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第5章 奈落の底で絆を深める
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綾那は鞄の中から「水鏡」の仮面を取り出すと、アリスに手渡した。そして、「なにこれ!?」と戸惑いつつも大慌てで仮面を付ける彼女を背に庇いながら、ヴェゼルと対峙する。
「なんで街の外に出てるんだよ、探しただろ! ……ルシフェリアが、お前らに話したい事あるって」
綾那達の前で足を止めたヴェゼルは、腰に手を当てると大きなため息を吐き出した。「ルシフェリアは「自分で探せ」って言って、お前らの場所を教えてくれないし」と、機嫌悪そうに目を細めている。
その言葉と態度に、陽香が目を瞬かせた。
「――んあ? シア……? ゼルお前、アリスに会いに来たんじゃないのか?」
次はヴェゼルが目を瞬かせて、「アリスって誰だ?」と首を傾げる。以前、彼の前でアリスの名を口に出した事もあるはずなのだが――綺麗さっぱり忘れているのだろうか。
子は親に似ると言うが、もしかすると彼もルシフェリアと同様、人の名前を覚えるのが苦手なのかも知れない。
綾那と陽香は顔を見合わせると、囁くような声色で現状の把握に努める。
「てっきり「偶像」に釣られて来たと思ったのに――もしかして、スッピンだから分からねえとか?」
「いや、「表」に出てきたのはヴェゼルさんの手足だけだったから、アリスの姿まで把握していないと思う。それに「偶像」があれば、姿なんて関係ないはずじゃ……?」
「って事は、やっぱアリスのヤツ……ギフトが全部使えなくなってるって事だよな」
導き出された答えに、しかし新たな謎が生まれる。
ルシフェリアにギフトを奪われるまでは、綾那も陽香も奈落の底だろうと問題なくギフトを使えていたのだ。それが何故、アリスだけ使えないのか。
彼女の知らぬ内にギフトを吸収されているとすれば、一体どこの誰に奪われたのか。
「何コソコソ話してんだよ? ……てか、お前! 全っ然遊んでくれないよな!! あまりにもお前が会いに来ないから、教会の人間共も「もう嫌われたんだ」って言ってたぞ!」
「え!?」
「合成魔法の感想も言いに来ねえし、遊びにも来なくなったって! サイテーだぞ、この口だけ女!」
吠えるヴェゼルに指差されて、綾那は目を白黒させた。何やら綾那の知らぬ間に、彼は悪魔憑きの子供達と仲良くなっているらしい。
そもそも、子供達が悪魔憑きになる『原因』を作った悪魔と仲良くなるってどうなのだ、と思わなくもないが――まあ、下手に争って血で血を洗うような戦いが始まるよりかは、良いだろう。
(でもそんな風に思われていたなんて、少しショックだな……)
綾那だって気力と体力さえあれば、教会の子供達はもちろん、ヴェゼルとも遊んでやりたい。しかし、今は昼夜逆転生活の真っ只中。心身ともにボロボロで、颯月とも四六時中一緒に居なければならない。彼の仕事が立て込んでいる内は、私的な外出もままならないのである。
「ご、ごめんなさい。私もこの光魔法が落ち着いたら、一緒に遊びたいのですけど……って言うか、子供達がそんな心配を? 絶対にまた会いに行くから、どうかもう少し待っていてと伝えて欲しいです」
綾那がしょんぼりと肩を落として項垂れれば、ヴェゼルは「本当だろうな?」と目を眇めて鼻を鳴らした。
「――とりあえず、アリスがヴェゼルの目当ての女だって気付いてねえなら……面倒くさいし、一旦このまま濁すか」
囁かれた陽香の言葉に頷いて、綾那は「そうだね」と呟いた。すると、突然ヴェゼルが何もない宙を注視し始める。恐らく、ルシフェリアに何か言われているのだろう。
ヴェゼルはややあってから綾那達に向き直ると、おもむろに口を開いた。
「ええと……「アイドルが欲しい」って言ってる」
「……おい、ゼル。お前ちゃんと訳してんのか? 結構長い間があった割に、えらく簡潔じゃねえか」
「う、うるさいな! ルシフェリアの言う事は、ちょっと難しいんだ――」
胡乱な眼差しを向ける陽香に図星を突かれたのか、ヴェゼルは困ったように眉尻を下げた。
