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第2章 奈落の底で配信する
18 実食
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あれから合計五羽のアルミラージを討伐した騎士達は、血抜きした兎を携えて、街を囲う外壁近くまで馬車で移動した。さすがに、魔獣の出る草原では落ち着いて食事できないからだ。
落とした頭から慣れた手つきで角を切り落として、丁寧に毛皮を剥ぎ終わったら水魔法で洗浄する。毛皮は食事する間に、馬車の幌の上に並べて乾かすらしい。
「――では僭越ながら、調理は自分が担当いたします」
やや堅い声色で話す旭が、調理台の上に兎肉を載せた。訳あってひと月以上も放浪生活を強いられて、その間街に入る事もできずに外で魔物を狩って食い繋いできた、元アデュレリア騎士団員の旭。
図らずしも彼は、この場に居る騎士の誰よりも魔物肉の扱いに長けている。
横で即席のかまどに火を熾す幸成が、不貞腐れた表情で口を開いた。
「頼むぜ旭。さっさと終わらせて、さっさと帰るに限る。これ以上撮影が長引くのは御免だからな」
「そう根に持つな、幸成。颯月様はあんなに喜んでおられたぞ」
「あーあー! 颯は良いよな、他人事で! てか、「水鏡」に気付いてたんなら言えよ!」
「言う訳がねえだろう、最高だったぞアンタら」
言いながらカメラに気付いた瞬間の二人の反応を思い出したのか、颯月は手で口元を押さえて顔を逸らした。そんな彼の様子に、幸成はますます不貞腐れる。
「幸成くん、明るく楽しい騎士団的には笑って欲しいです」
綾那が顔色を窺うように小首を傾げれば、幸成は金色の目を眇める。
「……ああ、そうだね! 綾ちゃんがカメラ回すのを止めてくれたら、普通に笑えるんだけどな!」
「でも、これが私の仕事なんですもの」
これから動画のメイン魔物肉の調理に入るというのに、カメラを置けるはずがない。
「幸成、お姉さまが困っているでしょう? ちゃんと協力してあげて!」
「え、何? 俺の味方一人も居ないじゃん……」
頬を膨らませながら諫める言葉を発した桃華に、幸成はがくりと肩を落として項垂れた。「やっぱり綾ちゃんって、洗脳魔法が使えるんじゃ――」と呟いた幸成に、綾那は曖昧な笑みを返す。
幸成の様子に申し訳なく思いつつも、正直本当に良いリアクションだったため、この盗撮企画は今後も継続して行きたい。さすがに今、それを口にするつもりはないが。
――と、そうこうしている内に旭がアルミラージの肉を捌き始めた。
彼も盗撮被害に遭った一人だが、憤慨する幸成と違って「いや、でもカメラごと視界から隠れてくれていた方が、よほどやりやすいですから――」と、諦めにも似た肯定派である。
今もほぼ真横に近い位置でカメラを構えられている訳だが、しかし映すのは手元の作業工程だと綾那から説明を受けたため、割と平気そうにしている。それでも彼の硬い声色からは緊張した様子が伝わってくるが、このくらいなら許容範囲内だろう。
さすが魔物肉の扱いに慣れているだけあって、手際が良い。旭はアルミラージを開いて中の内臓に傷を付けないよう取り除くと、肉を一口大に切り分けていく。魔物肉はただ焼くだけでも絶品らしいので、今回は串焼きにして頂くらしい。切った肉を串に刺して、即席のかまどの上に敷いた鉄板へ並べていく。
じゅうぅと肉の焼ける音と、脂の溶ける甘く香ばしい匂い。
綾那と同じく、今回初めて魔物肉を食す桃華が、声を上げぬよう両手で口元を押さえながら、オレンジ色の瞳をキラキラと輝かせている。
(――分かる。分かるよ、桃ちゃん……これは絶対に美味しいヤツだ!)
