35 / 42
35. 恋の相談
しおりを挟む
年の瀬も迫っているが、改まって新年を迎える気構えがない。
カイは秋田にいる祖父母や父親と水入らずでお正月を過ごすために、大みそかに東京を発つ。
一緒にと誘われたが、今回は遠慮した。
いつも通りの、新年になりそうだ。
一応、出来合いの御節パックを買い、お雑煮も作るが厳かな雰囲気など微塵もない正月が繰り返された。
近年は紅白歌合戦もお正月番組も見ない。
ましてや、初詣など行ったことがない。
おみくじに人生を投影させて、あれこれ思考を巡らす若さもない。
昼食を一緒に食べ送り出してから、なにもやる気が起こらず夜になっていた。
カイがいないと、こうも味気ないのかと思い知った。
静まり返った澄んだ空気の中で、小さく除夜の鐘が聞こえた。
近所にお寺なんてあったっけ?記憶にない。
LINE♪
カイからのLINEだった。
"あけおめ!今年もよろしく"
"happy new year" スタンプ送信
"3日には帰るから泣くなよ"
大号泣のスタンプ送信!
やべぇ逆効果、そんなカイの慌てる様子が手に取るようにわかる。
"大丈夫、戻るまで冬眠してるよ"
"飯だけは食え"
りょ!のスタンプ送信。
しばらくしてスマホの呼び出し音が鳴った。
『あっ百合さん、タクヤです。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。こんな遅くにすいません』
『おめでとう、こちらこそ宜しくね、全然、起きてたから気にしないで』
『なんか突然なんですけど、あした時間があったら相談に乗ってもらえませんか』
『相談?私に?』
『そうです、恋の相談です』
『カイ、いないよ』
『知ってます』
いやいや、これはマズいだろ。
カイの言った”ケダモノ”が頭をよぎった。
『じゃあした、じゃなくて、きょうの午後13時頃に伺いますので』
ちょっと躊躇している間に訪問が決定されてしまった。
どうする?恋の相談?
やっぱ諦めきれないのでとかいう、三角関係の修羅場系ですか?
だったらカイには内緒のほうがいいし、大混乱。
しかも、なんでお部屋訪問なの~
かなり寝不足気味の元旦である。
色々考えたが、考えたところで時間は待ってはくれない。
お正月なのでお酒も飲むかもしれないと思い、冷蔵庫の中のおつまみになるものを並べてタクヤ君を待つ。
約束通り、13時をちょっと過ぎたあたりでインターホンが鳴った。
「おめでとうございます、これミルフィーユです。カイからお好きだって聞いて」
「わあ、ありがとうございます、なんか相談って私なんかで役に立つんですか」
玄関で靴を脱ぎながらタクヤは照れ笑いを浮かべた。
「アハ、本気にしちゃいました。ごめんなさい、カイから言われて話し相手に来たんですよ。ちょっと意地悪な言い方しちゃいました、何しろまた振られちゃったので」
「えー、それは残念。クリスマスの時の人ですよね、応援してたのに」
彼はソファには座らず、ベランダに出て煙草に火をつけた。
「お昼食べました?お酒もありますけど」
「あっ、食べてきました。お酒はカイから止められてますので遠慮しときます」
「カイがわざわざ頼んだなんて、なんか魂胆でもあるのかなぁ。頂き物ですけど、ミルフィーユにしましょうか」
「そうですね、ちょうど甘いものが食べたくなったんで」
煙草を携帯灰皿にもみ消して戻ってきた。
テーブルに紅茶を用意すると、砂糖を入れずに一口飲んだ。
「すごい気持ち悪そうな目でジトーって見られました。でも全然後悔してないっす。言わないで悶々としてるより、ずっといいかなって。なんか、いつも喉の奥が 痞えてる感じが癒えたんで 告白って良かったです。あんな目で見られてもしょうがないし、それが俺なんだし」
「私も高校の時にすごくカッコいい先輩に憧れてた。女なのに女を前面に出さないで正面切って男子と競ってて。友達になりたいとかじゃなくて、憧れ。そっと遠くから見てるだけでドキドキして。私なんか変って思ったけど、人を好きになるのに線引きなんてないよね。堂々と好きって言えるタクヤ君は素敵だよ」
「ですよね。カイが恥ずかしいことなんてないさって言ってくれて、勇気出したけどダメだった」
「カイがね、タクヤ君の好きなタイプってどんな人って聞いたら、"おれ"って言ってたよ。嬉しかったんだと思う。すごく誇らしげな顔をしてたもの」
それを聞いたタクヤ君の顔が歪んだ。
下を向き、拳を握りしめて声を振り絞った。
「カイに言えなかったのは・・・アイツとの友情は一生ものだって思ったから、無くしたくなかった。アイツを苦しめたくなかった。後付けでサラっと言えて良かった。アイツも何気に流してくれて、俺も救われた。こんなにも人を好きになれて、それがアイツで良かった・・・」
背中が小刻みに震えている。
泣かないでタクヤ君、紅茶が冷めちゃうよ。
カイだって、その気持ち大切にしてるよ。わかってるから。
「ほんとに恋の相談になっちゃったっすね」
外で羽根つきに興じている子供の声が聞こえてくる。
無邪気に笑いあって、本気で喧嘩して、自然に仲直りして、
当たり前に明日が来てくれる。
何も足さずに何も引かずに、そこにある日常はほんの一瞬で。
大人になるって、誰かのために思いやることなんだね。
タクヤの背中を押したい<レベル90>
カイは秋田にいる祖父母や父親と水入らずでお正月を過ごすために、大みそかに東京を発つ。
一緒にと誘われたが、今回は遠慮した。
いつも通りの、新年になりそうだ。
一応、出来合いの御節パックを買い、お雑煮も作るが厳かな雰囲気など微塵もない正月が繰り返された。
近年は紅白歌合戦もお正月番組も見ない。
ましてや、初詣など行ったことがない。
おみくじに人生を投影させて、あれこれ思考を巡らす若さもない。
昼食を一緒に食べ送り出してから、なにもやる気が起こらず夜になっていた。
カイがいないと、こうも味気ないのかと思い知った。
静まり返った澄んだ空気の中で、小さく除夜の鐘が聞こえた。
近所にお寺なんてあったっけ?記憶にない。
LINE♪
カイからのLINEだった。
"あけおめ!今年もよろしく"
"happy new year" スタンプ送信
"3日には帰るから泣くなよ"
大号泣のスタンプ送信!
