転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

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第六章『学校開校』

171話 論功行賞

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「ポインタ・シーゲン卿、前へ!」

 式典は論功行賞の発表まで進み、一番最初に宰相閣下に呼ばれたのはシーゲンおじさんだった。つまり、一番手柄ということだ。
 今回最も活躍した第十五騎士団のトップであり、個人戦でも商業都市ビットの守護聖人を破って多大な功績をあげている。一番手柄は妥当なところだろう。

「国土奪還戦争及び西部内乱の功を持って、子爵を改め、辺境伯に叙す。領地は現ログラム公爵領を預ける。国を護れ! 加えて、その嫡男ナックス・シーゲンの内乱鎮圧への貢献及び、ユニィ・シーゲンの石灰を用いた新工法を開発した功績を認め、両名を準男爵位に叙する! 両名も前へ!」

 ざわめきが広がる。ログラム公爵は現国王の父にあたる人物だが、まだ処分は発表されていない。しかし、これで少なくとも領地を失うことは確実になった。
 そして『辺境伯』という爵位は、国境防衛を任された伯爵のことだ。今は誰も叙任されていないレアな爵位ということもあって、ざわめきがおさまらない。

「ぇぇ!?」

 隣で、名前の出たユニィがうめき声をあげる。ユニィが開発した新工法は、いわゆるコンクリートを使った新工法だ。技術の教科書や化学の教科書には技術の断片しか載っておらず、僕の助言で作れたものは、セメントまで。
 そのままでは建材として不完全だったが、ユニィはしぶる領内の研究者に試行錯誤を命じ、強度を向上させる方法を編み出したらしい。
 そこからさらに飛行船の対神術コーティングをヒントに、水ガラスでコンクリートをコーティングする方向に進み、花崗岩なみの神術耐性を獲得させた。

 粉末状や液状の材料の輸送は、花崗岩の巨岩運搬と比べてたやすい。ユニィの開発したコンクリートは、画期的な建材として、魔境内の製塩所の防衛に投入されつつある。

「行ってきなよ」

 まさか自分も叙爵されるとは思っていなかったのだろう。貴族令嬢の仮面はあっさりと剥がれ、オロオロとした姿は小動物のようだ。

「う、うん」

 ユニィが進み出ると、担当者が横について、何か囁いた。ユニィは震えるように何度も頷く。

「汝ら、新たな位を受けるか」

 国王陛下が重々しく告げる。

「ありがたく拝領し、我ら一族の末永い忠誠と奉公を捧げます」

 太鼓腹モードのシーゲンおじさんが、口上を述べて深々と頭を下げる。お腹の肉が邪魔をして、うまく頭を下げることができていない。
 ユニィもプルプルしながら礼をしていて、思わずニヤけてしまう。

 ニヤけている瞬間を見計らうように、ユニィがこっそり振り返ってきて視線がぶつかる。ユニィがムッとしたのが気配でわかった。

「ちょっとイント君。笑うのやめなよ」

 マイナ先生がたしなめてくる。

「大丈夫だよ。ほら、ユニィの震えも止まってるでしょ?」

 壇上にあがって玉座の前に立つ国王陛下から徽章を受けとる姿は、堂々としていてとても貴族令嬢らしい。猫を被ることには成功したようだ。

「続いて、王太子スターク殿下、前へ!」

 二番手柄は王太子殿下か。実質的な指揮は飛行船船団の指揮官だったから、驚きはない。何せ、膠着した戦況を一気にひっくり返したからだ。

 ただ、実質的な指揮官はオーニィさんの兄であるフラスク様だったので、そちらも評価してもらいたいところ。
 
「スタークは短期間で新たな戦法を確立し、内乱を早期終結させた! しかし、すでに位は余に次いでおる。何か望みはあるか」

「では、我が部下を取り立てることをお許しいただきたい!」

 進み出した王太子殿下が、陛下の前にひざまずいて声を張り上げる。再び、観覧席に軽い驚きの波が走った。サプライズの多い式典だ。

「『我が部下』って、大丈夫なのかな?」

 マイナ先生の呟きで、違和感を感じはじめる。確かにすべての貴族は国王陛下の家臣であり、『我が部下』というのは微妙な言い回しだ。

「許す」

 しかし、王太子殿下の服にも、拡声の聖紋神術がかけられているところからみて、出来レースだろう。あらかじめ許されているとみるべきだ。

「左衛士、右衛士、前へ!」

 再び、会場がシンと鎮まりかえった。観覧者は誰が出てくるのか、目を泳がせている。

「イント君? 呼ばれてるよ」

 マイナ先生に肘でつつかれる。

「あっ、僕か」

 右衛士は王太子の護衛役の名誉職だ。きっと僕以外にも沢山いるんだろうと勝手に思っていたのだが、進み出て見ると、フラスク様と僕だけ。集まってくる視線が重くて、痛む足が痙攣する。

