転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

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第三章『王都』

95話 冒険者ギルドの初回調査報告

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 準々決勝終了後、帰ろうと個室を出たところで、冒険者ギルドのモモさんがやってきた。どうやら、モモさんも観戦に来ていて、社交もかねて報告ということらしい。

 出口に向かう道すがら、話を聞く。

「現在までの途中経過の報告書です。王都の近郊を中心に、10箇所ほどで調査が進んでいますね」

 モモさんが膨らんだ分厚い封筒を見せてくる。これは全部読むだけでもけっこう時間がかかりそうだ。

「うち2箇所は、調査のためにヌシを討伐したので、いつでも開発に入れますよ?」

 モモさんが封筒から該当の書類を抜き出して渡してくる。見るとそのうち1箇所は、クソ親父がヌシを討伐して、僕らが魔物の氾濫を抑えた場所だった。僕が依頼した内容の一部をクソ親父がこなして、うちに報酬が入るとか、壮大なマッチポンプな気がする。

「ありゃ? あそこってパール伯爵の領地なんですね……」

 僕が死にかけたことも含め、いろいろ苦労した場所だったが、領主の名前を見て落胆した。パール伯爵家は伝統派で、うちの王族派とは対立派閥なので、開発は見込み薄かもしれない。多分正面からいっても、うちの融資は受けないだろう。

「国王陛下にお願いしてみては?」

 僕の意図を察したのか、モモさんが助言をくれる。確かに国王陛下が命じれば簡単だが、陛下の支持基盤である王族派を無条件で優遇していないあたり、派閥間のパワーバランスに気を使っているのだろう。

 だとすれば、バランスを崩すようなマネを安易にするわけにはいかない。

「それは無理だけど、代わりに何か考えるよ」

 パッと思いつくのは、アモン監査官だ。親父を侮辱して危うく殺されかけていたけど、あれは伝統派の誰かに誘導されていたのだろう。最終的に本人も捨て駒にされたことに気づいていた。そこを突けば、チャンスはあるかもしれない。直接会うと周囲がうるさそうなので、今度手紙を出してみよう。

「もう一件は、ドネット侯爵領? 知らない人の領地だなぁ。ヌシの討伐が聖堂騎士団ってことは、聖堂派の方かな?」

 小柄でマヨラーなオーニィ監査官の姿が浮かぶ。確かオーニィさんは聖堂派だったはずだ。

「イント君、何言ってるの? ドネット侯爵って、さっきお会いした宰相閣下のことだよ?」

 あれ? そうだっけ?

「ああ、うん。そうだね……」

 咄嗟に誤魔化す。が、モモさんはジト目でこちらを見ている。痛くもない腹を探られている感じがして、少し気まずい。

「とりあえず、宰相様には後で声をかけるとして、他にいけそうなとこはありましたか?」

 気を取り直して、問い直す。

「まだヌシは討伐されていませんが、パイソン子爵領でも塩泉が発見されたようですね。他はまだ発見の情報が入っていません。流行病の影響が抜けきっていないので、人手不足になってましてね。こちらで優先順位をつけて対応しています」

 モモさんの説明に、僕はうなずく。人手はどこも足りてない。僕らも人手問題はそのうち何とかしなければならないだろう。

「ちなみに優先順位ってどんな?」

「そうですね。王都近郊が最優先で、次にコンストラクタ男爵家と親交のある家の領地を優先といった感じでしょうか」

 なるほど。それはありがたい配慮だ。モモさん、受付からサブギルドマスターになっただけあって、かなり有能な気がする。

「なるほど。だからパイソン子爵家なんですね。オーニィさんの実家だからやりやすそうだ」

 オーニィ監査官なら、マヨネーズ持参で誘いに行ったらなんとかなりそうだ。多分あの人は、この世界ではじめてのマヨラーに違いない。

「じゃあ、早速開発の算段をしないといけませんね。モモさんを通せば良かったんだっけ? 砦建設のために必要な人員構成と砦の縄張り図、塩の生産方法はもうまとめてあるから、あとで宿まで取りに来てください。僕は各領主からそちらに依頼が行くように調整するので」

「ちょっとちょっと。イントくん? 何で冒険者ギルドだけ優遇するのかな? 護衛依頼だけって話だったはずでは?」

 横から、マイナ先生が口を出してくる。

「え? でもうちも人材不足だし、賢人ギルドにも冒険者ギルドからの依頼はいってるんでしょ?」

 うちも砦の建設まで手は回らない。

「調査と地図を書く仕事だけだよ。必要な羅針盤が足りてないから、そっちはこれ以上受けられないし、砦の方にも一枚噛ませてよ」

「羅針盤って?」

 前世でも聞いたことがあるけど、何だっけか。

「磁鉄鉱って特殊な鉱石を針状に加工して、南北の方向を指すようにした道具だよ。どこでも方向を知ることができるけど、材料が希少だからあんまり手に入らないの」

 南北を示すって、それコンパスのことじゃね? 磁鉄鉱は磁力を帯びた鉄、要するに磁石のことだし。

(教科書に磁石の作り方ってあった?)

 心の中で自称天使に問いかける。すると、空中に歴史の資料集が開かれた。

『一応鉄の針を南北に置いて赤熱させ、急冷したら磁石になると書いてあるのである』

(なるほど。地磁気だけで磁石になるなら、電磁石にしてやればもっと強い磁石になるね)

 歴史の資料集は高校の物理の教科書へ切り替わった。ふむ。フレミング左手の法則か。電流の強さとコイルの巻き回数で強さが変わるやつだったなぁ。あれくらいならなんとかなりそうだ。

「なるほど。方角わかったら便利だね。今度鉄から作ってみようか」

 そこで空気が凍る。

「人工的に作れるの? 羅針盤の針って」

 なるほど。マイナ先生がそういう認識ということは、こっちの世界は磁力とかの仕組みはまだ解明されてないのか。地磁気で磁石を作るとか、磁力微弱そうだし仕方ないか。

「やってみないと分からないけど、まぁモノとしては鉄だしね。出来そうな気はする」

 モモさんがいるので、できると断言はできないけど、まぁできるだろう。

「もしできたら、冒険者ギルドにも売ってくださいね。ではまた後日、宿にうかがいます」

 モモさんは、夢物語だと思ったのだろう。クスクス笑いながら離れていった。

 いつのまにか、出口にたどり着いていたらしい。

 闘技場の出口を出て、階段の上から見下ろすと、ロータリーのような広場が一望できる。

「あ、厄介ごとの匂いがするのです」

 広場には主人を待つ馬車がズラッと並んでいるが、うちの馬車は地味なのですぐに見つけることができた。隣に停車された馬車を見て、ユニィの呟きの意味を理解する。

「えぇ。またリシャス??」

 うちの馬車の前で、不機嫌そうにこちらを見上げるリシャスと目が合った。いや、不機嫌というのは生ぬるいか。明らかに激怒している。

 そう言えば、会場にいることは知っていたのに、ユニィはずっと僕らと一緒にいたっけか。社交の場にもなっているイベント会場で、婚約者が来ていることを知っているにも関わらず、挨拶にすら行っていない。

 これはもしかして、駄目なやつではなかろうか?
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