やべぇ逆効果、そんなカイの慌てる様子が手に取るようにわかる。
"大丈夫、戻るまで冬眠してるよ"
"飯だけは食え"
りょ!のスタンプ送信。
しばらくしてスマホの呼び出し音が鳴った。
『あっ百合さん、タクヤです。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。こんな遅くにすいません』
『おめでとう、こちらこそ宜しくね、全然、起きてたから気にしないで』
『なんか突然なんですけど、あした時間があったら相談に乗ってもらえませんか』
『相談?私に?』
『そうです、恋の相談です』
『カイ、いないよ』
『知ってます』
いやいや、これはマズいだろ。
カイの言った”ケダモノ”が頭をよぎった。
『じゃあした、じゃなくて、きょうの午後13時頃に伺いますので』
ちょっと躊躇している間に訪問が決定されてしまった。
どうする?恋の相談?
やっぱ諦めきれないのでとかいう、三角関係の修羅場系ですか?
だったらカイには内緒のほうがいいし、大混乱。
しかも、なんでお部屋訪問なの~
かなり寝不足気味の元旦である。
色々考えたが、考えたところで時間は待ってはくれない。
お正月なのでお酒も飲むかもしれないと思い、冷蔵庫の中のおつまみになるものを並べてタクヤ君を待つ。
約束通り、13時をちょっと過ぎたあたりでインターホンが鳴った。
「おめでとうございます、これミルフィーユです。カイからお好きだって聞いて」
「わあ、ありがとうございます、なんか相談って私なんかで役に立つんですか」
玄関で靴を脱ぎながらタクヤは照れ笑いを浮かべた。
「アハ、本気にしちゃいました。ごめんなさい、カイから言われて話し相手に来たんですよ。ちょっと意地悪な言い方しちゃいました、何しろまた振られちゃったので」
「えー、それは残念。クリスマスの時の人ですよね、応援してたのに」
彼はソファには座らず、ベランダに出て煙草に火をつけた。
「お昼食べました?お酒もありますけど」
「あっ、食べてきました。お酒はカイから止められてますので遠慮しときます」
「カイがわざわざ頼んだなんて、なんか魂胆でもあるのかなぁ。頂き物ですけど、ミルフィーユにしましょうか」
「そうですね、ちょうど甘いものが食べたくなったんで」
煙草を携帯灰皿にもみ消して戻ってきた。
テーブルに紅茶を用意すると、砂糖を入れずに一口飲んだ。
「すごい気持ち悪そうな目でジトーって見られました。でも全然後悔してないっす。言わないで悶々としてるより、ずっといいかなって。なんか、いつも喉の奥が 痞えてる感じが癒えたんで 告白って良かったです。あんな目で見られてもしょうがないし、それが俺なんだし」
「私も高校の時にすごくカッコいい先輩に憧れてた。女なのに女を前面に出さないで正面切って男子と競ってて。友達になりたいとかじゃなくて、憧れ。そっと遠くから見てるだけでドキドキして。私なんか変って思ったけど、人を好きになるのに線引きなんてないよね。堂々と好きって言えるタクヤ君は素敵だよ」
「ですよね。カイが恥ずかしいことなんてないさって言ってくれて、勇気出したけどダメだった」
「カイがね、タクヤ君の好きなタイプってどんな人って聞いたら、"おれ"って言ってたよ。嬉しかったんだと思う。すごく誇らしげな顔をしてたもの」
それを聞いたタクヤ君の顔が歪んだ。
下を向き、拳を握りしめて声を振り絞った。
「カイに言えなかったのは・・・アイツとの友情は一生ものだって思ったから、無くしたくなかった。アイツを苦しめたくなかった。後付けでサラっと言えて良かった。アイツも何気に流してくれて、俺も救われた。こんなにも人を好きになれて、それがアイツで良かった・・・」
背中が小刻みに震えている。
泣かないでタクヤ君、紅茶が冷めちゃうよ。
カイだって、その気持ち大切にしてるよ。わかってるから。
「ほんとに恋の相談になっちゃったっすね」
外で羽根つきに興じている子供の声が聞こえてくる。
無邪気に笑いあって、本気で喧嘩して、自然に仲直りして、
当たり前に明日が来てくれる。
何も足さずに何も引かずに、そこにある日常はほんの一瞬で。
大人になるって、誰かのために思いやることなんだね。
タクヤの背中を押したい<レベル90>
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】
階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、
屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話
_________________________________
【登場人物】
・アオイ
昨日初彼氏ができた。
初デートの後、そのまま監禁される。
面食い。
・ヒナタ
アオイの彼氏。
お金持ちでイケメン。
アオイを自身の屋敷に監禁する。
・カイト
泥棒。
ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。
アオイに協力する。
_________________________________
【あらすじ】
彼氏との初デートを楽しんだアオイ。
彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。
目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。
色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。
だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。
ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。
果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!?
_________________________________
7話くらいで終わらせます。
短いです。
途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる