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第11章 奈落の底を大掃除

21 今後の展望

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 無事会議を終えたらしい颯月達へ今後の展望について掻い摘んで話せば、ひとまず「一旦王都へ戻れるなら文句はない」という至極シンプルな回答が返って来た。
 恐らく彼らもまた、創造神の無茶振りにはすっかり慣れっこなのだろう。何せ綾那が体調を崩してからというもの、ルシフェリアの無茶振りには遠慮と容赦がない。

「禅が戻れば――あとアリスと渚、白虎もか。とにかく、全員集まったら馬車と一緒に「転移」すれば良いんだな?」
「そうだねえ。分かっているとは思うけれど、君にはヘリオドール領まで同行してもらわないといけないから……どうにしかして、騎士団のお友達やパパさん達を説得してね」

 当然のように颯月をスカウトするルシフェリアに、陽香が「オキニだからって、良い事ばかりじゃあねえんだな……」と呟いた。今回こうしてルベライトまで陽香を救出しにやって来た事もそうだが、彼はもこき使われる事が決まっているらしい。

 まあ、ルシフェリアのお気に入りその一である綾那が問答無用で振り回されるのだから、それを保護監督する事を生き甲斐としている颯月に「ついて行かない」という選択肢はないのだろう。
 しかも今回ヘリオドール領まで何をしに行くのかと言えば、「悪魔を倒します」である。悪魔憑きほどではないにしろ、それでも十分強力な魔法を使うという悪魔。ヴィレオールは『雷』属性の管理者だが、それだけでなく闇魔法まで扱える。

 闇魔法というのは、人の精神に作用するものが多いそうだ。催眠、洗脳系の恐ろしいもの――それこそ、東部アデュレリア領の領主一家がその影響下にある。南部セレスティン領の領主だって、渚にグーで頬をぶたれるまでは洗脳されていたらしい。
 そんな相手と、魔法を一切使えない妻が対峙すると言うのだから――それは心配して当然だろう。

「ヘリオドールに行く人選は? また颯だけでなく禅まで連れていかれるとなると、残される側としてはかなり気合いが要るんだけどよ……」

 幸成が目を眇めて訊ねれば、ルシフェリアは「うーん」と腕を組んだ。そうして少し間を空けた後、ちらりと颯月を見やる。

「――ねえねえ、が入るのと入らないの、どっちが良い?」
「………………俺はアンタの方針に従うつもりだが?」
「そう? 僕としては、どっちでもそれなりの結果が得られるかなって思っているんだけれど――君の好みはどちらかなって」
「待て待て、邪魔ってなんだよ? これから悪魔退治をしに行くって言うのに……まさか、この二人に新婚旅行をプレゼントしようって訳じゃあないだろ? どんな縁起の悪いハネムーンだっつーの」

 ルシフェリアと颯月のやりとりを見て、陽香が呆れた様子で首を傾げた。二人にしか分からないような、意味深な会話は――片方が食えない天使だけあって――気味が悪く、つい身構えてしまう。
 特に綾那は、つい先刻颯月本人からルシフェリアとなんらかの契約を結んでいる事、そして綾那にも迷惑をかける可能性があるという話を聞かされているから、余計心配になる。

 何やら心配になってしまって、綾那は颯月の手に指を絡めた。すると、いつもと変わらぬ甘く緩んだ目で見下ろされて胸を撫でおろす。
 ――ルシフェリアはともかくとして、他でもない彼が綾那に妙な隠し事をするはずがない。この天使の思惑に巻き込まれている事は確かだろうが、恐らくそう危険なものではない。

 すっかり安堵して微笑んでいると、ソファに腰掛けた幼女から「ねえ、さっきから凄い失礼な事ばかり考えている自覚、ある?」と不服そうな声が飛んで来た。勝手に人の頭の中を覗いておいて、抗議するのもどうかと思う。

「とにかく――そうだなあ。赤毛の子の言う通り、こんな物騒なハネムーンはひとつも笑えないから……そういう話ではなくて。まあ、うん、それじゃあ最小限で行こうか?」

 ルシフェリアは気を取り直したようにソファの上に仁王立ちすると、「君」と言いながら一人一人指差していく――と言っても、指差されたのはたったの二人。綾那と颯月だけだった。
 そこでぴたりと止んだ呼びかけに、目を丸めた陽香が「オイオイ」と声を上げる。

「曲がりなりにも、悪魔と戦うんだろ? 颯様はともかくとして、アーニャは役に立たないんじゃあ――ああ、いや。まさか、また蜘蛛の踊り食い的な話か? 鬼だな、シア!」
「――ええっ!? そ、そうなんですか!?」
「いやいや、もうあんな真似はしないってば……言ったでしょう? 君はあの時にいっぱい頑張ったから、こうして幸せに暮らせているんだ。それはこれからも続くし、安心して良いよ」
「そ、それなら、良いんですけど……」

 すっかり酷いトラウマになっているので、綾那は頼りない表情を浮かべながら颯月の腕に抱き着いた。

「まあまあ、不安に思う気持ちはよく分かるけれど、なんの問題もないよ。もちろん僕も一緒について行くし、ヴェゼルも連れて行くし……確か、青龍まで連れて行くと騎士団が大変なんでしょう? じゃあもう、いっそ二人だけの方が楽で早いかなって」
「……あと、師匠も来るんだろ? どうせ」
「うん? あ~……どうかな。まあ、そうかもね」
「それなら確かに、安心だろうけどよ……てか、そうなると逆に、なんでアーニャまで連れて行くのかって方が気になってくる」

 ルシフェリアの思惑を暴こうと躍起になっているらしく、陽香はまるで見定めるように幼女を注視している。しかし、肝心のルシフェリアはニマニマと笑うばかりで、こちらの想定が合っているのか否かも判別できない。

「正直、まだ行った事のない西部をカメラに収めたかったんだけど……なんか、「邪魔」と言われると気乗りしねえな。コイツの予知、シャレになんねえし」
「ヘリオドールまで旅行するのはこの先いくらでもできるから、平気だよぉ。とりあえず君は今回の騒動で疲れているんだから、暖かい王都でゆっくり休んだら? そろそろ痩せすぎて死んじゃうよ?」
「本当に、シャレにならんのよなぁ……」

 あんまりにもな言い草に、陽香は頭痛を堪えるような表情になった。寒空の下大量の眷属に追われ続けて、ずっとギフト「軽業師アクロバット」を発動し続けて――彼女の今日一日のカロリー消費量は、いかほどか。
 確かに、すぐさま暖かい場所でゆっくり休んで、そしてたらふく食事を摂らなければ冗談抜きで倒れてしまいそうだ。

「レオがどんな悪魔なのかも気になるのに……ここは、アーニャに撮影を丸投げするしかねえか」
「あ、うん、分かった! 頑張るね」
「あと、言っても仕方がねえとは思うけど――わざわざお前まで呼び出されるって事は、蜘蛛の踊り食いはないにしろ、アーニャにしかできねえをやらせる気だぞ。よくよく気を付けろよな」

 陽香の忠告に、にんまりと笑ったルシフェリアが「君って本当、短慮に見えて鋭いよねぇ」と明るい嫌味を発したのであった。
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