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3章 2学期
086 みんなと初詣③
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「もう……」
初めに声を上げたのは月夜の方だった。
「駄目ですよ、あんな感じで腕を引っ張っちゃ」
「あ、ごめん」
「この振袖……本当にお高いらしいです。汚したりしたら私……体を売らなきゃいけなくなります」
「え!?」
「冗談です」
月夜は両手を口に当て、小さく声を上げて笑った。場を和ませてくれたのかな。
でも振袖が高いのは事実だろう。九土さんも力を入れたみたいだったし。やっぱり人込みの中突っ切ったのはよくなかったかもしれない。
まずが僕は言わなきゃいけないことが1つある。
僕は大きく息を吸った。
「その振袖すごく似合ってて、かわいい」
「っ!」
「その……会うたびかわいい、綺麗とか言ってて……正直他の語彙が浮かばなくて……会った時無言になってごめん」
月夜は両手を胸のあたりで組んで照れたように頬を緩めていた。
「私は何度でも嬉しいです。太陽さんにかわいいって言ってもらえる……それだけで嬉しいですよ」
ああ、もうその仕草もかわいい。この心の内の言葉を放り出したい。
こんなに理想的な女の子が目の前にいるのに僕は……何でクールで男らしい対応ができないんだろう。
「出来る限り無言にならないようにするよ、出来る限り」
「私も……」
月夜は首を少し下げ、言葉を繋げる。
「太陽さんの袴姿に見惚れてました。すっごくかっこよくて……声が出ませんでした」
「ん!」
そ、そんなの言われたのは初めてだよ。
誰しもが星矢しか見ていない状況で……僕を見てくれる。こんなに嬉しいこと……あるのだろうか。
「あ、ありがとう」
「いえ…‥」
僕と月夜を互いを褒めて、そこで止まってしまう。
駄目だこれじゃさっきまでと同じだ。何とかしないと……。僕は懐に入れてあった、カメラを取り出した。
「しゃ、写真を撮ろう。いいかな!」
「駄目って言っても撮るじゃないですか」
「そうなんだけど……撮るよ!」
月夜は振袖姿でポーズを取ってくれる。その素晴らしい被写体をファインダーに入れて何度も何度もシャッターを切った。
10枚以上撮っただろうか、少しだけ落ち着いてきたかも。
「太陽さんの袴姿も一緒に撮りたいです。タイマーとかできないですか?」
ちょっと恥ずかしいけど、月夜の要望は応えてあげたい。
元々集合写真は撮るつもりだったので三脚セットは持ってきていた。三脚を組み立て、タイマーをセットする。
月夜の横に並んで……引きつった笑顔を浮かべる。
そのまま何枚か撮って、月夜に見せた。
「この写真、後で下さいね」
月夜はご満悦のようだ。カメラを再付け…‥高台から拝殿の様子を見下ろす。
まだまだ人は多い。星矢たちもさすがに到着できていない可能性があるな。
時間はまだある。もう少し2人で話したい。
「太陽さん、クリスマスの話を覚えてますか。友達って言った話……」
「ああ、覚えているよ」
「あれ、私の話なんです」
知ってるよ。と言っていいのだろうか。月夜は話を続ける。
「今でも太陽さんは変わりませんか?」
僕の奥底に眠る星矢や月夜に対する劣等感……。それはそう簡単に無くなりましたなんて言えるものじゃない。
月夜を悲しませたくないなら……変わったというべきなのかもしれない。でもそれは結局騙していることになる。
「ごめん、まだ変えられそうにない。僕は……心地よい、今までの関係を望んでしまっている」
「そうですか!」
月夜は予想とは裏腹に笑みを浮かべた。
「だったら方法を変えるまでです。身近にお兄ちゃんというモデルケースがありますからね。長い目で見てやります」
まだ積極的に攻めてくるということだろうか。肉体的接触は理性がやばくなるからご遠慮願いたいけど……それくらいであれば……僕も拒否もできないかな。
星矢も僕もすごい子に好かれちゃったのかな。
「お正月が終わって……学校が始まったら……またいっぱい遊びにいきましょう」
「そうだね、次はどこへ行こうかまた考えないとね」
「あ、クリスマスプレゼントの【空を目指して姫は踊る】の初版1巻読みましたよ。もう10回くらい読みました」
「どうだった? プレゼントしたから僕も……読んでないんだよね」
「違う解釈があってすごく楽しかったです。太陽さんにも早く読んでもらいたいです」
「そうか……それは楽しみだな」
「あ、じゃあ……今日来ますか! お兄ちゃんもバイトでいないし、暇なので」
「……もしかしてまたあの超ミニスカートで迫ってくるとか?」
「しませんよ!! だから私はえっちな子じゃないって言ってるじゃないですか!」
「はは……」
「ふふ……」
僕と月夜はお互いを見て、互いに笑う。
ああ、この関係だ。僕は月夜とこのままでい続けたい。
月夜は1歩進み、僕の手を取った。
「そろそろみんなの所に戻りましょう。そして初詣に行きましょ!」
初めに声を上げたのは月夜の方だった。
「駄目ですよ、あんな感じで腕を引っ張っちゃ」
「あ、ごめん」
「この振袖……本当にお高いらしいです。汚したりしたら私……体を売らなきゃいけなくなります」
「え!?」
「冗談です」
月夜は両手を口に当て、小さく声を上げて笑った。場を和ませてくれたのかな。
でも振袖が高いのは事実だろう。九土さんも力を入れたみたいだったし。やっぱり人込みの中突っ切ったのはよくなかったかもしれない。
まずが僕は言わなきゃいけないことが1つある。
僕は大きく息を吸った。
「その振袖すごく似合ってて、かわいい」
「っ!」
「その……会うたびかわいい、綺麗とか言ってて……正直他の語彙が浮かばなくて……会った時無言になってごめん」
月夜は両手を胸のあたりで組んで照れたように頬を緩めていた。
「私は何度でも嬉しいです。太陽さんにかわいいって言ってもらえる……それだけで嬉しいですよ」
ああ、もうその仕草もかわいい。この心の内の言葉を放り出したい。
こんなに理想的な女の子が目の前にいるのに僕は……何でクールで男らしい対応ができないんだろう。
「出来る限り無言にならないようにするよ、出来る限り」
「私も……」
月夜は首を少し下げ、言葉を繋げる。
「太陽さんの袴姿に見惚れてました。すっごくかっこよくて……声が出ませんでした」
「ん!」
そ、そんなの言われたのは初めてだよ。
誰しもが星矢しか見ていない状況で……僕を見てくれる。こんなに嬉しいこと……あるのだろうか。
「あ、ありがとう」
「いえ…‥」
僕と月夜を互いを褒めて、そこで止まってしまう。
駄目だこれじゃさっきまでと同じだ。何とかしないと……。僕は懐に入れてあった、カメラを取り出した。
「しゃ、写真を撮ろう。いいかな!」
「駄目って言っても撮るじゃないですか」
「そうなんだけど……撮るよ!」
月夜は振袖姿でポーズを取ってくれる。その素晴らしい被写体をファインダーに入れて何度も何度もシャッターを切った。
10枚以上撮っただろうか、少しだけ落ち着いてきたかも。
「太陽さんの袴姿も一緒に撮りたいです。タイマーとかできないですか?」
ちょっと恥ずかしいけど、月夜の要望は応えてあげたい。
元々集合写真は撮るつもりだったので三脚セットは持ってきていた。三脚を組み立て、タイマーをセットする。
月夜の横に並んで……引きつった笑顔を浮かべる。
そのまま何枚か撮って、月夜に見せた。
「この写真、後で下さいね」
月夜はご満悦のようだ。カメラを再付け…‥高台から拝殿の様子を見下ろす。
まだまだ人は多い。星矢たちもさすがに到着できていない可能性があるな。
時間はまだある。もう少し2人で話したい。
「太陽さん、クリスマスの話を覚えてますか。友達って言った話……」
「ああ、覚えているよ」
「あれ、私の話なんです」
知ってるよ。と言っていいのだろうか。月夜は話を続ける。
「今でも太陽さんは変わりませんか?」
僕の奥底に眠る星矢や月夜に対する劣等感……。それはそう簡単に無くなりましたなんて言えるものじゃない。
月夜を悲しませたくないなら……変わったというべきなのかもしれない。でもそれは結局騙していることになる。
「ごめん、まだ変えられそうにない。僕は……心地よい、今までの関係を望んでしまっている」
「そうですか!」
月夜は予想とは裏腹に笑みを浮かべた。
「だったら方法を変えるまでです。身近にお兄ちゃんというモデルケースがありますからね。長い目で見てやります」
まだ積極的に攻めてくるということだろうか。肉体的接触は理性がやばくなるからご遠慮願いたいけど……それくらいであれば……僕も拒否もできないかな。
星矢も僕もすごい子に好かれちゃったのかな。
「お正月が終わって……学校が始まったら……またいっぱい遊びにいきましょう」
「そうだね、次はどこへ行こうかまた考えないとね」
「あ、クリスマスプレゼントの【空を目指して姫は踊る】の初版1巻読みましたよ。もう10回くらい読みました」
「どうだった? プレゼントしたから僕も……読んでないんだよね」
「違う解釈があってすごく楽しかったです。太陽さんにも早く読んでもらいたいです」
「そうか……それは楽しみだな」
「あ、じゃあ……今日来ますか! お兄ちゃんもバイトでいないし、暇なので」
「……もしかしてまたあの超ミニスカートで迫ってくるとか?」
「しませんよ!! だから私はえっちな子じゃないって言ってるじゃないですか!」
「はは……」
「ふふ……」
僕と月夜はお互いを見て、互いに笑う。
ああ、この関係だ。僕は月夜とこのままでい続けたい。
月夜は1歩進み、僕の手を取った。
「そろそろみんなの所に戻りましょう。そして初詣に行きましょ!」
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