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第4章 万能王女の実力
9 アリーの恋愛相談3
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カレンデュラ伯爵令嬢の無茶振りによって――王女とジョーの本日の茶会に、急遽わたくしと伯爵令嬢がお邪魔する運びとなってしまいました。
出来る限りお2人の時間を邪魔したくはなかったのですが……まあ、ご令嬢も張り切って応援して下さるとの事ですし。
彼女がムチャクチャにかき回す事によって、良い方向へ転がる可能性もございますから――たまにはこう言った変化をくわえるのもアリでしょう。
エヴァ王女とジョーがなんだかんだ両想いだと言う事は一目瞭然ですが、どうにも「お友達」の域を出ないんですよね……。
さっさとくっついて頂きたい。
――茶会の会場は、いつも通り人目につかぬよう王女専用の庭園で。
エヴァ王女とカレンデュラ伯爵令嬢は、侍女のアメリを連れて先に会場で待つとの事です。
わたくしは翡翠宮まで赴くと、ジョーのお迎えにあがりました。
ちなみに彼は、急な事にも関わらず「アデルのダチなら俺のダチみたいなもんッスよ!」と快活に笑って承諾してくれました。
普通、当日に参加者が増えるなんて話を聞かされたら、鬼のように怒っても良いレベルなのですが――そもそもジョーは根っからの貴族ではありませんし、きっと「転生者」であるという事も関係しているのでしょうね。
何せ話した感じ、どうも生前の彼は相当な「根明」です――「パリピ」と言っても過言ではありません。
パリピと言えば「フットワークが軽い」であるのが当然……いえ、これはわたくしの偏見でしょうか。
――とにかく、このような些事では怒りを覚えないらしい寛大なジョーを連れて、わたくしはお2人が待つ庭園を目指しました。
◆
そうして始まった茶会。
わたくしはもちろん、友ではなく騎士なので王女と同じ卓にはつきませんが――それでも、いつもよりも数歩近い距離に立って護衛の任に当たります。
まずエヴァ王女は、ジョーに当日このような事態になってしまった非礼を詫びました。
そうしてカレンデュラ伯爵令嬢にジョーを、ジョーに伯爵令嬢を紹介して――この奇妙なメンバーによる茶会は、予想外に和やかに進みました。
ジョーと仲睦まじく話すエヴァ王女。
お2人の表情、甘ったるい目線は、誰に聞いても「アレは『友人』に向けるものではない」と答えるでしょう。
そんなお2人を微笑ましそうに――時にニマニマと悪だくみするような笑みを浮かべて見守る、カレンデュラ伯爵令嬢。
彼女はどうも、エヴァ王女とジョーの親密度を計ろうとしておられるようです。
少々下世話な言い方をすれば、お2人の関係が今どこまで進んでいるのか見極めようとしている――と言ったところでしょうか。
ちなみに、ジョーには先んじてカレンデュラ伯爵令嬢が「転生者」であるという事を伝えています。
事前に話しておかなければ、この場で「黄金郷」の話を持ち出されては仰天してしまうでしょうからね。
……わたくしもジョーも、エヴァ王女がいらっしゃる手前、あまり込み入った昔話はしたくないのですよ。
特にジョーは生前に未練があるため、どうしても気分が落ち込んでしまうようですし。
――あの根明が落ち込むのですから、「黄金郷」に対する執着は相当なものだと思います。
そうしてある程度場が温まって来た頃合いを見て、カレンデュラ伯爵令嬢がおもむろに口を開きました。
「――2人はとても話が合うのね。まるでこの庭園に2人しか居ないみたいだわ」
「……な、何スか急に?」
「そ、そうですわよアリー、藪から棒に――」
「嫌味じゃあないのよ? きっと庭園に咲いた花だって2人に気を遣って蕾に戻るでしょう、それぐらいお互いに向けた笑顔が眩しいんだもの」
女性貴族特有の、遠回しな「お似合いだから、2人共付き合っちゃえば良いのに~」という茶化し。
カレンデュラ伯爵令嬢はどうしようもないちゃらんぽらんに見えて、たまに――ごく稀に、こうして令嬢らしさを出す時があるので面白いです。
その言葉を受けたエヴァ王女とジョーは、僅かに頬を上気させて気まずそうにしておられます。
しかしエヴァ王女はある意味吹っ切れてしまわれたのか、こほんと小さく咳ばらいをして頷きました。
「ま、まあ――ジョーとお話が合うのは、事実ですし………」