「えぇ、っと……アイドルがあれば、ルシフェリアの力をかなり取り戻せる。どうせアイドルなんて厄介なもの、要らないだろって言ってる」
「え!? そ、それって、私から「偶像」を完全に取り除けるって事!? 一生!?」
仮面を付け終わったらしいアリスが、ヴェゼルの言葉に激しく反応した。ヴェゼルは宙を見つめた後に「一生だって」と言って頷く。
綾那の肩口から身を乗り出したアリスは、パンと拍手を打つとその場で高々とジャンプした。
「うっそ、本当に!? 「偶像」が無くなれば、もう気持ち悪い男の相手しなくて済むし、何よりも女の子に嫌われなくなる……! そうしたらイベントだって、ファンミーティングだって参加できる! 最高じゃない……!! 要らないわ、ええ、要らないわよ! こんなの、すぐにでも取り除――」
「まっ、待て待て、待て! アリス、ちょっと待て! 早まるな、今はまずい! まだその時じゃあない!!」
「……は? 何よ、どういう事?」
諸手を上げて今にも頷きそうな勢いのアリスに、しかし陽香が待ったをかけた。彼女は「訳はすぐに分かるから、少し待ってくれ! とにかく今は頷くな! 一旦お前と相談したい事があるッ!」と、鬼気迫る表情でアリスに詰め寄っている。
アリスは意味が分からないといった様子だったが、不承不承で「――分かったわよ」と答えた。
「シア、その前にまず説明してくれ! なんでアリスは、ギフトが全部使えなくなってんだ? 誰かに吸収されてんのか? ……いや、でも今まさに「偶像が欲しい」って言うぐらいだから、保持してはいるんだよな――?」
「………………んあぁああ、もう俺、よく分かんねえよぉ」
ヴェゼルはルシフェリアから長々と説明を受けているようだが、内容が難解なのか、ぐしゃぐしゃと苛立ったように髪を搔きむしっている。「奈落の底」出身の悪魔からすれば、ギフトなんて能力には縁がなかっただろう。例え懇切丁寧に説明されたところで、上手く理解できないに決まっている。
「うー……その女は、「表」のカミサマの血を引いてる子供なんだって。「アイドル」をもって生まれるのは、ソレ以外あり得ねえってさ」
「……カミサマの子? 神子じゃなくて?」
アリスは不思議そうに小首を傾げている。この謎の説明は、以前にもルシフェリアから聞かされたものだ。
ただ「説明が難しい」と言って、有耶無耶にされてきたため――結局どういう意味なのかは、綾那達にも分からないまま。
「ルシフェリアは「表」のカミサマが大っ嫌いで、そいつらにだけは、リベリアスにちょっかいを掛けられたくないんだ。だから、もしカミサマがリベリアスに侵入したら、全部の力を封印する仕組みを用意してある。カミサマの力を色濃く引き継いでる子供だから、その女の……ギフト? は、全部封印されてる――ってさ。ギフトが封印されているせいで、今までルシフェリアにもその女の位置は把握できなかったんだって」
アリスはますます首を傾げて「つまり……どういう事なの――?」と困惑している。
綾那にも詳しい事はよく分からないが、とにかくアリスは、「表」でギフトを配る神様の実子という意味だろうか。両親ともにそうなのか、片親だけがそうなのかは分からないが――ルシフェリアが言うには、「偶像」をもつ人間は必ず神の子供らしい。
そして、表の神々と折り合いが悪いらしいルシフェリアは、箱庭に手出しさせないための仕組みを作った。表の神がリベリアスに侵入して来た場合に備えて、『神の力』を封印してしまう仕掛けを張っている――と。
(ただのギフトじゃなくて、神様由来の特別な「偶像」を持っているから……だから、アリスはこの世界に「表の神様だ」って判断されているっていう事?)
世界を跨ぐ仕組みなど上手く理解できないが、恐らくそういう事なのだろう。
「シアさん、その封印って……アリスがリベリアスに居る間は、絶対に解けないのでしょうか? 「表」に戻るまでずっと、封印されっ放し――だったり?」
綾那が問いかければ、ヴェゼルはまた宙に視線を定めて一人頷き始めた。
(もし、アリスのギフトが――「偶像」が封印されたままなら、颯月さんを取られなくて済む……?)
