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第五章『開戦』
142話 千年の停滞
しおりを挟む「被害はどうなっているか?」
ルップルの筆頭大司教であるルーガス・テレース枢機卿は、ログラム公国へ送り出した援軍の大敗の知らせを受けて、頭を抱えたくなった。
元々、ログラム公国を独立させた上で属国とし、アンタム都市連邦に組み込むつもりでいたのだ。
「我が国から参陣した修道騎士団は、本陣の消滅に伴って、文字通り全滅しました。生き残ったのは、第六使徒ソル様、聖騎士長チェイン様とその従士の部隊だけです。聖職者も司教様以下全滅とのことです……」
ルーガス枢機卿に渡された資料によると、ここ教皇領ルップルから送り出した兵力は約一万人。生き残った正規兵は千人に満たないらしい。
「他の都市に派遣した守護聖人はどうなっておるか?」
「そちらも、ログラムの特記戦力に各個撃破された模様で」
枢機卿の顔は、ますます険しくなっていく。
「それを防ぐために、『断罪の光』を貸し出していただろう。どうして特記戦力を塹壕から出したんだ」
『断罪の光』は神術による防御が困難で、神術の効果が薄くなる仙術士にも絶大な効果があることが確認されている。しかも遠距離から狙えるので、一騎討ちをしようと塹壕から出てきた時点で、狙い撃ちできるはずだった。
「それが、極限まで磨かれた鏡の盾で、防がれてしまったようです。配備したサリアムの部隊は、コンストラクタ家の嫡男が率いる一隊の突撃で全滅したとか」
何を聞いても都合の悪い答えしか帰ってこない。
「護衛は何をしていた? サリアム最強の聖騎士長がついていたのではなかったか?」
「それが、援軍として現れたログラム国王、ファンク・ログラムと一騎討ちして敗れたようで……」
「国王が自ら出てきたのか? あの国はいったいどうなってるんだ……」
国王が高位の仙術士であるという情報は入手していた。しかし、まさか 神器で固めた聖騎士長を討てるほどだとは。
援軍の到着も、先鋒の二騎士団とほぼ同時に王都を出立していないと間に合わないタイミングで、国王の親征という事実も伏せられていたのだ。
「まぁよい。それで、他都市の部隊はどうなったのだ?」
「各都市、突出している特記戦力は、ほぼ狙い討ちされたようですが、総数的に見ると7割程度の損耗です」
これもまた頭が痛い問題だろう。アンタム都市連邦の中で、一番弱体化したのがここ教皇領ルップルだ。発言力の低下は否めない。
「それに関連しての報告なのですが、商業都市ビットがアンタム都市連邦を離反。ログラム王国に庇護を求めました」
ルーガス枢機卿は、思わず立ち上がる。アンタム都市連邦は七つの都市国家の連合体だ。そのうち一つが離反した。これを許せば他の都市も離反する可能性があるだろう。
「原因は?」
「おそらく、ログラムの技術、特に『天船』が原因ではないかと」
枢機卿は大きなうめき声を上げながら、クッションが効いた椅子に沈み込む。
「ただちに使者を出せ。聖地に遠征している聖櫃騎士団を呼び戻すんだ」
「はっ!」
報告に来ていた騎士は、敬礼するとすぐさま退室していった。
「まずいな。猊下に何と報告すれば……」
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