「ええ、そう見えるわ。私は友達としてアンタ達の事を応援するから……だから、身分の差がどうとか生まれがどうとか、周りに何を言われても負けるんじゃあないわよ。――アデルとジョーがダメになったら、私のハイド攻略難易度が爆上がりするのよ! 絶対くっつきなさいよね……!」
「あ、アリー……!!」
エヴァ王女はまたしても、ご自分にとって都合の悪い後半のセリフは丸々聞き逃されたようでした。
お優しいご友人のお言葉を聞いて、感涙しそうな勢いで瞳を潤ませています。
――ちなみにジョーはしっかりと不穏なセリフが耳に届いたようで、不思議そうな顔をして首を傾げています。可愛いですね。
そうして王女とジョーを茶化し終えたカレンデュラ伯爵令嬢は、途端に「さて!」と言って拍手を打ちました。
「それはそうとエ――アデル! 私と知恵比べをしなさい!」
「……え?」
突拍子もない提案に、王女は思い切り首を傾げられました。
――いえ、正直わたくしも、散々「2人を応援する」と言っておられたのに、まさかこの場でご自分の目的を優先なさるとは、思いもしませんでしたけれど。
「アンタ達の事は応援するけど、それと並行して私の方がアデルより賢いって事をハイドに分からせなきゃ行けないのよ! だからアデル、アンタは私のための「踏み台」になりなさい! 当て馬よ、当て馬!」
「う、うおお……俺、女の友情ってよく分かんねえッスけど――たぶんアデルはもう少し人を選んだ方が良いと思うッスよ」
「お黙り平民!! ――ふふ、ようやくこのアレッサ・フォン・カレンデュラの賢さを証明する時が来たわね……さあアデル、私が素数でも教えてあげましょうか? それとも微分積分かしらね!! かかって来なさいよ中卒女!!」
ジョーの正論を跳ねのけ、これでもかと胸を反らしてエヴァ王女を見下すカレンデュラ伯爵令嬢。
そんな令嬢の言葉に、王女は青色の目を瞬かせた後――ぱあと表情を明るくさせました。
「まあ、アリー! 貴女凄いですわね……レスタニアは かれこれ数百年は学問に変化がない閉鎖空間だと言われておりますのに――どうして素数をご存じなの?わたくし今、ハイドから虚数と複素数について、より深く学んでいるところですのよ」
「――へ?」
「共役複素数についても聞きましたし……最近はジョーから有理関数環、確率質量関数のお話なんかも――数学って面白いですわよね。この世の全ては数字で出来ている、なんていうお話を耳にした事がありますわ!」
「……ま、待ってアデル、アンタ今何の話してるの? ゆ、ゆーりかんすー……何だって?」
「あら? ええと……アリー、多項式環はご存じ?」
「たこーし………………ちょっと待ちなさい、ハイドとジョーって何者なの!? 明らかに義務教育修了レベルの学力じゃあないわ、高校――いや、大学の理系って感じがして、凄い頭痛い……! 自分から数学を振っておいてなんだけど、私完全に文系なのよ!! 日本の社会科や向こうの世界史なんてここで話したって、意味分かんないだろうし……!!」
テーブルに突っ伏して頭を抱えるカレンデュラ伯爵令嬢に、わたくしはほんの少しだけ罪悪感を覚えました。
彼女の話を聞く限り、この世界は――レスタニア皇国だけでなくこのハイドランジアだって、教育レベルが義務教育修了レベルで停滞していたはずなのでしょう。
にも関わらず、わたくしが調子に乗ってエ万能王女に要らぬ知識を吹き込んでしまったから――地頭が良すぎる王女は何でもかんでも自己解決して答えを解明してしまいますし、テオ陛下最愛の末娘である王女が様々な定理、定説を発見したとなればどうなるか。
それらはハイドランジアの常識・新ルールとして国に広く啓蒙され、国の教育レベルは否が応でも引き上げられてしまいました。
ジョーもまた「黄金郷」の知識をそのまま持ち越しているようですが……彼は平民――それも孤児です。
例え同様の定説を唱えたところで、功績がすぐさま国中に知れ渡る王女と違って……身分の問題から、彼の名声はそう簡単には上げられなかった事でしょう。
――もちろん、カレンデュラ伯爵令嬢も義務教育修了レベル以上の知能をお持ちのようです。
しかし「この世界の学力レベルが低いから」と侮って、研鑽を怠ったようですね。
わたくしはエヴァ王女のように賢い方と話すのが、楽しくて好きです。
何故ならわたくしなどよりも遥かに聡明ですから、むしろこちらが教わる事、気付かされる事の方が多いからです。
そもそも「転生者」は、どうしてもこの世界の住人と価値観や考え方――何から何まで違い過ぎて浮いていますからね。
その点を考慮しましても、やはりエヴァ王女は素晴らしい人物であると言わざるを得ません。
