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4章 3学期

097 ラーメン

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 夜の18時。日も完全に落ちてしまい、気温もぐっと下がってきた。
 今日は長い時間外にいたから完全に冷えてしまったな。

「晩ご飯はどうする? 月夜は家で食べるの?」
「兄はバイト先で食べるって言ってましたからね、帰って作る必要はないんですよね」
「そうか。だったらどこか食べにいこうか?」

 元々今日は晩ご飯はいらないと親に伝えていたため、どちらにしろ外食するつもりではいた。
 このあたりで何か食べ物あったかな。

「このあたりだったら……おいしいラーメン屋さん、知ってますよ」
「お、いいねぇ。寒くなった体にちょうどいい」

 しかし、月夜とラーメン屋か。
 大食いなのは知ってるけどあんまりイメージないよなぁ。月夜はぱっと見はお淑やかなで綺麗な女の子だから気品があるように見えるけど、実際は小洒落たレストランより牛丼屋に行って並盛りを2つ頼む方を望む女の子だ。
 ケースバイケースだと思うけどね。僕と一緒の時はもう食事については飾ることを止めて大食いに走る。

 月夜に連れられて入ったラーメン屋は商店街の一角にある店であった。
 間違いなく女子高生が1人で入るようなとこじゃないな。

「クイーンが来た」
「クイーンだ」
「今日も美しい」

 誰のことだろうか。
 店の男達が月夜を見て口々に述べる。

「いらっしゃい」

 店主のおじさんが僕達に声をかける。

「いつものをお願いします」

 いつもの!?
 ラーメン屋でそんなセリフ吐くやつを初めてみたよ。

「僕は……どうしようかな」
「ここはニンニクラーメンがオススメですよ」
「じゃあ、それで」
「あいよ」

 物静かな店主はそのままラーメンを作り始めた。

「月夜は行きつけなの?」
「月に1回ぐらいですよ」

 その回数で覚えられているのか。あ、でも月夜の容姿だったら当然か。
 ふらりと1人でラーメン屋に入ってくる、超絶美少女。言われてみるといい感じだよね。 さっきからおじさん達がこちらを見ているような気がする。

「食べ方とか気をつけた方がいいのかな」
「自由でいいですよ。ラーメンは美味しく食べるのが一番ですから」

「ニンニクラーメンとニンニクラーメンマシマシ背脂ネギ3/4多めね」

 なんかコアな物が出てきたぞ。僕は普通のニンニクラーメン。月夜はスペシャルのようだ。
 月夜の前に特殊なニンニクラーメンが置かれて、恍惚な表情を浮かべている。
 一刻も早く食べたいんだろうなぁ。相当なラーメン好きだな、こりゃ。
 割り箸を月夜に渡していただきます。
 さっそくスープを頂き、そのまま麺をすする。……うまい。こりゃうまいわ。

「美味しいね!」
「でしょ! このあたりではNO.1だと思います。太陽さんと来られてよかった」

 こんな上手いラーメンが食べられるならさっさと知っておけばよかったよ。
 今度このあたりに来たらまた食べにいこう。
 月夜はラーメン通なだけあり、順番に麺やスープを食している。これが喰えるってやつなのかな。

 ◇◇◇

 ラーメンを食し、満足した僕達は会計を行う。
 月夜が先に会計を行って外へ出る。僕も会計をし終えた時。

「キミはクイーンの彼氏かね」

 店の中にいたおじさんに声をかけられる。
 これはどう返答すべきだろうか。なんとなくだけど否定はしない方がいい気がする。

「一応……ですね」
「そうか、我らのアイドルについに春が」

 まだ冬ですけどね。
 ってよく見たら店の客みんな泣いてるんだけど、これみんな常連さん!?

「まさかあの娘が男を連れてくる日が来るなんてな」
「俺、ちょっと狙ってたのになぁ」
「あんな綺麗な子を落とせるわけねぇだろ。でもあの容姿であの食いっぷりは神だよなぁ」
「幸せにしてやってくれよ、彼氏くん!」

「は、はぁ」

 居づらくなったので僕は店を出ることにした。

「遅かったですね」
「あ、ああ……、月夜はあの店で結構話しかけられるの? 他の客とかと」
「いえ、店主さんとちょっと喋るぐらいですよ。他のお客さんから話しかけられたことないですし」

 ないのかよ!
 月夜は男性に話しかけられるのは嫌がるタイプだから話かけるなオーラでも出していたのかもしれない。
 月夜は高嶺の花が過ぎたってことなんだろうか。会いに行けそうで会えないアイドルってところか。
 体もすっかり温まり、僕達は帰路へつく。月夜を神凪家へ送らないといけないからね。

「今日も楽しかった!」

 月夜は暗くなった道路でくるりとまわる。
 街灯で照らされて、月夜は相変わらず美しい。
 タピオカ飲んで、サイン会に行き、スケートで滑って、ラーメンを食べる。
 いい休日だったと思うよ。

 月夜はぐっと僕に近づいた。

「また……次も一緒です」

 そうだね。月夜と一緒に過ごす日々は本当に楽しい。
 目の前で僕を見つめる月夜の素顔、本当にかわいくてたまらない。でもそれ以上に……それ以上に

 僕の口、そして月夜の口も一緒に動いた。

「ニンニク」「ニンニク」

 思わぬ同じ言葉で僕達は吹き出した。

「やっぱりにおいますよね。あそこのニンニクすごいですもん」
「ムードもひったくれもないよね。美味しいけど、においすごいわ」

 ニンニクのにおいで充満させた僕達はなおも笑い合う。
 ドキドキすることも多いけど、こうやってふざけて笑うことも大切だと思う。

 ああ、今日もとても良い一日だったな。
 次の休みも一緒にいたい。本当にそう思う。
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