上 下
88 / 162
3章 2学期

086 みんなと初詣③

しおりを挟む
「もう……」

 初めに声を上げたのは月夜の方だった。

「駄目ですよ、あんな感じで腕を引っ張っちゃ」
「あ、ごめん」
「この振袖……本当にお高いらしいです。汚したりしたら私……体を売らなきゃいけなくなります」
「え!?」
「冗談です」

 月夜は両手を口に当て、小さく声を上げて笑った。場を和ませてくれたのかな。
 でも振袖が高いのは事実だろう。九土さんも力を入れたみたいだったし。やっぱり人込みの中突っ切ったのはよくなかったかもしれない。
 
 まずが僕は言わなきゃいけないことが1つある。
 僕は大きく息を吸った。

「その振袖すごく似合ってて、かわいい」
「っ!」
「その……会うたびかわいい、綺麗とか言ってて……正直他の語彙が浮かばなくて……会った時無言になってごめん」

 月夜は両手を胸のあたりで組んで照れたように頬を緩めていた。

「私は何度でも嬉しいです。太陽さんにかわいいって言ってもらえる……それだけで嬉しいですよ」

 ああ、もうその仕草もかわいい。この心の内の言葉を放り出したい。
 こんなに理想的な女の子が目の前にいるのに僕は……何でクールで男らしい対応ができないんだろう。

「出来る限り無言にならないようにするよ、出来る限り」
「私も……」

 月夜は首を少し下げ、言葉を繋げる。

「太陽さんの袴姿に見惚れてました。すっごくかっこよくて……声が出ませんでした」
「ん!」

 そ、そんなの言われたのは初めてだよ。
 誰しもが星矢しか見ていない状況で……僕を見てくれる。こんなに嬉しいこと……あるのだろうか。

「あ、ありがとう」
「いえ…‥」

 僕と月夜を互いを褒めて、そこで止まってしまう。
 駄目だこれじゃさっきまでと同じだ。何とかしないと……。僕は懐に入れてあった、カメラを取り出した。

「しゃ、写真を撮ろう。いいかな!」
「駄目って言っても撮るじゃないですか」
「そうなんだけど……撮るよ!」

 月夜は振袖姿でポーズを取ってくれる。その素晴らしい被写体をファインダーに入れて何度も何度もシャッターを切った。
 10枚以上撮っただろうか、少しだけ落ち着いてきたかも。

「太陽さんの袴姿も一緒に撮りたいです。タイマーとかできないですか?」

 ちょっと恥ずかしいけど、月夜の要望は応えてあげたい。
 元々集合写真は撮るつもりだったので三脚セットは持ってきていた。三脚を組み立て、タイマーをセットする。
 月夜の横に並んで……引きつった笑顔を浮かべる。
 そのまま何枚か撮って、月夜に見せた。

「この写真、後で下さいね」

 月夜はご満悦のようだ。カメラを再付け…‥高台から拝殿の様子を見下ろす。
 まだまだ人は多い。星矢たちもさすがに到着できていない可能性があるな。
 時間はまだある。もう少し2人で話したい。

「太陽さん、クリスマスの話を覚えてますか。友達って言った話……」
「ああ、覚えているよ」
「あれ、私の話なんです」

 知ってるよ。と言っていいのだろうか。月夜は話を続ける。

「今でも太陽さんは変わりませんか?」

 僕の奥底に眠る星矢や月夜に対する劣等感……。それはそう簡単に無くなりましたなんて言えるものじゃない。
 月夜を悲しませたくないなら……変わったというべきなのかもしれない。でもそれは結局騙していることになる。

「ごめん、まだ変えられそうにない。僕は……心地よい、今までの関係を望んでしまっている」
「そうですか!」

 月夜は予想とは裏腹に笑みを浮かべた。

「だったら方法を変えるまでです。身近にお兄ちゃんというモデルケースがありますからね。長い目で見てやります」

 まだ積極的に攻めてくるということだろうか。肉体的接触は理性がやばくなるからご遠慮願いたいけど……それくらいであれば……僕も拒否もできないかな。
 星矢も僕もすごい子に好かれちゃったのかな。

「お正月が終わって……学校が始まったら……またいっぱい遊びにいきましょう」
「そうだね、次はどこへ行こうかまた考えないとね」
「あ、クリスマスプレゼントの【空を目指して姫は踊る】の初版1巻読みましたよ。もう10回くらい読みました」
「どうだった? プレゼントしたから僕も……読んでないんだよね」
「違う解釈があってすごく楽しかったです。太陽さんにも早く読んでもらいたいです」
「そうか……それは楽しみだな」
「あ、じゃあ……今日来ますか! お兄ちゃんもバイトでいないし、暇なので」
「……もしかしてまたあの超ミニスカートで迫ってくるとか?」
「しませんよ!! だから私はえっちな子じゃないって言ってるじゃないですか!」

「はは……」
「ふふ……」

 僕と月夜はお互いを見て、互いに笑う。
 ああ、この関係だ。僕は月夜とこのままでい続けたい。
 月夜は1歩進み、僕の手を取った。

「そろそろみんなの所に戻りましょう。そして初詣に行きましょ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...