転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

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第一章『死の谷』

21話 読み書き計算の重要性

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 この炎天下の中、村から辿り着いた村人は、男女混合で総勢30人もいた。全村民の1割にあたる人数で、すでに参加している狩人さんたちを含めれば、全村人の2割以上が『死の谷』まで来ている計算になる。

 その村人たちの中にも、何人か軽い熱中症の症状が出始めていた人がいたので、薄い塩水を飲ませて涼しいテントの中で休んでもらった。シーピュさんと同じなら、これで回復するだろう。

 他の元気な村人たちは、塩を振った翼竜の肉の串焼きをものすごい勢いで平げている。料理番だけでは手が回らなさそうな勢いだったので、新たに来た人の中から数人に串焼き担当に回ってもらったほどだ。
 
 串焼きは、翼竜、骨喰牛、名前を知らない赤い鳥の肉が人気で、その他の肉や血の腸詰は不人気だ。肉は各種食べきれないほどの量があって、塩漬け待ち、干し肉待ちが山積みになっている。血抜きで抜いた血も余っているが、こちらはトラップに魔物を誘き寄せる餌としても使われるそうなので、食べきれなくても無駄にはならない。

「それで、アブスさんは何してるの?」

 自分も串焼きを食べながら、ぐるっと昼食の手配をしてまわると、ご飯を食べ終えたアブスさんが運んできた荷物の中から何かを取り出しているところだった。

「ん? ああ、これから魔物除けの柵の縄張りですぜ。温泉の天幕周りから始めますが、坊ちゃん手伝ってくれるんで?」

 アブスさんは荷物から取り出した細めの縄の束を肩からかけて、杭を入れたカゴを背負い、両手に重そうなハンマーを手に取った。

「縄張りって何?」

 縄張りと言えば、なんか支配領域みたいなイメージだけど、口ぶりから考えて多分違うのだろう。

「坊ちゃんにも知らないことがあって安心しやしたぜ。縄張りってのは家とか柵とかを作る前に、縄を張って位置を決めるやり方ですぜ。まっすぐだと見栄えがいいんでさ」

 なるほど。設計図を作らず即興で作る場合、縄があったほうが便利だろう。

 ちょうど村人たちに仕事を奪われて暇になったところだ。
 
「わかった。じゃあ手伝うよ」

「おっ? そりゃありがてえ。『死の谷』に入れる腕前のある奴の中に、数が数えれる奴がいねぇもんで」

 うーん。数が数えられる人がいないというのはどういうことだろうか?

 館で字が書けるようになった子たちの反応を見る限り、字を書けない人も多そうだ。

 読み書きできず、数も数えられないって事は、お金のやりくりとかどうしているんだろうか?

 なんとなくヤバい気がしてきたので、領民のためにもやっぱり学校とか作ったほうが良い気がする。いくら田舎でも、限度というものがあるだろう。

「僕は何したらいい?」

 ともあれ、まずは貧乏を脱出するところからだ。

「じゃあ、そこの棍と弓を持ってついて来てくだせぇ。魔物が襲って来た時の対応と、縄の距離を測って覚えてもらいてぇです」

「距離? どうやって測るの?」

 アブスさんはメジャーを持っていない。縄にも目盛りはないように見える。

「距離っていやぁ歩数でしょう? ああ、坊ちゃんはまだ子どもだから一歩が小さいのか。じゃあ縄をはった後、一緒に歩きますんで、歩数数えてくだせぇ」

 そういう事を言ったわけではないんだけど、なるほど歩数か。図面もないぐらいの建物なので、そんな精密でなくても良いのかも知れない。歩数で充分なのだろう。

「は~い」

 持ち上げた棍は、父上の訓練用の総金属製のものよりは軽かったが、両端が金属で包まれていて自在に振り回せるほど軽くない。

「うわっ。重い」

「ん? そりゃ身体強化使わなきゃ重いでしょ」

 身体強化? ちょっと何を言ってるかわからない。

「剣か槍じゃダメなの?」

「あ~。この辺もう肉付きは近づかないから、刃物はちょっと。昼に来るとしたら鎧竜のスケルトンぐらいですぜ?」

 鎧竜。語感からイメージするに、硬いのだろう。そう言えば、稜線から『死の谷』を見下ろした時、白い骨で出来たような魔物が這い回っているのが見えた。
 スケルトンの天敵である骨喰牛もたくさん生息している中で生き残っていると言う事は、相当手ごわそうだ。

「あいつら、昼間はそんなに機敏に動きませんから、来たらその棍で骨を叩き割ってやってくだせぇ」

 『昼間はそんなに機敏に動かない』という言い方をするって事は、夜は機敏なんだろうか。僕、昨日の晩、武器も持たずに温泉まで行っちゃったけど、あれは危なかったのか。
 まぁ、襲われてないし、眼福なマイナ先生の湯着姿を見れたので、後悔はないけど。

 昨日の晩の姿を思い出しながら、何度か弓を引いてみてから背負い、棍をしっかりと握る。

「わかった。他の人は何してるの?」

「今は4班に別れてますぜ。木を伐る班と塩作りの班と村に塩と肉を輸送する班、あとはここの防衛班でやす」

 なるほど。現地調達の材料が揃う前に柵の位置を指定しておくわけか。塩の輸送も思ってたより早い。皮や肉の加工に必要だと言ってたし、それだけ塩が不足しているってことなのだろう。

「そっか。人は足りてるのかな?」

 かなりの大所帯になってきているが、塩作りは元々の予定にないはずだ。しかも村とこちらを毎日往復しているメンバーまでいるのも気にかかる。こちらの人手はもちろん、村の人手も少なくなっているという事だ。

「問題ねぇです。塩と柵作りは竈さえできれば同時進行できますんで」

 アブスさんがそう言うなら、間違いはなさそうだ。

「なら良いんだけど」

 持っているうちに棍の重さにも慣れてきた。槍より重いが、両手で持てば何とか振れそうな気がする。一応、訓練で棍を扱った事はあるが、僕は槍と剣と弓を中心に練習してきたので、専門外だ。

 とりあえず、剣のように振ってみたり、槍のように突いてみたり、殴ってみたりをその場で繰り返す。うん、何とかなりそう。

「ちゃんと扱えてますな。じゃあ行きますか」

 アブスさんの太鼓判にホッとしつつ、釜場の近くで座っているマイナ先生に視線を送る。マイナ先生もこちらを見ていて、ガッツポーズのジェスチャーを送ってくれたので、手を振り返す。

 そうしている間にも、アブスさんは稜線に向けて歩き出している。僕は慌ててその後を追った。
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