上 下
95 / 162
4章 3学期

093 シスコン

しおりを挟む
 1月も中旬となり、学生生活も日常へと戻る。
 冬休み前から変わらないかなと思っていたけど、僕の意識は大きく変わってきているような気がする。

 星矢と遊ぶか、1人で趣味を満喫することがほとんどだった土日にもう一つの選択肢が出来てしまった。
 神凪月夜と過ごす選択肢が僕の心の中を大きく占めているような気がする。
 初詣やお正月明けから登下校、昼休み、部活動……。月夜と一緒にいる時間が誰よりも長くなっていた。
 現状維持という言葉で片付けたため恋人ではないが、友達以上恋人未満であることに間違いはない……と思う。

 今日はとある件があって月夜を誘ってみたが1発返事でOKをもらってしまった。
 夏休みの自分からすれば信じられないような行動力だよな。
 いつも駅前だと1時間前集合になってしまうので、今回は僕自身が神凪家へ行くことにした。

 神凪家のあるアパートの204号室のチャイムを鳴らす。
 返事はない。もう9時だからさすがに起きていると思うけど、仕方なく合鍵を使って扉を開ける。

 すると親友神凪星矢が仁王立ちしていた。

「おまえが俺のかわいい妹をたぶらかす馬の骨か」
「馬の骨って言葉を使ってみたかったんだね。わかるよ」

 星矢の後ろで月夜がチラチラとこちらの様子を伺っているところが見える。
 今日もかわいい。
 なんかあったんだろうな。

「で、君のかわいいかわいい妹と遊びにいくから兄貴はすっこんでろよ。邪魔だ、どきな」
「ほほぅ、言うじゃないか」

 こういうセリフを1度言ってみたかった。星矢じゃなきゃ絶対言えないセリフだ。

「それでどうしたの?」
「10時からバイトなんだ」
「暇つぶしかよ」

 かなり時間に余裕はあるから構わないけどね。
 玄関先で僕と星矢は会話を続ける。
 せっかくだし、聞いておくか。

「星矢はさ、誰かが月夜と交際しても構わない派なの?」

 星矢は間違いなくシスコンである。月夜のための生活のためにバイト量を増やし、稼いだ金で月夜の生活を潤うようにしている。
 女の子だからということもあるし、星矢自身が節約、貯蓄型で自分に金を使いたがらないタイプというのもあるだろう。
 シスコンの代名詞として、妹は絶対俺の物。絶対、男なんか作らせるか……みたいな感じだと思ってた。

「俺は妹を愛しているが猫可愛がりしているわけじゃないぞ」
「そうだったら僕と遊びにいくのも許さないもんね」
「しっかりした男と交際するのであれば別に構わない」

 ってことは星矢視点では僕は合格ということなのだろうか。

「おまえは顔はギリギリ、成績もギリギリ、運動もギリギリ……つまり及第点だな」
「そりゃどーも」
「妹を大切にしてくれるっての分かるから。俺は何も言わん。月夜が嫌がらない限りな」
「星矢……」
「そういう意味で現状維持ってはあんまり好かんがな」

 初詣で決めた僕と月夜の距離。恋人のような形ではない……あくまで友達以上恋人未満での距離感。
 僕が月夜に突きつけてしまったことだ。
 星矢もそういった中途半端な関係は好かないのかもしれない。

「ごめん、でも……もう少し時間をくれれば」
「そんな意味じゃないぞ」
「へ?」
「俺的にはさっさと交際して月夜の処女を奪ってくれるとありがたいということだ」
「ブホッ!」

 吹いた。

「あんなもん持ってても変な奴がやってくるだけだしな。ここらでちゃんと交際しておけば男を見る目も養われるし、将来につながる」
「君は何の話をしてるんだ?」
「大事なことだぞ。月夜は優秀ゆえに駄目な男を捕まえてしまう危険性を持っている。それは兄として避けたい。おまえだったら及第点だし、おまえの両親は素晴らしい人たちだ。文句はない」

 やばい星矢のひん曲がった子育て理論が始まったぞ。こうなったら長いんだよな。

「おまえは知ってるか? 月夜のミュージックプレイヤーにおまえの喋った言葉が入ってるの」

 それはクリスマス前に1度聞いたな。吟画山へハイキングに言った時に録音した言葉だ。確か1700回以上再生されていた気がする。

「四六時中あいつ、あのセリフ聞いてるんだぞ。試験勉強中や本読んでる時、朝9時から夜23時までずっと再生してるんだぞ。俺の頭がおかしくなりそうだった」
「そ、そう」

 それが僕の声であることはなんとも言えない。でも星矢視点だと相当きついと思う。もし、実妹が星矢のボイスを流し続けていたら……、病院を勧めるな。

「怒鳴ったおかげで最近はイヤホンで聞くようになったがそれでも毎日聞いているからな。あいつは重い。何事にも重い。ゆえに変な男を好きになる前にさっさと処女を」
「ひっ!」

 星矢の後ろからこちらに近づいてくる。美しすぎる少女。かわいいのにとても恐ろしく感じる笑顔だ。じっくりとじっくりと近づき、星矢はそれに気づかない。
 僕は恐ろしさに声が出なくなっていた。
 その少女、月夜は引きずっていた大きな椅子を振りかぶった。

「バイト先の先輩からもらったゴムをやる。これで今晩にでもやって」
「死ねぇ馬鹿兄ぃ!」
「あべしっ!」

 頭、背中を強打され神凪星矢は撃沈した。
 椅子を下ろして、兄貴を蹴飛ばして家の中に入れてドアを閉める。
 月夜はこちらを向いた。

「さぁ、太陽さん。行きましょう!」

 いつもの月夜の笑顔だった。
 僕はさっきまでの話の流れを記憶から抹消することにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...