交換日記

お姉さんと私

　
　「ただいまー。」
と姉の声がする。
　「お帰りなさいー。」
私は慌てて玄関を出ていく。
　「今日は少し遅かったね。珍しくお父さんも帰ってるのよ。皆、食べずに待ってたのよ。連絡してくれればよかったのに…。」
皆の心配をよそに、マイペースを保っている彼女は、なかなか連絡することはしないタイプだ。

　「少し心配してたのよ。」
と母さんが言った。
　「ごめん、ごめん、待った?!」
　「携帯を持ってるんだから連絡してよ。」
　「はいはい…わかりました。」
周りなど、気にせず姉はさっさと食卓に座った。
　「いただきまーす。お腹空いてたわ。」
というと彼女はパクパクと食べだした。
　「いただきまーす。もうペコペコ。」
と私も目の前にある煮物を箸でつまんだ。
　
　いつもと変わらない食卓だが、父と母だけが
黙り込んでいた。
　テレビの音がにぎやかなせいで、食卓も賑わっているように思えた。
でも明らかに父の顔は深刻だった。

私は
　「お父さんどうしたの?この餃子美味しくないの?まずい?」
と聞くようにたずねる。
　「そんなことないよ。…」
という返事に
　「そうなの…。もう少し美味しそうに食べてよ。」
と言った。
　
　暑い空気の中父は黙々と食べていた。
　
　少しだけ眉を下げて思案してるように見えた。
　それから重苦しい時間が過ぎた。

　父が箸を置くと皆に向って言った。
　「皆に話があるんだ…。」
父は動揺を隠せない様子だ。
　「まぁ、よく聞いてくれ。僕の会社は有名な会社であちこちに支店もあるし工場も沢山ある。小さい時から君達は転勤しては家を移って行った。今回もまたすまんが引っ越しする事になりそうだ。ここに住ませてもらってる家があるだろう?　これが取り壊す計画がある。広くて住みやすい家が12軒ほどあるが、取り壊してマンションにするそうだ。
早急には引っ越さなくてもいいが、来年の2月頃には隣町の西宮市に引っ越しすることになるだろう。…
残念だがもう決まった話だ。ミユの高校は通えると思うが、トモは中学校を変わらんといかんな…。」
と無情にも聞こえる父の声。

　父の表情を見つめる中
暗闇に流れ落ちていく。

　ウソだ!!

　私は何か大変な事態にこの家族は陥ってるように思えた。