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番外編①
2 ヒロインナノヨ伯爵令嬢の前日譚2
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――『甘夢』の世界は生前の日本と比べて前時代的。
家電製品なんてある訳ないし、上下水道設備だってそんなに開発が進んでないからトイレは汲み取り式。
お風呂にバスタブがあってもお湯が出る蛇口なんてない、人力でお湯を沸かしてバスタブに運ぶのよ……全くとんでもない世界だわ。
正直言って不便な世界に慣れるまで時間はかかったけど、でもやっぱり「郷に入っては郷に従え」よね。
面白い世界に生まれた事には違いないし、ちょっとした不遇だって後に待ってるハッピーエンドを際立たせるためのスパイスよ、スパイス。
甘んじて受けようじゃあないの。
――それにまあ、伯爵家の令嬢に生まれた私にはあまり関係ない事だったしね。
家は使用人だらけで家事なんて一切する必要がない。
トイレが汲み取り式だって言ったって別に私が汲み取る訳じゃあないし、お風呂でお湯が出ないって言ったって沸かすのはメイドだもん。
私はただ待っているだけで良いんだから。
ゲームのアレッサはお菓子作りが得意って設定だったけど……正直私にはムリ。
だってオーブン! 窯なのよ、あんなもんどうやて温度管理しろって言うの、超燃えてるんだけど?
ピザじゃあるまいし、窯に張り付いてクッキーを見守り続けるなんて絶対にムリ、熱いし。
別に「お菓子作り」なんてありがちな設定なくたって平気でしょ? だって私は愛されヒロインだもの、使用人にクッキー焼かせたって良いじゃない。
そもそも貴族の令嬢が手ずからクッキー焼くって何なのよ、全く。
しかも伯爵夫妻……今世の私の両親ね、マジで私のことが好き過ぎるのよ。
目に入れても痛くないって、たぶんこういう事を言うんでしょうね。キッチンに立つなんて許してくれるはずがないわ、危ないもの。
試しに家に飾ってあった高そうな花瓶を割ってみても全っ然叱らないし、むしろ「割れるようなものをアリーの手の届くところに置いた無能は、どこのどいつだ!」ってメイドをクビにするレベル。
あ、「アリー」っていうのは私の愛称ね。だから私1回も親に叱られたことないわ、親どころか誰からもね。
「可愛いアリーが男の目に触れるのは危険だ」って言って家から1歩も出してくれないし……私が10歳になる頃には、使用人の中から男が消えてたわ。
たぶんだけど、私が生まれつきもってる「魅力」ってスキルのせいね。
異性を虜にしちゃうヒロインスキルだから、まあお父さんお母さんが心配になっちゃう気持ちも分かるかな。
だって使用人にロリコン男が混ざってたら大変なことになるかも知れないじゃない? 愛され過ぎるのも考え物だわね。
あとゲーム特有の、男の攻略度ならぬ好感度が目視できる「愛されまなこ」ってスキルも持っているんだけど……あいにく家の中から未婚の男が消えちゃったから、使う機会もないわ。お父さんは既婚者だから、何も映らなくてつまんないし。
◆
「アリーは本当に賢いな、天才かも知れない!」
「きっと学院に入っても主席で卒業できるに違いないわ。何でもできるんですもの、きっとあなたに似たのね」
「何を言うんだ、お前に似たに決まってる。だからこんなにも美しいんだろう」
新しい両親のことは結構好きだけど、でも頻繁に私をダシにしていちゃつくのだけは鬱陶しいわ。
