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第四章『領主代行』

104話 領地開発のはじまり

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 オーニィさんが補佐についてくれて1週間、仕事は減るどころかむしろ増えた。

 まず持ち上がったのが、馬車不足だ。工房のヤーマン親方が移住に声をかけた職人は三十人以上いて、その工房や住居の建材が足りないという問題だった。
 今もハーディさんの隊商が村に建材を持ち込んでいるが、元々商人や冒険者が宿泊する宿屋や酒場などの整備が間に合っておらず、明らかに間にあっていない。

 となれば、以前のように中古の馬車を買い集めて、と思っていたのだが、以前ハーディさんのために派手に馬車を買い集めたせいで、王都の中古馬車は枯渇状態。馬車を手に入れようと思ったら、新品を職人に発注するしかない。

「やはりあと五十台は馬車がないと工期に間に合わないですね」

 ハーディさんがオーニィさんの計画書を読みながら言う。王都全体で馬車が足りていないので、職人へ依頼するのもけっこう厳しい。

「そりゃ無茶ですよ。馬も馬車も足りないのに」

 馬も育てて調教しないといけないと考えると、もっと時間がかかるだろう。

「馬はなんとかなりますよ。行商人ギルドでは、冒険者ギルドや狩人ギルドとともに、馬の捕獲を進めているらしいので。問題は、馬車の確保と、シーゲン領とコンストラクタ領を繋ぐ街道、あとは村と砦をつなぐ道ですね。拡張が必要です」

 ほう。馬は野性馬を捕獲してたのか。そう言えばこっちで牧畜見たことないな。
 それに、確かに道の問題も深刻だ。シーゲンの街への道は、四頭立ての大きな馬車だと、そもそも入れないか、入れたとしてもすれ違えない可能性が高い。

「道の整備は時間がかかりますよね? 建材の確保が遅れるのは、できれば避けたいんですが」

 話を聞いていたオーニィさんが首を捻る。

「コンストラクタ村の周囲は森でしょう? 樹木を伐採すれば良いだけでは?」

「建材にする場合、伐って数か月置かないと、木が腐ります。一応、村の木こりの方々も頑張っておられるんですが、使えるようになるにはしばらくかかりますね」

 話を聞いていて、ちょっと不安になってくる。事あるごとに無計画な伐採をやめるよう指示しているが、領民に理解している様子がない。

「村の周りの樹木は守らないといけません。なくなる前にどうにかしないと」

 僕が割って入ると、オーニィさんは笑顔のまま、ちょっと中空を睨んで固まってしまった。

「オーニィさん? どうしたんです?」

 不思議に思って、声をかけてみる。

「うーん、上司の言うことは聞きたいんだけど、ボクにはどうしてもわからないんだよね。イント君、砦に行った時も樹木を伐るなと指示してたけど、それは何で?」

 ああ、まただ。オーニィさんも含め、今世の人たちは樹木の重要性を理解していない。

「樹木の根は、山の土と水を保持しているんです。薪や木材を村の近場から調達して山から樹木がなくなれば、山が崩れ、水源が枯れます。樹木は成長に時間がかかるので、山の中にある村にとって、死活問題になりかねない問題なんですよ」

 エジプト文明では砂漠化の進行だっけか。環境破壊問題については、いろんな教科書に載っていた。ハーディさんに建材や炭を村まで運んでもらっているのも、それが理由だ。

「なるほどねぇ。また『コンストラクタ家の秘伝』というやつだ。 それもヴォイド様から?」

 この一週間、オーニィさんは僕が何か言うと、そればっかり聞いてくる。知識の出所が気になるのはわかるが、聞かれても困ってしまう。

「オーニィ様、何度も言いますが、秘伝について質問をされるのは遠慮していただけませんか?」

 そしてそのたびに、秘密を知っているマイナ先生がオーニィさんをたしなめてくれる。もはや恒例といって良いやりとりだ。

「その様子だと、あなたは秘密を把握してらっしゃるんですよね~? やっぱり婚約者だからですか?」

 これである。オーニィさんがうちに働きにきたのもこれが目的だろう。背後にいるのは国王陛下かな?
 まぁ、転生うんぬんや異世界から教科書を持ち込んだ叡智の天使の話はできないが。

「ま、まだ婚約は認められていません!」

「この程度で赤くなるとか、わっかりやす~い。ボクも嫁入りしたら教えてもらえるのかな~」

 オーニィさんも悪ふざけがすぎる。そしてハニートラップ要員にしては、下手すぎる。

「父上の第二婦人の座が開いてますので、話しておきますね。当家としてはきっと大歓迎ですよ~」

「えぇ? あのヴォイド様と? それはちょっと……ねぇハーディさん?」

 悪ふざけに悪ふざけで返しただけだが、無茶苦茶困った顔をされた。クソ親父、ああ見えてけっこうモテるんですけどね。

「イント君、与太話をするくらいなら早く話をまとめて。授業の続きに戻るよ」

 マイナ先生が、ちょっと赤い顔でそんなことを言う。最初、マイナ先生がうちに来ると言った時、僕らは親父に嫁に来るという意味だと誤解した。あれはマイナ先生にとっても恥ずかしい過去らしく、触れると今みたいに赤くなる。

 それがけっこうカワイイ。

「はい。じゃとりあえず、引き続きハーディさんは隊商の規模拡大の算段と、移住の先発隊の移動のサポート、隊商を使って村への建材と炭の運び込みの3つを重点的にお願いします」

 でも、確かにマイナ先生に教科書の内容を説明する約束をしているので、会議を終わらせるために、まとめに入る。

「わかりました。隊商が訪問した街に中古馬車が出ていた場合、隊商からあがる利益をそのまま購入資金にあてさせてもらっても?」

 ハーディさんが確認してくる。

「もちろんです。資金や馬車の貸し付けはしましたが、基本的にはハーディさんの商会です。利益から必要経費を差し引いた金額から、二割の税をもらう約束ですが、馬車は必要経費なので問題ないです」

 ハーディさんは嬉しそうな笑顔を浮かべた。税金2割分で炭や建築資材を村に物納してもらったり、塩を王都まで輸送してもらったりしているが、うちの御用商人化しているので、儲けはかなり大きいはずだ。

「オーニィさんは、馬の確保と馬車職人の確保をお願いします。あとは親方の工房を設計できる人を探して、親方と一緒に村へ先行してもらってください。あとは、父上の俸禄と、塩売却の手続きもお願いします。道の件はまだ後回しで良いです」

「はいはい。それぐらいならお安い御用。ボクたちは優秀だからね」

 オーニィさんもうなずく。

「あと、マイナ先生。僕と一緒にユニィに石灰石の採掘の指示書作るのと、屋敷への引っ越しの準備を手伝ってください」

 婚約破棄騒動以降、ユニィには会えなくなってしまったが、石灰石の採掘をお願いすると話をしていた。あれは建材不足に対する切り札になるかもしれないのものなので、早めに確保したい。

「ええ? わたしにも仕事あるの? わたし今研究で忙しいんだけど?」

 マイナ先生が、肩を寄せて抗議してきて、ちょっとドキッとする。

「次は物理でしたっけ? その研究も、僕がいないと進まないじゃないですか。あ、そういうわけですので、お二人ともお願いしますね」

「じゃあイント君、お部屋に行こう?」

 嬉しそうなマイナ先生にうながされて、立ち上がる。オーニィさんは、ジトリとした視線を向けてくる。

「まったく、お部屋で何をやっているんだか」
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