転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa

文字の大きさ
上 下
151 / 190
第五章『開戦』

151話 夜会と王太子

しおりを挟む
 茶会の次は、予定どおりの夜会だ。

 僕は妹のストリナをエスコートして、茶会の出席者と一緒に会場入りした。夜会も商業都市ビットからの大使を歓迎する式典の一つらしいが、何をするかはまだ聞いていない。

 しばらくは会場内を見学して回っていたが、後から入場してきた若いご令嬢がたが、僕らを見つけるとわらわらと集まってきた。

「まぁカワイイ。お召し物も素敵ですわね。初めてお会いさせていただきましたが、どちらのご令息の方かしら?」

 夜会に十二歳以下は参加できないらしい。だから僕らがここにいること自体が物珍しいのだろう。

「こんばんは。僕はヴォイド・コンストラクタ男爵の長男で、イント・コンストラクタといいます。こちらは妹のストリナ・コンストラクタ。以後お見知りおきを」

 二人で丁寧に頭を下げる。昔、マナーの授業で散々やらされたお辞儀だ。

「まぁまぁまぁ! 『天船』のイント様に聖女様かしら。噂のお二人にお会いできて光栄ですわ」

 僕らを取り囲んだご令嬢たちは、マイナ先生とそう変わらない年齢の子たちだ。

 ご令嬢たちもそれぞれ自己紹介していくが、侯爵家から始まって、徐々に爵位が下がっていくあたり、互いの序列は認識しているらしい。僕は相手が誰かもわからないので、それが凄まじく怖い。

「襟元に隠し紋がありますわね。しかも王家の……」

 口元を扇で隠しているので、誰の呟きかはわからないが、令嬢たちの視線が僕らの襟に集中した。

 元々王子と王女のお古なので、服には染め抜きの王家の紋章が入っている。服飾ギルドのお姉さんいわく、紋章付きの衣服を下賜する場合、生地と同じ色の刺繍で、もともとの紋章を消すのだそうだ。

 このご令嬢がたは、それを隠し紋と呼んだらしい。

「そういえばイント様は、昼間の茶会にも招かれたとか。羨ましいですわ。どのようなお話をなさったんですの?」

 結論から言うと、あの茶会は「茶会」という言葉の優雅なイメージとはかけ離れた、白熱した会議だった。

 商業都市ビットは、なぜか僕が関与した新技術や製品の大半を知っていて、議論の焦点はそれらの製品の輸出や、技術の移転をどこまで認めるかという点に絞られていた。

 イニング氏とフォートラン伯爵は、元々ライバル意識が強かったのだろう。容赦のない応酬を繰り広げ、素早く条件面をまとめていった。僕の出番はほぼなかったと言っていい。
 僕の役目は、輸出分の増産が可能か、という問いに機械的にうなずくだけ。今の増産計画で充分賄える無理のない内容だったからだ。さすが副宰相といったところか。

 結局、その場でいくつかの品目の輸出と、新しく開校する学校への留学生受け入れが決まった。
 この程度で、敵対するアンタム都市連邦の一角が落ちるなら、安いものなんだろう。

 で、こんな話をご令嬢がたにして良いものか。国家機密に類するような気がする。

「ご令嬢がた、イント卿とストリナ嬢は、余の話し相手として呼んだのだ。お借りしても良いかな?」

 中学生ぐらいの、パリッとした純白の服を着た子どもが割り込んでくる。

「これはスターク殿下。もちろんでございます。私たちはこれで失礼いたしますわ」

 答えに窮していたのを見た王太子殿下が、助け舟を出しに来てくれたらしい。ご令嬢がたは気を悪くした様子もなく、満面の笑みで王太子殿下にカーテシーをして去っていく。

「ありがとうございます、王太子殿下。こういった場は苦手なので助かりました」

 お礼を言うと、王太子殿下は軽くうなずく。前世で言ったら中学1年生ぐらいの年齢だが、年齢にそぐわない落ち着きがある。

「スタークで良い。卿にも苦手なものがあるのだな。安心した」

 そのまま王太子殿下が歩きだす。ついて行くべきか悩んで、結局ストリナと一緒について行くことにした。

「ではスターク様。僕について、どんな話をお聞きになったかはわかりませんが、苦手はたくさんありますよ。魔物と戦うのは今でも怖いですし、人を斬るのも怖いです」

 少し驚いた顔で一瞥された。いや、そんな戦闘狂だと思われてたのか。

「おにいちゃん、ういじんでないたって」

 リナ、ナイスフォローだ。そのまま王太子殿下の誤解を解いてくれ。

「ほう。初陣は何歳の頃だ?」

「半年ほど前のことになります。『死の谷』の手前で飛猿の群れと戦いまして」

 その前にも、狩りに同行したり、魔狼から逃げたりはあったけど、自分から積極的に戦ったという意味で、初陣はあれだ。

「最近だな。そこから数ヶ月で、赤熊単独討伐を成し遂げたのか」

「あたしもぶったおしたよ!」

 ストリナが元気いっぱいに言ってくる。子熊ではあったけど、確かに六歳で単独討伐のほうがすごいだろう。

「実は、僕は一族四人の中では最弱なんです。赤熊を倒せたのは偶然で、多分次に出会ったら死ぬと思います」

 掛け値なしの本音だ。弓は風の影響を受けやすいので、急所を外す可能性はあったし、外せば流れた血の分、強くなっていただろう。

 あの時、ユニィを逃がす手段があれば迷わず逃げていた。

「謙遜、というわけでもなさそうだ。そういうことなら、先に謝罪しておく」

 夜会の会場から扉を一つ隔てた先に、全身鎧姿の騎士が待っている。その手にあるのは、僕らの武装だ。ストリナ用の柄にミスリルアマルガムが内蔵された短剣に伸縮式の短い槍、僕用の刀と投げナイフ用のカバンだ。

