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4章 3学期

106 月夜の誕生日①

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 天気は快晴。スキーウェアを着ているとちょっと暑いくらいかもしれない。
 2月7日土曜日、いつものメンバーは車で数時間、県外の雪山に来ていた。
 金曜日の夜移動で土曜日の朝には到着。眠たい目をこすって、さっそくスキー及びスノボーで遊ぶ準備をする。

「私、スノーボードは初めてなんで楽しみです!」

 カラフルなスキーウェアに身を包み、ニット帽からはみ出す栗色の髪は今日もとってもキュートだ。
 ニコリと笑う月夜に僕はさっそく写真を撮った。ウェア写真もゲットだ。
 隣で一緒に歩く月夜と会話を楽しむ。

「太陽さんは経験あるんですか?」
「ウチは昔からスキー旅行よく行くんだよ。スキーでもスノボでも滑られるよ」
「本当ですか! すごい、教えてほしいです」

 こんなかわいい女の子に教える日が来るなんて……。
 ありがとう、父さん、母さん、毎年連れてきてくれて本当に感謝です。
 この前のスケートのお返しがさっそくできるな。あの時かっこ悪い所を見せたから、いいとこ見せてやりたい。
 月夜はボードはレンタル、他の装備は九土さんが用意してくれたらしい。かわいい月夜くんにレンタルなど着せられるか……だそうだ。あの人ほんと何でもできるよな。

「じゃあ、星矢くんとひーちゃんは私が教えるねー」

 東北育ちの水里さんは実家近くに雪山があるらしく、ウィンタースポーツは手馴れているようだ。あの人、運動神経もいいからうまいんだろうな。
 星矢も雪山は初挑戦。意外ながらひーちゃんもらしい。遊ぶ時間全てアイドル活動に使ってるからだろうか。

「初心者だったら向こうに混ざる?」

 ふいに月夜に聞いてみる。2人で講師する方が早く上達するかもしれない。
 しかし、月夜は首を横に振った。

「私は太陽さんに教えてもらいたいです。2人きりじゃ……嫌ですか?」
「そ、そんなことないよ」

 小動物にように小さな声でねだる月夜に胸がきゅっとなってしまう。
 こんなかわいいこと言われたら2人で行くしかないじゃないか。まぁあっちはあっちで何とかなるでしょう。

「じゃあ行こうか」
「はい!」

 集団から離れ、初心者コースへ移動した。
 それからスノーボードの履き方や走行の注意点をレクチャーし、手取り足取り教えていく。
 1時間ほど教えればうまくいくかと思いきや……。

「きゃっ!」

 月夜はバランスを崩して尻もちをついてしまう。
 僕はさっと駆け寄り、手を伸ばして月夜の手を掴んだ。

「ごめんなさい……へたくそで」
「最初はそんなもんだよ。僕だってここまで滑られるようになるまでかなりかかったし」

 月夜の手を掴んで持ち上げて、直立させてあげる。
 ただね……。

「わっと!」

 月夜は直立のままバランスを崩して、そのまま僕の方に倒れてきた。当然避けるわけにはいかないので両手を使って受け止める。
 この場合、月夜に抱きしめられる恰好となるのだ。お互いスキーウェアを着ているため肉感を感じることはできないが僕の胸の中に月夜がいて、ニット帽からもれる栗色の髪にふれると月夜はとても嬉しそうな顔をする。
 最初の1,2回はかなり慌てて、出来る限り抱きしめられる感触を楽しんでいたが……。

「月夜、10回目なんだけど……わざとじゃないよね?」
「ええーどうかなー」

 僕の胸板に顔を擦り付けてくる月夜に何も言えやしない。
 それからも教えるたびに月夜は僕に抱きついてきた。


 ◇◇◇


 少し滑られるようになったため、リフトを使って中腹の方まで移動する。
 このスキー場は僕も何度か行っており、どこの昼ご飯がうまいかよく分かっている。今回、グループバラバラに行動しているため、僕と月夜は2人きりのままだった。

「そういえば弓崎や瓜原さんの姿が見えないけどどこ行ったの?」
「寒いの苦手なので先に旅館に行って創作してるって言ってましたよ」
「あの2人雪山に何しに来たんだ……?」

 あの2人、運動神経はあまりだろうし、気持ちは分からなくもないけど……。
 だからといって創作はないような気もする。
 っと、リフトがそろそろ終わるな。

「リフトから降りる時が一番緊張しますね」
「慣れてしまえばそう怖くはないけど……スピードもあるし、急だからね」

 月夜が転んでもカバーできるように僕は側から離れないようにする。
 今日は月夜の誕生日だ。できる限り彼女をフォローしてあげないと……。
 危なげなくリフトから降りて、片足滑りで斜面近くまで移動する。

「やっほー!」

 これから滑ろうと準備した時、知った声がして、僕と月夜はそっちの方に顔を向ける。
 ゴーグルで顔はよく見えないが、見知ったスキーウェアを着ており、3人がこちらに現れた。あっちのコースは上級だっけ。

「海ちゃん!」
「月夜、うまくなってる?」
「うん、太陽さんが教えてくれるおかげだね」

 現れたのは世良さん、北条さん、九土さんの3人だ。運動神経抜群の3人だ。経験者であればお手の物だろう。

「月夜と2人きりだなんて……学校中の男共が泣いて悔しがるだろうね」
「指導を任せて、私達だけで楽しませてもらってすまないな」

 北条さんと九土さんが続けて声を上げる。
 北条さん、九土さんは自前のボード、ウェアを持っているだけあって、相当上手い。
 世良さんはボードはレンタルだけど、この子も負けていない。

「気にしないでよ。気分転換はしないといけないしね」
「ふぅ……練習付けの毎日だからね。あー、ほんと雪山ってきもちー!」

 北条さんは手を上げて、大きな声で大空に向けて叫びだした。
 体育科の2人は本当に毎日練習している。各々、その競技が好きなんだろうけど、たまには違う競技で汗を流したいってのは分かる気がする。
 九土さんもそれに付き合ってる感じかな。

 そのまま3人は僕達に手を振って斜面を下って行った。
 さてと僕達も先へ進むとしますか。
 月夜に声をかけようとしたら……少し表情が暗いように見えた。
 どうしたのかな。
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