47 / 190
第二章『王都招聘と婚約』
47話 嫉妬の萌芽
しおりを挟むどうやら、僕の足はかなり速いらしい。
家族やパッケ、アブスさんに勝てず、村の中では多分6番手ぐらいだが、8歳の子どもとしては大したものだと思う。
最近は走ってる最中でもちゃんと索敵できて、周囲の景色を楽しんだり、会話できる余裕もできてきた。
「マイナ、考え直さないか。君の能力をもっと活かせる場所は、他にもたくさんあると思うんだ。今聞いた成果だけでも充分じゃないか。本家に戻って来なさい」
僕らは馬車7台を連ねて、シーゲンの街に向かって移動中だ。小判鮫のようについてきた商人たちを合わせると、その3倍ほどの集団になっている。
「あの村にいると、インスピレーションが湧くんです。もう決めました」
護衛も商人たちが連れている冒険者たちがいて、僕は手が空いている。だから、隣で馬に走らせているマイナ先生と、さらにその隣に馬を寄せてきたナーグ監査官の会話を黙って聞いていた。
昨日、実験中に喋りすぎたが、マイナ先生にはそれがウケたらしく、村を出発してからずっと続きを話していた。そこに割り込んできたのがナーグ監査官だ。
マイナ先生は、今後コンストラクタ村に滞在するつもりで、ナーグ監査官はそれに反対しているらしい。監査官たちからは村で起きた諸々の変化は、元を辿ればマイナ先生たちに行き着く、と解釈されている。
マイナ先生は賢人ギルドの俊英で、コンストラクタ村を立て直した立役者という事になるのだろう。フォートラン家にとって、マイナ先生が将来必要な人材となるのは目に見えている。
だけど、僕としてはマイナ先生にこちらの世界についていろいろ教えてもらいたい。余計な事は言わないで欲しいところだ。
「もっと将来の事も見据えないとダメだ。本家には侯爵家から伯爵家まで、山のように婚姻の申し出が来ているんだよ。それに難があるなら僕でも良い。そのままでは婚期が遅れてしまう。冷静になるんだ」
『僕でも良い』というのはどういう意味だろう? 話が結婚にそれた事から考えて、ナーグ監査官とマイナ先生が結婚するという事だろうか?
フォートラン家の話なので僕が口を挟むことではないし、もともと『貴族』の仕組みはよくわからない。だけど、なぜかモヤモヤする。
「結婚の事なら、本家のお世話になるつもりはありません」
ピシャリとマイナ先生が拒絶する。みるみる渋面になるナーグ監査官に、僕は少し溜飲を下げる。
「父上の手前、そうも行かないんだ。ところで、あの村、宿屋はなかったが、どこに滞在するつもりだい?」
ナーグ監査官は、渋い顔をしたまま、言葉を重ねた。
「あたしはイント君の家庭教師です。領主の館に住めるよう、ヴォイド様にお願いするつもりです」
おお。それは良い。一緒に住めばいちいち通う面倒もないだろう。
「待て待て。独身女性が一人で他の貴族の館に滞在することがどういう事を意味するか、まさか知らぬわけでもないだろう? 婚姻に差し支えるし、何より父上が許さない。コンストラクタ男爵にもプラスにはならないよ」
ナーグ監査官の言葉の意味を考えてみる。ふと、父上がマイナ先生を第二夫人にすると冗談を言っていた事を思い出した。
あの後、気になって貴族制度について調べたのだが、男爵以上の世襲貴族は一夫多妻、または一妻多夫が認められている。男爵なら2人、子爵なら3人と位階が上がるにつれ配偶者の上限が増えていき、最上位の公爵や王族で6人、王太子で7人、国王で9人まで増やせる。
父上は男爵で、妻は義母さんだけ。制度上はマイナ先生を第二夫人にできるのだ。
「それなら、あたしが正式にコンストラクタ家に入れば良いのでしょ? イント君、あたしが家族になるのは嫌?」
唐突に、マイナ先生が小首を傾げながら聞いてくる。
あのロリコン親父、いつの間にマイナ先生をここまで口説いていたんだろう?
そりゃ、マイナ先生とずっと一緒にいられるなら嬉しい。だが、義母さんが増えるのは何か違う。
「嫌じゃない、けど……」
目の前が真っ暗になる。マイナ先生が父上と結婚。
僕は二人の新婚生活を眺めながら、生活する事になる。
「決まりね。ちょっとヴォイド様にお願いに行ってくる」
マイナ先生は、父上がいる方へ馬首をひるがえした。
空席になっている妻の席は、義母さんの双子の姉である僕の実母が座っていた席だ。そこにマイナ先生が座るというなら、義母さんとマイナ先生は修羅場になるに違いない。
そのままご破算になってほしいという気持ちと、そうなったらマイナ先生はもう村に来ないんじゃないかという予想が、僕の中でせめぎあう。
ちらりとナーグ監査官をうかがうと、マイナ先生の後ろ姿を渋面のまま見送っていた。
0
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる