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第六章『学校開校』
183話 深まる墓穴
しおりを挟むログラム学園の最終的な生徒数は千人ほど。予定より多く生徒を受け入れたので、講堂だけでは入り切らず、入学式は三箇所に分かれての式になった。
入学式といっても、偉い人の挨拶は開校式で終わってしまったので、担当教師陣の自己紹介ぐらいで、あとはほとんど説明だった。特に学校の各所に置かれた時計の読み方や、七曜制の説明に時間が割かれた。
こちらの世界に、時間や曜日の概念はまだない。だからそのままでは授業の時間割が理解できないので、説明せざるを得なかったのだ。
ちなみに、七曜制は思っていたよりあっさり受け入れられた。火・水・木・金・土は仙術における五行と対応しているし、日・月は仙術における陽と陰とに対応していると説明しただけなのだが、こちらの世界でも聖典の記述や民間信仰にも対応するものがあったらしい。
この世界、月が二つあるので、月曜が2回ないのはおかしいのでは? などという質問もあったりしたが。
時刻に関しては、イマイチ理解が進んでいない。だが時計がこれほど早く実用化されるとは思っていなかったので、元々は各寮や宿屋に聞こえるように鐘を鳴らして、曜日や時刻を知らせる予定だった。多分読めなくても問題はないだろう。
生徒たちはこれから、入学試験時に選択したコースの範囲で一週間分時間割を組み、自分で選択した授業を決められた時間に受けることになる。
「おい、見たか? 『ヒッサン訓蒙』の範囲は基礎算術、しかもその序盤らしいぞ。その上に応用算術とかあるけど、基礎の序盤であの難度って、中身どうなってんだろうな?」
教室のそこかしこで、同じコースのクラスメイト同士の会話に花が咲いている。が、ストリナぐらいの小さな子もいれば、おじさんもいて生徒の年齢層はバラバラだ。
統一した教科書による学校制は初めての試みなので、おそらく知識の範囲もばらついているだろう。
年齢制の義務教育とか、まだまだ遠い道のりだ。
「方程式っていうのがあるらしいぜ。うち、親父が監査官なんだけど、不正の把握に使えるから絶対習得してこいって言われてるんだ」
小学生レベルが基礎、中学生レベルが応用で、高校レベルは教科書としてはまだ手付かずだ。さすがに高校レベルを理解できるのはまだマイナ先生かゴート爺さんぐらいなので、まだまだ時間はあるはず。
「すげーな。うちは領主様から三角関数習得してこいって言われたけど、それも応用算術かな?」
活版印刷で刷られた説明書類を見ながら話し合っている、隣のグループの会話が気になる。僕は前世の教科書を、こちらの言葉に書き写しただけだ。
カリキュラムそのものを作ったシーゲンの賢人ギルドの皆さんとマイナ先生なので、細かくは知らない。
ここまでいろいろ整備するのは大変だっただろう。頭が上がらない。
「測量系は航空コースの選択かもな。なんかそんな授業あったぞ」
ちなみに、僕が合格したのは総合コースだった。そんなコースを作った覚えもなく、入学願書も殿下が勝手に提出していたので、合格発表の日にはちょっとびっくりした。どのコースの授業でも選択できるため、一番人気が高いコースだったらしい。
「さて、じゃあインテージャたちも受ける授業を決めようか。一応護衛の都合もあるから、私が選択した授業は、少なくともどちらかは一緒に受けるようにしてくれ」
すでに王子は受ける授業を決めているらしい。僕とストリナに申し込み用紙の束を見せてくれる。
「仙術と剣術はあたし! おにいちゃんもいっしょにうける?」
ストリナは束の中から仙術と剣術の授業を抜き出して、さっそく自分の書類にサラサラと書き写し始める。いつの間にこんなキレイな字を書くようになったのだろう?
「遠慮しとく。足痛いし」
朝夕の訓練は欠かしていないので、授業は受けなくても多分大丈夫だろう。武術系以外の申し込み用紙を何枚かめくって頭が痛くなった。
「こんなにたくさん選択して、正気ですか?」
多分これ、移動時間と昼食の時間以外は隙間なく授業が入っている。月曜から土曜までびっしりと。宿題も出るのに、いつやる気だろうか?
「いつ帰ってこいと言われてもおかしくないからな。家からの仕送りは止めてもらったから、これ以外に仕事もやるぞ」
殿下も設定上は孤児なので、働かずに生活していたら怪しまれるだろう。が、まさかホントに孤児的な生活をしようとするとは思わなかった。しかも楽しんでらっしゃる。
「それに、すでに知っている範囲なら、テストを受けて飛び級できるのだろう? まだカリキュラムができていないところまで追いつけば、楽になるはずだしな」
家庭教師派遣業に近い賢人ギルドが母体になっているので、全体講義のような形式はとっていない。印刷した問題プリントを配り、わからない場合に教師が横について教える仕組みになっている。
つまり、生徒によってやっている範囲は違い、優秀な生徒はどんどん先へ進めるのだ。
「それはそうだと思いますけど……」
校舎がまだ全てできていないので、並行できる授業数が少なく、朝8時から夕方6時まで授業が分布するしている。殿下は時間の許す限りの授業を取って、さらに仕事もするらしい。
「まぁ辛いのは最初だけだ。飛ばしていくぞ」
飛ばしたら、最先端でストップするので楽になると殿下は考えているようだが、マイナ先生は多分続きを作ろうとするだろう。
まだ写本できていない教科書もたくさんあるので、そうなると僕の仕事量が増える。
「わかりましたよ。じゃリナ、分担して決めようか」
僕はストリナが選ばなかった講義を選んで行くことになりそうだが、すでに複数の仕事を抱えている僕にとっては、半分でもかなりのハードワークになるだろう。
「ああ、宮廷マナーの授業は二人とも取ってくれよ。将来のこともあるから」
宮廷マナーは苦手だ。前世にはなかった科目だから、時間もかかるだろう。墓穴をせっせと掘って、何やってるんだ。僕。
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