 4つとも王宮の入り口に預けていたものだ。

「えっと、どうして?」

 騎士は僕らに武装を渡すと、何も言わずに去って行った。

「戦争で多くの将が出払っている今、信頼できる臣下は少ない。実は王都に残った公国派貴族の支持者が、今日決起するという情報があってな」

 親父殿の姿が脳裏をチラつく。第十三騎士団の残党と第十五騎士団が王都へ帰されたのは、もしやこのためではなかったんだろうか。帰還途中で引き返すとか、明らかに命令違反なわけで、後で怒られたりして。

「つまり、殿下を護衛すればよろしいので?」

 この服に投げナイフを隠す場所はないので、ジャケットの下にカバンごと隠し、靴に投げナイフを仕込む。そういえば、あの戦場以降、投げナイフを投げる練習をしてない。

「そうだな。護衛をしてもらうほど弱くはないつもりだが………話し相手をしてもらって、もし敵対行動をするものがいたら制圧してくれ」

 腰に剣帯を巻いて装備を完了し、隣を見ると見た目何も変わっていないストリナがいた。

「わかりました。何かあった場合は、敵制圧を優先します」

「そうしてくれ。ところでストリナ嬢は、武器をどうしたのかな?」

 ストリナは満面の笑みで王太子殿下を見上げる。

「みんなあたしのこと、リナってよぶから、おうじさまもリナってよんでね。あと、ぶきはスカートのなかにかくしてあるの!」

 王太子殿下の眼前で、ドレスをまくって見せる。下着は見えなかったが、短剣が太腿に逆さまに固定されているのは見えた。ふんわり膨らんでいるので、外から武器を持っているのはわからない。

「あ、こら」

 慌てて、ストリナのスカートをおさえる。王太子に何を見せているんだ。

「申し訳ありません。僕らはまだマナーにはうとくて」

 面食らっている様子の王太子殿下に、頭を下げる。

「あ、ああ。許す」

 良かった。王族は貴族でも無礼討ちにできるらしいから、注意が必要だ。
 それにしても、こんな王宮のど真ん中で敵を制圧しろとは、恐ろしい命令だ。
 敵がどこにいるかもわからないのはもちろんだが、僕が王太子殿下の隣で武器を持っているという事実も怖い。重要人物なので、僕が出来心を起こした場合のことも考えられているだろう。
 
「それで、これからどうするんですか?」

「余は主催者なのだ。このまま会場に引き返して、皆の挨拶を受ける」

 中庭を見渡して、王太子殿下はため息をついた。空気は、手がかじかむほど冷たい。

「わかりました。お供します」

 義母さんはついてきていないし、僕らは社交に混ざれる年齢でもないので、王太子の後ろで黙って立っていたほうが無難だろう。

「二人とも、余を助けてくれると嬉しい」

 王宮って、この国で一番安全な場所だと思っていたんだけど、やっぱりこっちの世界は治安が悪い。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

ミスコン三連覇猛者が俺に構いすぎるせいで、学園ラブコメを満足に体験できないんだが。  

れれくん。
恋愛
可もなく不可もなく平凡に暮らす高校一年生の優。 そんな優の日常は突然崩れ去る。 最愛の父と母を事故で失い孤独になってしまう。 そんな優を引き取ってくれたのは昔から本当の姉のように慕ってきた大学生の咲夜だった。 2人の共同生活が始まり、新しい学校で出来た友人達と楽しい日々を過ごしていく。 だが優は知らない。咲夜が優に好意を抱いている事を。 照れ隠しでついつい子供扱いしてしまう事を。 果たして咲夜の想いは優に届くのか。 ぶっきらぼうで平凡な高校生の優とお節介なミスコン三連覇猛者の咲夜。個性豊かな優の悪友?が送るリア充側のラブコメここに爆誕。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

どうも、賢者の後継者です~チートな魔導書×5で自由気ままな異世界生活~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「異世界に転生してくれぇえええええええええ!」  事故で命を落としたアラサー社畜の俺は、真っ白な空間で謎の老人に土下座されていた。何でも老人は異世界の賢者で、自分の後継者になれそうな人間を死後千年も待ち続けていたらしい。  賢者の使命を代理で果たせばその後の人生は自由にしていいと言われ、人生に未練があった俺は、賢者の望み通り転生することに。  読めば賢者の力をそのまま使える魔導書を五冊もらい、俺は異世界へと降り立った。そしてすぐに気付く。この魔導書、一冊だけでも読めば人外クラスの強さを得られてしまう代物だったのだ。  賢者の友人だというもふもふフェニックスを案内役に、五冊のチート魔導書を携えて俺は異世界生活を始める。 ーーーーーー ーーー ※基本的に毎日正午ごろに一話更新の予定ですが、気まぐれで更新量が増えることがあります。その際はタイトルでお知らせします……忘れてなければ。 ※2023.9.30追記:HOTランキングに掲載されました! 読んでくださった皆様、ありがとうございます! ※2023.10.8追記:皆様のおかげでHOTランキング一位になりました! ご愛読感謝!

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

処理中です...