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第二章『王都招聘と婚約』
53話 稼ぎと浪費
しおりを挟む「金貨3枚と銀貨709枚? 何をどうやったらそんな金額になるんだ?」
翌朝、冒険者ギルドの職員が、僕らが泊まっている宿まで報酬を運んできた。魔狼の死体を買い取ってもらったのと、ストリナの指名依頼報酬、熱中症の治療報酬を合計したものらしい。
使い勝手を考慮して、7割ぐらいは銀貨にしてもらった。
「こちら、内訳となっております。熱中症を発病したり負傷したりしていた冒険者が多く、街周辺の魔物討伐が滞っていましたが、今後は改善しそうです。商人から塩漬け肉も仕入れる事ができましたので、コンストラクタ家には感謝しかありません」
クソ親父は空中に視線を泳がせて、少し遠巻きに様子を見ていた僕らを睨んだ。
昨日のお祭り騒ぎはストリナが霊力を枯渇させて、眠ってしまった時点でお開きになった。クソ親父は僕らが寝た後にこの宿に帰ってきて、さっき叩き起こしてからの今なので、まったく説明できていない。
それは自業自得で、僕らは悪くないはずだ。僕が軽く頷くと、クソ親父は諦めたらしい。
「わかった。こっちでも確認しておく」
クソ親父が報酬を受けとると、冒険者ギルドの偉い人は、何度も頭を下げて帰って行った。
「おい。これは何の冗談だ? 治癒系神術行使回数120回って、うちの村で治癒系神術を使える奴、治療院の二人だけで、今はいないだろう?」
来客がいなくなるなり、クソ親父は噛み付くように義母さんを見てくる。
「いえ。ストリナも使えますよ?」
義母さんはしれっと答える。
「いや、だって120回だぞ? え? 本当に?」
一回銀貨5枚と考えれば、ストリナ一人で稼いだ金額は銀貨600枚。金貨に換算すると 6枚だ。
昨日、僕は単独では銀貨2枚しか稼げなかったので、300倍差をつけられたことになる。
「ええ。私たちの娘ですもの。驚くような事じゃないでしょ?」
母さんが誇らしげに胸を張る。
「でも、ちょっとやりすぎたみたい。霊力の枯渇を起こしてまだ寝てるわ」
「そ、そうか。やりすぎたなら、後で叱らないとな」
そんな事を言いながら、クソ親父がストリナを叱る事はほとんどない。今も口調だけは厳しそうだが、顔はニヤけかけている。典型的な親バカだ。
(ほら、今のうちに謝っちゃいなよ)
クソ親父の視線がはずれた隙に、義母さんがまた口パクで指示を出してくる。
でも、僕は間違った事はしていないので、謝る気はない。見なかったフリでそっぽを向く。
ちょうど、この客室の前に人の気配がして、扉がノックされる。
「どうぞ」
答えると、扉が開いて宿屋の主人が入ってきた。
「コンストラクタ男爵閣下、治療院の院長様がお見えです。面会を希望されていますが」
クソ親父は、ジロリ、とこちらを見る。厄介事が起きたらすぐ僕を見るの、やめてもらえないだろうか? 僕は目をそらす。
「何をした?」
確定扱いで申し開きの余地もなしか。正解だけど。
「昨日の夕方、治療院の副院長が来たので、義母さんと僕で対応しました。内容はこの街の治療院に石鹸や消毒液などの製法の提供、及び塩の適正価格での販売の依頼でした」
「ふむ。それで対価は?」
クソ親父は偉そうに顎をさする。
「民のため、だそうです」
目がスッと細くなった。イケメン顔が、急激に凄惨なものに見えてくる。
「つまり舐められた、と?」
メンツを重んじるクソ親父らしい反応だ。
「はい。あとはオバラ先生を軽んじる発言もありましたので、王都の治療院と話をすると申し出を突っぱねました」
「まぁ妥当だな。だがお前の事だから、それだけではないんだろう?」
何だろう? そんなに信頼があるなら、昨日あんなに怒らなくても良かったような?
「オブラートに包まれていましたが、自分たちの方が専門家だから、利権を寄越せという申し出と判断しましたので、血の腸詰めを民に広めていないことを指摘し、専門性を否定してから煙に巻きました。おそらく先方から良くは思われていませんね」
「ああ、あの料理か。それはちと酷だがまぁいい。2人とも、もうこの街の治療院と交渉する気はないな?」
僕と義母さんはそろってうなずく。
「わかった。お前たちはここにいろ」
そう言って、クソ親父は1人で部屋を出て行った。
10分後、下の階で大きな悲鳴が上がった。交渉相手は、宿から転げるように逃げていく。
その後、交渉が行われていた部屋に行ってみると、大きなテーブルが両断されていた。だが、それができそうな武器は持っていない。
「はっはっは。また舐めた事を言って来たので、素手でテーブルを両断してみせたら、尻尾を巻いて逃げていったぞ?」
クソ親父はまだ酒臭い息を吐きながら笑う。ちょっと何言っているのかわからない。
僕と義母さんは、宿屋の主人に頭を下げて、壊したテーブルの費用として金貨を2枚支払った。僕らが稼いだお金を、無駄に浪費するのはやめて欲しいのだが。
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