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01 全てを失った少年
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「ロード。貴様は用済みだ。どこへでも行くがいい」
「え?」
それは旅の目的が全て終わった直後の話だった。
後に英雄王と呼ばれるようになるアレリウス・ヴィル・アテナス様の辛辣な言葉に10歳になったばかりのおれは頭が真っ白になり 止まってしまう。
「聞こえなかったのかしら。アレリウスは出て行け……そう言ったのよ」
アレリウス様に寄り添う、恋人でもある聖女ローデリア様。
いつも見惚れてしまいそうな余裕のある美しさも今日は険しく恐ろしい。鋭い眼光におれは震えが止まらなくなる。
「どこへたって……」
「後ろにいけばいいでしょ。そんなことも分からないの?」
後ろってそこは切り立った崖しかない。
今いる標高のある山の中腹から転落したら間違いなく助からない。
つまり……死ねと言っているのか。朝一でこんな場所にいきなり連れてこられて、勇者と聖女に囃し立てられる。
「な、なぜですか! おれは……この勇者パーティで戦力にならないのは分かっていたけどみんなの力になろうと必死で! がっ!」
言い終える間もなく体を蹴り飛ばされる。
地面の味がして、激しいの痛みで立ち上がれない。
「ハッハ! アレリウスさんの命令に口答えしてんじゃねーよ、ロードッ!」
おれを蹴り飛ばしたのは7人の勇者パーティの1人……支援職のエリオスさんだ。
「俺達勇者パーティはよ~! 魔王をぶっ殺した! それは理解してんなぁ!?」
魔王討伐。それがおれを除く七人の勇者パーティに定められた目的だ。
多数の魔物を使役し、世界を混乱に陥れていると言われる魔の国の王を一昨日討伐したばかりだった。
「これからアテナス王国に戻ったら国中で俺らを称える大凱旋のはじまりだぁ! でも、てめぇのような小間使いがパーティにいたらどうなる!? 汚点になっちまうんだよ! みなしごでボロボロのてめぇがアレリウスさんの側にいたらなぁ!」
おれはまだ10歳で戦える力もなく、小間使いとしてこのパーティに雇われていた。
奴隷のような扱いだったけど……故郷の村の仇である憎い魔王を倒せるならとおれは必死にアレリウス様達を支え続けたつもりだ。
「希少スキルを持っていたから期待したのにどんなスキルか分からないまま旅が終わったわね。役立たずの子供、わたくし達をじろじろ見て……気持ち悪い」
「そ、それはみなさんの力になろうと少しでも技術を見て覚えて……」
生まれつき記憶力には自信があったので少しでも役に立つため寝る間も惜しんで勉強して知識をつけて、勇者パーティ7人のスキルを観察し続けた。
アレリウス様の『勇者』『武道』スキルにローデリア様の『魔導』スキル。エリオスさんの『斥候』スキル。
他の勇者パーティのみなさんのスキルを可能な限り知識として蓄えた。
「本当はもっとお役に立ちたかったんです! でも……がぁっ!」
エリオスさんに背中を強く踏まれた。
激しい痛みと共に血反吐が出てくる。毎日毎日虐待を受け続けた体は限界を迎えていた。
「ローデリアさんに口答えしてんじゃねーよ、クソガキッ!」
「お、お願いします。アテナスに戻ったら消えます……。だから殺さないで……ください」
おれは精一杯アレリウス様に頭を下げた。
地に膝をつけ、媚びるように頭を下げる。
「お願いします……。故郷が魔物に滅ぼされてしまった中、アレリウス様に助けて頂いたご恩に報いたいんです!」
「ロード」
アレリウス様がゆっくりと近づいてくる。
眩しい銀髪に威風堂々とした態度。全身鎧の胸につけるライオンの紋章のペンダントはアテナス王国の王子であることの印である。
さきほどまでの冷徹な振る舞いと違い、少しだけ口頭が緩んでいるように見えた。
おれはそんなお姿に期待を持った……が、気付いた時生じたの鋭い痛みだった。
「あああっ!?」
終末の大剣【フィナーレ】を抜かれ、頬筋を強く裂かれた。
激しい痛みに言葉を隠せない。
「魔王を倒した今、記憶のない貴様に価値はない」
「ハッハッハ! ロードォ、もうその跡……治らねぇかもな!」
エリオスさんは激痛で頬を押さえる俺を指をさして笑う。
故郷が滅ぼされた時に受けた頬の傷は跡として残っていた。故郷を失った悲しみがそこには残されていたんだ。
そこをアレリウス様に裂かれてしまう。
「恩ってよぉ、おまえは何を覚えてるんだよーォ! ギャハハハ!」
「え……」
「ロードォ! おまえ、自分の家族や故郷の名を言ってみろーっ!」
エリオスさんは腹を抱えて笑い始める。
故郷。そんなの忘れるはずもない。生まれ育ったあの……あれ、おれの故郷ってどこだ?