私のこと何も分からない子供だと思っているんでしょうけど、前世と合算すれば2人と同年代だわよ。
でもいつも幸せそうで羨ましい、この2人を見てると私も「結婚もアリかも?」なんて気持ちにさせられる。
――それにしてもこの世界、学力レベルが低すぎてヤバイわ。
学院を卒業した大人でも日本の義務教育修了レベル以下なのよね……道理で何もかも前時代的なはずよ。
ゲームの世界だから仕方がないのかも知れないけれど、何故か今以上に学びを深めようって気は誰にもないみたいだし……完全に停滞してる感じ。
まあお陰様で、前世で大学卒業間近だった私は天才扱いな訳よ。
文系専攻だったから本当は数学とか科学とか苦手なんだけど、でも因数分解程度ならギリギリ何とかなるわ。
正直これなら、新たに勉強する必要はないかな……だって卒業した後にもっと勉強しなくちゃやっていけないかって言えば、そんなことないんだもの。
ってか、私よりレベルの低い家庭教師の相手をさせられ続けるのって、不快だから本当は辞めたいのよね。
知らないフリするのも面倒くさいし、かと言って頭が良い事を匂わせすぎると「学院に行く必要がないほど賢い」なんて言われ始める始末。
絶対にレスタニア学院に行きたいから、我慢して家庭教師を続けるしかないとは思うけど。
――あーあ、早く16歳にならないかしら。家から出られないし、男も居ないし……周りはバカばっかりで、つまんないからさっさとヒロイン無双したいのよね。年々可愛くなっててマジでやばいわよ、アレッサこと私。
卒業式を待たずにエヴァンシュカをぎゃふんと言わせるのもアリかも。いや、いっそのことエヴァンシュカ攻略ルートとか開拓できないかしら?
実は悪役王女のエヴァンシュカ、誰からも愛されずに育ったせいで性格が歪んだって言うありがちな裏設定があるの。
メチャクチャ兄妹が多い上に末娘で、既に栄えまくってるハイドランジアからすれば、政略結婚の駒的にもあんまり価値がないとか……親からひとつも期待されてないし、上の兄妹からも煙たがられて無視されてる。
誰にも愛されなかったから、承認欲求強めの「かまってちゃん」で、エヴァンシュカがワガママなのはそのせい。
そんなエヴァンシュカをヒロインが友情で更生させるルートなんて面白そうじゃない?
意外と私がちょっと優しくしただけでコロッと攻略できちゃったりして……悪くないわね。
家電製品なんてある訳ないし、上下水道設備だってそんなに開発が進んでないからトイレは汲み取り式。
お風呂にバスタブがあってもお湯が出る蛇口なんてない、人力でお湯を沸かしてバスタブに運ぶのよ……全くとんでもない世界だわ。
正直言って不便な世界に慣れるまで時間はかかったけど、でもやっぱり「郷に入っては郷に従え」よね。
面白い世界に生まれた事には違いないし、ちょっとした不遇だって後に待ってるハッピーエンドを際立たせるためのスパイスよ、スパイス。
甘んじて受けようじゃあないの。
――それにまあ、伯爵家の令嬢に生まれた私にはあまり関係ない事だったしね。
家は使用人だらけで家事なんて一切する必要がない。
トイレが汲み取り式だって言ったって別に私が汲み取る訳じゃあないし、お風呂でお湯が出ないって言ったって沸かすのはメイドだもん。
私はただ待っているだけで良いんだから。
ゲームのアレッサはお菓子作りが得意って設定だったけど……正直私にはムリ。
だってオーブン! 窯なのよ、あんなもんどうやて温度管理しろって言うの、超燃えてるんだけど?