例えば「創造主」が使えないのはしんどいだろうが、しかし奈落の底にスタチューはない。特別な衣装も小物も、今のところは必要ない。
「第六感」にしても、まるで人間兵器のような悪魔憑きが常に傍で守ってくれているのだから、なくても困らないだろう。そもそも「偶像」なんて、アリス本人が疎ましく思っているギフトなのだから、別になくても良いではないか。
綾那は一筋の光が差したような気持ちになって、じっとヴェゼルの言葉を待った。
「んん……「表」に戻らなくても、ルシフェリアがあと少しだけ力を取り戻せば、封印を解いてやれるって言ってる。最近お前をエサに、鎧の悪魔憑きが眷属を狩りまくってるから――調子が良いんだってよ」
「――ああ、そうなんですね」
綾那はなんとか苦笑いするだけに留めたが、ヴェゼルの言葉に、内心泣きたくなった。
ルシフェリアめ。颯月の幸せを願うくせに、どうしてわざわざギフトの封印を解こうとするのか。「偶像」で釣られて洗脳されて、それで幸せになれるはずがないのに。心の底から颯月に惚れこむ綾那が傍に居た方が、彼の幸せのために身を粉にして尽くせるのに。
(あ……颯月さんは私じゃなくて、アリスと居る方が幸せになれるって事か)
そうでなければ、余所者の行く末が見えるというルシフェリアの行動の意図する所が分からない。綾那をエサに大量の眷属を集め、討伐してルシフェリアの力を取り戻して――アリスに施された封印を解けば、「偶像」も解禁される。
すると颯月は、アリスに夢中になって――その先は分からないが、しかし今よりもきっと、もっと幸せになれるのだろう。それがルシフェリアの視た未来なのだ。
(そっか……私じゃ、ダメなんだ――)
その気付きは、颯月が問答無用で「偶像」に釣られる事よりも、よほど胸を抉るものだった。
「えぇ……なんかもう別に、封印されてるなら封印されたままで良いんだけど? だって、陽香とも綾那とも合流できたし、あと渚だけでしょ? 私このまま「偶像」なしの人生を謳歌してみたいって言うか、女の子の友達を作りたいって言うか――」
言いながら、自身の髪の毛先を指に巻き付けて遊ぶアリス。いつもの巻き毛であれば指に絡んで、さぞかし巻き付けごたえがあっただろうが――サラサラの直毛はすぐに指からストンと落ちてしまい、あまり様になっていなかった。
「じゃあ、「アイドル」くれって言ってる。アイドルさえ消えれば他二つのギフトの封印が解けるし、そっちの二人から預かってるギフトも全部まとめて返せるってさ」
一生懸命ルシフェリアの言葉を訳すヴェゼルに、綾那は「あれ?」と首を傾げる。
(違う――そうだ。シアさんさっきからずっと、アリスの「偶像」を取り上げようとしてくれているんだ……理由は分からないけど)
まだ、悲観するのは早いのかも知れない。そうしてまた一縷の望みに縋りかけた綾那の横で、陽香がブンブンと頭を振った。
「待て待て待て! シア、ちょっと待て! ――ゼルお前、ちょっと颯様呼んで来い!」
「えぇ!? な、なんでだよ、俺あいつ、ちょっと怖いんだけど――」
「良いから、早く!! とりあえず今「偶像」の効果はねえから、安心しろって伝えろ! ……アリス、緊急会議だ! 時間がねえ、すぐに始めるぞ!」
「――な、何々? なんなのよ急に……!?」
渋々街の正門へ向かって歩き出したヴェゼルを見送ると、陽香は切羽詰まった表情でアリスと対峙した。突然「会議だ」なんて言われたアリスは、マスクを付けていても大層困惑しているのが見てとれる。
綾那は途端に気まずさを覚えて、取り払っていたフードに手を掛けると目深に被り直した。
「良いか? 状況を一言で説明すると、アーニャがまたやらかした訳なんだが」
「――は、はあ? やらかし?」
「ただ、今までとは若干違うような感じもするし、そうでもない気もするし……正直もう、あたし一人じゃあ手に負えん! アリスが見た上で今後どうすべきか、意見を求む!!」
「いや、何言ってんのかさっぱりな――ん、だけど……?」
アリスは途端にある一点を注視して、ぽかんと口を開いた。その様子を訝しんでいると、すぐさま背後から「綾!」と呼ぶ声が聞こえて――アリスの反応に納得する。
颯月の低い声は、くぐもっていなかった。恐らく街の外だからと、「魔法鎧」を解除したのだろう。
つまりこちらに駆けてくる颯月は、眼帯こそしているだろうが素顔を晒している訳で――。
「ねえ、ちょっと待って? まるで、絢葵の究極完全体みたいな人が、綾那の名前を呼びながら駆けてくるんだけど……何これ、夢?」
「――夢は夢でも、あたしらにとったら悪夢なのよなあ……」
「嘘でしょう? ――えっ、嘘でしょう」
「何で二回言った?」
なんとも言えない空気感と表情で立ち尽くす、陽香とアリス。そんな二人を完全に視界から消しているのか、颯月は駆けて来た勢いのまま綾那をかき抱いた。両腕で腰をがっしりと固定されたまま高く持ち上げられて、両足が地を離れる。
「綾、さっきのケガは!? ――ああ、肘擦りむいてるじゃねえか。創造神に傷を治してもらったばかりなのに、またケガするなんて……」
さっきのケガ――とは、恐らくアリスが大樹から飛び降りて来た時の事を言っているのだろう。「怪力」さえあれば話は違ったのだが、今の非力な綾那では全く受け止められずに、ちょっとした衝突事故を起こしてしまった。
颯月は綾那を木陰に下ろすと、心配そうに眉根を寄せた。その真っ直ぐすぎる眼差しに、綾那はどんな顔をすれば良いのか分からなくなった。
心配してくれて嬉しい。優しい。好き。でも彼は「偶像」で居なくなる。辛い。寂しい。離れたくない。心の中はぐちゃぐちゃである。
竜禅が「共感覚」で颯月に振り回されている時、よく「怒るか喜ぶか、どちらかはっきりしてくれ」と独りごちているが――もしも今、綾那と竜禅が繋がっていたとしたら、きっと同じ事を言われたに違いない。
一言でも声を漏らせば途端に泣き出してしまいそうな心地になって、唇を引き結んで俯いた。しかし颯月は一切気にした様子がなく、ただ外套の上から綾那の背を撫でるだけだ。そんな二人の横で、四重奏の――いや、二重奏の緊急会議は続いている。
「――ぶっちゃけ、どう思う?」
「ど、どうもこうもなくない? なんでアンタが一緒に居て、こんな事態に陥る訳? メチャクチャ親密じゃない、どうして止めないのよ!?」
「バカ、無茶言うな、考えてもみろよ! 普通、「偶像」もなしにアーニャから男を引き離せる訳ないだろ……! こいつ、ウチのお色気担当大臣だぞ!!」
「だからって――どうせ今回も、綾那が顔から入っただけの男でしょ!? いくら私が居ないからって、そんなのプロのスタチューバーとして言って聞かせれば――!」
今にも掴みかかりそうなアリスに、陽香もまた眦を吊り上げて反論する。
「だっから、今回はなんか……違ぇんだって、色々と! まず、ぶっちゃけ五十歩百歩の差だけど、先に惚れたのは颯様の方だって言うしよ! 颯様自体も、こう――いや確かに、ちょいちょいヤバい所はあるけど! でも、少なくともクズではねえから、分かんねえんだよ!」
「分かんないって……アンタ馬鹿じゃないの? じゃあ四重奏は? 綾那が男作って、めでたしめでたし、ハイもう解散な訳?」
「そういう訳じゃねえし、そんな単純な話でもねえんだって――」
「はあ!? そういう話でしょ! アンタ一体どうしたいの!? ――断言するわ! コレこのまま放置したら、後で絶対渚にぶっ殺されるんだから!」
「あぁあもう、なんでお前ギフト封印されてんのかなー! それさえなければ、どうするなんて迷う暇もなく事が済んでたのに! ここに来て「偶像」回避チャンスをちらつかせられると、さすがに揺れるだろー!!」
陽香は頭を抱えて空を仰いだ。そんな彼女を見て、アリスは信じらないと言った様子で首を横に振る。
ほんの一、二カ月ほどの事だが、それでも陽香はずっと、綾那と颯月を見てきたのだ。それは勿論、恋愛スキャンダルを防ごうと監視するためだった訳だが――颯月の人間性や、綾那の気持ちを確かめるためでもあった。
しかし、そのせいで下手に情が移ってしまい、こうして頭を悩ませる事になってしまったのだろう。本来、悩む必要などなかったはずなのだ。四重奏のメンバーは、何よりも『四重奏』を大事にしている。
ライフワークである事は勿論だが、趣味でもあるし、金を稼ぐプロとしての意識も高かった。
ただ一人――すぐに男を捕まえては恋愛に現を抜かしてしまう、綾那を除いては。
「なんで街の外に出てるんだよ、探しただろ! ……ルシフェリアが、お前らに話したい事あるって」
綾那達の前で足を止めたヴェゼルは、腰に手を当てると大きなため息を吐き出した。「ルシフェリアは「自分で探せ」って言って、お前らの場所を教えてくれないし」と、機嫌悪そうに目を細めている。
その言葉と態度に、陽香が目を瞬かせた。
「――んあ? シア……? ゼルお前、アリスに会いに来たんじゃないのか?」
次はヴェゼルが目を瞬かせて、「アリスって誰だ?」と首を傾げる。以前、彼の前でアリスの名を口に出した事もあるはずなのだが――綺麗さっぱり忘れているのだろうか。
子は親に似ると言うが、もしかすると彼もルシフェリアと同様、人の名前を覚えるのが苦手なのかも知れない。
綾那と陽香は顔を見合わせると、囁くような声色で現状の把握に努める。
「てっきり「偶像」に釣られて来たと思ったのに――もしかして、スッピンだから分からねえとか?」
「いや、「表」に出てきたのはヴェゼルさんの手足だけだったから、アリスの姿まで把握していないと思う。それに「偶像」があれば、姿なんて関係ないはずじゃ……?」
「って事は、やっぱアリスのヤツ……ギフトが全部使えなくなってるって事だよな」
導き出された答えに、しかし新たな謎が生まれる。
ルシフェリアにギフトを奪われるまでは、綾那も陽香も奈落の底だろうと問題なくギフトを使えていたのだ。それが何故、アリスだけ使えないのか。
彼女の知らぬ内にギフトを吸収されているとすれば、一体どこの誰に奪われたのか。
「何コソコソ話してんだよ? ……てか、お前! 全っ然遊んでくれないよな!! あまりにもお前が会いに来ないから、教会の人間共も「もう嫌われたんだ」って言ってたぞ!」
「え!?」
「合成魔法の感想も言いに来ねえし、遊びにも来なくなったって! サイテーだぞ、この口だけ女!」
吠えるヴェゼルに指差されて、綾那は目を白黒させた。何やら綾那の知らぬ間に、彼は悪魔憑きの子供達と仲良くなっているらしい。
そもそも、子供達が悪魔憑きになる『原因』を作った悪魔と仲良くなるってどうなのだ、と思わなくもないが――まあ、下手に争って血で血を洗うような戦いが始まるよりかは、良いだろう。
(でもそんな風に思われていたなんて、少しショックだな……)
綾那だって気力と体力さえあれば、教会の子供達はもちろん、ヴェゼルとも遊んでやりたい。しかし、今は昼夜逆転生活の真っ只中。心身ともにボロボロで、颯月とも四六時中一緒に居なければならない。彼の仕事が立て込んでいる内は、私的な外出もままならないのである。
「ご、ごめんなさい。私もこの光魔法が落ち着いたら、一緒に遊びたいのですけど……って言うか、子供達がそんな心配を? 絶対にまた会いに行くから、どうかもう少し待っていてと伝えて欲しいです」
綾那がしょんぼりと肩を落として項垂れれば、ヴェゼルは「本当だろうな?」と目を眇めて鼻を鳴らした。
「――とりあえず、アリスがヴェゼルの目当ての女だって気付いてねえなら……面倒くさいし、一旦このまま濁すか」
囁かれた陽香の言葉に頷いて、綾那は「そうだね」と呟いた。すると、突然ヴェゼルが何もない宙を注視し始める。恐らく、ルシフェリアに何か言われているのだろう。
ヴェゼルはややあってから綾那達に向き直ると、おもむろに口を開いた。
「ええと……「アイドルが欲しい」って言ってる」
「……おい、ゼル。お前ちゃんと訳してんのか? 結構長い間があった割に、えらく簡潔じゃねえか」
「う、うるさいな! ルシフェリアの言う事は、ちょっと難しいんだ――」
胡乱な眼差しを向ける陽香に図星を突かれたのか、ヴェゼルは困ったように眉尻を下げた。
「えぇ、っと……アイドルがあれば、ルシフェリアの力をかなり取り戻せる。どうせアイドルなんて厄介なもの、要らないだろって言ってる」
「え!? そ、それって、私から「偶像」を完全に取り除けるって事!? 一生!?」
仮面を付け終わったらしいアリスが、ヴェゼルの言葉に激しく反応した。ヴェゼルは宙を見つめた後に「一生だって」と言って頷く。
綾那の肩口から身を乗り出したアリスは、パンと拍手を打つとその場で高々とジャンプした。
「うっそ、本当に!? 「偶像」が無くなれば、もう気持ち悪い男の相手しなくて済むし、何よりも女の子に嫌われなくなる……! そうしたらイベントだって、ファンミーティングだって参加できる! 最高じゃない……!! 要らないわ、ええ、要らないわよ! こんなの、すぐにでも取り除――」
「まっ、待て待て、待て! アリス、ちょっと待て! 早まるな、今はまずい! まだその時じゃあない!!」
「……は? 何よ、どういう事?」
諸手を上げて今にも頷きそうな勢いのアリスに、しかし陽香が待ったをかけた。彼女は「訳はすぐに分かるから、少し待ってくれ! とにかく今は頷くな! 一旦お前と相談したい事があるッ!」と、鬼気迫る表情でアリスに詰め寄っている。
アリスは意味が分からないといった様子だったが、不承不承で「――分かったわよ」と答えた。
「シア、その前にまず説明してくれ! なんでアリスは、ギフトが全部使えなくなってんだ? 誰かに吸収されてんのか? ……いや、でも今まさに「偶像が欲しい」って言うぐらいだから、保持してはいるんだよな――?」
「………………んあぁああ、もう俺、よく分かんねえよぉ」
ヴェゼルはルシフェリアから長々と説明を受けているようだが、内容が難解なのか、ぐしゃぐしゃと苛立ったように髪を搔きむしっている。「奈落の底」出身の悪魔からすれば、ギフトなんて能力には縁がなかっただろう。例え懇切丁寧に説明されたところで、上手く理解できないに決まっている。
「うー……その女は、「表」のカミサマの血を引いてる子供なんだって。「アイドル」をもって生まれるのは、ソレ以外あり得ねえってさ」
「……カミサマの子? 神子じゃなくて?」
アリスは不思議そうに小首を傾げている。この謎の説明は、以前にもルシフェリアから聞かされたものだ。
ただ「説明が難しい」と言って、有耶無耶にされてきたため――結局どういう意味なのかは、綾那達にも分からないまま。
「ルシフェリアは「表」のカミサマが大っ嫌いで、そいつらにだけは、リベリアスにちょっかいを掛けられたくないんだ。だから、もしカミサマがリベリアスに侵入したら、全部の力を封印する仕組みを用意してある。カミサマの力を色濃く引き継いでる子供だから、その女の……ギフト? は、全部封印されてる――ってさ。ギフトが封印されているせいで、今までルシフェリアにもその女の位置は把握できなかったんだって」
アリスはますます首を傾げて「つまり……どういう事なの――?」と困惑している。
綾那にも詳しい事はよく分からないが、とにかくアリスは、「表」でギフトを配る神様の実子という意味だろうか。両親ともにそうなのか、片親だけがそうなのかは分からないが――ルシフェリアが言うには、「偶像」をもつ人間は必ず神の子供らしい。
そして、表の神々と折り合いが悪いらしいルシフェリアは、箱庭に手出しさせないための仕組みを作った。表の神がリベリアスに侵入して来た場合に備えて、『神の力』を封印してしまう仕掛けを張っている――と。
(ただのギフトじゃなくて、神様由来の特別な「偶像」を持っているから……だから、アリスはこの世界に「表の神様だ」って判断されているっていう事?)
世界を跨ぐ仕組みなど上手く理解できないが、恐らくそういう事なのだろう。
「シアさん、その封印って……アリスがリベリアスに居る間は、絶対に解けないのでしょうか? 「表」に戻るまでずっと、封印されっ放し――だったり?」
綾那が問いかければ、ヴェゼルはまた宙に視線を定めて一人頷き始めた。
(もし、アリスのギフトが――「偶像」が封印されたままなら、颯月さんを取られなくて済む……?)