故郷の姿も名前も……モヤがかったように思い出せない。
父も母もいたはず……妹? 弟? 誰がいたんだっけ。
おれの記憶の中で故郷の部分だけ消え去っていた。
いつどこで生まれて、何をしていたかその部分だけが消え去っていた。
思い出せるのは死にかけている俺の手を握ってくれたアレリウス様の姿のみ。
魔物によって滅ぼされた故郷の中、たった1人生き残ったおれを7人の勇者パーティの方達が救ってくれた。
「記憶を奪った相手に土下座なんて、ほんとお粗末だなぁ」
「え、記憶を奪う?」
「エリオス、余計なことを言うな」
「ひっ! す、すみませんアレリウスさん」
アレリウス様に言われ、エリオスさんは下がっていった。
記憶……記憶ってなんだ。
俺が思い出せないこの記憶のことをアレリウス様は知っているのか。
「ロード」
血が流れる頬を押さえ、ゆっくりと見上げると世界すらも縮こまらせてしまいそうなほどの威圧感に押され、ゆっくりと後退してしまう。
その先は崖。これ以上下がったら落ちてしまう。
「ここで斬られて死ぬか。落ちるか……選ぶがよい。死にたいなら俺が殺してやる」
「あぁ……」
アレリウス様がおれに大剣を向けた。
本気だ、本気でおれを殺そうとしている。
ローデリア様もエリオスさんも、おれを見下し、おれの死を心の底から喜んでいる。
アレリウス様の鋭い眼光が俺を見据えた。
おれの取れる選択肢は1つしかなかった。
「うわあああああああああ!」
崖から飛び降りた。
その選択肢しかなかったんだ。
「アレリウス、殺さなくて良かったの?」
「フン、この崖から落ちて生きてはいられまい。それに生き残った所で奴隷の言葉など誰も耳を貸さんだろう。それに刃向かうならその闘志と一緒にたたき斬ってやる」
「さすがアレリウスさん! すげぇっす!」
◇◇◇
どうしてこうなったんだよ。
おれはアレリウス様を尊敬していたのに……、故郷を滅ぼされた中、唯一おれだけを助け出してくれたあの人を!
毎日毎日、エリオスさん筆頭に奴隷や実験動物のような扱いを受けてもいつか仲間として認めてくれる日を望んでいたのに最期はこんな結末になるのかよ……。
始めからこうするつもりでおれを手元に置いたのか。全部終わったら捨てるつもりだったんだ。
屈辱的な毎日を思い出すだけで涙が出てくる。おれは勇者パーティのストレス解消の道具でしかなかったんだ。
だけど勇者達は知らない。
おれが7人の勇者パーティの力を知識として蓄えたことである程度再現できるようになったことを。
7人の勇者にどのような能力があって、どのような知識を持っていたか……全て頭に入れていた。
本当はアレリウス様やローデリア様に褒められたいために頑張ったので、今となっては全部無駄になってしまった。
まだ10歳で体が追いつかないから全ての能力を再現することはできないけど……崖から落ちたこの体を守る術を持っていたことだった。
「【衝撃吸収】発動!」
空中で気を失わないように気をしっかりと持ち、地面に落ちる瞬間にスキルを発動した。
勇者パーティの人達の暴力から身を守るためにこのスキルで衝撃を緩和していたから発動タイミングは理解している。
「はぁ……はぁ……」
正直奇跡だった。
もし崖から落ちた先が斜面だったらそのまま削られて死んでしまっただろう。
地面に直だったのはありがたい。
あとは崖下が森だったことも衝撃の緩和に影響している。
何とか生き残ったけど……。これからどうする。
この森は恐らく魔の国とアテナス王国を繋ぐ、ミドガルズ大森林。
強力な魔物が住む森で……10歳のおれはあっと言う間に食べられて殺されてしまうだろう。
だけどおれには勇者を観察して習得したスキルがある。
エリオスさんの取得スキルだった【エンカウント無効】を再現する。
どんなスキルでも効果時間と使用後待機時間が存在するが、このスキルは使用後待機時間が存在しない。
このスキルを維持すれば魔物の索敵を避けて、この森を進むことができる。
絶対、絶対……生き抜いてやる。
「きゃああああ!」
「っ! 何か今……悲鳴が聞こえたような」
アレリウス様がいた方向ではない。違う方向で女の子の声が聞こえた。
同じ方向で獣が唸る声も聞こえる。
正直、助けられる状況じゃない。裂かれた頬から流れる血はまだ止まらない。【衝撃吸収】で緩和したとはいえ肉体へのダメージは軽減しきれていない。
今度こそおれ自身が殺されてしまう可能性がある。
だけど。
おれ自身が誰かに助けてもらって生き延びたんだ。
無視するわけににはいかない!
声のする方向で走っていると狼の魔物に取り囲まれた子が縮こまっているのが見えた。
おれよりも小さい子供だ……。
絶対に助ける!
「え?」
それは旅の目的が全て終わった直後の話だった。
後に英雄王と呼ばれるようになるアレリウス・ヴィル・アテナス様の辛辣な言葉に10歳になったばかりのおれは頭が真っ白になり 止まってしまう。
「聞こえなかったのかしら。アレリウスは出て行け……そう言ったのよ」
アレリウス様に寄り添う、恋人でもある聖女ローデリア様。
いつも見惚れてしまいそうな余裕のある美しさも今日は険しく恐ろしい。鋭い眼光におれは震えが止まらなくなる。
「どこへたって……」
「後ろにいけばいいでしょ。そんなことも分からないの?」
後ろってそこは切り立った崖しかない。
今いる標高のある山の中腹から転落したら間違いなく助からない。
つまり……死ねと言っているのか。朝一でこんな場所にいきなり連れてこられて、勇者と聖女に囃し立てられる。
「な、なぜですか! おれは……この勇者パーティで戦力にならないのは分かっていたけどみんなの力になろうと必死で! がっ!」
言い終える間もなく体を蹴り飛ばされる。
地面の味がして、激しいの痛みで立ち上がれない。
「ハッハ! アレリウスさんの命令に口答えしてんじゃねーよ、ロードッ!」
おれを蹴り飛ばしたのは7人の勇者パーティの1人……支援職のエリオスさんだ。
「俺達勇者パーティはよ~! 魔王をぶっ殺した! それは理解してんなぁ!?」
魔王討伐。それがおれを除く七人の勇者パーティに定められた目的だ。
多数の魔物を使役し、世界を混乱に陥れていると言われる魔の国の王を一昨日討伐したばかりだった。
「これからアテナス王国に戻ったら国中で俺らを称える大凱旋のはじまりだぁ! でも、てめぇのような小間使いがパーティにいたらどうなる!? 汚点になっちまうんだよ! みなしごでボロボロのてめぇがアレリウスさんの側にいたらなぁ!」
おれはまだ10歳で戦える力もなく、小間使いとしてこのパーティに雇われていた。
奴隷のような扱いだったけど……故郷の村の仇である憎い魔王を倒せるならとおれは必死にアレリウス様達を支え続けたつもりだ。
「希少スキルを持っていたから期待したのにどんなスキルか分からないまま旅が終わったわね。役立たずの子供、わたくし達をじろじろ見て……気持ち悪い」
「そ、それはみなさんの力になろうと少しでも技術を見て覚えて……」
生まれつき記憶力には自信があったので少しでも役に立つため寝る間も惜しんで勉強して知識をつけて、勇者パーティ7人のスキルを観察し続けた。
アレリウス様の『勇者』『武道』スキルにローデリア様の『魔導』スキル。エリオスさんの『斥候』スキル。
他の勇者パーティのみなさんのスキルを可能な限り知識として蓄えた。
「本当はもっとお役に立ちたかったんです! でも……がぁっ!」
エリオスさんに背中を強く踏まれた。
激しい痛みと共に血反吐が出てくる。毎日毎日虐待を受け続けた体は限界を迎えていた。
「ローデリアさんに口答えしてんじゃねーよ、クソガキッ!」
「お、お願いします。アテナスに戻ったら消えます……。だから殺さないで……ください」
おれは精一杯アレリウス様に頭を下げた。
地に膝をつけ、媚びるように頭を下げる。
「お願いします……。故郷が魔物に滅ぼされてしまった中、アレリウス様に助けて頂いたご恩に報いたいんです!」
「ロード」
アレリウス様がゆっくりと近づいてくる。
眩しい銀髪に威風堂々とした態度。全身鎧の胸につけるライオンの紋章のペンダントはアテナス王国の王子であることの印である。
さきほどまでの冷徹な振る舞いと違い、少しだけ口頭が緩んでいるように見えた。
おれはそんなお姿に期待を持った……が、気付いた時生じたの鋭い痛みだった。
「あああっ!?」
終末の大剣【フィナーレ】を抜かれ、頬筋を強く裂かれた。
激しい痛みに言葉を隠せない。
「魔王を倒した今、記憶のない貴様に価値はない」
「ハッハッハ! ロードォ、もうその跡……治らねぇかもな!」
エリオスさんは激痛で頬を押さえる俺を指をさして笑う。
故郷が滅ぼされた時に受けた頬の傷は跡として残っていた。故郷を失った悲しみがそこには残されていたんだ。
そこをアレリウス様に裂かれてしまう。
「恩ってよぉ、おまえは何を覚えてるんだよーォ! ギャハハハ!」
「え……」
「ロードォ! おまえ、自分の家族や故郷の名を言ってみろーっ!」
エリオスさんは腹を抱えて笑い始める。
故郷。そんなの忘れるはずもない。生まれ育ったあの……あれ、おれの故郷ってどこだ?
故郷の姿も名前も……モヤがかったように思い出せない。
父も母もいたはず……妹? 弟? 誰がいたんだっけ。
おれの記憶の中で故郷の部分だけ消え去っていた。
いつどこで生まれて、何をしていたかその部分だけが消え去っていた。
思い出せるのは死にかけている俺の手を握ってくれたアレリウス様の姿のみ。
魔物によって滅ぼされた故郷の中、たった1人生き残ったおれを7人の勇者パーティの方達が救ってくれた。
「記憶を奪った相手に土下座なんて、ほんとお粗末だなぁ」
「え、記憶を奪う?」
「エリオス、余計なことを言うな」
「ひっ! す、すみませんアレリウスさん」
アレリウス様に言われ、エリオスさんは下がっていった。
記憶……記憶ってなんだ。
俺が思い出せないこの記憶のことをアレリウス様は知っているのか。
「ロード」
血が流れる頬を押さえ、ゆっくりと見上げると世界すらも縮こまらせてしまいそうなほどの威圧感に押され、ゆっくりと後退してしまう。
その先は崖。これ以上下がったら落ちてしまう。
「ここで斬られて死ぬか。落ちるか……選ぶがよい。死にたいなら俺が殺してやる」
「あぁ……」
アレリウス様がおれに大剣を向けた。
本気だ、本気でおれを殺そうとしている。
ローデリア様もエリオスさんも、おれを見下し、おれの死を心の底から喜んでいる。
アレリウス様の鋭い眼光が俺を見据えた。
おれの取れる選択肢は1つしかなかった。
「うわあああああああああ!」
崖から飛び降りた。
その選択肢しかなかったんだ。
「アレリウス、殺さなくて良かったの?」
「フン、この崖から落ちて生きてはいられまい。それに生き残った所で奴隷の言葉など誰も耳を貸さんだろう。それに刃向かうならその闘志と一緒にたたき斬ってやる」
「さすがアレリウスさん! すげぇっす!」
◇◇◇
どうしてこうなったんだよ。
おれはアレリウス様を尊敬していたのに……、故郷を滅ぼされた中、唯一おれだけを助け出してくれたあの人を!
毎日毎日、エリオスさん筆頭に奴隷や実験動物のような扱いを受けてもいつか仲間として認めてくれる日を望んでいたのに最期はこんな結末になるのかよ……。
始めからこうするつもりでおれを手元に置いたのか。全部終わったら捨てるつもりだったんだ。
屈辱的な毎日を思い出すだけで涙が出てくる。おれは勇者パーティのストレス解消の道具でしかなかったんだ。
だけど勇者達は知らない。
おれが7人の勇者パーティの力を知識として蓄えたことである程度再現できるようになったことを。
7人の勇者にどのような能力があって、どのような知識を持っていたか……全て頭に入れていた。
本当はアレリウス様やローデリア様に褒められたいために頑張ったので、今となっては全部無駄になってしまった。
まだ10歳で体が追いつかないから全ての能力を再現することはできないけど……崖から落ちたこの体を守る術を持っていたことだった。
「【衝撃吸収】発動!」
空中で気を失わないように気をしっかりと持ち、地面に落ちる瞬間にスキルを発動した。
勇者パーティの人達の暴力から身を守るためにこのスキルで衝撃を緩和していたから発動タイミングは理解している。
「はぁ……はぁ……」
正直奇跡だった。
もし崖から落ちた先が斜面だったらそのまま削られて死んでしまっただろう。
地面に直だったのはありがたい。
あとは崖下が森だったことも衝撃の緩和に影響している。
何とか生き残ったけど……。これからどうする。
この森は恐らく魔の国とアテナス王国を繋ぐ、ミドガルズ大森林。
強力な魔物が住む森で……10歳のおれはあっと言う間に食べられて殺されてしまうだろう。
だけどおれには勇者を観察して習得したスキルがある。
エリオスさんの取得スキルだった【エンカウント無効】を再現する。
どんなスキルでも効果時間と使用後待機時間が存在するが、このスキルは使用後待機時間が存在しない。
このスキルを維持すれば魔物の索敵を避けて、この森を進むことができる。
絶対、絶対……生き抜いてやる。
「きゃああああ!」
「っ! 何か今……悲鳴が聞こえたような」
アレリウス様がいた方向ではない。違う方向で女の子の声が聞こえた。
同じ方向で獣が唸る声も聞こえる。
正直、助けられる状況じゃない。裂かれた頬から流れる血はまだ止まらない。【衝撃吸収】で緩和したとはいえ肉体へのダメージは軽減しきれていない。
今度こそおれ自身が殺されてしまう可能性がある。
だけど。
おれ自身が誰かに助けてもらって生き延びたんだ。
無視するわけににはいかない!
声のする方向で走っていると狼の魔物に取り囲まれた子が縮こまっているのが見えた。
おれよりも小さい子供だ……。
絶対に助ける!
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