そんな王女の学力を舐め切って、調子に乗りまくっておられたようですが……早々に鼻っ柱を折られてしまったようです。
全く、カレンデュラ伯爵令嬢は「浅は可愛い」ですね。
出来る限りお2人の時間を邪魔したくはなかったのですが……まあ、ご令嬢も張り切って応援して下さるとの事ですし。
彼女がムチャクチャにかき回す事によって、良い方向へ転がる可能性もございますから――たまにはこう言った変化をくわえるのもアリでしょう。
エヴァ王女とジョーがなんだかんだ両想いだと言う事は一目瞭然ですが、どうにも「お友達」の域を出ないんですよね……。
さっさとくっついて頂きたい。
――茶会の会場は、いつも通り人目につかぬよう王女専用の庭園で。
エヴァ王女とカレンデュラ伯爵令嬢は、侍女のアメリを連れて先に会場で待つとの事です。
わたくしは翡翠宮まで赴くと、ジョーのお迎えにあがりました。
ちなみに彼は、急な事にも関わらず「アデルのダチなら俺のダチみたいなもんッスよ!」と快活に笑って承諾してくれました。
普通、当日に参加者が増えるなんて話を聞かされたら、鬼のように怒っても良いレベルなのですが――そもそもジョーは根っからの貴族ではありませんし、きっと「転生者」であるという事も関係しているのでしょうね。
何せ話した感じ、どうも生前の彼は相当な「根明」です――「パリピ」と言っても過言ではありません。
パリピと言えば「フットワークが軽い」であるのが当然……いえ、これはわたくしの偏見でしょうか。
――とにかく、このような些事では怒りを覚えないらしい寛大なジョーを連れて、わたくしはお2人が待つ庭園を目指しました。
◆
そうして始まった茶会。
わたくしはもちろん、友ではなく騎士なので王女と同じ卓にはつきませんが――それでも、いつもよりも数歩近い距離に立って護衛の任に当たります。
まずエヴァ王女は、ジョーに当日このような事態になってしまった非礼を詫びました。
そうしてカレンデュラ伯爵令嬢にジョーを、ジョーに伯爵令嬢を紹介して――この奇妙なメンバーによる茶会は、予想外に和やかに進みました。
ジョーと仲睦まじく話すエヴァ王女。
お2人の表情、甘ったるい目線は、誰に聞いても「アレは『友人』に向けるものではない」と答えるでしょう。
そんなお2人を微笑ましそうに――時にニマニマと悪だくみするような笑みを浮かべて見守る、カレンデュラ伯爵令嬢。
彼女はどうも、エヴァ王女とジョーの親密度を計ろうとしておられるようです。
少々下世話な言い方をすれば、お2人の関係が今どこまで進んでいるのか見極めようとしている――と言ったところでしょうか。
ちなみに、ジョーには先んじてカレンデュラ伯爵令嬢が「転生者」であるという事を伝えています。
事前に話しておかなければ、この場で「黄金郷」の話を持ち出されては仰天してしまうでしょうからね。
……わたくしもジョーも、エヴァ王女がいらっしゃる手前、あまり込み入った昔話はしたくないのですよ。
特にジョーは生前に未練があるため、どうしても気分が落ち込んでしまうようですし。
――あの根明が落ち込むのですから、「黄金郷」に対する執着は相当なものだと思います。
そうしてある程度場が温まって来た頃合いを見て、カレンデュラ伯爵令嬢がおもむろに口を開きました。
「――2人はとても話が合うのね。まるでこの庭園に2人しか居ないみたいだわ」
「……な、何スか急に?」
「そ、そうですわよアリー、藪から棒に――」
「嫌味じゃあないのよ? きっと庭園に咲いた花だって2人に気を遣って蕾に戻るでしょう、それぐらいお互いに向けた笑顔が眩しいんだもの」
女性貴族特有の、遠回しな「お似合いだから、2人共付き合っちゃえば良いのに~」という茶化し。
カレンデュラ伯爵令嬢はどうしようもないちゃらんぽらんに見えて、たまに――ごく稀に、こうして令嬢らしさを出す時があるので面白いです。
その言葉を受けたエヴァ王女とジョーは、僅かに頬を上気させて気まずそうにしておられます。
しかしエヴァ王女はある意味吹っ切れてしまわれたのか、こほんと小さく咳ばらいをして頷きました。
「ま、まあ――ジョーとお話が合うのは、事実ですし………」
「ええ、そう見えるわ。私は友達としてアンタ達の事を応援するから……だから、身分の差がどうとか生まれがどうとか、周りに何を言われても負けるんじゃあないわよ。――アデルとジョーがダメになったら、私のハイド攻略難易度が爆上がりするのよ! 絶対くっつきなさいよね……!」
「あ、アリー……!!」
エヴァ王女はまたしても、ご自分にとって都合の悪い後半のセリフは丸々聞き逃されたようでした。
