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第二章『王都招聘と婚約』

55話 勘違いと広がっていく秘密

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「「え? ええええええ!?」」

 アスキーさんの思いがけない発言に、クソ親父と僕が同時に立ち上がった。

 どっち?

 我が家に男は2人いるので、選択肢はクソ親父か僕の二択。僕は子どもだからと除外していたけど、言われてみれば父上より僕の方が年齢は近い。

 どっちと言われるということは、僕という選択肢もあるということか。

「いや、これは申し訳ありません。実はマイナから話を聞いた際、てっきりヴォイド様がお相手かと思っていたのですが、先ほどの説明を聞いた限りでは、イント様は相当に聡明であることがわかりました。年齢もイント様との方が近い。もしや私が勘違いをしていてはと思いまして。たいへん失礼しました」

 アスキーさんは慌てて謝罪しているけど、これはワンチャンあるかもしれない。

 一斉に視線がマイナ先生に集中した。

「マ、マイナ殿、どっちなんだ?」

 クソ親父の声が震える。自分ではない可能性に思い至ったのだろう。方向性は違うが、僕も心情的には似たようなものだ。

「え? え?」

 マイナ先生が混乱して、視線をフラフラ、口をパクパクさせている。

「ち、父が変な事を言ってすいません。も、もちろん、イント君に決まってるじゃないですか」

 マイナ先生が答えを絞り出す。それを聞いて、親父が盛大にその場に崩れ落ちた。

 義母さんは笑いを堪えきれず、お腹を押さえて痙攣している。ストリナは怪訝な顔だ。僕は———

「よっしゃぁっ!」

 思いっきり、ガッツポーズを決めて跳び上がった。

「え?」

 うちの家族のその反応に、マイナ先生が怪訝そうにし、しばらく考えてから、急に耳まで真っ赤になった。

「ま、まさか、みんな、私とヴォイド様が婚約するかどうかの話をしていた、と? イント君も? な、何でそんなことに?」

 マイナ先生に軽く睨まれる。そんなかわいい顔をしてもご褒美にしかならない。

「マイナ、こういう重要な話はきちんとお話しないとダメですわ。誤解したまま話が進むところですわよ」

 ターナさんがやんわり諭しているが、その表情は微妙に笑っている。

「いや、しかし、イントはまだ子どもだ。何でそんなことに。いや、イントのどこがいいんだ!」

 親父はがばりと起き上がると、マイナ先生の肩をつかんだ。往生際が悪い。

 というか、その言い草は何だ。

「どこ? ええと、わたしより知識が豊富だから? それに顔だって好みだし……」

 親父の雰囲気に圧されて、マイナ先生の仮面が外れる。

 知識に関しては先生なんだからもう少し取り繕ってほしいし、顔、顔ってなんだ。そういえば家に鏡がないから、産まれてこの方自分の顔なんてちゃんと見たことがない。両親が美形だから、もしかしたら僕もそうなんだろうか?

「いろいろ教えてもらうためには一緒に暮らさないといけないし、一緒に暮らすためには婚約しないといけないし、幸いイント君に婚約者はいないらしいし、貴族だし、将来有望だし、ほっといたら誰かに取られちゃう」

 一度仮面が外れると、止まらない。思っていたより打算的というかなんというか、一言で言ったら『ぽんこつ』といったところだろうか。ちょっとショックだ。

 義母さんなんか、机に突っ伏してクックックと痙攣している。ホントは爆笑したいんだろう。

「それに転生前は17歳だったって言ってたから、精神年齢はそんなに違わないからきっと大丈夫ですよっ。そもそも7歳差の夫婦なんてけっこういますっ」

 あっ。

「「「転生?」」」

 ああ、いらん事を。不用意なマイナ先生の言葉に、その場にいた全員が反応した。ひゅっとマイナが息を飲む。喋ってから気付いてももう遅い。

「どういう意味だ?」

 低い声で、親父が聞いてくる。義母さんも笑うのをやめて、顔を上げた。

 失言一つで、場の空気がガラッと変わってしまう。

「あ、えーと……」

 マイナ先生が不安そうに、何か言おうとして、言えなくなるのを繰り返している。顔が青くなっていく。

「転生というと、輪廻転生の転生のことかい? いくつか記録を見たことがあるけど、イント様もそうだと?」

 アスキーさんはすでに前例を知っているようだ。前例が存在することに少しだけホッとする。

「それと同じかはわかりませんが、確かに前世の記憶はあります」

 ちらりと親父と義母さんを見るが、あんまり驚いている様子はなかった。実はバレていたとか?

「それは産まれた時からかい?」

 アスキーさんは興味津々だ。

「いえ。聖霊と契約してからです」

 ガタッと、アスキーさんが身じろぎする。目の色が獲物を狙うような野性的なものに切り替わる。

「そうなのかい? 契約相手は相当高位の聖霊なんだね?」

 一瞬、アスキーさんはマイナ先生に視線を向けると、マイナ先生は青白い顔をそらせて、あさっての方向を見た。

「コンストラクタ卿、ここからはイント様の秘密に踏み込む事になりましょう。よろしいですかな?」

 アスキーさんが親父の方に向き直る。まずは当主に許可をもらおうということだろう。

「ああ、天使級の聖霊の話以外にも、どうも僕らも聞いていない話がありそうだ」

 あの聖霊が『叡智の天使』と名乗ったことは、親父も義母さんも知っている。秘密にしているのは、その色が黒い事と、不思議な教科書をくれたことだけだ。

「天使級ですか。それは興味深い。ご存知ないかもしれませんが、私の専門分野は聖霊で、おそらく聖霊について私以上に詳しい者はいないという自負があります」

 アスキーさんが、親父に自分を売り込んでいる。

「え、ええ。お願いします」

 親父は気圧されて、ちょっと引いていた。

「これから親戚になろうという関係で、我々は一蓮托生でしょう。秘密は守ります。この場にいない者には誰にも喋りません」

 これはもう、転生者でも認められたということで良いのだろうか?

 一応、色の事はマイナ先生と僕だけの秘密だ。それを知られたら何が危ないかも聞いている。教科書の件はもう仕方がないから話すしかないだろう。

「ありがとうございます。さて、では改めて、どういう経過で契約したか聞かせてくれるかな?」

 もう話はまとまってしまったのだ。当主がうんと言った以上、僕がそれに逆らうことはできない————
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