じゅわ、と口の中に唾液が溢れて、綾那はごくりと飲み込んだ。肉を焼くだけとはいえ、なんとも撮りがいのあるシーンである。肉から溶け出した脂が鉄板に広がり、パチパチと音を立てて弾ける。もくもくと上がる真っ白い煙には、肉の香りがこれでもかと込められていて食欲を刺激する。
肉を裏返すタイミングはいつだろうか。意外とレアでも食べられるのか、それとも豚肉のように火の通りには注意が必要なタイプか。
綾那がワクワクしながら肉の様子を撮影していると、不意に幸成が「えっ! 旭、お前もしかして!?」と声を上げたので、すかさずカメラを向ける。どうやら、調理台の上に残ったままだったアルミラージの内臓を捌き始めた旭に、幸成が驚いているらしい。
「内臓って普通、捨てるモンじゃねえ? 俺らいつも肉だけ食ってたんだけど――もしかして、アデュレリアではポピュラーなのか?」
完全に引いている幸成の表情に、旭が苦笑を浮かべた。
「いえ、自分も元々は肉だけ食べて、内臓は捨てていました。しかし、ひと月も食事に困っている内に意識が変わりまして。食べてみると存外、イケますよ」
「えぇ~!? 旭お前、ゲテモノ食いかよ!」
悪態をつく幸成だったが、しかし旭の手で丁寧に処理されていく内臓に興味津々な様子だ。曰く、内容物を綺麗に取り除けば旨いらしい。アルミラージは鶏肉に似た淡泊な味わいだが、その内臓はこってりと濃厚で、酒のツマミにもなるそうだ。
ちなみに、この国の飲酒可能年齢は十八歳からである。
(確かに、鶏モツ、鶏レバーって美味しいよね……これは兎だけど)
綾那は一人納得する。
元アデュレリア騎士団である旭達は、何者かに陥れられて無実の罪で領を追われた。無実とはいえ『犯罪者』として追い出された彼らは、街へ出入りするための通行証を没収されて――およそひと月の間、街の外で放浪生活する事を余儀なくされたのだ。それは、食に関してなりふり構っていられなかったに違いない。
それにしても、ふと騎士団宿舎の食事を思い返せば、内臓系の食事は出た事がない。豚、牛、鶏肉を使った料理、ベーコンや燻製などの加工品は存在するが――もしかすると、この国にはホルモンを食べる文化が根差していないのかも知れない。
(アレ、そういえば魚介類も一切出てこないような。この辺りに海がないせいかとも思ったけど、でも物流の盛んな王都だよ? 氷の魔法で冷凍すれば、他所の領からいくらでも運び込めそうなんだけどな。今まであまり深く考えてなかったけど、もしかして魚を食べる文化もない――とか?)
綾那は「ふむ」と考え込んだが、しかし今はアルミラージの串焼きの方が大事である。軽く頭を振って気を取り直すと、再び串焼きを載せた鉄板へカメラを向けた。
こんなにも美味しそうな魔物肉が、時間の経過とともに酷い風味に変わるとは――なんとも不思議な現象である。死んだ魔物の肉は、だいたい小一時間ほどで味と香りに変化が出てしまうそうだ。食べても体調を崩す事はないので、決して腐っている訳ではないのだという。何故そこまで極端に風味が落ちるのかは、長年の謎らしい。
恐らく、この国の科学が発展していれば研究機関も存在して、栄養素がどうとか、酸素に触れて反応が起きてどうだとか――生命活動が止まる事で血中の成分がどうのこうのとか、味の落ちる原因も分かるのだろう。
しかし、生憎とここは魔法の世界である。魔物肉に起きている事象を明らかにする手立てはない。綾那としても、「魔法生物だから、そういうものなのだろう」で納得している。
(美味しそう……焼肉屋さんに来たみたい)
横で幸成に「おい、一緒の鉄板に並べんのかよ!?」と文句を言われながら、旭は串焼きの横に兎の肝臓らしきものと、ぶつ切りにした腸を並べて火を通し始めた。
いくら普通の兎と比べて体長が大きいとはいえ、やはり兎は兎だ。たった五羽分の内臓は、牛と比べて採れる量が少ない。もちろん個人の嗜好はあるだろうが――しかし一度ホルモンの味を知れば、争奪戦が始まるのではなかろうか。
それはそれで映像として見応えがあるので、綾那としては是非、存分に奪い合って頂きたい。
「そろそろ焼き上がりますよ」
魅惑の魔物肉を前にカメラの存在を無意識下へ追いやったのか、旭がその爽やかな容貌に自然な笑みを浮かべる。つい綾那が「これは撮り逃せない」とカメラを向ければ、ハッとした旭が顔を逸らして「映すのは手元だけと言ったではないですか!」と抗議してくる。
綾那は「手元の作業工程を映すとは言いましたが、「だけ」とは言っていません、「だけ」とは」と屁理屈を述べた。困ったように眉尻を下げる旭に、これ以上はまるで嫌がらせしているように見えるだろうかとカメラを肉へ戻す。
「旭シェフ! 魔物肉に集中してください、これはもう食べられるのでしょうか? 早く皆さんの感想がお聞きしたいです!」
「自分はシェフではなく、騎士なのですが――」
言いながら旭は、焼けた串をそれぞれに分配し始めた。内臓についてはまだ火の通りが甘いため、このまま鉄板の上で焼き続けるらしい。旭は綾那にも串を手渡してくれたが、しかしまずは騎士の食事風景を撮る事が最優先だ。綾那は片手に串を握ったまま、撮影に集中する。
意外と垣根がないフレンドリーな騎士団とはいえ、しっかりと序列はあるのだ。団長の颯月が手を付けるまでは、誰も串にかぶり付こうとしない。
そっと颯月にカメラを向ければ、彼は小さく「いただきます」と呟いてから肉をかじった。
やや伏せられた瞳、長い睫毛が頬に影を落としている。もぐもぐと咀嚼したのち、ごくりと肉を飲み下せば――騎士服の下、黒いアンダーインナーに包まれた大きな喉仏が、ゆっくりと上下した。
淡泊と言っていた割に、よほど肉の脂が多いのだろうか。彼はおもむろに、唇についた脂を舌で舐めとった。そこで初めて目線をカメラに向けた颯月は、紫色の瞳を細めて「旨いぞ」と言って笑う。
(ああ、神よ……!!)