「イント様は殿下の右へ並んでください」

 係員が耳打ちしてくれた。こういう場のマナーはまったくわからないので、ありがたい。
 しかし、係員はフラスク様にも耳打ちすると、そのまま元の位置に戻っていった。

「え? 終わり?」

 もっと指示を出してほしい。手順すらわからないまま、王太子殿下の右につく。

 深呼吸して軽く見回すと、ニヤつくユニィと目が合って、少しイラっとする。

「ここにいるフラスク・パイソンは独自に研鑽した武術を、飛行船からの降下技術に応用し、自身も部隊を率いて西部内乱の早期終結の原動力となりました。そしてこちらのイント・コンストラクタについては、天船をはじめとした功績を説明するまでもないでしょう。幼いながら、文武の実績は両手に収まりきりません」

 自慢げに演説する王太子。大半は前世の知識なので、厳密には僕の手柄ではない。こんな大勢の前で褒められるのはすさまじく照れくさい。

「他ならぬ王太子の推薦である。良いだろう。パイソン子爵は良い息子を持ったな。ではパイソン子爵家は伯爵位に陞爵とする。領地の加増については、隣の天領の一部を与える。彼の地の魔境は岩山ゆえ、新たな武術と相性は良かろう。加えて、フラスクには男爵位を与える!」

「ありがたく拝領し、我ら一族の末永い忠誠と奉公を捧げます」

 なるほど。これが定型句なのか。フラスク様が壇上にあがり、男爵位に徽章を国王自らつけられ、伯爵位の徽章を受け取るのをボンヤリと眺める。
 次は僕の番。評価されるのは嬉しいが、こういう場に堂々と立てるほど心臓は強くない。

「さて、イントについてだが、彼が継ぐ予定のコンストラクタ家の処遇について、皆に知らせなければならないことがある」


 フラスク様に徽章をつけ終えた国王が、僕を見ながらおかしな話をはじめる。もちろん、こんな話は聞いていない。

「ヴォイド卿、前へ」

 宰相閣下が、すかさず親父を呼び出す。これも出来レースだろうか? だったらあらかじめ教えておいて欲しかった。

 親父は進み出てきて、少し離れたところでひざまずく。

「これから話すのは、国土奪還戦争の末期において発生した、冤罪事件についてだ。余の忠臣であったヴォイド卿が、停戦条約締結後にナログ共和国の国境警備隊を殲滅した事件を覚えている者も多い思う」

 国王陛下は親父の冤罪事件について、滔々と話始めた。

「命令違反。そう言う者もいた。しかし此度の内乱の首謀者である、プリーク・スカラ侯爵の屋敷から、それが冤罪である証拠が見つかった。ヴォイド卿は、謀反人が発行した正式な命令を実行したにすぎぬ」

 観覧席のざわめきが、再び大きくなっていく。

「あの事件、いや、ナログ共和国の侵攻そのものがプリーク・スカラ一派の動きによるものだ。かの者の屋敷からは、アンタム都市連邦から援軍を呼び、我が国全土を制圧する古い計画書がいくつも見つかった」

 増幅された国王の声を上回るざわめきに包まれる。獅子身中の虫。侯爵の裏切りは、列席した貴族たちにとって衝撃だったらしい。

「お言葉の途中である! 静粛に!」

 宰相が音量を上げて叫ぶ。ピタリ、とざわめきが止まった。

「ヴォイド卿については、以前冤罪と相殺されてしまった功績がある。また、ナログ共和国の主戦派の再侵攻を食い止めた功績、及び西部内乱における功績を加味し、恩賞を与える必要もある」

 親父が言葉に反応して、顔をあげる。戦場で見た、真剣な表情だ。

「おそれながら陛下、それらの功績と引き換えに、お願いしたき儀がございます」

 親父が平伏した状態で、声を張り上げる。拡声の神術なしの大音声だ。

「言ってみよ」

 陛下の表情が痙攣した。もしやこれはアドリブ?

「スカラ子爵とその家族の助命を」

 僕はその話、何も聞いていない。義母さんの方を見ても、ビックリした様子で親父の方を見ているだけだ。

「ふむ。謀叛の罪は軽くないぞ。理由を聞こうか」

 一番最初に立て直したのは国王陛下だった。

「私の両親はこの国出身で、東国の仙郷に向かい、途中で亡くなりました。陛下は私は十二歳まで仙郷で育ち、三年かけてこの国まで帰ってきたことはご存知と思います」

「うむ。それは知っておる」

 陛下は深くうなずく。

「実は、2代前の当主と、我が母は兄妹だったことが、先日の城塞都市ジャワ攻防戦の中で判明しました。私は元々、自分が何者なのか知りたくて、この国に戻ってきました。ここで一族郎党を処断してしまえば、その目的が果たせなくなります」

 再び爆発するざわめきに混じって、義母さんの悲鳴が聞こえてくる。あのクソ親父、なんか秘密があるなとは思っていたが、約束が違う。義母さんに話してから、僕にも教えてくれると言っていたのに。
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