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第六章『学校開校』
184話 釈放
しおりを挟む「わたくしのせいで不義密通の汚名を着せてしまい、本当に申し訳ありません。コンストラクタ家からも追放となったとか。何とお詫びすれば良いのか……」
王都で釈放されたレイ・スカラ子爵の令嬢であるリフ・スカラは泣きはらした顔でヴォイドに頭を下げた。
獄中、入浴も洗濯もできなかったのだろう。元々美しかったであろう顔は垢じみていて、捕縛された日そのままのドレスは、薄汚れて擦り切れている。腰のくびれを強調していたデザインは、妊娠のせいもあって緩められ、かなり型崩れしていた。
「俺は女グセが悪いと評判らしくてな。不義密通も、一つ増えたぐらいでは変わりはしない。コンストラクタ家の家督権は失ったが、息子のイントからはそれ以外はこれまで通りとの手紙も貰っている。騎士団の副団長もそのまま。何も変わらないさ」
ヴォイドがエスコートしようと近づくと、リフは体臭を気にして身を引いた。
「いけません。こんな汚らわしいわたくしに触れるのは……」
距離を取ろうとした瞬間、ヴォイドの姿が消えた。『縮地』だ。
「ひっ」
リフはヴォイドに無理やり距離を縮められたことに驚いた。
「俺は元冒険者でな。風呂に入る習慣がついたのは最近で、これぐらいは平気なんだ。でもお嬢さんが気になるなら、風呂に行くか。コンストラクタ家の屋敷にある風呂は豪勢だぞ」
横抱きにリフを持ち上げ、続く三人を見る。
「ヴォイド様、感謝を。我が家はあなたの父君を追放したにも関わらず、ここまでしていただけるなんて……」
続いたのは、リフの祖母だ。加えて、家令と年増のメイドが二人。家臣のトップとして投獄されていたのだろうか?
「ところで、息子は?」
「力及ばず申し訳ない、夫人。子爵の釈放は認められなかった」
老婆の肩が落ちて、ハラハラと泣き始めた。
「息子は、プリークの部下に脅されていたんです。私たちを見捨ていれば良かったのに……」
攻防戦の際、プリーク・スカラ侯爵は自派閥の領主の離反を恐れ、督戦隊を送り込んだ。督戦隊というのは、命令無視を取り締まり、各領主が離反しないよう監督する役割を持つ部隊のことだ。
レイ・スカラ子爵は、彼らに家族を人質に取られ、そのまま想定より長く籠城戦を戦った。城内はおろか、市街への術士の侵入も防がれていたので、飛行船からの空挺降下がなかったら、陥落にはもう少し時間がかかっただろう。
「我々は貴族ですからね……」
ヴォイドは同情はしたものの、子爵の助命はなかば諦めていた。もし、家族を人質にされていなかったとしても、子爵はやっぱり公国のために反逆をしただろう。
屋敷や領地を私兵で護ることは認められているので、それを破られて家族を人質に取られた時点で負けというのもある。もう一つ厳しいことを言えば、娘に護身術を教えていなかったのも子爵の失策だろう。
だが、少なくとも娘とその子どもは被害者だ。いくら罪人の娘とはいえ、連座で首を刎ねるというのはあまりにもひどい。
「パッケ、モモ、ここを離れる。御者を頼む」
ヴォイドは自分たちを監視する視線が複数あることに気がついて、思考を中断した。雰囲気が急激に冷たくなっていく。
「お館様、馬車が定員オーバーですけど、どうします?」
パッケの声かけに、ヴォイドは肩をすくめた。
「俺は屋根の上で十分だ。多分途中でお客が来るから、俺が出迎える。お前らは警戒しつつコンストラクタ家の屋敷に避難しろ」
ヴォイドは馬車の中に、まだ何か話したそうにしているスカラ家の面々を押し込んだ。
「騎士団を頼ったら公私混同ですもんね。坊ちゃんが太っ腹で助かりましたね」
パッケは肩をすくめる。
「良いから二人とも霊力を練ろ」
馬車が動き出したタイミングで、ヴォイドが御者台の二人に声をかける。
「私は元受付嬢なんだから、霊力なんか練れるはずないでしょ」
モモは屋根の上に上がったヴォイドを、半眼で見上げた。
「昔教えたぞ? 若さを保ててるのは仙術じゃないのか?」
「あんた最後まで教えずに私を捨てたでしょうが! これはたゆまぬ努力の結果よ!」
「それはすまなかった。じゃあパッケ、ついでに守ってやれ」
「お館様の仰せのままに。……一生でも守りますよ」
「ちょ!」
ヴォイドはすでに周囲の警戒モードに移行していたので、御者台の二人のやりとりは聞こえていなかった。
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