綾那は、カメラと串さえ手に持っていなければ、両手を組んで颯月を拝み倒せたのにと思う。なんなら天に、彼という人間が誕生した事を感謝したいくらいだ。
彼は粗野な喋り方や、机に座ったり肘をついたりと態度の悪い行動をしていても、不思議と気品がある。何せ串焼きを食べていても品があるのだ。それは恐らく王族として生まれ、幼少期から正妃によるスパルタ教育を受けた賜物なのだろう。
――いや、そうだ、確かに気品はある。あるのだが、しかしなんて妖艶に食べるのか。
(この動画は全年齢向けのはずなんだけれど。本当に大衆食堂で流して良いのかな……PTAに抗議されるんじゃあ――この国にPTAがあればの話だけど)
四重奏の『お色気担当大臣』なんて呼ばれていた綾那だが、しかし本当のお色気担当とは颯月のような人物を指すのではないか。早速、素晴らしいキャラ付けがされた。陽香の謎理論を引用する訳ではないが、彼は垂れ目で元々色っぽい顔立ちをしている。颯月はアイドクレース騎士団のお色気担当として推して行こう。
「肉の処理が良いな、筋切りでもしたのか? 普段より肉が柔らかい気がする――さすが旭シェフだ」
「団長まで自分をシェフにしないでください」
苦笑を浮かべる旭を尻目に、颯月は二口目に入った。その横で副長の竜禅も串を齧り、淡々と「旨い」と感想を述べる。
「――ああ、確かに柔らけえ。やるなあ旭!」
「恐縮です」
肉を咀嚼しながら幸成が褒めれば、旭はやや照れくさそうに笑った。
「やっぱ、普通の肉とは全然違うんだよなあ、街でも気軽に食えたら最高なのに。高い牛の肉って、あれはあれで旨いけど――魔物の肉はそもそもカテゴリーが違う気がする」
「分かる気がします。溶けるような脂といい、溢れる旨味といい――本当の意味で最上級の肉」と呼べるでしょうね」
和巳も肉に齧りつくと、そのままグイと串から引き抜いた。一見すると女性のように中性的な美貌をもつ彼だが、その食事作法は意外とワイルドだ。しかも、この場に居る騎士の中で一番体が華奢なのに、その誰よりも食事量が多い。その量と言えば、あの細い体のどこへそんなに入るのかと疑うレベルである。
体が資本だからと、ただでさえメニュー量の多い騎士団宿舎の食事――彼がいつもそれを大盛りにしているのを、綾那は何度も見ている。和巳曰く、頭脳労働は意外とカロリーを消費するとの事だ。
(もしや、和巳さんでフードファイト動画が撮れるのでは?)
綾那はぴんと閃いた。この容姿で実は大食漢など、「表」であれば「美しすぎる」なんて枕詞を付けられて話題にされる事、間違いなしである。
機会があれば是非、この企画も通したい。若手騎士団員を集めて大食い大会を開催するのも面白そうだ。綾那が今後の展望に思いを馳せていると、ふと旭が顔色を窺うように小首を傾げたのが視界に入った。恐らく「食べないのか」という意味合いだろうか。
果たして『広報』が騎士団でどのあたりの階級に当たるのかは分からないが、役職のない平騎士の旭がここでは一番下なのだろう。綾那は「旭さん、お先にどうぞ。私はまだ仕事が残っていますので」と声をかけた。
彼は戸惑いがちに頷くと、串にかぶりついた。そして肉の旨味にパッと表情を明るくさせて、自然な笑みを浮かべて咀嚼する。やはり美味しい食事を前にすれば、カメラの存在などいちいち気にしていられないのだ。
見れば桃華も、肉を食べては手で頬を押さえて幸せそうにしている。頬が落ちそうなほど美味という事だろう。彼女を映せないのが残念でならないほど、その様子は愛らしく微笑ましい。
そうして騎士の食事風景をカメラに映し終えたところで、ようやく綾那も串を口に運んだ。ただ一口齧っただけで、じゅわと脂が溢れ出す。アルミラージの肉は鶏肉に似た淡泊な味わいと言っていたが、一体これのどこが淡泊なのか。脂の甘みと肉の旨味は、まるで高級和牛にも負けず劣らずである。
