130 / 190
第五章『開戦』
130話 苛立つ最前線
しおりを挟む「隊長、やべえですぜ。領主が寝返って、地元の狩人が敵に回りやした。奴ら足跡を見抜くんで、奇襲に失敗するケースが増えてきてまさぁ」
半地下になっている擬装仮設拠点で、コンストラクタ村の元狩人頭であるアブスから戦況の報告を受けたヴォイドは、枝と枯れ葉で埋められた天井を見上げた。
「あー、もう面倒だから俺が行こうか? 足跡ってことは要は地面を踏まなきゃ良いんだろ?」
「分隊の指揮官が前線に出ちゃいかんでしょう。あのおかしな術、モーリを負傷させてましたぜ?」
モーリはコンストラクタ村の元木こり頭で、鉄板のような大剣を武器にしているヴォイドの弟子だ。
この半島で広がった仙術の開祖はヴォイドで、その最高の弟子はシーゲン子爵である。そして、それに続く高弟がアブスやモーリ、アノーテなのだ。そんなモーリを負傷させようと思うと、ジェクティの神術クラスの威力が必要になる。
「俺にも効くと思うか?」
「わかりやせんが、それなりの仙術士でもやられてやすからね。隊長は出ねぇでくだせぇ」
「めんどくせぇな」
先の戦争では、ヴォイドとジェクティとオーブの3人が主体となって攻撃し、その他のメンバーは斥候や荷運び以外やることがなかった。
しかし、オーブはイントを産んだ際に亡くなり、ジェクティはミスリルメッキの武具を輸送するためにコンストラクタ村に帰ってしまったので、今はヴォイドしかいない。
各小隊を率いるコンストラクタ村出身者は、戦後訓練を積んでいたため、相手の進軍を止める程度の活動はできている。が、ヴォイドがかつて行ったような総司令官の暗殺など、撤退させられるほどの功績はあげられていない。
「ジェクティ姐さんはいつ戻られるんで? 大隊長も焦れてきてやすぜ」
アブスのいう大隊長というのは、シーゲン子爵のことだ。今は第十五騎士団とともに、街道近くに潜伏して、防衛陣地を構築している。
その他にも第十三騎士団の救助や王都から逃げた公国派貴族の捕縛なども行っているが、反撃に踏み切るには圧倒的に戦力が足りない。
「それよりも先に、王都からの援軍が到着するかもしれんがな」
第十三騎士団の初戦敗北は予定外だった。当初の作戦でいえば、ヴォイドたちが撹乱し、シーゲン子爵の本隊が休ませず、第十三騎士団が蹂躙する予定だった。
それが、パール伯爵は何を思ったか勝手に先陣を切って、勝手に全滅し、事後処理すべてと敵の足止めまで、そのすべてがシーゲン子爵の仕事になった。
「そんならそれで楽になりますがね」
敵の新兵器は、ミスリルの鎧を着た人間は、鎧の隙間部分をちょっと火傷した程度で、あまり効かなかった。つまり、ミスリルメッキの武具が届き、腕の良い兵士に装備させて突撃すれば、逆転できる可能性は高い。だが、それなしで突撃すれば第十三騎士団の二の舞となる。
それに、例え援軍が来ても、あの兵器を攻略できなければ、勝てそうもない。
「俺ぁナメられるのが大嫌いなんだ。次敵が動いたら、俺だけで行く」
ヴォイドはイラつきを隠そうともせず、敵がいる方向を睨みつけた。
「いや、万が一隊長になんかあったら俺たちゃ……」
「心配すんな。イントは、ムラがあってよくわかんねぇが、八歳で手負い状態の赤熊のつがいを単独で討伐したんだろ。リナにいたっちゃ六歳で赤熊単独討伐。俺になんかあっても、あいつらがいたらどうにでもなるだろ」
それに、イントが聖霊から与えられた異世界の知識もある。
「大隊長も似たようなこと言ってましたがね。十年前みたいな暴走は勘弁してくださいよ……」
0
お気に入りに追加
260
あなたにおすすめの小説

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!


社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)
土岡太郎
ファンタジー
自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。
死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。
*10/17 第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。
*R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。
あと少しパロディもあります。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。
YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。
良ければ、視聴してみてください。
【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)
https://youtu.be/cWCv2HSzbgU
それに伴って、プロローグから修正をはじめました。
ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました
yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。
二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか!
ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる