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エピローグ

144 美術室にて

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「何で山田さんがここにいるんですか?」
「ええー」

 放課後の美術部。
 最高にかわいい恋人の月夜の頼みで美術室にやってきたが、美術室の女王弓崎金葉ゆみさきかなはさんに怪しげに見られる。
 まっすぐ前髪を切り揃えた黒髪から来るそのクールな視線にちょっとぞくぞくする。

「金葉さん、私が太陽さんを呼んだのですよ」
「え、月夜さんがですか?」
「どういうこと? よく聞かずに来たんだけど」

 どうやら弓崎さんは人物画のコンクールの締め切りが近づいており、今回月夜を描いてみるということで呼んだらしい。
 その際に心穏やかな表情が欲しいので、一番心が穏やかになる物も一緒に持ってきて欲しいと言ったそうだ。

「個人的には小物とか写真、難しいですけど猫とかを想定してたんですが」
「私、太陽さんと一緒の時が一番落ち着きますよ。あ、激しくなるのもそうかも」

 その通りだね。

「はぁ……。聞いてたとおりのバカップルぶりですね。まぁいいでしょう」

 月夜は椅子に座って、その正面に画用紙をイーゼルと呼ばれる固定具に設置する弓崎さんの姿がある。
 僕は月夜の隣に座って、月夜に手を差し伸べ恋人繋ぎのように手を合わせた。

「ちょっと金葉くんいいだろうか」

 美術室のドアが開かれて、中に入ってきたのは生徒会長九土原彩花くどはらさいかさんだ。
 非常に美しい霞色のロングの髪をなびかせてこちらに近づいた。

「月夜くん、太陽くんか。何やら面白そうなことをしているじゃないか。私も混ぜてもらおうか」
「九土さんは何をしに来たんですか……」

 呆れる弓崎さんに九土さんは書類を渡した。

「生徒会から美術部にだ。察するにイチャついた2人を金葉くんが描くということだろう。ちゃんと戸締まりをしていないと大騒ぎになるぞ」

 確かに今回はグループのメンバーだからよかったけど、別の男性生徒で僕と月夜がくっついている様子を見たりすると大騒ぎになる可能性があった。
 弓崎さんは慌てて美術部の入り口の鍵を閉めて、外から中が見えないようにした。

「これで邪魔は入らないでしょう」
「九土さんは生徒会に帰らなくてもいいの?」
「フッ、今日は特に業務がなくてな。金葉くんと戯れようと思っていたんだよ」

 そんなわけで人物画のデッサンが開始された。九土さんも画用紙を借りて何かを描いているようだ。
 この人も完璧超人だからすごく上手い絵が出来るんだろうね。

 しかし30分が立つがどうにも弓崎さんの進行が芳しくない。さっきから画用紙を描いては破いて、捨てている。
 どうにも気が散っているような……そんな感じにも見える。
 弓崎さんが立ち上がった。

「月夜さん、山田さん抱き合ってください」
「金葉くん、君は何を言ってるんだ」
「さっきから湧き出るこの衝動を抑えるためにお願いします」

 僕と月夜は互いを見合う。
 学校で堂々と抱きつけることはなかったから、正直、願ったり叶ったりだ。
 弓崎さんからさぁと言われ、僕は月夜の手を引っ張り抱きしめた。

「制服姿で堂々と抱き合うのは悪くないね」
「いつかどこでもこうできるといいのですけど」

「例え公表しても堂々と抱き合うのはやめてくれよ。学校の風紀に関わる」

 弓崎さんの描くスピードが上がった。というより早ッ! めちゃくちゃ早いペースで絵を描いている。
 弓崎さんが声をあげる。

「もっと! リピードを私に下さい! 抱き合うだけじゃ足りない」
「金葉くん、さすがにそれは」

「じゃあ遠慮なく」

 月夜は僕の後頭部を押し出して、無理矢理唇を奪ってきた。
 学校行っている間はキスできないからなぁ。隠れてすることもあるけど、どこで見られるか分からないから回数は多くない。
 僕は月夜の背中を強く抱きしめて、強く唇を擦り付けた。

「い、意外に大胆だな……」
「いいですよ……。とてもいい……実にいい」

 満足のいくキスを何度もして、僕と月夜は一度顔を離し、向こうにいる2人に声をかける。
 ん? 九土さんが手で顔を隠そうとしている。

「九土さん、何か顔が赤くない?」
「ちょっと驚いただけだ。先月まで初々しかった君たちも随分進んだようだな」

 一度咳払いして、九土さんは冷静になる。もしかして……。

「月夜のキスしている所を星矢に見立てて想像してたとか」
「!?」

 お、当たってたみたいだ。

「太陽くんが私の上を行く時を来るとは成長したものだな。今度からもっと本気で対応させてもらおう」
「いや、これ以上は勘弁なんですが……」
「金葉さん、大丈夫ですか?」

 月夜は無心に絵を描く、弓崎さんに声をかける。
 弓崎さんは止まった。

「まだ燃料が足りない。2人とも服を脱いでください」
「え?」
「この部屋はストーブをつけてるから大丈夫です。はやく脱ぎなさい、脱げ」

 弓崎さんはペンを震わせて訴えてくる。
 何かすっごく怖いんですけど……。春が近づき、暖かくなっているとはいえまだまだ教室のストーブは片付けられない。
 僕と月夜は見合って言われるがまま上着とブレザーを1枚ずつ脱いでいく。

 服を脱ぐたびに月夜の髪から香る良いにおいに心が昂ぶってきた。
 やっぱり抱き合うなら薄着だよなぁ。どうにも防寒着ありだと体の感触が伝わりにくい。
 風邪を引いた月夜を抱き寄せた時は体温が熱くてぐっと来た
 今ならあの時の興奮をまた得られるか? 月夜はシャツのボタンを少し緩める。ちらっと……白のブラの色が見えた瞬間、僕の体は勝手に動いてた。

「ふごっ!」
「やん!」

 僕は突進するように月夜に掴みかかり、その胸元へ思いっきり顔をくっつけた。
 もう無理我慢できない。そのボリュームのあるものを顔いっぱいに感じる。

「ちょ、もう! 太陽さんったら……えっちなんだから」

「いや駄目だろう。太陽くん、さすがにそれは」
「止めてはいけません! この性衝動、私なら描ける。今ならすごい物が描ける!」
「金葉くん、疲れているのか?」


 ◇◇◇


 薄着の月夜の体をしっかり堪能した。
 実に素晴らしい体だ。早く身も心も結ばれたい。早く春休みになったら決着を……。

 ひとしきり愛を育んだ後、僕も月夜も防寒着を着て、九土さん、弓崎さんの元へ近づく。
 弓崎さんが何を書いていたかというと……。

「なんだこれ!? 男同士の濡れ場じゃねーか!」

 この絵は見たことある。瓜原さんと弓崎さん原作の【太陽の兵士と星の王子の恋物語】のキャラ絵だった。
 僕のいた所にはモチーフのサンというキャラ、月夜がいた所はモチーフのムーンというキャラがおり、2人抱き合ってる絵となっている。
 正直過激すぎて説明したくない。

「人物画書いてたんじゃないの?」
「そうですね。でも私が本当に描きたいのはコレのようです」
「しかも濡れ場って……まだ僕達高2なんだけど」
「私は4月生まれなのでもうすぐ18歳です」
「そういう問題じゃない」

 これはちょっと……と思ったら九土さんも月夜も食い入るように見ていた。

「見事だ金葉くん。是非ともスターロを交えて描いて欲しいな」
「金葉さん、私、サンが好きなのでサンの絵を下さい」

「キミたち!?」

 男同士の濡れ場が描かれた絵を前に女3人、楽しく話を始めたのであった。
 僕を呆然とその話が終わるまで待つしかなかった。

「もう……僕には止められないよスターロ……違う星矢だった」
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