齧った時はぷりっとしっかりした肉かと思えば、しかし口の中であっという間にサッと溶けてなくなってしまう。これは確かに、最上級の肉だ。
「本当に美味しいですね! 脂は甘いし、肉の旨味がギュッと詰まっていて――口の中で溶けてなくなるのが、癖になりそうです」
これで淡泊というのならば、もしかすると他の魔物肉はまた違った味わいなのか。もっと濃厚なものがあるならば、ぜひそれも食べてみたいものだ。
ほう、と綾那が感嘆の息を漏らすと、旭が「こちらも焼けましたよ」と言って鉄板の上に残されていたレバーとモツを木皿に取った。彼はそれに塩を振りかけて、一つ一つに楊枝を刺していく。
幸成はやはり内臓食に抵抗があるのかやや表情を引きつらせたが、颯月と和巳は興味深そうに旭を囲んだ。
「これは初めて食べる」
「ええ、私も初めてです」
言いながら楊枝に刺さったレバーを手に取る二人に、「お前ら、肝座ってんな……」と口にしながら、幸成もまた楊枝を手にした。三人が一斉にそれを口にして、ゆっくりと咀嚼する。するとその瞬間、幸成は金色の瞳を真ん丸にして輝かせた。
「――マジだ!! 酒飲みてーな!」
「鉄っぽい……独特の風味だが、舌触りが滑らかで面白い。禅も食え」
「もう頂いています」
いつの間にか楊枝を手にしていたらしい竜禅は、「確かに酒のアテに最適ですね」と口にした。彼らの様子に満足げに目を細めた旭は、「腸も違った味わいで面白いですよ」とモツも勧める。
あれだけ内臓について文句を言っていた幸成だが、今では一転して「旨い」「酒が飲みたい」と大騒ぎしている。綾那の偏見でしかないが、やはり体育会系の騎士には酒飲みが多いのだろうか。もしかすると、騎士が集まって飲み会を催すこともあるのかも知れない。
「解毒」をもって生まれたせいで酒のアルコールを感じられず、酒に酔う事もない綾那にとっては、何を飲んでもジュースと同じだ。飲んで酔って騒げるというのは、やや羨ましい事である。
瞬く間に木皿から姿を消したホルモンに、颯月が「あ」と言ってカメラを振り向いた。彼が申し訳なさそうに眉尻を下げたので、綾那は「騎士団長?」と言って首を傾げる。
「――悪い綾、全部食っちまった」
「え!? ……あはっ、皆さん聞きましたか? 騎士が夢中になるほど美味しかったようです!」
何を言われるのかと思えばそんな事かと、綾那は声を上げて笑った。動画のオチもついて素晴らしい事だ。綾那はまだ見ぬ視聴者に向かって言葉を投げかけると、「――以上、「魔物肉~美味しい編~」でした!」と一旦の編集点をつくる。
――そう、魔物肉はただ美味しいだけでは終わらない。あと少しでアルミラージを討伐してから一時間が経つ。大衆食堂に卸す分を含め、アルミラージの肉はあえて多めに残してあるのだ。
これから少し休憩したのち、動画のもう一つのメイン、「魔物肉~まずい編~」が始まる訳である。まだ動画の編集法について説明を聞いていないため不安は残るものの、しかし既に綾那の頭の中で、動画の組み立ては七割方済んでいる。
始める前はどうなる事かと思っていたが、存外良い仕上がりになりそうだ。きっと動画を見た者は、騎士が親しみやすく――そして意外と騎士団が明るく面白い職場だと思ってくれるはずだ。
綾那は一旦カメラを馬車の荷台に置くと、串に刺さった残りの肉を口にした。やはり美味だ、そして溶けてなくなる。カメラを置いたため、桃華の映り込みを気にする必要もない。綾那は桃華に向かって「美味しいねえ」と笑いかけた。彼女もまた満面の笑みを浮かべて何度も頷く。
「私、こんなに美味しいもの初めて食べました! こんなものが食べられるなら、私も騎士になりたかったなあ……法律があるんじゃあ、仕方ないですけど」
騎士の制服フェチだという桃華は、実は法律さえなければ自身も女性騎士になりたかったのだそうだ。彼女の瞳はオレンジ色。その色が表す得意な魔法属性は、火と光らしい。光属性に長けていると、静真のように眷属から目を付けられやすくなるものだが――しかし桃華の場合はオマケ程度の光らしいので、その心配はないとの事。
