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2章 8月下旬

036 月夜と夏祭り①

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 自然公園に到着し、僕と星矢は車を降りる。ちょうどこの前の土曜日に月夜と歩いたっけ。
 ……月夜の浴衣姿が正直、楽しみすぎている。この前変態とも言われたことだし、また写真を撮らせてもらおう。もう何も怖くない。
 集合場所は屋台が立ち並ぶ区画の前、結構広々としており、待ち合わせ場所としては有名だ。

「相変わらず人が多いな。俺は祭りに興味がないんだが」
「祭りには興味ないけど女の子には興味あるもんな」

 図星だったのか星矢を口を閉ざした。昨年はまだこのグループ自体がなかったので星矢は家にいて、僕も適当な男子グループとまわり、月夜は幼馴染の3人でまわったらしい。
 それがあっという間に10人のグループだよ。星矢ハーレムズ恐ろしい。
 しかし、遅いなぁ。そろそろ花火が始まる1時間前だよ。ここで待っているのもめんどくさい。理由は1つ。

「あの~、お1人ですか?」
「ん?」
「違います。この人6人くらい女を囲っているのでやめてあげてください」

 星矢をナンパする肉食系女子が多いこと多いこと。そういう奴に限って僕の存在は目に入っていない。

「おまえのその言い方なんとかしろ。俺が女ったらしみたいだろ」
「まぁ星矢は悪くないのは知ってるよ。でも言わずにはいられない」
「理不尽なことを……」

 星矢ハーレムズといっても星矢は何も複数の女に粉をかけてちゅーぶらりんこにしているわけではない。
 水里さんは知らないが、他の5人には実は一度星矢に告白しているのだ、当然全員いろいろあって星矢は告白を断っている。それでも諦められず彼女達は星矢にアプローチをしている。
 星矢からすれば告白をちゃんと返したのだからハーレムなんて言葉は心外なのだろう。気持ちは分かるがモテない男としては言いたくなるものなんです。
 当然、僕も本気で言ってるわけではなく、からかいのつもりで言ってるだけだ。

「おお!」

 何か公園の入口から歓声が上がってるな。なんだ?

「なんだ、あれ」
「すっげー美人の団体」
「あれ【Ice】のひーちゃんじゃね」
「栗色の髪の子やべぇ……」
「あんな綺麗な霞色初めてみた」

 これだけでどの団体が来たのかが分かる。口々に賞賛の声を投げかけられてこちらへやってきた。

「みんな1人の男の前で止まったぞ」
「あの人すんごいイケメン」
「いいなぁ……あんな人と喋ってみたい」
「あいつ1人であの全員と相手するんのかよ」

 当然のように僕の姿はステルスとなる。帰れとか言われるよりはマシだけどね。
 ひゅー。
 いいね、いいね。浴衣美人。見れるだけでも僕としては本望だよ。
 水里さん、北条さん、弓崎さん、瓜原さん、九土さん、世良さん、天野……ひーちゃん。みんな個性豊かで浴衣が似合っている。
 僕に対してまったく好意がないってわかっているけど照れてしまうね。好意を向けられている星矢は特にむず痒く感じるだろう。

 そして一番奥には……月夜がいた。

 明るい黄色をベースとし、花柄の模様が清楚はイメージを持つ。髪も結ってまとめており、いつもは見えない、耳やうなじが見える。
 純粋にとてもかわいい。前の土曜日のデートの時はまた違ったかわいさがある。
 月夜は学校の他の1年生と出会って、話をしている。女子達から口々に投げかけられるかわいいという言葉、月夜は笑顔でありがとうと返している。
 月夜のかわいさに見惚れた男子達も月夜をどんと褒める。これだけかわいいと言われたらかわいいに飽きてしまいそうだな。

 タイミングを逃してしまったかも。

「太陽くん、月夜ちゃんに声かけないの?」

 水里さんだ。青柄の浴衣は亜麻色の髪によく似合っている。この人も喋らなきゃ完璧だよな。

「いや、後でいいかな」
「後などない」

 水里さんに腕を引っ張られ、強制的に月夜の所に行かされる。まだ他の生徒と話しているし、恥ずかしいんだけど。

「ちょっとごめんね~」

 水里さんは今度は月夜の腕を掴んで無理やり、こっちに持ってきた。
 屋台街のすぐ側まで来て、ようやく月夜と対面できた気がする。

「月夜ちゃん、ちょーかわいいよね~。ねっ!」

 水里さんは煽るように声をあげた。さっきの星矢と九土さんの時みたいじゃないか。
 自分が関係する時はかわいいなんて言葉を伝えらえない。髪を整え、いつもと雰囲気の違う月夜と目が合う。
 ほんとかわいいんだよ。全力でかわいいって叫びたい。月夜も目線の先が安定せず、キョロキョロしてる。
 別に言っても問題はない。カワイイなんて1000回は言われてるんだ。僕が言った所で1001回になるだけだ。
 僕は息を吸う。

「太陽さん……ど、どうですか」
「あ、ああ、月夜」

 口がうまく動かない。でもちゃんと伝えないと、勇気を振り絞った。

「あ、ああ、浴衣よく……似合ってる」
「はい……」
「すごくかわいいよ」
「―――――っ!!」

 月夜は顔を真っ赤にさせ、両手をすぐ頬にあて、顔を下に背けた。

「やっぱ、雑多な1000回のかわいいより、真の1回のかわいいだよね」

 水里さんは何か口を動かしたようだが周りが騒がしくて何も聞こえなかった。
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