるだけ回る。

 彼女は気を遣ったのか、俺に負担をかけないよう『あっ! 奴隷や恋人じゃなく友達としてだから安心してね!』と言ってくれる。

 恋人でこそなかったけど……元々、昔からの付き合いの時点で友達以上の関係ではあったし、そこまで予防線を張らなくても、と思わなくも無い。

 まあ、ノンブレーキでいってしまうと、ある種の暴走状態になることがあるから、安全装置としては助かるのだけど……。

 ある種の暴走状態──昔から色々とあったが、現在において具体的に指すならば【奴隷】の件だ。

 平素から世話焼きな性質の彼女である。奴隷なんて立場を自他ともに認めてしまうと……滅私奉公レベルのお世話を、進んでやり始めかねない。

 もう少しの間、友達という立場に甘んじさせてもらおう。

 だが、仮に友達同士だとしても、そこは年頃の男女。これはもはや、ショッピングデートと言い換えても過言ではない。

 そんな状況で浮かれない野郎がいるだろうか? いいや、控えめ目に言って狂喜乱舞まちがい無し。

 もちろん俺も例外に漏れず、前日から楽しみでしょうがなかった。

 しかし……超早起きをして、早々に準備を終わらせたタイミングで、フッと気づく。

 ──待てよ? 相手は変わり者のりっちゃんだ。そんなにスンナリと一筋縄でいくだろうか……。いや、ないな。

 そこに思い当たった時、俺の頭脳回転数のギアが一段階上がった。なぜだか知らないが、りっちゃんが絡むと俺の頭は昔から冴え渡る事が多い。

 ……ん? そういえば、りっちゃんサイドもそうなんじゃないかな? 例の【りっちゃんスイッチ】が入るのって、大体は俺が……いや、ほぼ俺が…………。

 あれっ、思い返すと100%俺絡みしかなくない!?

 今さら気づいた事実に俺は愕然とする。

 現在は昔と違い、他の人という比較対象がいる。しかし、ほぼ無難な対応とでも言おうか。スイッチが入ったような状況は、ついぞ見たことがない……。


 いや、それは一旦おいておこう。それよりも今日のデートの事だ!

 そうだな……まず、りっちゃんが遅れてくる可能性。これは、よほど特別な事情でもない限り無視して良い。

 次に、予定より早く来る可能性。……うん、これだ。これしかない。普通の人なら、まぁ十分くらいか。早くても三十分かな。

 だがそれは、あくまでも普通の人ならという話である。

 常人とは思考回路が違う彼女のこと。一時間……いや、二時間だな。今までの経験から、俺の頭脳が素早く答えをはじき出す。

 よし、ここは二時間前──ではなく一時間半前に現地を確認してみよう。居なければ、それはそれで良し。もし予想通りなら……彼女は少し待つことにより満足感を得るはずだ。

 そんなわけで、俺は定刻の一時間半前……もはや、待ち合わせとして機能してない時間帯に家を出るのだった。

 ◇

 ──で、結論から言うとズバリだった。

 どうやら本当に二時間前から待っていたらしい。我ながら恐ろしい精度だ。

 が、すぐにその選択を後悔する。そう、あの外見である。待たせ続けてナンパにでも遭うと思うと、気が気でない。

 やはり二時間前ジャストに来るべきだったか。

 そんな俺の想いなどつゆ知らず、本人はなぜか出会い頭からテンパっていたが。

 らしくないツンデレモドキの発言はするわ、妙な情報をゲットしてないか聞けば気まずげに黙るわ。

 ……うん、まぁ今日はせっかくだから、ある程度は好きにしてもらうか。何か突拍子もないことをするにしても善意からだし、実害がない限りは野放しにする方針にしよう。

 予定より随分と早まってしまったが、回る順序に関しては計画通り。

 まずは新しくできた大型のショッピングモールへと移動する。

 ◇

 そのショッピングモール自体は全国展開しているだけあって、テナント内容の差はあれど造りはそう変わったものでもなかった。どこの店舗に行こうと安定しているし、便利ではある。

 だが今は、りっちゃんという美少女とデート中。確かに場所は大事だが、何より重要なのは誰と過ごすかだろう……!

「ねえ、りっちゃん」

「なになに!? この愛の奴れ──じゃなかった、私に何でも言ってね!」

 食い気味な返事はまだいい。今、奴隷って言いかけなかった?

「張り切ってるくれてるところ悪いんだけど、お願いがあるってわけじゃないんだよ」

「……そうなんだね」

 途端に気落ちする。今日の彼女は不安定というか、テンションのアップダウンがかなり激しい。

「違ったら恥ずかしいんだけど……俺の手をチラチラ見てるから、昔と同じように手を繋ぎたいのかと思って」

 あの頃は、その仕草をするたびに『あざとい』と思ったものだ。とはいえ、男冥利に尽きる贅沢な話なんだけど。

「っ!! いいの?」

「もちろん、りっちゃんさえ良けれb──」

 セリフを言い終わる前に繋がれた。なにこの超反応。

「私もちょっと恥ずかしいけど、前と同じように接していいって嬉しいな……」

 そう言って彼女は、はにかんだ様子で繋いだ手を軽く振ってくる。

「以前はこうやって歩いてるのが当然だったもんねえ……。主に、りっちゃんが迷子にならないように」

 最初は手繋ぎではなく、彼女は俺の服の裾をチョコンと持って歩いていた。で、たまに後ろを振り返ると消えている時があり──なぜか迷子になっている。

「……その節はご迷惑を」

「いやいや、責めるどころか逆だよ。その大義名分のお陰で役得だったって意味。嬉しいのは俺も一緒。こんな恵まれた男もそういないよなぁって、しみじみとね」

「う”っ」

「どうしたの? 急に胸なんかおさえて」

「た、単に求められて嬉しかっただけなんだからっ! 勘違いしないでよねっ!」

「だからそれツンデレじゃないって! なにそれマイブームなの!?」

 うーん。ちょっと様子がおかしけど、まぁすぐ復活するでしょ。

 それよりも、合流から出発する際……何気に【りっちゃんスイッチ】が入ってた気がする。

 俺としては、そっちの方が気がかりなのだった。
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