転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

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第一章『死の谷』

7話 進学に向けて

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「ちょっと! どういうつもり? 何でペラペラ喋ろうとしてんの!?」

 マイナさんの剣幕がちょっとおかしい。論点もちょっと思ってたのと違う気がする。ポカンとしていると、両肩を掴まれた。

「聞いてる? 誰かが自分が考えた! なんて先に言いだしたら、中途半端で不正確な知識が広まるんだからね!」

 あっれぇ?僕はマイナさんが僕とキスしたって噂を嫌がるかなと思ったのに、怒るポイントが予想の斜め上だ。

「えーと。となると、僕とキスした事になっちゃうけど……」

 そもそも、前世では心肺蘇生法は広く知られた、それこそ教科書に載ってるレベルの知識だ。知られたからってさほど痛手にはならない。意識のないマイナさんにキスしたと思われる方がよっぽど傷は深いだろう。

「子どもとはキスしてもノーカンだから、それはいいのっ!」

 怒った顔でちょっと頬を染めるマイナさんがカワイイ。マイナさんが良いなら、僕はもちろん良いんだけども。

「わ、わかったよ。ペラペラしゃべらないようにする! だ、だから肩! 肩離して! 痛い!」

 マイナさんの握力は思ったより強いらしく、いつの間にか指が両肩に食い込んできていて、思わず悲鳴をあげてしまった。

「あら、坊ちゃま? お帰りなさい。どうなさったんで?」

 騒がしくしすぎたせいか、中庭の奥の扉から、メイドのアンが顔を出す。マイナさんはその気配を感じた瞬間、パッと僕から離れて元の大人しそうな表情に戻った。
 変わり身が早くてびっくりさせられる。

「あー、何でもないよ。こちら父上のお客人だよ。今日はここに泊まるから」

 いつの間にか追いついて来ていたターナさんが膝を少しだけ折って、アンに優雅に挨拶した。

「シーゲンの街の賢人ギルドに所属しているターナと申します。シーゲン子爵のご紹介で参りましたの。こちらは同じく賢人ギルドに所属している、娘のマイナです。しばらくよろしくお願いいたしますわ」

 マイナさんも並んで優雅に挨拶している。村人はやらない貴族っぽい挨拶だ。ズボンでやってるけど、カーテシーって言うんだっけ?

「これはご丁寧に。私はメイド長のアンです。ターナ様がたのことは、あるじからお聞きしています。今は非常時で村人も避難してきていますので、少し騒々しいかもしれませんが、どうぞ」

 アンに案内されて館に入ると、そこにも20人ほどの村人がいた。ここにいるのは、生まれつき障がいがある人や、魔物によって身体の一部を失った人たちだ。アンに読み書きを教わっていたのだろう。玄関ホールに館中から余っている古ぼけた椅子や机を持ち寄って座り、ノート大の石板に熱心に何か文字を書いている。

「お邪魔しますわ。あら、読み書きですの? 領主邸で領民に教えているのは珍しいですわね」

 気になって石板を覗き込んだが、見慣れた文字が並んでいた。ただ、見慣れているだけで、僕はこちらの世界の文字がまだ読めないらしい。8歳にもなって文字が読めないなんて、元進学校の受験生としてはあり得ないのではないだろうか?

「ええ。あるじの指示なんです。こういう機会に、少しでも文字が読める領民を増やせたらな、と。あまり人気はないんですけど……」

 アンは苦笑いしている。そういえば、僕も1年前ぐらいに書取りさせられたので、見慣れていたのはそのせいだろう。どうやら、字の形が分かっても読むことができていないのは村人たちも同じようで、単語を何度も書いて丸暗記しようとしているらしい。

「よろしければ、ヴォイド様が戻られるまで、私たちが手ほどきしますわ。私たちは賢人ギルドですから」

 聞き耳を立てていた生徒たちの、期待に満ちた視線がアンに集中する。
 
 賢人ギルドは、知識で生活している人たちが集まる組合のようなものだ。この村では見たことがないけど、いろんな研究をしている人が所属していて、有力者の家庭教師などしながら生活費と研究費を稼いでいるらしい。

 みんなも、そんな相手に習うことができれば、レベルアップも早いと考えているのだろう。

「申し訳ありません。報酬が支払えませんので、お断りします。うちはそれほど裕福な家ではありませんの」

 アンが申し訳なさそうに断ろうとして、領民の間に失望の空気が広がる。

「その点はお互い様ですわ。イント様にはマイナの命を救っていただきましたけれど、そのお礼をお支払いできるだけの持ち合わせがありませんもの」

 生徒たちが嬉しそうにざわめく。ガッツポーズをしている村人がそこかしこに見えた。

 僕もその授業はものすごく気になる。転生してだいぶ若返ってしまったので、まだまだ先かもしれないが、将来大学に行こうと思ったら、そもそも文字ぐらいちゃんと読めないとマズイ。

「坊っちゃま、どうなさいますか?」

 アンが困った顔で判断を求めてくる。ちょっと不安だけど、一応マイナさんを助けたのは僕だし、ここの領主の嫡男なので、決める権利は僕にあるということだろう。

「お願いしよう。こんなチャンスは滅多にないわけだし」

 父上には後で僕から説明すれば良い。僕自身、文字が満足に読めないことに我慢ができない。将来の受験のことを考えると、一刻も早く文字を読めるようになりたいところだ。

「わかりましたわ。ではアン様。今までどのようなことを教えてこられたか、少しだけ教えていただけますか?」
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