例えば「創造主」が使えないのはしんどいだろうが、しかし奈落の底にスタチューはない。特別な衣装も小物も、今のところは必要ない。
「第六感」にしても、まるで人間兵器のような悪魔憑きが常に傍で守ってくれているのだから、なくても困らないだろう。そもそも「偶像」なんて、アリス本人が疎ましく思っているギフトなのだから、別になくても良いではないか。
綾那は一筋の光が差したような気持ちになって、じっとヴェゼルの言葉を待った。
「んん……「表」に戻らなくても、ルシフェリアがあと少しだけ力を取り戻せば、封印を解いてやれるって言ってる。最近お前をエサに、鎧の悪魔憑きが眷属を狩りまくってるから――調子が良いんだってよ」
「――ああ、そうなんですね」
綾那はなんとか苦笑いするだけに留めたが、ヴェゼルの言葉に、内心泣きたくなった。
ルシフェリアめ。颯月の幸せを願うくせに、どうしてわざわざギフトの封印を解こうとするのか。「偶像」で釣られて洗脳されて、それで幸せになれるはずがないのに。心の底から颯月に惚れこむ綾那が傍に居た方が、彼の幸せのために身を粉にして尽くせるのに。
(あ……颯月さんは私じゃなくて、アリスと居る方が幸せになれるって事か)
そうでなければ、余所者の行く末が見えるというルシフェリアの行動の意図する所が分からない。綾那をエサに大量の眷属を集め、討伐してルシフェリアの力を取り戻して――アリスに施された封印を解けば、「偶像」も解禁される。
すると颯月は、アリスに夢中になって――その先は分からないが、しかし今よりもきっと、もっと幸せになれるのだろう。それがルシフェリアの視た未来なのだ。
(そっか……私じゃ、ダメなんだ――)
その気付きは、颯月が問答無用で「偶像」に釣られる事よりも、よほど胸を抉るものだった。
「えぇ……なんかもう別に、封印されてるなら封印されたままで良いんだけど? だって、陽香とも綾那とも合流できたし、あと渚だけでしょ? 私このまま「偶像」なしの人生を謳歌してみたいって言うか、女の子の友達を作りたいって言うか――」
言いながら、自身の髪の毛先を指に巻き付けて遊ぶアリス。いつもの巻き毛であれば指に絡んで、さぞかし巻き付けごたえがあっただろうが――サラサラの直毛はすぐに指からストンと落ちてしまい、あまり様になっていなかった。
「じゃあ、「アイドル」くれって言ってる。アイドルさえ消えれば他二つのギフトの封印が解けるし、そっちの二人から預かってるギフトも全部まとめて返せるってさ」
一生懸命ルシフェリアの言葉を訳すヴェゼルに、綾那は「あれ?」と首を傾げる。
(違う――そうだ。シアさんさっきからずっと、アリスの「偶像」を取り上げようとしてくれているんだ……理由は分からないけど)
まだ、悲観するのは早いのかも知れない。そうしてまた一縷の望みに縋りかけた綾那の横で、陽香がブンブンと頭を振った。
「待て待て待て! シア、ちょっと待て! ――ゼルお前、ちょっと颯様呼んで来い!」
「えぇ!? な、なんでだよ、俺あいつ、ちょっと怖いんだけど――」
「良いから、早く!! とりあえず今「偶像」の効果はねえから、安心しろって伝えろ! ……アリス、緊急会議だ! 時間がねえ、すぐに始めるぞ!」
「――な、何々? なんなのよ急に……!?」
渋々街の正門へ向かって歩き出したヴェゼルを見送ると、陽香は切羽詰まった表情でアリスと対峙した。突然「会議だ」なんて言われたアリスは、マスクを付けていても大層困惑しているのが見てとれる。
綾那は途端に気まずさを覚えて、取り払っていたフードに手を掛けると目深に被り直した。
「良いか? 状況を一言で説明すると、アーニャがまたやらかした訳なんだが」
「――は、はあ? やらかし?」
「ただ、今までとは若干違うような感じもするし、そうでもない気もするし……正直もう、あたし一人じゃあ手に負えん! アリスが見た上で今後どうすべきか、意見を求む!!」
「いや、何言ってんのかさっぱりな――ん、だけど……?」
アリスは途端にある一点を注視して、ぽかんと口を開いた。その様子を訝しんでいると、すぐさま背後から「綾!」と呼ぶ声が聞こえて――アリスの反応に納得する。
颯月の低い声は、くぐもっていなかった。恐らく街の外だからと、「魔法鎧」を解除したのだろう。
