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4章 3学期
090 コスプレ①
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「僕何してるんだろ……」
お手伝いという形でこの場所にやってきたわけだが、やはり安請け合いをすべきではなかったと思う。
そしてまた新しい女性がやってきた。
「すみません、新刊と旧刊それぞれ1部ずつ頂けますか」
「はい、えーと1000円になります」
女性は僕に1000円札を手渡し、僕は目の前にあるあまり直視したくない冊子を2冊掴んで女性に渡した。女性はほくほく顔で冊子を胸に抱え込んだ。
女性はさらに言葉をかける。
「あ、あのその格好……サン様のコスプレですよね。もし、よければ写真撮らせてもらってもいいですか?」
これで何人目だろうか。このためにこの服を着ているため僕は立ち上がり了承した。
女性はスマホで何枚か、この格好をしている僕を撮っていく。僕を撮っているではなく、衣装のキャラクターを撮っているのだ。しかし、それでも照れるなぁ。
女性と握手をし、女性は去っていった。
「ありがとうございました! ふふっ、ってぇ!?」
後ろの太ももを思いっきりつねられ、僕は苦悶の声をあげる。
振り向くと黄色の和服を着た大層美しい少女が笑顔で僕を見ている。
「嬉しそうですね、太陽さん」
「写真撮られるたびにつねるのやめてよ」
神凪月夜の笑顔はどこか闇を感じられる。最近分かったことだが月夜はかなり嫉妬深い。
女性と話すだけなら何ともないが、喜んだりすると不機嫌になる傾向がある。
後で不機嫌のことを謝られるのだが、結局、今回のようなことになるので無意識なのかもしれない。
僕は赤色を基調とした和服を着ている。といっても実際和服でも何でもなく、単純にそういった柄の着衣でしかない。
言えばキャラクターになりきったコスプレなのだ。
「月夜さん、山田さん、お疲れ様です」
「月夜、任せちゃってごめんね」
この場の主役である、弓崎さんと瓜原さんはたくさんの書物を手に帰ってきた。
すっげー量。この話は元々この2人が持ってきたことから始まる
◇◇◇
「山田さんちょっとお願いがあるのですが」
「先輩、どうしても……お願いあります」
「嫌です」
「「何でですか!?」
3学期始まってすぐ、僕は放課後の教室で弓崎さんと瓜原さんに呼び出された。
美少女2人に呼び出されたら普通有頂天になるのだけど、この2人が揃ってお願いしてきた時はロクでもないことしかない。
「君達2人がお願いしてきた時は僕も星矢も断る所から入るんだけど理由は分かるよね」
「それで来週の話なんですけど、一般誌の即売会があるのです」
弓崎さんは構わず話を続ける。聞いちゃいねぇ。何で星矢を好きな女の子って僕に対してぞんざいなんだろうか。
元を辿るとこの2人は際立った才能がある。弓崎さんは学年2位の学力で美術部に所属しており、瓜原さんは文芸部で過去に賞を取ったことがある。
弓崎さんは勉強の息抜きにイラストを描く趣味があり、瓜原さんは普段お堅い文章を書くのだが息抜きでライトな話を書くときがある。
その2人の息抜きの趣向が合致し、神凪星矢という共通の異性に恋を抱いた時とんでもないものが生み出された。
「山田先輩、これが今回の新刊です」
【太陽の兵士と星の王子の恋物語】という題名が書かれた表紙と弓崎さん作の表紙イラストが目を引く。
中身は平凡な兵士の少年サンと大国の星の国の王子であるスターロが出会う男同士の恋を書いた小説だ。もはや誰を題材にしているかすぐ分かる。ボリュームNO3と書かれているから3冊目ということだ。1冊目が発見された時、星矢と僕で詰め寄ったものだが作品は消滅しなかったらしい。
弓崎さんが綺麗に前を切りそろえた黒髪に触れ声を上げる。
「小説サイトに投稿した結果、空前のヒットになってしまいました。もうこの作品は私達だけの物じゃないのです」
「せめて……星矢とくっつきたいなら自分達をモチーフにしてよ」
「「え、恥ずかしいじゃないですか」」
「そう思うなら僕を使うな」
2人同時に言われて思わずずっこけそうになる。
2人の頼みは主人公サンの格好をして売り子をしてほしいらしい。コスプレ衣装も知り合いが準備したものを用意してくれるとか。
こーいう男同士の作品の即売会って、まず客がほぼ女性なのは間違いない。売ってる物もジャンル的に割と相容れないものである。なんとか断りたい。
「そもそも2人とも息抜きでこれ作ってたんじゃないの?」
弓崎さんも瓜原さんも教室の窓から見える空を見上げた。
「どんなに勉強しても単独1位になれないし、美術コンクールに作品送っても賞も取れないのに、息抜きイラスト描くと反響がすごいんですよね」
「私が本当に書きたい話だと入選しないのに、息抜きの小説書くと評価されて、先生って呼ばれるんですよね」
息抜きが評価されて、本当に評価されたいものが評価されない。
あると思う。でもこの2人、ノリノリなんだよな。
「遅れてごめんなさい」
「月夜さん、来てくれてありがとうございます」
月夜が教室の扉を開けてやってきた。いつも通り柔和な笑顔がとてもキュートだ。
月夜も何か関係してるのだろうか。そうすると瓜原さんが僕に耳打ちをする。
「月夜にはスターロの格好をしてもらいます。あとコスプレショーもあるので知り合いが作った服を月夜が何着か着る予定なんです」
僕の喉が鳴り、いろんな姿の月夜を想像する。
ただ一つ言えることは月夜は何を着てもすごく似合うということだ。
「この会場、男性はスタッフじゃないと入れません。山田先輩では客として入れないので売り子として来てもらう必要があります。……どうですか?」
何という悪魔の囁き。自分がモチーフになった作品を自分が売るというわけのわからないことやれというのか。
月夜の顔を見上げる。栗色の髪は今日もサラサラだ。綺麗な顔立ちは今日も告白をされ、学園のかぐや姫の異名は健在だ。
そんな月夜のコスプレ姿……撮りたい。
「くっ、やむをえない。参加……します」
「「いえい!」」
弓崎さんと瓜原さんはハイタッチで喜んだ。
そして時間は元に戻る。
お手伝いという形でこの場所にやってきたわけだが、やはり安請け合いをすべきではなかったと思う。
そしてまた新しい女性がやってきた。
「すみません、新刊と旧刊それぞれ1部ずつ頂けますか」
「はい、えーと1000円になります」
女性は僕に1000円札を手渡し、僕は目の前にあるあまり直視したくない冊子を2冊掴んで女性に渡した。女性はほくほく顔で冊子を胸に抱え込んだ。
女性はさらに言葉をかける。
「あ、あのその格好……サン様のコスプレですよね。もし、よければ写真撮らせてもらってもいいですか?」
これで何人目だろうか。このためにこの服を着ているため僕は立ち上がり了承した。
女性はスマホで何枚か、この格好をしている僕を撮っていく。僕を撮っているではなく、衣装のキャラクターを撮っているのだ。しかし、それでも照れるなぁ。
女性と握手をし、女性は去っていった。
「ありがとうございました! ふふっ、ってぇ!?」
後ろの太ももを思いっきりつねられ、僕は苦悶の声をあげる。
振り向くと黄色の和服を着た大層美しい少女が笑顔で僕を見ている。
「嬉しそうですね、太陽さん」
「写真撮られるたびにつねるのやめてよ」
神凪月夜の笑顔はどこか闇を感じられる。最近分かったことだが月夜はかなり嫉妬深い。
女性と話すだけなら何ともないが、喜んだりすると不機嫌になる傾向がある。
後で不機嫌のことを謝られるのだが、結局、今回のようなことになるので無意識なのかもしれない。
僕は赤色を基調とした和服を着ている。といっても実際和服でも何でもなく、単純にそういった柄の着衣でしかない。
言えばキャラクターになりきったコスプレなのだ。
「月夜さん、山田さん、お疲れ様です」
「月夜、任せちゃってごめんね」
この場の主役である、弓崎さんと瓜原さんはたくさんの書物を手に帰ってきた。
すっげー量。この話は元々この2人が持ってきたことから始まる
◇◇◇
「山田さんちょっとお願いがあるのですが」
「先輩、どうしても……お願いあります」
「嫌です」
「「何でですか!?」
3学期始まってすぐ、僕は放課後の教室で弓崎さんと瓜原さんに呼び出された。
美少女2人に呼び出されたら普通有頂天になるのだけど、この2人が揃ってお願いしてきた時はロクでもないことしかない。
「君達2人がお願いしてきた時は僕も星矢も断る所から入るんだけど理由は分かるよね」
「それで来週の話なんですけど、一般誌の即売会があるのです」
弓崎さんは構わず話を続ける。聞いちゃいねぇ。何で星矢を好きな女の子って僕に対してぞんざいなんだろうか。
元を辿るとこの2人は際立った才能がある。弓崎さんは学年2位の学力で美術部に所属しており、瓜原さんは文芸部で過去に賞を取ったことがある。
弓崎さんは勉強の息抜きにイラストを描く趣味があり、瓜原さんは普段お堅い文章を書くのだが息抜きでライトな話を書くときがある。
その2人の息抜きの趣向が合致し、神凪星矢という共通の異性に恋を抱いた時とんでもないものが生み出された。
「山田先輩、これが今回の新刊です」
【太陽の兵士と星の王子の恋物語】という題名が書かれた表紙と弓崎さん作の表紙イラストが目を引く。
中身は平凡な兵士の少年サンと大国の星の国の王子であるスターロが出会う男同士の恋を書いた小説だ。もはや誰を題材にしているかすぐ分かる。ボリュームNO3と書かれているから3冊目ということだ。1冊目が発見された時、星矢と僕で詰め寄ったものだが作品は消滅しなかったらしい。
弓崎さんが綺麗に前を切りそろえた黒髪に触れ声を上げる。
「小説サイトに投稿した結果、空前のヒットになってしまいました。もうこの作品は私達だけの物じゃないのです」
「せめて……星矢とくっつきたいなら自分達をモチーフにしてよ」
「「え、恥ずかしいじゃないですか」」
「そう思うなら僕を使うな」
2人同時に言われて思わずずっこけそうになる。
2人の頼みは主人公サンの格好をして売り子をしてほしいらしい。コスプレ衣装も知り合いが準備したものを用意してくれるとか。
こーいう男同士の作品の即売会って、まず客がほぼ女性なのは間違いない。売ってる物もジャンル的に割と相容れないものである。なんとか断りたい。
「そもそも2人とも息抜きでこれ作ってたんじゃないの?」
弓崎さんも瓜原さんも教室の窓から見える空を見上げた。
「どんなに勉強しても単独1位になれないし、美術コンクールに作品送っても賞も取れないのに、息抜きイラスト描くと反響がすごいんですよね」
「私が本当に書きたい話だと入選しないのに、息抜きの小説書くと評価されて、先生って呼ばれるんですよね」
息抜きが評価されて、本当に評価されたいものが評価されない。
あると思う。でもこの2人、ノリノリなんだよな。
「遅れてごめんなさい」
「月夜さん、来てくれてありがとうございます」
月夜が教室の扉を開けてやってきた。いつも通り柔和な笑顔がとてもキュートだ。
月夜も何か関係してるのだろうか。そうすると瓜原さんが僕に耳打ちをする。
「月夜にはスターロの格好をしてもらいます。あとコスプレショーもあるので知り合いが作った服を月夜が何着か着る予定なんです」
僕の喉が鳴り、いろんな姿の月夜を想像する。
ただ一つ言えることは月夜は何を着てもすごく似合うということだ。
「この会場、男性はスタッフじゃないと入れません。山田先輩では客として入れないので売り子として来てもらう必要があります。……どうですか?」
何という悪魔の囁き。自分がモチーフになった作品を自分が売るというわけのわからないことやれというのか。
月夜の顔を見上げる。栗色の髪は今日もサラサラだ。綺麗な顔立ちは今日も告白をされ、学園のかぐや姫の異名は健在だ。
そんな月夜のコスプレ姿……撮りたい。
「くっ、やむをえない。参加……します」
「「いえい!」」
弓崎さんと瓜原さんはハイタッチで喜んだ。
そして時間は元に戻る。
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