ただオマケでも、まるでRPGゲームのように人の傷を癒す治癒魔法を使えると言うのだから、バカにはできない。騎士の場合は呼称が違うのかも知れないが、例えば衛生兵――ヒーラーとして彼女が巡回について回れば、眷属や魔物との戦闘も心強いだろう。
それに、いずれは結婚する幸成とも同じ騎士で居られれば、楽しかったに違いない。
まあ、国王の定めた「女性の戦闘行為を禁止する」という法律がある以上は、全て夢物語に過ぎないのだが――。
綾那は桃華と笑い合いながら、「まずい肉」の試食を楽しみに待つ事にした。
落とした頭から慣れた手つきで角を切り落として、丁寧に毛皮を剥ぎ終わったら水魔法で洗浄する。毛皮は食事する間に、馬車の幌の上に並べて乾かすらしい。
「――では僭越ながら、調理は自分が担当いたします」
やや堅い声色で話す旭が、調理台の上に兎肉を載せた。訳あってひと月以上も放浪生活を強いられて、その間街に入る事もできずに外で魔物を狩って食い繋いできた、元アデュレリア騎士団員の旭。
図らずしも彼は、この場に居る騎士の誰よりも魔物肉の扱いに長けている。
横で即席のかまどに火を熾す幸成が、不貞腐れた表情で口を開いた。
「頼むぜ旭。さっさと終わらせて、さっさと帰るに限る。これ以上撮影が長引くのは御免だからな」
「そう根に持つな、幸成。颯月様はあんなに喜んでおられたぞ」
「あーあー! 颯は良いよな、他人事で! てか、「水鏡」に気付いてたんなら言えよ!」
「言う訳がねえだろう、最高だったぞアンタら」
言いながらカメラに気付いた瞬間の二人の反応を思い出したのか、颯月は手で口元を押さえて顔を逸らした。そんな彼の様子に、幸成はますます不貞腐れる。
「幸成くん、明るく楽しい騎士団的には笑って欲しいです」
綾那が顔色を窺うように小首を傾げれば、幸成は金色の目を眇める。
「……ああ、そうだね! 綾ちゃんがカメラ回すのを止めてくれたら、普通に笑えるんだけどな!」
「でも、これが私の仕事なんですもの」
これから動画のメイン魔物肉の調理に入るというのに、カメラを置けるはずがない。
「幸成、お姉さまが困っているでしょう? ちゃんと協力してあげて!」
「え、何? 俺の味方一人も居ないじゃん……」
頬を膨らませながら諫める言葉を発した桃華に、幸成はがくりと肩を落として項垂れた。「やっぱり綾ちゃんって、洗脳魔法が使えるんじゃ――」と呟いた幸成に、綾那は曖昧な笑みを返す。
幸成の様子に申し訳なく思いつつも、正直本当に良いリアクションだったため、この盗撮企画は今後も継続して行きたい。さすがに今、それを口にするつもりはないが。
――と、そうこうしている内に旭がアルミラージの肉を捌き始めた。
彼も盗撮被害に遭った一人だが、憤慨する幸成と違って「いや、でもカメラごと視界から隠れてくれていた方が、よほどやりやすいですから――」と、諦めにも似た肯定派である。
今もほぼ真横に近い位置でカメラを構えられている訳だが、しかし映すのは手元の作業工程だと綾那から説明を受けたため、割と平気そうにしている。それでも彼の硬い声色からは緊張した様子が伝わってくるが、このくらいなら許容範囲内だろう。
さすが魔物肉の扱いに慣れているだけあって、手際が良い。旭はアルミラージを開いて中の内臓に傷を付けないよう取り除くと、肉を一口大に切り分けていく。魔物肉はただ焼くだけでも絶品らしいので、今回は串焼きにして頂くらしい。切った肉を串に刺して、即席のかまどの上に敷いた鉄板へ並べていく。
じゅうぅと肉の焼ける音と、脂の溶ける甘く香ばしい匂い。
綾那と同じく、今回初めて魔物肉を食す桃華が、声を上げぬよう両手で口元を押さえながら、オレンジ色の瞳をキラキラと輝かせている。
(――分かる。分かるよ、桃ちゃん……これは絶対に美味しいヤツだ!)
じゅわ、と口の中に唾液が溢れて、綾那はごくりと飲み込んだ。肉を焼くだけとはいえ、なんとも撮りがいのあるシーンである。肉から溶け出した脂が鉄板に広がり、パチパチと音を立てて弾ける。もくもくと上がる真っ白い煙には、肉の香りがこれでもかと込められていて食欲を刺激する。
肉を裏返すタイミングはいつだろうか。意外とレアでも食べられるのか、それとも豚肉のように火の通りには注意が必要なタイプか。
綾那がワクワクしながら肉の様子を撮影していると、不意に幸成が「えっ! 旭、お前もしかして!?」と声を上げたので、すかさずカメラを向ける。どうやら、調理台の上に残ったままだったアルミラージの内臓を捌き始めた旭に、幸成が驚いているらしい。
「内臓って普通、捨てるモンじゃねえ? 俺らいつも肉だけ食ってたんだけど――もしかして、アデュレリアではポピュラーなのか?」
完全に引いている幸成の表情に、旭が苦笑を浮かべた。
「いえ、自分も元々は肉だけ食べて、内臓は捨てていました。しかし、ひと月も食事に困っている内に意識が変わりまして。食べてみると存外、イケますよ」
「えぇ~!? 旭お前、ゲテモノ食いかよ!」
悪態をつく幸成だったが、しかし旭の手で丁寧に処理されていく内臓に興味津々な様子だ。曰く、内容物を綺麗に取り除けば旨いらしい。アルミラージは鶏肉に似た淡泊な味わいだが、その内臓はこってりと濃厚で、酒のツマミにもなるそうだ。
ちなみに、この国の飲酒可能年齢は十八歳からである。
(確かに、鶏モツ、鶏レバーって美味しいよね……これは兎だけど)
綾那は一人納得する。
元アデュレリア騎士団である旭達は、何者かに陥れられて無実の罪で領を追われた。無実とはいえ『犯罪者』として追い出された彼らは、街へ出入りするための通行証を没収されて――およそひと月の間、街の外で放浪生活する事を余儀なくされたのだ。それは、食に関してなりふり構っていられなかったに違いない。
それにしても、ふと騎士団宿舎の食事を思い返せば、内臓系の食事は出た事がない。豚、牛、鶏肉を使った料理、ベーコンや燻製などの加工品は存在するが――もしかすると、この国にはホルモンを食べる文化が根差していないのかも知れない。
(アレ、そういえば魚介類も一切出てこないような。この辺りに海がないせいかとも思ったけど、でも物流の盛んな王都だよ? 氷の魔法で冷凍すれば、他所の領からいくらでも運び込めそうなんだけどな。今まであまり深く考えてなかったけど、もしかして魚を食べる文化もない――とか?)
綾那は「ふむ」と考え込んだが、しかし今はアルミラージの串焼きの方が大事である。軽く頭を振って気を取り直すと、再び串焼きを載せた鉄板へカメラを向けた。
こんなにも美味しそうな魔物肉が、時間の経過とともに酷い風味に変わるとは――なんとも不思議な現象である。死んだ魔物の肉は、だいたい小一時間ほどで味と香りに変化が出てしまうそうだ。食べても体調を崩す事はないので、決して腐っている訳ではないのだという。何故そこまで極端に風味が落ちるのかは、長年の謎らしい。
恐らく、この国の科学が発展していれば研究機関も存在して、栄養素がどうとか、酸素に触れて反応が起きてどうだとか――生命活動が止まる事で血中の成分がどうのこうのとか、味の落ちる原因も分かるのだろう。
しかし、生憎とここは魔法の世界である。魔物肉に起きている事象を明らかにする手立てはない。綾那としても、「魔法生物だから、そういうものなのだろう」で納得している。
(美味しそう……焼肉屋さんに来たみたい)
横で幸成に「おい、一緒の鉄板に並べんのかよ!?」と文句を言われながら、旭は串焼きの横に兎の肝臓らしきものと、ぶつ切りにした腸を並べて火を通し始めた。
いくら普通の兎と比べて体長が大きいとはいえ、やはり兎は兎だ。たった五羽分の内臓は、牛と比べて採れる量が少ない。もちろん個人の嗜好はあるだろうが――しかし一度ホルモンの味を知れば、争奪戦が始まるのではなかろうか。
それはそれで映像として見応えがあるので、綾那としては是非、存分に奪い合って頂きたい。
「そろそろ焼き上がりますよ」
魅惑の魔物肉を前にカメラの存在を無意識下へ追いやったのか、旭がその爽やかな容貌に自然な笑みを浮かべる。つい綾那が「これは撮り逃せない」とカメラを向ければ、ハッとした旭が顔を逸らして「映すのは手元だけと言ったではないですか!」と抗議してくる。
綾那は「手元の作業工程を映すとは言いましたが、「だけ」とは言っていません、「だけ」とは」と屁理屈を述べた。困ったように眉尻を下げる旭に、これ以上はまるで嫌がらせしているように見えるだろうかとカメラを肉へ戻す。
「旭シェフ! 魔物肉に集中してください、これはもう食べられるのでしょうか? 早く皆さんの感想がお聞きしたいです!」
「自分はシェフではなく、騎士なのですが――」
言いながら旭は、焼けた串をそれぞれに分配し始めた。内臓についてはまだ火の通りが甘いため、このまま鉄板の上で焼き続けるらしい。旭は綾那にも串を手渡してくれたが、しかしまずは騎士の食事風景を撮る事が最優先だ。綾那は片手に串を握ったまま、撮影に集中する。
意外と垣根がないフレンドリーな騎士団とはいえ、しっかりと序列はあるのだ。団長の颯月が手を付けるまでは、誰も串にかぶり付こうとしない。
そっと颯月にカメラを向ければ、彼は小さく「いただきます」と呟いてから肉をかじった。
やや伏せられた瞳、長い睫毛が頬に影を落としている。もぐもぐと咀嚼したのち、ごくりと肉を飲み下せば――騎士服の下、黒いアンダーインナーに包まれた大きな喉仏が、ゆっくりと上下した。
淡泊と言っていた割に、よほど肉の脂が多いのだろうか。彼はおもむろに、唇についた脂を舌で舐めとった。そこで初めて目線をカメラに向けた颯月は、紫色の瞳を細めて「旨いぞ」と言って笑う。
(ああ、神よ……!!)
綾那は、カメラと串さえ手に持っていなければ、両手を組んで颯月を拝み倒せたのにと思う。なんなら天に、彼という人間が誕生した事を感謝したいくらいだ。
彼は粗野な喋り方や、机に座ったり肘をついたりと態度の悪い行動をしていても、不思議と気品がある。何せ串焼きを食べていても品があるのだ。それは恐らく王族として生まれ、幼少期から正妃によるスパルタ教育を受けた賜物なのだろう。
――いや、そうだ、確かに気品はある。あるのだが、しかしなんて妖艶に食べるのか。
(この動画は全年齢向けのはずなんだけれど。本当に大衆食堂で流して良いのかな……PTAに抗議されるんじゃあ――この国にPTAがあればの話だけど)
四重奏の『お色気担当大臣』なんて呼ばれていた綾那だが、しかし本当のお色気担当とは颯月のような人物を指すのではないか。早速、素晴らしいキャラ付けがされた。陽香の謎理論を引用する訳ではないが、彼は垂れ目で元々色っぽい顔立ちをしている。颯月はアイドクレース騎士団のお色気担当として推して行こう。
「肉の処理が良いな、筋切りでもしたのか? 普段より肉が柔らかい気がする――さすが旭シェフだ」
「団長まで自分をシェフにしないでください」
苦笑を浮かべる旭を尻目に、颯月は二口目に入った。その横で副長の竜禅も串を齧り、淡々と「旨い」と感想を述べる。
「――ああ、確かに柔らけえ。やるなあ旭!」
「恐縮です」
肉を咀嚼しながら幸成が褒めれば、旭はやや照れくさそうに笑った。
「やっぱ、普通の肉とは全然違うんだよなあ、街でも気軽に食えたら最高なのに。高い牛の肉って、あれはあれで旨いけど――魔物の肉はそもそもカテゴリーが違う気がする」
「分かる気がします。溶けるような脂といい、溢れる旨味といい――本当の意味で最上級の肉」と呼べるでしょうね」
和巳も肉に齧りつくと、そのままグイと串から引き抜いた。一見すると女性のように中性的な美貌をもつ彼だが、その食事作法は意外とワイルドだ。しかも、この場に居る騎士の中で一番体が華奢なのに、その誰よりも食事量が多い。その量と言えば、あの細い体のどこへそんなに入るのかと疑うレベルである。
体が資本だからと、ただでさえメニュー量の多い騎士団宿舎の食事――彼がいつもそれを大盛りにしているのを、綾那は何度も見ている。和巳曰く、頭脳労働は意外とカロリーを消費するとの事だ。
(もしや、和巳さんでフードファイト動画が撮れるのでは?)
綾那はぴんと閃いた。この容姿で実は大食漢など、「表」であれば「美しすぎる」なんて枕詞を付けられて話題にされる事、間違いなしである。
機会があれば是非、この企画も通したい。若手騎士団員を集めて大食い大会を開催するのも面白そうだ。綾那が今後の展望に思いを馳せていると、ふと旭が顔色を窺うように小首を傾げたのが視界に入った。恐らく「食べないのか」という意味合いだろうか。
果たして『広報』が騎士団でどのあたりの階級に当たるのかは分からないが、役職のない平騎士の旭がここでは一番下なのだろう。綾那は「旭さん、お先にどうぞ。私はまだ仕事が残っていますので」と声をかけた。
彼は戸惑いがちに頷くと、串にかぶりついた。そして肉の旨味にパッと表情を明るくさせて、自然な笑みを浮かべて咀嚼する。やはり美味しい食事を前にすれば、カメラの存在などいちいち気にしていられないのだ。
見れば桃華も、肉を食べては手で頬を押さえて幸せそうにしている。頬が落ちそうなほど美味という事だろう。彼女を映せないのが残念でならないほど、その様子は愛らしく微笑ましい。
そうして騎士の食事風景をカメラに映し終えたところで、ようやく綾那も串を口に運んだ。ただ一口齧っただけで、じゅわと脂が溢れ出す。アルミラージの肉は鶏肉に似た淡泊な味わいと言っていたが、一体これのどこが淡泊なのか。脂の甘みと肉の旨味は、まるで高級和牛にも負けず劣らずである。
齧った時はぷりっとしっかりした肉かと思えば、しかし口の中であっという間にサッと溶けてなくなってしまう。これは確かに、最上級の肉だ。
「本当に美味しいですね! 脂は甘いし、肉の旨味がギュッと詰まっていて――口の中で溶けてなくなるのが、癖になりそうです」
これで淡泊というのならば、もしかすると他の魔物肉はまた違った味わいなのか。もっと濃厚なものがあるならば、ぜひそれも食べてみたいものだ。