つまりこちらに駆けてくる颯月は、眼帯こそしているだろうが素顔を晒している訳で――。
「ねえ、ちょっと待って? まるで、絢葵の究極完全体みたいな人が、綾那の名前を呼びながら駆けてくるんだけど……何これ、夢?」
「――夢は夢でも、あたしらにとったら悪夢なのよなあ……」
「嘘でしょう? ――えっ、嘘でしょう」
「何で二回言った?」
なんとも言えない空気感と表情で立ち尽くす、陽香とアリス。そんな二人を完全に視界から消しているのか、颯月は駆けて来た勢いのまま綾那をかき抱いた。両腕で腰をがっしりと固定されたまま高く持ち上げられて、両足が地を離れる。
「綾、さっきのケガは!? ――ああ、肘擦りむいてるじゃねえか。創造神に傷を治してもらったばかりなのに、またケガするなんて……」
さっきのケガ――とは、恐らくアリスが大樹から飛び降りて来た時の事を言っているのだろう。「怪力」さえあれば話は違ったのだが、今の非力な綾那では全く受け止められずに、ちょっとした衝突事故を起こしてしまった。
颯月は綾那を木陰に下ろすと、心配そうに眉根を寄せた。その真っ直ぐすぎる眼差しに、綾那はどんな顔をすれば良いのか分からなくなった。
心配してくれて嬉しい。優しい。好き。でも彼は「偶像」で居なくなる。辛い。寂しい。離れたくない。心の中はぐちゃぐちゃである。
竜禅が「共感覚」で颯月に振り回されている時、よく「怒るか喜ぶか、どちらかはっきりしてくれ」と独りごちているが――もしも今、綾那と竜禅が繋がっていたとしたら、きっと同じ事を言われたに違いない。
一言でも声を漏らせば途端に泣き出してしまいそうな心地になって、唇を引き結んで俯いた。しかし颯月は一切気にした様子がなく、ただ外套の上から綾那の背を撫でるだけだ。そんな二人の横で、四重奏の――いや、二重奏の緊急会議は続いている。
「――ぶっちゃけ、どう思う?」
「ど、どうもこうもなくない? なんでアンタが一緒に居て、こんな事態に陥る訳? メチャクチャ親密じゃない、どうして止めないのよ!?」
「バカ、無茶言うな、考えてもみろよ! 普通、「偶像」もなしにアーニャから男を引き離せる訳ないだろ……! こいつ、ウチのお色気担当大臣だぞ!!」
「だからって――どうせ今回も、綾那が顔から入っただけの男でしょ!? いくら私が居ないからって、そんなのプロのスタチューバーとして言って聞かせれば――!」
今にも掴みかかりそうなアリスに、陽香もまた眦を吊り上げて反論する。
「だっから、今回はなんか……違ぇんだって、色々と! まず、ぶっちゃけ五十歩百歩の差だけど、先に惚れたのは颯様の方だって言うしよ! 颯様自体も、こう――いや確かに、ちょいちょいヤバい所はあるけど! でも、少なくともクズではねえから、分かんねえんだよ!」
「分かんないって……アンタ馬鹿じゃないの? じゃあ四重奏は? 綾那が男作って、めでたしめでたし、ハイもう解散な訳?」
「そういう訳じゃねえし、そんな単純な話でもねえんだって――」
「はあ!? そういう話でしょ! アンタ一体どうしたいの!? ――断言するわ! コレこのまま放置したら、後で絶対渚にぶっ殺されるんだから!」
「あぁあもう、なんでお前ギフト封印されてんのかなー! それさえなければ、どうするなんて迷う暇もなく事が済んでたのに! ここに来て「偶像」回避チャンスをちらつかせられると、さすがに揺れるだろー!!」
陽香は頭を抱えて空を仰いだ。そんな彼女を見て、アリスは信じらないと言った様子で首を横に振る。
ほんの一、二カ月ほどの事だが、それでも陽香はずっと、綾那と颯月を見てきたのだ。それは勿論、恋愛スキャンダルを防ごうと監視するためだった訳だが――颯月の人間性や、綾那の気持ちを確かめるためでもあった。
しかし、そのせいで下手に情が移ってしまい、こうして頭を悩ませる事になってしまったのだろう。本来、悩む必要などなかったはずなのだ。四重奏のメンバーは、何よりも『四重奏』を大事にしている。
ライフワークである事は勿論だが、趣味でもあるし、金を稼ぐプロとしての意識も高かった。
ただ一人――すぐに男を捕まえては恋愛に現を抜かしてしまう、綾那を除いては。
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