転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa

文字の大きさ
上 下
94 / 190
第三章『王都』

94話 【閑話】国王の暗躍

しおりを挟む

「陛下に覚えていただけていたとは、光栄です」

 ここは、隣国であるナログ共和国の非公式使節団のために用意されていた、VIP用の部屋である。

 目立たない位置にあり、国王用の部屋と比べると少し手狭だが、調度品の類はそれに次ぐ豪華さだ。

 その部屋に、使節団のメンバーが10人ほどいた。

「いやいや、アノーテ殿からは剣の指南を受けたこともある、言わば姉弟子。忘れることなどありえんな。アノーテ殿こそ、余を忘れているのでは?」

 これほどの規模の武闘大会ともなれば、貴族はたちは社交に忙しくなる。が、さすがに国王が護衛を一人連れただけで、直接部屋まで来るというのはありえない。しかも、友好国とは言えない間柄なのだ。

 使節団の団長も、アノーテの横で固まってしまっていた。

「指南? 姉弟子?」

 アノーテは目を細めて国王の顔をしげしげと観察する。しばし考えて、やがて目を見開いた。

「あの時の冒険者の少年!? 無茶をするのは血筋か!」

 アノーテは、現国王の妹であるパイラ・ログラムがナログ共和国に嫁いだ際、護衛として同行した。
 主戦派の貴族に騙されたヴォイドが、停戦後にナログ共和国が国境に展開させていた部隊を奇襲してしまったため、ナログ共和国側が停戦を続行する上で追加の要求を出したからだ。

 最初の要求は、戦犯であったヴォイドの首だったが、これはログラム王国が拒否した。
 ならばと代わりにと出された条件の一つ目が、当時第三王女だったパイラ・ログラムと、ナログ共和国若手評議員との結婚。そして二つ目が「仙術」の技術をナログ共和国に伝えることだった。
 パイラ王女と面識もあり、元々ナログ出身でヴォイドから仙術の指南を受けていたアノーテは、護衛としても仙術指南役としても、非常に都合が良い人材だったのである。
 そしてパイラ王女もアノーテも、ヴォイドの首がかかっていたためにその要求を呑んだ。

「思い出してもらえたようだな。パイラは元気か?」

 アノーテは、ちょっと苦笑いをした。

「ええ。今は長男と次男に、楽しそうに仙術を教え込んでいます」

「そうか。スパルタな教え方になっていなければ良いのだが。パイラにもアノーテ殿にも苦労をかけていると思って心配していたが、思ったより平和そうで安心した」

 国王は心底ホッとしたようだ。力が抜けて肩が少し下がる。パイラの結婚相手だった評議員は、その後選挙を勝ち抜いて、今や元首となっている。次々に子どもが産まれ、さらに護衛役のアノーテがこちらに来ているということは、夫婦仲が良好という意味だろう。

「私は元々ナログ共和国の人間です。心配は無用ですよ。ところで、陛下はなぜこちらへ来られたのですか? まさか旧交を温めるというわけでもないでしょう?」

 一緒に育ったアノーテの兄弟たちは、今もナログ共和国に住んでいる。だからアノーテもナログ共和国を裏切れない。

「もちろん、旧交を温めたいという意味もあったんだがな。本題はこちらだ」

 国王は懐から、厳重に封印された親書を取り出した。豪華な装丁で、封蝋も細工物のように緻密で、さらに金箔が施された豪華なものだ。

「これをそちらの元首殿に届けてほしい」

 使節団の団長が恭しく膝をついて、両手で親書を受けとる。

「それで、これを渡す際にはどのようにお伝えすれば?」

「ああ、かねてから要求のあった国境戦力の削減について、条件付きで要求を呑もうと思う。両国の関係を一歩進めようではないか」

 アノーテや団長だけでなく、聞き耳を立てていた団員たちにも驚愕が広がっていく。

 今回の来訪の目的は、『死の森』に突如建設された砦に対する抗議だった。先日塩を生産するためだったという説明は受けたが、使節団の最終目標は国境の戦力を削減してログラム王国からの脅威を引き下げることであったため、そんな説明で鉾を納める気などなかったのだ。

「おそれながら、条件というのは?」

 急な展開に、団長は警戒を深めていく。

「国交の回復と貿易の回復だな。我が国には塩が足りない」

 団長は少し考え込む。内陸国であるログラム王国の内情は把握していたため、国王の発言におかしなところがないのはわかる。が、塩など我が国でなくとも輸入できるだろう。

「なるほど。確かにお伝えいたしましょう。ちなみに、どの程度の戦力を削減か教えていただいても?」

 団長は、内心改めて情報を収集することにし、話を続けた。

「それは、この大会を最後まで見ていればわかるだろう。期待をしておいてほしい」

 団長はその答えをしばらく吟味して、深読みをあきらめた。

「では、それも含めて我が長へ報告させていただきましょう」

 どうせどう転んでも、今回の交渉で団長の評価はあがる。大幅な譲歩を引き出したのだから。

 国王も、団長が軟化したことを悟って、ニヤリと笑った。

「そういえば、コンストラクタ家のイントも、何か手土産を用意しているようだな」

「イント? あいつが?」

 窓際で観戦していた子どもが、ピクリと反応した。国王の注意が、一瞬子どもに向く。

「あれはアノーテ殿の子か?」

 アノーテもちらりと子どもを見る。

「ええ。名前はショーン、今年で9歳になります」

 アノーテが答えると、国王の表情が沈んだ。年齢とヴォイドとよく似た顔つき。国王はアノーテとヴォイドの関係を確信した。

「そうか。本当に申し訳ないことだ」

「いえ。これは私の意思ですから。ヴォイドからは先日養育費もたっぷりもらいましたし」

 国王の耳が、ショーンの小さな舌打ちを拾う。アノーテにも聞こえたらしく、二人で苦笑いをかわす。

「でも、あの子はちょっとライバル視してしまうみたいですね。でも、昨日から訓練も真剣にするようになったんです。それだけでも、この国に来た甲斐はありました」

「それは良かった。まぁ長居するのも申し訳ないな。余は引き上げるが、両国の関係が改善したら、また一手手合わせしに来てほしい」

 そう言って、国王が立ち上がると、アノーテは勝気そうな顔を少し緩めて微笑んだ。団長と共に、出口へ見送りにいくために立ち上がる。

「ああそうだ。我が国に不足している塩だがな、輸入後いったん高騰してから暴落するそうだ。個人的な交易をするなら、コンストラクタ家に『水晶浜』の砂を売るといい。イントも喜ぶだろう」

 団長は頭を下げたまま、こっそり噴き出した。コンストラクタ家に砂を売れとは、何かの符丁だろうか? それとも、山の中にある国は、砂浜の砂でさえ珍しいのだろうか。

「ご助言、痛み入ります」

 だが、一国の国王の言葉を否定することなど、できはしない。アノーテは、もしも交渉がうまくまとまったら、本当に砂を運ぼうと決意した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...