ピザじゃあるまいし、窯に張り付いてクッキーを見守り続けるなんて絶対にムリ、熱いし。
別に「お菓子作り」なんてありがちな設定なくたって平気でしょ? だって私は愛されヒロインだもの、使用人にクッキー焼かせたって良いじゃない。
そもそも貴族の令嬢が手ずからクッキー焼くって何なのよ、全く。
しかも伯爵夫妻……今世の私の両親ね、マジで私のことが好き過ぎるのよ。
目に入れても痛くないって、たぶんこういう事を言うんでしょうね。キッチンに立つなんて許してくれるはずがないわ、危ないもの。
試しに家に飾ってあった高そうな花瓶を割ってみても全っ然叱らないし、むしろ「割れるようなものをアリーの手の届くところに置いた無能は、どこのどいつだ!」ってメイドをクビにするレベル。
あ、「アリー」っていうのは私の愛称ね。だから私1回も親に叱られたことないわ、親どころか誰からもね。
「可愛いアリーが男の目に触れるのは危険だ」って言って家から1歩も出してくれないし……私が10歳になる頃には、使用人の中から男が消えてたわ。
たぶんだけど、私が生まれつきもってる「魅力」ってスキルのせいね。
異性を虜にしちゃうヒロインスキルだから、まあお父さんお母さんが心配になっちゃう気持ちも分かるかな。
だって使用人にロリコン男が混ざってたら大変なことになるかも知れないじゃない? 愛され過ぎるのも考え物だわね。
あとゲーム特有の、男の攻略度ならぬ好感度が目視できる「愛されまなこ」ってスキルも持っているんだけど……あいにく家の中から未婚の男が消えちゃったから、使う機会もないわ。お父さんは既婚者だから、何も映らなくてつまんないし。
◆
「アリーは本当に賢いな、天才かも知れない!」
「きっと学院に入っても主席で卒業できるに違いないわ。何でもできるんですもの、きっとあなたに似たのね」
「何を言うんだ、お前に似たに決まってる。だからこんなにも美しいんだろう」
新しい両親のことは結構好きだけど、でも頻繁に私をダシにしていちゃつくのだけは鬱陶しいわ。
私のこと何も分からない子供だと思っているんでしょうけど、前世と合算すれば2人と同年代だわよ。
でもいつも幸せそうで羨ましい、この2人を見てると私も「結婚もアリかも?」なんて気持ちにさせられる。
――それにしてもこの世界、学力レベルが低すぎてヤバイわ。
学院を卒業した大人でも日本の義務教育修了レベル以下なのよね……道理で何もかも前時代的なはずよ。
ゲームの世界だから仕方がないのかも知れないけれど、何故か今以上に学びを深めようって気は誰にもないみたいだし……完全に停滞してる感じ。
まあお陰様で、前世で大学卒業間近だった私は天才扱いな訳よ。
文系専攻だったから本当は数学とか科学とか苦手なんだけど、でも因数分解程度ならギリギリ何とかなるわ。
正直これなら、新たに勉強する必要はないかな……だって卒業した後にもっと勉強しなくちゃやっていけないかって言えば、そんなことないんだもの。
ってか、私よりレベルの低い家庭教師の相手をさせられ続けるのって、不快だから本当は辞めたいのよね。
知らないフリするのも面倒くさいし、かと言って頭が良い事を匂わせすぎると「学院に行く必要がないほど賢い」なんて言われ始める始末。
絶対にレスタニア学院に行きたいから、我慢して家庭教師を続けるしかないとは思うけど。
――あーあ、早く16歳にならないかしら。家から出られないし、男も居ないし……周りはバカばっかりで、つまんないからさっさとヒロイン無双したいのよね。年々可愛くなっててマジでやばいわよ、アレッサこと私。
卒業式を待たずにエヴァンシュカをぎゃふんと言わせるのもアリかも。いや、いっそのことエヴァンシュカ攻略ルートとか開拓できないかしら?
実は悪役王女のエヴァンシュカ、誰からも愛されずに育ったせいで性格が歪んだって言うありがちな裏設定があるの。
メチャクチャ兄妹が多い上に末娘で、既に栄えまくってるハイドランジアからすれば、政略結婚の駒的にもあんまり価値がないとか……親からひとつも期待されてないし、上の兄妹からも煙たがられて無視されてる。
誰にも愛されなかったから、承認欲求強めの「かまってちゃん」で、エヴァンシュカがワガママなのはそのせい。
そんなエヴァンシュカをヒロインが友情で更生させるルートなんて面白そうじゃない?
意外と私がちょっと優しくしただけでコロッと攻略できちゃったりして……悪くないわね。
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