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第六章『学校開校』

186話 神術基礎と治安維持

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「お前、神術の授業受けるのやめろや」

 神術基礎の授業が終わり、ターナ先生が去った後、僕は数人の歳上同級生に囲まれていた。

「どうして?」

 ちょっとささくれた気分だったので、声に不満が乗ってしまう。

「お前、最後の方ターナ先生を独占してただろ。授業は進まないし、邪魔なんだよ」

 今日の授業は、聖言摂理神術の『火花』という神術を使ってみるというものだった。『火花』は、火打石と鋼を打ち合わせた時にでる火花を再現する神術だ。覚えるとライター並みに簡単に火をつけられるようになる。

「嫌です。誰に教えるか、どう進めるかはターナ先生の裁量で、僕のせいではないですよ?」

 低威力で簡単な神術なので、授業に参加した生徒はほとんど発動できていた。発音が英語より難しいので、その点だけがハードルである。
 ちなみに僕は発音できていたにもかかわらず、神術を発動できなかった。だから正体を秘密にしてほしいとお願いしていたにもかかわらず、ターナ先生が興味を持って横についてしまったのだ。

「いいか? 発音ができるのに術が使えないのは、神が神術を使うことを赦さなかったからだ。才能がないのは常識で考えればわかるだろ!」

 仙術使用中に神術を同時に使えないのは、よく知られている。仙術は体内圧縮が基本なので、霊力が漏れない。神術は体外に漏れた霊力を使って発動させるものなので、体外に漏れなければ神術は発動しないというのが、コンストラクタ家の常識だ。

 神が神術を使うことを赦さなかったという常識は、僕は知らない。しかし、近くの見知らぬ同級生が見て見ぬふりをして、否定的な反応をしていないあたり、本当に僕が知らないだけかもしれない。

「諦める気はないよ。校長先生も、観察・記録し、新たな仮説を作り、それを証明していってほしいと言ってたし。あなたの仮説と僕の仮説は違います」

 僕は護衛でもあるので、舐められるわけにはいかない。はっきりと言い返すと、同級生たちは怯んだようだった。殴りかかってこないあたり、マナーは良い方なのだろう。

「ふん。好きにすれば良いが、俺たちの邪魔だけはするなよ」

 同級生たちは、捨てゼリフを残して、次の授業に去っていった。

「おにいちゃん、手をぬいてた?」

 去っていった後、殿下とストリナがやってくる。

「手を抜くといっても、あの発音でどうやったら術が発動しないのか、逆に気になるところだな」

 僕以外の二人は、問題なく術を発動できていた。

「いや、手は抜いてないよ。仙術も使っていなかったのに、なぜか使えないんだ」

 そういえば義母さんに習った時も、結局習得できなかったっけ。苦い気持ちで、荷物をまとめて立ち上がる。

「仙術を使っていないのに、神術を使えない、というのは、よくわからないな。まぁ、一緒に考えてやるよ」

「次は半島語の文章術、その次は社会、二つとも当番はリナか」

 殿下は声のトーンを落として話を続ける。

「インテージャはその間何をするんだ?」

「オーニィさんが来てるらしいんで、打ち合わせですね」

 元々はしがない高校生なので、内政はよくわからない。

「おー。貴族院から出向してきてるパイソン家の令嬢だったか。優秀らしいな」

 そう。オーニィさんは元監査官だ。領主を監査していたぐらいだから、間違いない内政をやってくれる。

「ですねー。だから代官を任せてるんですよ」

 もってこいの人材で、コンストラクタ村をアブス村長に、フロートの街をオーニィさんに任せている。

「重用しすぎじゃないか? 王家に密告されるぞ」

 それを殿下が言うのはどうかと思う。

「うちは王族派ですからねー。王家に隠すものなんてないですよ」

「貴族の鑑だな。しかし、わざわざ学校まで来るとは、何かあったかもしれんな」

 そうなのだ。定期報告とはタイミングが違うので、なんかあったとしか思えない。

「夕方、りょうに帰ったらくんれんしよう。かせつをためしたい」

 学校に入学して以降、ストリナもけっこうしっかり喋るようになってきた。授業でも頑張って手を上げているらしい。

「了解。でもリナも友達作りなよ? 授業ない時一緒に訓練できるし」

 学校にいる間、殿下の護衛を交代でやっているか、3人とも同じ授業にでているかなので、学校にいる間はストリナと訓練できない。

「うん。だから剣術部にはいるの!」

 剣術部は、空き時間に学校内の道場で剣の訓練をする部活だ。ストリナに勝てる相手がいるとは思えないが、退屈するよりはマシかもしれない。


◇◆◇◆


「えーと、つまりどういう?」

 長々と説明を聞いて、結局理解できなかった。

「だから~、移住してきた住民が安い賃金で長時間働かされ、家に帰れなくなっているの。それで、長時間の労働に耐え切れずに失業した者が、街で無法者化して街の治安が悪化してるの」

 今度はちょっとわかった。

 次々切り開かれる新技術に、街を作るための大量の公共工事、そして銀行からの無尽蔵に近い融資。

 空前の好景気で貧しい人などいなくなったかと思いきや、影の部分がでてきてしまったらしい。

「悪化って、どの程度?」

 少なくとも、馬車から見る街はそこまで危ない雰囲気ではなかった。

「裏組織の抗争が激化してるかな。この一週間で、20人以上の死者が出てるの」

 オーニィさんから手渡された書類には、死者数や負傷者数が犯罪の種類ごとに列挙されていた。負傷者は死者数の5倍ぐらいになっているらしい。

「人口あたりの犯罪発生率でも、他都市の平均を10%ほど上回っているみたい」

 さっそく犯罪発生”率”を使ってきたか。教えたのは僕なので嬉しいけど、ここで使われるのはちょっと複雑だ。

「うちの警備隊って優秀なんじゃなかったっけ?」

 新しい移住者が増えれば、中には道を踏み外す人もいる。その抑止力になるのが警察役の警備隊だ。

「それはもちろん。術士が多いから荒事で無法者に負けることはほぼないよ。でも取り逃した犯人を探すには数が足りないの」

「つまり今日の要件は、警備隊員を増やすとかそういうこと?」

「そうそう。話が早くて助かる~」

「とりあえず、有望な人材への声掛けはしてもらうとして、学園の警備は近衛騎士団に任せてうちの警備隊を半分に減らそう。その分街を手厚くして」

 僕もストリナも、今は学校のある文教区画に住んでいる。何かあったら警備員の代わりぐらいにはなるだろう。

「わかった。でも、それでは全然たりないかな」

 フロートの街は結構広い。人口は把握できていないけど、出稼ぎが多いせいで3万人ぐらいには届いてると思う。それに対して、犯罪を取り締まる警備隊はまだ五十人に達していない。このままでは全員街に回しても足りないと思う。

「根本対策がいるなぁ」

 治安が荒れ始めている話は、さっきフィーちゃんからも聞いた。
 仕事が増えても、なぜか貧困層はいなくならない。
 うちの村出身の騎士団から出た戦死者の家族にはいろいろ対応したけど、街にはそれ以外の孤児も多数いる。
 教科書に、解決方法はあっただろうか?

「マヨネーズ料理をお腹いっぱい食べれば、争う気なんて起きないと思うんだけどねー」

 オーニィさんのセリフで、閃いた。なるほど。それなら何とかなるかもしれない。
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