140 / 190
第五章『開戦』
140話 戦場からの手紙
しおりを挟む愛するマイナ先生へ
僕がフロートの街を出てもう2週間になります。街の工事のこと、全部任せてしまってごめんなさい。疲れていないでしょうか? 最近寒くなってきたこともあり、とても心配しています。
さて一緒に作った飛行船ですが、想定以上の性能を発揮しました。なんとたった1日で王都へ到着し、1日滞在の後、翌日には戦場に辿り着いていました。
あれは良いものです。きっと未来は明るくなるでしょう。
ただ、残念なお知らせもあります。あの船は、到着初日に義母さんが墜落させてしまいました。わざとやったようです。
幸い、乗務員も積荷も雷竜の魔石も無事でした。またモーターから作り直しましょう。あれの軸受にはまだ改善の余地がありそうなので、帰ったらその話をしたいです。
戦場に到着して以降ですが、最悪の日々でした。僕も巻き込まれて初陣したのですが、人間と戦うというのは本当に嫌なものです。こちらの騎士団にも、戦死者や負傷者がたくさん出ました。
この戦争、原因は塩だと思うのですが、こんなことになってしまったのは、もしかして僕のせいでしょうか? 良かれと思ってやったことなのに、この結果は納得できません。
ともあれ、アンタム都市連邦の連合軍は撤退して、僕らは勝ちました。陛下率いる第一、第二、第三騎士団は、このまま公都まで攻め込むそうですが、第十五騎士団はここでお役御免になります。
帰りは馬車なので、そちらに帰るにはまだしばらくかかりそうです。本格的な冬になるまでには帰りたいのですが、間に合わないかもしれません。
そうそう、同封した一覧は、うちの領地とシーゲン子爵領出身者の戦死者をまとめたものです。冬に生活に困らないよう、注意を払うよう村長のアブスとオーニィさんに伝えてください。
遺族には可能な限り手厚く支援してあげたいと思っています。
ではまた。
◆◇◆◇
「オーニィさん、イント君の手紙、肝心なことが抜けてると思わないですか? 無事だったのは嬉しんだけど……」
オーニィはマイナから手渡された手紙を読んで、深くうなずいた。
「確かにこれじゃ足りないね。ここには勝ったとしか書いてないけど、とんでもない大金星らしいし?」
「へぇ。そんな情報が入ってるんですね。どう大金星だったんですか?」
大金星と聞いてマイナは興味を持ったらしい。オーニィは国王から派遣された役人で、諜報部にも所属しているため、その方面の情報網を持っていた。だから、第十五騎士団の驚異的な戦果の情報も入ってきている。
「何でも、イント君たちが到着してから、敵本陣を強襲して全滅させたり、商業都市ビットを寝返らせたりしたとか。ヴォイド様たちは使徒様や守護聖人様、聖騎士長様を天に還したらしいよ。イント君も一隊を率いて敵陣を横断して『断罪の光』を止めて、途中聖騎士長と渡り合ったとかなんとか」
第十五騎士団によって天に還された人々は、信徒の間では英雄として崇拝されていたテレース派の人物ばかりだ。テレース派にとっては、聖地への遠征でも出なかったような被害となっている。
「それは人間技じゃないですね。それを自慢しないあたり、イント君らしいというかなんというか……」
マイナは引き攣った笑いを浮かべる。きっと嫌がりながらやったんだろうなというところまで、容易に想像できた。
「でも、オーニィさんの家って、敬虔な信者なんですよね?」
マイナは続ける。オーニィの所属しているパイソン子爵家は、教会と近い聖堂派貴族だ。教会の総本山である教皇領ルップルが自国に打ち破られるのはどうなのだろうという疑問を持ったのだろう。
「全ては神様の御意志なので、問題ないですよ」
オーニィはあっけらかんと答える。元々、教会という組織は一枚岩ではない。ただ、どの派閥も神は唯一で、全知全能というのは共通認識としてある。だから負けたということは、テレース派に神のご意思がなかったということだ。勝てたなら何の問題もない。
「へぇ。それなら良かった。でも、わたしが言った肝心なことって、それじゃないんだよね」
マイナは少しだけ眉を吊り上げた。
「じゃあ婚約者あてなのに事務的すぎる、とか?」
婚約者に贈る手紙にしては、味気ない。それっぽいのは宛名だけだろう。貴族らしい美辞麗句も一切ない
「違う違う。学校区画で使う教科書、飛行船で翻訳して原稿書くって言ってたのに、その原稿が入ってなくて。楽しみにしてたんだけどなー」
(ん?)
オーニィはマイナの言葉の違和感に気づいた。
「あれはイント君が持っているもんね」
そしてカマをかける。この家には他にも不信な点がいくつもあった。
「そうそう」
オーニィはイントの身辺を隅々まで調べた。領主の館にあった書類や本は全部見たし、持ち物もだいたい把握している。にもかかわらず———
(翻訳?)
「早く帰ってきて欲しいなぁ」
ため息を一つ。恋する乙女のようにも見える。
「そうですね」
(『コンストラクタ家の秘伝』は実在している? でも、ボクには見つけられなかった。そんなものがもしあるとすれば、それは———)
0
お気に入りに追加
260
あなたにおすすめの小説

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!


【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)

加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません


ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる