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3章 2学期

072 アルバイト①

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 11月下旬のある金曜日。
 僕と月夜は部活動が終わり帰る所だった。

「やっぱりだめ」
「瓜原さん、心配だね」

 月夜の親友、瓜原さんが今日風邪休んでしまったようだ。元々今日、月夜は瓜原さんの家で泊まる予定だったらしい。
 親友の病気も心配だが、そっちも残念だね。明日世良さんと見舞いにいくと言う。僕も一言メールを送っておくかな。

「そうなると晩御飯どうしようかな」
「星矢は遅いの?」
「今日は遅番だから食事はいらないって言われて……私も元々泊まる予定だったから家に食材がからっぽなんです」

 土曜日にまとめて買い物に行きたいので今日帰りに食材を買うのは止めたいという。
 備蓄の食糧はあるだろうから今日くらい何とかなるだろう。

「……そういえば僕も今日、両親がいなかったな」
「そうなんですか?」
「妹も友達のとこに泊まるって言ってたし、どうしようかな」

 僕も月夜も晩御飯に困っている。そうなると一つしかないか。

「よかったら冷やかしにいかないか?」
「え? ああ、たまにはいいですね」

【ファストリア】 俗にいうファミリーレストランのチェーン店である。
 友人と来るとドリンクバーで何時間も粘ることはよくあるよね。学校からは少し離れているが僕と月夜にとっては結構馴染みの店だ。
 自動ドアをくぐるとすっごいイケメンの店員さんが出迎えてくれた。

「いらっしゃいませー!! チッ」
「いきなり舌打ちするのやめろよ」
「もう、お兄ちゃん!」

 この店は神凪星矢がバイトしている店である。
 星矢が高校1年生の時からバイトをしていて、もう1年半以上になるのだろうか。星矢だったらモデルとかの方が儲かると思うんだけどね。
 星矢的にはこの店は給料が悪くない、学校から寄れる距離、人間関係も悪くない、店長がチョロイらしい。いいのかどうかわからん。

 神凪星矢の業務的な完璧仮面笑顔が見れるのはここだけである。

「何しに来た。また暇つぶしか」
「今日は晩御飯食べに来たんだよ。ねぇ月夜」
「月夜、おまえは木乃莉……ああ、そういうことか」

 登校時に瓜原さんが休んでいたことを星矢は思い出し把握する。
 星矢はホールと調理どっちもやっているらしい。本来男は調理がメインらしいが、あの顔だからね。表に出す方が客が増える。
 今日はまだそんなに混んでいないためホール制服を着た星矢にソファ席を案内される。僕と月夜は着席した。

「あの……月夜さん」
「何ですか?」
「どうして……僕の隣にいるの?」

 この席は6人席である。2人で使う場合は対面で座るのが普通だと思うが、なぜか月夜は僕の隣に陣取る。
 隣でも3人座れるソファの両端なら分かる。でも僕が奥で月夜が真ん中の席にいるのだ。正直狭いよね。

「私が隣にいちゃ駄目ですか?」

 月夜は柔和な笑みで問いかけてくる。そんなかわいい顔でお願いされて駄目と言えるわけもない。
 僕は可能な限り、奥に寄るが、月夜は構わず僕の腕に当たるぐらいにくっつく。

「太陽さん、何食べますか」
「そ、そうだね」

 あの写生の日から月夜の積極性が上がった気がする。わりと毎日SNSで連絡が来るし。休みの日とかも用事を聞かれるし、登校の時は常に横にいる。
 誰も言わないがもう……これ交際レベルじゃない!?
 いや、止めよう。童貞特有の都合の良い妄想はすべきじゃない。僕は月夜の兄の親友として……彼女に接しなくてはいけないのだ。

「こちらサービスのトロピカルジュース。カップル用です」

 このクソ兄貴、何を持ってきてんだ。
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