お優しいご友人のお言葉を聞いて、感涙しそうな勢いで瞳を潤ませています。
――ちなみにジョーはしっかりと不穏なセリフが耳に届いたようで、不思議そうな顔をして首を傾げています。可愛いですね。
そうして王女とジョーを茶化し終えたカレンデュラ伯爵令嬢は、途端に「さて!」と言って拍手を打ちました。
「それはそうとエ――アデル! 私と知恵比べをしなさい!」
「……え?」
突拍子もない提案に、王女は思い切り首を傾げられました。
――いえ、正直わたくしも、散々「2人を応援する」と言っておられたのに、まさかこの場でご自分の目的を優先なさるとは、思いもしませんでしたけれど。
「アンタ達の事は応援するけど、それと並行して私の方がアデルより賢いって事をハイドに分からせなきゃ行けないのよ! だからアデル、アンタは私のための「踏み台」になりなさい! 当て馬よ、当て馬!」
「う、うおお……俺、女の友情ってよく分かんねえッスけど――たぶんアデルはもう少し人を選んだ方が良いと思うッスよ」
「お黙り平民!! ――ふふ、ようやくこのアレッサ・フォン・カレンデュラの賢さを証明する時が来たわね……さあアデル、私が素数でも教えてあげましょうか? それとも微分積分かしらね!! かかって来なさいよ中卒女!!」
ジョーの正論を跳ねのけ、これでもかと胸を反らしてエヴァ王女を見下すカレンデュラ伯爵令嬢。
そんな令嬢の言葉に、王女は青色の目を瞬かせた後――ぱあと表情を明るくさせました。
「まあ、アリー! 貴女凄いですわね……レスタニアは かれこれ数百年は学問に変化がない閉鎖空間だと言われておりますのに――どうして素数をご存じなの?わたくし今、ハイドから虚数と複素数について、より深く学んでいるところですのよ」
「――へ?」
「共役複素数についても聞きましたし……最近はジョーから有理関数環、確率質量関数のお話なんかも――数学って面白いですわよね。この世の全ては数字で出来ている、なんていうお話を耳にした事がありますわ!」
「……ま、待ってアデル、アンタ今何の話してるの? ゆ、ゆーりかんすー……何だって?」
「あら? ええと……アリー、多項式環はご存じ?」
「たこーし………………ちょっと待ちなさい、ハイドとジョーって何者なの!? 明らかに義務教育修了レベルの学力じゃあないわ、高校――いや、大学の理系って感じがして、凄い頭痛い……! 自分から数学を振っておいてなんだけど、私完全に文系なのよ!! 日本の社会科や向こうの世界史なんてここで話したって、意味分かんないだろうし……!!」
テーブルに突っ伏して頭を抱えるカレンデュラ伯爵令嬢に、わたくしはほんの少しだけ罪悪感を覚えました。
彼女の話を聞く限り、この世界は――レスタニア皇国だけでなくこのハイドランジアだって、教育レベルが義務教育修了レベルで停滞していたはずなのでしょう。
にも関わらず、わたくしが調子に乗ってエ万能王女に要らぬ知識を吹き込んでしまったから――地頭が良すぎる王女は何でもかんでも自己解決して答えを解明してしまいますし、テオ陛下最愛の末娘である王女が様々な定理、定説を発見したとなればどうなるか。
それらはハイドランジアの常識・新ルールとして国に広く啓蒙され、国の教育レベルは否が応でも引き上げられてしまいました。
ジョーもまた「黄金郷」の知識をそのまま持ち越しているようですが……彼は平民――それも孤児です。
例え同様の定説を唱えたところで、功績がすぐさま国中に知れ渡る王女と違って……身分の問題から、彼の名声はそう簡単には上げられなかった事でしょう。
――もちろん、カレンデュラ伯爵令嬢も義務教育修了レベル以上の知能をお持ちのようです。
しかし「この世界の学力レベルが低いから」と侮って、研鑽を怠ったようですね。
わたくしはエヴァ王女のように賢い方と話すのが、楽しくて好きです。
何故ならわたくしなどよりも遥かに聡明ですから、むしろこちらが教わる事、気付かされる事の方が多いからです。
そもそも「転生者」は、どうしてもこの世界の住人と価値観や考え方――何から何まで違い過ぎて浮いていますからね。
その点を考慮しましても、やはりエヴァ王女は素晴らしい人物であると言わざるを得ません。
そんな王女の学力を舐め切って、調子に乗りまくっておられたようですが……早々に鼻っ柱を折られてしまったようです。
全く、カレンデュラ伯爵令嬢は「浅は可愛い」ですね。
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