転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

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第三章『王都』

72話 チンピラ壊滅

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「イントはどこに行ってもトラブルを起こしてるな。何だ、この面白そうな状況は」

 絶望しかけた僕の隣に、ひらり、と空から親父が降ってきた。

 呆れたように僕を見下ろす。

「いや、これには事情があって……」

 言い訳しながら、考える。親父は今どこから降りてきただろうか? 屋根の上?

 親方も呆然と親父を見上げている。

「その辺は後で聞こう。マイナは無事だな?」
「うん。あとはユニィも一緒だよ」
「あそこにいるチンピラどもは?」
「全員敵。さっきまで人質がいたけど、人質は救出済み」
「なるほど。ではとりあえず行ってくる。お前は休んでいろ」

 簡単な情報交換の後、親父が進み出る。

 助けが来たことにホッとして、僕は膝の力が抜けてしまった。

「何だぁ? てめぇ誰だ!」

 親父はすでにチンピラの中心に立っている。

 僕は舗装されていない路上にへたりこむ。こんな雰囲気にビビらない親父は、本当に大したものだと思う。

「俺はヴォイド・コンストラクタだ。言いたいことがあるなら聞こう」

 リーダー格は親父の胸倉を掴み、ガンをつける。

「んだぁ? 『闇討ち』しか能がね———」

 そのセリフ、流行っているんだろうか。リーダー格の男は全部言い終わるより先に、宙を舞っていた。

 グシャ、っという嫌な音を立てて、リーダー格の男が地面に叩きつけられる。

「てめぇ!」

 取り巻きのチンピラは次々と親父に剣を振り下ろすが、甲高い金属音と共に刃が弾き返される。

 鎧を着ているわけでもないのに、剣をはじき返すとか、理屈がまったくわからない。もう何でもありだ。

「『闇討ち』しか能がねぇ、何だって?」

 親父は怒気のこもった声で、リーダ格の髪を掴んで持ち上げた。

「ひぃぃぃぃっ! ば、化物!? お前ら、俺を助けろ!」

 リーダー格はみっともない悲鳴をあげている。

 部下たちは指示する前から、何度も刃を突き立てようとしているが、親父はかわすそぶりさえ見せない。

 やがて、チンピラたちの剣のうち、一本が折れたところで、チンピラたちの心も折れた。全員が剣を放り出して逃げ出す。

 父上が空いた手をブンと振ると、触れてもいないのに何人かが転倒した。

「どけっ!」

 リーダー格の男が邪魔になって難を逃れたチンピラたちは、親父から離れることには成功したが、今度は野次馬に行く手を阻まれる。チンピラたちは無理やり押しのけて逃げようとしたが、路地裏の強面たちは動こうとしない。

「ヤーマンさーん! こいつらどうします?」

 強面たち親方に声をかけてくる。親方は親指を下にして、何かジェスチャーを送った。

 それだけで、チンピラたちは強面の輪の中に引き込まれて消えて行った。

 もしかして、野次馬たちは元々味方だったのだろうか?

 だとしたら、もうちょっと早く助けてくれても良いんじゃないだろうか?

「で、『闇討ち』しか能がねぇ、何だって?」

 親父は髪の毛を掴んだまま、リーダー格の男を尋問している。

「すいませんでしたぁぁぁ! オレはそう教えられたんです! 間違いでした!」

 リーダー格がギュッと目を閉じて、みっともなくわめいている。

「そうか。じゃあ、お前にそう教えた奴のところに連れて行け」

 親父の怒気は相当なものだ。それを正面から受けているリーダー格の男に、ちょっとだけ同情した。

「おい、イント」

 唐突に、魔物のような気配を放つ親父が、僕に声をかけてくる。

「は、はい!」

「何でこんな雑魚に舐められていた?」

 不機嫌以外が全部塗りつぶされているレベルで、不機嫌な声だ。

「いや、そいつ、けっこう強くて……」

 必死に言い訳するが、親父は声とは裏腹に無表情で、片手で男を持ち上げたままこちらを見てくる。

「こいつが強い? そうか……。帰ったら、また訓練だな」

 怖い。

「……はい」

 不機嫌な時の親父の訓練は異常にキツい。あの八つ当たりのような訓練は嫌なので、帰るまでにどうにか機嫌を直しておいてほしい。

「ちょうどジェクティたちが追いついてきたな。お前はジェクティと一緒に宿に帰れ」

 父上が上を指さすので見上げると、義母さんとストリナが空中に立っていた。

 ストリナは義母さんと手を繋いでいて、たまにずり落ちるように沈み込んで、そのたびに軽くジャンプしてもとの位置に戻っている。

「おにいちゃ~ん!」

 ストリナは気配を消す様子もなく、こちらに手を振ってくる。

 仙術の『雲歩』は、習熟すると空中を蹴るだけでなく、歩くことができるようになるとは聞いていた。まるで仙人が雲の上を歩くように。

 多分、父上が空から降ってきたのも同じ理屈だろう。

 にしても、義母さんまで『雲歩』が使えるのは驚いた。義母さんが訓練しているところは何度も見たけど、『雲歩』を使っているところは見たことがない。義母さんは神術士なので、仙術ではなく神術の類かもしれないが。

「何だあれ!?」

 野次馬たちも上空の二人を見て騒ぎだしている。こちらの世界で、空を歩いている人など、うちの仙術士一門の人ぐらいしか見たことがない。

 人口が100万人を超える王都でも見かけないということは、本当に珍しいのだろう。そして、珍しいものは目立つのだ。

「イント君? 終わったの?」

 へたり込んでいる僕を見て、マイナ先生が顔を出す。顔だけ出して周辺を見回して、親父を見つけるとそのまま僕のところまで歩いてきた。

「あ、救援間に合ったんだ。あの笛、ここでも使えるんだね~」

「ありがとう。マイナ先生が合図を出してくれたおかげだよ。義母さんも来たから宿に帰れって」

 僕が上空を指さすと、マイナ先生も上を見上げる。

「良かった~」

 マイナ先生は義母さんたちが空を歩いていても、さほど驚いている様子はなかった。
 義母さんは重力加速度を無視した、ゆったりとした速度で降りてくる。物理法則とは? と一瞬考えたが、ドツボにはまりそうなのでやめておく。

「あなた、もう終わっているようだけど、この後どうするの?」

 義母さんは親父を見上げ、普通に話しかけた。不機嫌な親父が怖くないのだろうか?

「とりあえず、こいつら潰してくる。お前は子どもたちを連れて宿に戻れ」

 親父、物騒な後始末を考えていた。なんとなく無敵感あるので、親父なら実現させそうだ。

 義母さんは、不安そうな目をぎょろぎょろさせているリーダー格の男をチラリと一瞥して、ため息をついた。

「もう貴族なんだから法は守りなさいよね」

 義母さんが冷静でホッとする。来てくれてよかった。

「私はその辺ちゃんと調べたわよ。良い? 今回は相手の無力化が終わっているから、その場のでの無礼討ちにはできないわ。まずは衛兵の詰め所に行って、事情を説明。その上で貴族院へ宣言書の届け出を依頼。状況によって衛兵隊か騎士団が仲裁に出張ってくるから、それまでに終わらせる必要があるわ」

 ちょっと待て。何で合法的殴り込みの話をしているんだ。

「わかった。ちなみに詰め所に行かなくても、あいつらに言ったらなんとかなるか?」

 親父が指す方向には、手際よく襲撃犯を取り押さえていく衛兵たちの姿があった。
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