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第五章『開戦』
130話 苛立つ最前線
しおりを挟む「隊長、やべえですぜ。領主が寝返って、地元の狩人が敵に回りやした。奴ら足跡を見抜くんで、奇襲に失敗するケースが増えてきてまさぁ」
半地下になっている擬装仮設拠点で、コンストラクタ村の元狩人頭であるアブスから戦況の報告を受けたヴォイドは、枝と枯れ葉で埋められた天井を見上げた。
「あー、もう面倒だから俺が行こうか? 足跡ってことは要は地面を踏まなきゃ良いんだろ?」
「分隊の指揮官が前線に出ちゃいかんでしょう。あのおかしな術、モーリを負傷させてましたぜ?」
モーリはコンストラクタ村の元木こり頭で、鉄板のような大剣を武器にしているヴォイドの弟子だ。
この半島で広がった仙術の開祖はヴォイドで、その最高の弟子はシーゲン子爵である。そして、それに続く高弟がアブスやモーリ、アノーテなのだ。そんなモーリを負傷させようと思うと、ジェクティの神術クラスの威力が必要になる。
「俺にも効くと思うか?」
「わかりやせんが、それなりの仙術士でもやられてやすからね。隊長は出ねぇでくだせぇ」
「めんどくせぇな」
先の戦争では、ヴォイドとジェクティとオーブの3人が主体となって攻撃し、その他のメンバーは斥候や荷運び以外やることがなかった。
しかし、オーブはイントを産んだ際に亡くなり、ジェクティはミスリルメッキの武具を輸送するためにコンストラクタ村に帰ってしまったので、今はヴォイドしかいない。
各小隊を率いるコンストラクタ村出身者は、戦後訓練を積んでいたため、相手の進軍を止める程度の活動はできている。が、ヴォイドがかつて行ったような総司令官の暗殺など、撤退させられるほどの功績はあげられていない。
「ジェクティ姐さんはいつ戻られるんで? 大隊長も焦れてきてやすぜ」
アブスのいう大隊長というのは、シーゲン子爵のことだ。今は第十五騎士団とともに、街道近くに潜伏して、防衛陣地を構築している。
その他にも第十三騎士団の救助や王都から逃げた公国派貴族の捕縛なども行っているが、反撃に踏み切るには圧倒的に戦力が足りない。
「それよりも先に、王都からの援軍が到着するかもしれんがな」
第十三騎士団の初戦敗北は予定外だった。当初の作戦でいえば、ヴォイドたちが撹乱し、シーゲン子爵の本隊が休ませず、第十三騎士団が蹂躙する予定だった。
それが、パール伯爵は何を思ったか勝手に先陣を切って、勝手に全滅し、事後処理すべてと敵の足止めまで、そのすべてがシーゲン子爵の仕事になった。
「そんならそれで楽になりますがね」
敵の新兵器は、ミスリルの鎧を着た人間は、鎧の隙間部分をちょっと火傷した程度で、あまり効かなかった。つまり、ミスリルメッキの武具が届き、腕の良い兵士に装備させて突撃すれば、逆転できる可能性は高い。だが、それなしで突撃すれば第十三騎士団の二の舞となる。
それに、例え援軍が来ても、あの兵器を攻略できなければ、勝てそうもない。
「俺ぁナメられるのが大嫌いなんだ。次敵が動いたら、俺だけで行く」
ヴォイドはイラつきを隠そうともせず、敵がいる方向を睨みつけた。
「いや、万が一隊長になんかあったら俺たちゃ……」
「心配すんな。イントは、ムラがあってよくわかんねぇが、八歳で手負い状態の赤熊のつがいを単独で討伐したんだろ。リナにいたっちゃ六歳で赤熊単独討伐。俺になんかあっても、あいつらがいたらどうにでもなるだろ」
それに、イントが聖霊から与えられた異世界の知識もある。
「大隊長も似たようなこと言ってましたがね。十年前みたいな暴走は勘弁してくださいよ……」
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