ほう、と綾那が感嘆の息を漏らすと、旭が「こちらも焼けましたよ」と言って鉄板の上に残されていたレバーとモツを木皿に取った。彼はそれに塩を振りかけて、一つ一つに楊枝を刺していく。
幸成はやはり内臓食に抵抗があるのかやや表情を引きつらせたが、颯月と和巳は興味深そうに旭を囲んだ。
「これは初めて食べる」
「ええ、私も初めてです」
言いながら楊枝に刺さったレバーを手に取る二人に、「お前ら、肝座ってんな……」と口にしながら、幸成もまた楊枝を手にした。三人が一斉にそれを口にして、ゆっくりと咀嚼する。するとその瞬間、幸成は金色の瞳を真ん丸にして輝かせた。
「――マジだ!! 酒飲みてーな!」
「鉄っぽい……独特の風味だが、舌触りが滑らかで面白い。禅も食え」
「もう頂いています」
いつの間にか楊枝を手にしていたらしい竜禅は、「確かに酒のアテに最適ですね」と口にした。彼らの様子に満足げに目を細めた旭は、「腸も違った味わいで面白いですよ」とモツも勧める。
あれだけ内臓について文句を言っていた幸成だが、今では一転して「旨い」「酒が飲みたい」と大騒ぎしている。綾那の偏見でしかないが、やはり体育会系の騎士には酒飲みが多いのだろうか。もしかすると、騎士が集まって飲み会を催すこともあるのかも知れない。
「解毒」をもって生まれたせいで酒のアルコールを感じられず、酒に酔う事もない綾那にとっては、何を飲んでもジュースと同じだ。飲んで酔って騒げるというのは、やや羨ましい事である。
瞬く間に木皿から姿を消したホルモンに、颯月が「あ」と言ってカメラを振り向いた。彼が申し訳なさそうに眉尻を下げたので、綾那は「騎士団長?」と言って首を傾げる。
「――悪い綾、全部食っちまった」
「え!? ……あはっ、皆さん聞きましたか? 騎士が夢中になるほど美味しかったようです!」
何を言われるのかと思えばそんな事かと、綾那は声を上げて笑った。動画のオチもついて素晴らしい事だ。綾那はまだ見ぬ視聴者に向かって言葉を投げかけると、「――以上、「魔物肉~美味しい編~」でした!」と一旦の編集点をつくる。
――そう、魔物肉はただ美味しいだけでは終わらない。あと少しでアルミラージを討伐してから一時間が経つ。大衆食堂に卸す分を含め、アルミラージの肉はあえて多めに残してあるのだ。
これから少し休憩したのち、動画のもう一つのメイン、「魔物肉~まずい編~」が始まる訳である。まだ動画の編集法について説明を聞いていないため不安は残るものの、しかし既に綾那の頭の中で、動画の組み立ては七割方済んでいる。
始める前はどうなる事かと思っていたが、存外良い仕上がりになりそうだ。きっと動画を見た者は、騎士が親しみやすく――そして意外と騎士団が明るく面白い職場だと思ってくれるはずだ。
綾那は一旦カメラを馬車の荷台に置くと、串に刺さった残りの肉を口にした。やはり美味だ、そして溶けてなくなる。カメラを置いたため、桃華の映り込みを気にする必要もない。綾那は桃華に向かって「美味しいねえ」と笑いかけた。彼女もまた満面の笑みを浮かべて何度も頷く。
「私、こんなに美味しいもの初めて食べました! こんなものが食べられるなら、私も騎士になりたかったなあ……法律があるんじゃあ、仕方ないですけど」
騎士の制服フェチだという桃華は、実は法律さえなければ自身も女性騎士になりたかったのだそうだ。彼女の瞳はオレンジ色。その色が表す得意な魔法属性は、火と光らしい。光属性に長けていると、静真のように眷属から目を付けられやすくなるものだが――しかし桃華の場合はオマケ程度の光らしいので、その心配はないとの事。
ただオマケでも、まるでRPGゲームのように人の傷を癒す治癒魔法を使えると言うのだから、バカにはできない。騎士の場合は呼称が違うのかも知れないが、例えば衛生兵――ヒーラーとして彼女が巡回について回れば、眷属や魔物との戦闘も心強いだろう。
それに、いずれは結婚する幸成とも同じ騎士で居られれば、楽しかったに違いない。
まあ、国王の定めた「女性の戦闘行為を禁止する」という法律がある以上は、全て夢物語に過ぎないのだが――。
綾那は桃華と笑い合いながら、「まずい肉」の試食を楽しみに待つ事にした。
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