転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa

文字の大きさ
上 下
21 / 190
第一章『死の谷』

21話 読み書き計算の重要性

しおりを挟む
 この炎天下の中、村から辿り着いた村人は、男女混合で総勢30人もいた。全村民の1割にあたる人数で、すでに参加している狩人さんたちを含めれば、全村人の2割以上が『死の谷』まで来ている計算になる。

 その村人たちの中にも、何人か軽い熱中症の症状が出始めていた人がいたので、薄い塩水を飲ませて涼しいテントの中で休んでもらった。シーピュさんと同じなら、これで回復するだろう。

 他の元気な村人たちは、塩を振った翼竜の肉の串焼きをものすごい勢いで平げている。料理番だけでは手が回らなさそうな勢いだったので、新たに来た人の中から数人に串焼き担当に回ってもらったほどだ。
 
 串焼きは、翼竜、骨喰牛、名前を知らない赤い鳥の肉が人気で、その他の肉や血の腸詰は不人気だ。肉は各種食べきれないほどの量があって、塩漬け待ち、干し肉待ちが山積みになっている。血抜きで抜いた血も余っているが、こちらはトラップに魔物を誘き寄せる餌としても使われるそうなので、食べきれなくても無駄にはならない。

「それで、アブスさんは何してるの?」

 自分も串焼きを食べながら、ぐるっと昼食の手配をしてまわると、ご飯を食べ終えたアブスさんが運んできた荷物の中から何かを取り出しているところだった。

「ん? ああ、これから魔物除けの柵の縄張りですぜ。温泉の天幕周りから始めますが、坊ちゃん手伝ってくれるんで?」

 アブスさんは荷物から取り出した細めの縄の束を肩からかけて、杭を入れたカゴを背負い、両手に重そうなハンマーを手に取った。

「縄張りって何?」

 縄張りと言えば、なんか支配領域みたいなイメージだけど、口ぶりから考えて多分違うのだろう。

「坊ちゃんにも知らないことがあって安心しやしたぜ。縄張りってのは家とか柵とかを作る前に、縄を張って位置を決めるやり方ですぜ。まっすぐだと見栄えがいいんでさ」

 なるほど。設計図を作らず即興で作る場合、縄があったほうが便利だろう。

 ちょうど村人たちに仕事を奪われて暇になったところだ。
 
「わかった。じゃあ手伝うよ」

「おっ? そりゃありがてえ。『死の谷』に入れる腕前のある奴の中に、数が数えれる奴がいねぇもんで」

 うーん。数が数えられる人がいないというのはどういうことだろうか?

 館で字が書けるようになった子たちの反応を見る限り、字を書けない人も多そうだ。

 読み書きできず、数も数えられないって事は、お金のやりくりとかどうしているんだろうか?

 なんとなくヤバい気がしてきたので、領民のためにもやっぱり学校とか作ったほうが良い気がする。いくら田舎でも、限度というものがあるだろう。

「僕は何したらいい?」

 ともあれ、まずは貧乏を脱出するところからだ。

「じゃあ、そこの棍と弓を持ってついて来てくだせぇ。魔物が襲って来た時の対応と、縄の距離を測って覚えてもらいてぇです」

「距離? どうやって測るの?」

 アブスさんはメジャーを持っていない。縄にも目盛りはないように見える。

「距離っていやぁ歩数でしょう? ああ、坊ちゃんはまだ子どもだから一歩が小さいのか。じゃあ縄をはった後、一緒に歩きますんで、歩数数えてくだせぇ」

 そういう事を言ったわけではないんだけど、なるほど歩数か。図面もないぐらいの建物なので、そんな精密でなくても良いのかも知れない。歩数で充分なのだろう。

「は~い」

 持ち上げた棍は、父上の訓練用の総金属製のものよりは軽かったが、両端が金属で包まれていて自在に振り回せるほど軽くない。

「うわっ。重い」

「ん? そりゃ身体強化使わなきゃ重いでしょ」

 身体強化? ちょっと何を言ってるかわからない。

「剣か槍じゃダメなの?」

「あ~。この辺もう肉付きは近づかないから、刃物はちょっと。昼に来るとしたら鎧竜のスケルトンぐらいですぜ?」

 鎧竜。語感からイメージするに、硬いのだろう。そう言えば、稜線から『死の谷』を見下ろした時、白い骨で出来たような魔物が這い回っているのが見えた。
 スケルトンの天敵である骨喰牛もたくさん生息している中で生き残っていると言う事は、相当手ごわそうだ。

「あいつら、昼間はそんなに機敏に動きませんから、来たらその棍で骨を叩き割ってやってくだせぇ」

 『昼間はそんなに機敏に動かない』という言い方をするって事は、夜は機敏なんだろうか。僕、昨日の晩、武器も持たずに温泉まで行っちゃったけど、あれは危なかったのか。
 まぁ、襲われてないし、眼福なマイナ先生の湯着姿を見れたので、後悔はないけど。

 昨日の晩の姿を思い出しながら、何度か弓を引いてみてから背負い、棍をしっかりと握る。

「わかった。他の人は何してるの?」

「今は4班に別れてますぜ。木を伐る班と塩作りの班と村に塩と肉を輸送する班、あとはここの防衛班でやす」

 なるほど。現地調達の材料が揃う前に柵の位置を指定しておくわけか。塩の輸送も思ってたより早い。皮や肉の加工に必要だと言ってたし、それだけ塩が不足しているってことなのだろう。

「そっか。人は足りてるのかな?」

 かなりの大所帯になってきているが、塩作りは元々の予定にないはずだ。しかも村とこちらを毎日往復しているメンバーまでいるのも気にかかる。こちらの人手はもちろん、村の人手も少なくなっているという事だ。

「問題ねぇです。塩と柵作りは竈さえできれば同時進行できますんで」

 アブスさんがそう言うなら、間違いはなさそうだ。

「なら良いんだけど」

 持っているうちに棍の重さにも慣れてきた。槍より重いが、両手で持てば何とか振れそうな気がする。一応、訓練で棍を扱った事はあるが、僕は槍と剣と弓を中心に練習してきたので、専門外だ。

 とりあえず、剣のように振ってみたり、槍のように突いてみたり、殴ってみたりをその場で繰り返す。うん、何とかなりそう。

「ちゃんと扱えてますな。じゃあ行きますか」

 アブスさんの太鼓判にホッとしつつ、釜場の近くで座っているマイナ先生に視線を送る。マイナ先生もこちらを見ていて、ガッツポーズのジェスチャーを送ってくれたので、手を振り返す。

 そうしている間にも、アブスさんは稜線に向けて歩き出している。僕は慌ててその後を追った。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...