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4章 3学期

096 スケート

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 お昼ご飯も早々に終わらせた僕達が向かった先は書店からすぐ近くにあるスケート場だった。
 せっかくの休日なので昼から遊べる所を探しており、すぐ近くに屋外スケートリンクがあったため僕と月夜はそこへ向かうことになった。

「スケートは久しぶりですね~。楽しみ」
「う、うん……」
「どうしたんですか?」
「スケートは初めてなんだよね。大丈夫かな」

 スキー、スノボは自信があるんだが、スケートは全然やったことないんだよなぁ。
 近場にあるからこそなかなか行かないものだ。
 月夜はぐっと拳を振り上げる。

「だったら私が教えます! すぐ上達しますよ」

 年下女の子に教えてもらうとは……。勉強教えてもらうよりはマシかな。
 早速入場料を払って、貸しスケート靴を借りる。
 こんな刃先のもので本当に滑られるんだろうか?
 スケート靴を履いて、屋外へ出た。

 真っ白なスケートリンク。かなり寒いけど、運動したらきっと暖かくなるんだろう
 スケート場はかなりの数の人がいた。トラックをぐるぐる周るくらいならぶつかる心配はまずないはずだ。
 そこまで滑られるようになるかが心配だけど……。

「お待たせです」

 トイレに行っていた月夜が戻ってきた。
 これは月夜先生にご指導いただくしかなさそうだ。
 月夜は僕の手を引っ張ってさっそくスケートリンクの方へ連れて行く。
 さっきのサイン会で樹本先生が触れていた月夜の右手だ。嫌そうな顔もせず、穏やかな顔で僕を見つめてくれる。

「行きましょ!」

 僕と月夜はスケートリンクに突入した。


 ◇◇◇

 何度すってんころりんしたことか。
 しかし、何度も転んでいるとコツをつかんでくるもの。
 1時間ほどで立てるようにはなった。コツは怖がらないことだな。

「ふぅ……なんとか立てるようになったか」
「じゃあ手を離しますか?」
「駄目駄目転んじゃう!」

 さっきからずっと僕は月夜の手を握りっぱなしだ。もはや命綱と言ってもいい。
 手を離されたらあっという間に転んでしまうだろう。

「ごめんね、なんか面倒かけちゃって」
「構いませんよ。太陽さんの手は暖かくて好きなので」

 そういってもらえるとありがたいし、嬉しいが正直……そんなことを考えている余裕はあんまりない。

「1人で滑っても仕方ないですし、一緒に滑りましょう!」

 やっぱり優しい子だな。一刻も早く滑られるようになって月夜と一緒にトラックをぐるぐる……、うん?
 トラックを逆走している子供がいる。月夜は僕の方を向いているから後ろから向かってきているのに気づいていない。
 このままじゃ!

「月夜あぶない!」
「へ?」

 僕は思いっきり月夜の手を引っ張った。なんとか、月夜を手元に引き寄せる。
 衝突は避けられたが、しかし、この後どうしよう。引っ張って、月夜の体を抱えたため、思いっきり抱きしめている状態だ。
 懐に収めた月夜が顔を上げると至近距離で顔を見合う形となった。さすがにこの距離は照れる。
 冬の寒さで互いの息が白く浮かぶ。

「あ、ありがとうございます」
「月夜」
「太陽さん……」
「あ、やばい。転ぶ」
「え?」

 僕の両手は今、フリーである。ようやく立てるようなったぐらいのスキルでこんな無茶すると当然バランスを崩してしまった、
 そのまま慌てて、何かに掴もうと必死に手を上げた。何か掴めるものを!
 僕は月夜に捕まろうと右手を上げて……掴み取った。月夜の胸を。

「きゃっ!」
「あっ」

 裸ならともかく、コートを着ている状況でつかめるはずもなく、結局僕はすってんころりんしてしまったのだった。

 ◇◇◇

 夕方となり、日が沈む。
 2,3時間練習するとさすがにまっすぐは滑られるようになった。
 月夜様々だ。

「最後に1周して終わりましょうか」
「そうだね、そうしよう」
「転びそうになっても胸は掴まないでくださいね」
「わ、悪かったよ」

 月夜はくすりと笑う。ちょっとしたアクシデントだし、ガチで掴んだわけもないので月夜は許してくれた。
 このスケートリンクは日が沈むと綺麗なライトアップをしてくれる。イルミネーションがすごい。さっきまでは子供連れが多かったのにいつの間にかカップルが増えてきた。
 男女がやっぱり多いな。僕と月夜もそんな風に見られるのだろうか。

「太陽さん」
「なに?」
「最後にまた手繋いでくれませんか」
「……いいよ」

 差し出した手を月夜は嬉しそうに握ってくれる。
 スピードを出せない僕のため月夜はゆっくりと先導するように前へ進んでいく。
 イルミネーションも合わさって本当に綺麗だな。運動だからカメラは置いてきちゃったけど、持ってきたらよかった。

 月夜と一緒にいる日が本当に楽しい。

 名残惜しいがスケートリンクを抜け、この場所を後にしたのであった。
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