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36 インタビュー①
しおりを挟む『帝国政府アルヴァン・ハーヴァン代表、少しお話をよろしいでしょうか』
『あまり多くは語れませんが』
『魔王国は帝国政府と関連性があるのでしょうか。やはり摂政である代表の立場を考えると……』
『私はあくまで魔王様を個人的にお慕いしているだけで帝国政府との関連はありませんよ。とはいえ、無関係と言うわけにはいきません。帝国政府として無視することはできないでしょうね』
アルヴァンは厳しい表情を浮かべる。報道で見るこの子はいつも厳格な顔立ちで真面目に振る舞っている。
一番始めにインタビューするだけあって視聴者が求めている情報を的確にアルヴァンは話していく。
魔王国の一員としつつ、帝国政府は非常に好意的に魔王国を見ていることを述べていた。
ん、テトラが別のモニターをこちらに向けている。
「魔王国向けのホームページを作った。今のインタビューを見た人が掲示板に書き込んでいるよ」
視聴者参加向けの企画みたいなものだろうか。導力ネットは帝国中の大都市で流行っているからな。
今のアルヴァンの話を聞いて視聴者がどんどん書き込んでいる。
「あ、ちなみに書き込んだ人は魔導ネットを通じて個人特定できるから不用意なこと書かないでね。要注意人物のあぶり出しもかねているし」
「勘の良い活動家などは帝国の裏部隊によって監視する方向にしている」
「最悪の場合はメリシュが脳操作で記憶を改ざんするわ」
天才の子供達が悪の道に突き進んでいる件。もはや、魔王国の悪評を帝国で広めることはほぼ不可能ということか。
”アルヴァン様……ステキ”
”魔王国はやっぱり正義の集団なんだな”
”魔王国に頼りきりとは帝国政府は情けないな”
”【鋼魂摂政】も魔王国の一員とは本当に何なんだろうな”
”アルヴァン様ってどうしてこんなに愛しく感じるの!”
”アルヴァン様ってかっこよすぎ! ああ……素敵だわぁ”
半分は魔王国へのこと。半分はアルヴァン自身への賞賛だった。アルヴァンは元々【しつけ】スキルにより容姿の成長率がSSだった。
当然絶世の美青年という扱いだし、世界で一番イケメンな政治家という評価もある。
特に女性からの支持が凄く、アルヴァンのインタビュー本など出たら飛ぶ勢いで売れてしまうという。
クールで時々見せる若い皇帝陛下への優しい言葉が人気の秘訣らしい。でも実際は重度のマザコンであることを俺達しか知らない。
『あれは……魔王様です! 魔王国の魔王エストランデ様が出てきました』
真打ちが急に来てしまったか。あの後が俺だったんだよななぁ。
「私、何言ったっけ? 緊張してて全然覚えてないのよぉぉ」
マリヴェラが呪詛のように同じ言葉を吐く。まったく記憶にないんだろうな……。
しかし黒髪赤眼と口元を隠すマスクと大きく空いた胸元からラインが見え見えの魔王スーツ。改めて見るとすごい衣装だ。それを着こなすマリヴェラがすごいというわけだな。
『魔王様。話を聞かせて頂けないでしょうか』
『ええ、構いませんよ』
『魔王国とはいったい……どのような目的で作られたのですか?』
『世界の悩める子羊達に健やかな実りを得てもらうために……ですね』
『……?』
「インタビューアーも意味わかんなくて呆然としてるわね……」
「あああああ! 変なこと言ってる! やっぱりモニターを消してぇ! 心がぁぁ、心が折れるぅ!」
メリシュに指摘されてマリヴェラは顔を隠してテーブルに頭を打ち続ける。
世界の悩める子羊達とか意味がわかんねぇ……。
マリヴェラは緊張を臨界点を超えると大言壮語な言葉を話す傾向にあった。
魔王様の発言と思えばおかしくはないのだが。
『平和な世界の実現のためですね』
「言い直すのかよ!」
「ロード、言わないでぇ!」
ちなみにインタビュー内容は元々告知されており、それ以外の質問をしたら罰せられるという形だった。
インタビューアーもヒヤヒヤだったのかもしれない。【七英雄】に対してあえて触れていないのもそういうことだ。
『魔王国の行く先は苦難の道だと思いますが、それでも平和のために戦うのですか』
『ええ、それがわたくしの生きる調べ。そして彼らの望みでもあります。子供達の……平和を願う彼らの夢を少しでも整備してあげるのが大人の役目と思っています。そのような王でいられたらいいですね」
”これが魔王か”
”素晴らしい心意気だと思います。感動しました”
”魔王の元で戦える子供達が羨ましい”
”魔王がこの人なら世界も安泰だな”
”ところで魔王ってエロくね?スーツがやばい”
”でかい”
”でかい”
”でかい”
”目元見れば分かる。絶対これ美人だ”
「ちなみに魔王に対する掲示板の書き込みの中で賞賛系は政府関係者が書き込んでるからあまり真に受けない方がいいよ」
「そんな工作なら言わないで欲しかった!? なにそれ、私の印象ってエロいだけになっちゃうよ!」
「印象操作の基本さ。その内に魔王への賞賛の声しか出てこなくなるから安心してよ」
なおも増える魔王への喜びの声。これを政府関係者が死んだ目で打ち込んでいると考えてるとやべえな。
『では最後にマスクを外して頂くことはできないでしょうか』
『フフ、それはできませんね』
『そ、それはなぜでしょうか?』
モニターに映る魔王はカメラ目線となりました。
『それはわたくしが魔性の女ですから』
どんっ!
マリヴェラを除くこの場にいる全員が額をテーブルに打ち付けた。
これはアカンと思う。耐えられんわ。事前に見ていたはずのアルヴァンですら唇を強く噛んでこらえてやがる。
『男性を惑わすということでしょうか。魔王エストランデ様、ありがとうございました!』
インタビューは終えてもまだ皆、額を上げようとしない。
「そうかそうか。彼氏いない歴29年の私が魔性の女とか言うのがおかしいってか」
魔王様の言葉に誰も何も言えない。
「子供に抱かれた数は数知れず、男に抱かれた数は0というギャップがおかしいってか」
「な、何で……自虐風に言うんだよ、ぐふっ!」
ダメだ、口に出すと吹いちゃいそうになる。
「ねぇ、テトラちゃん。どうしてみんなママを笑うのぉ! 悲しいわぁ」
「ちょ! ひゃん! な、何で私をくすぐるの!? 脇腹はらめぇ!」
「笑っちゃやだぁ!」
「ひゃはははは! だ、だったら、くすぐるのやめぇ!」
テトラを犠牲に、魔王国関係者へのインタビューはまだ続く。
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