私が月になる

琴音

文字の大きさ
上 下
24 / 42

24. ダブルベット

しおりを挟む
「ゆりっち、ヤバイ、ヤバイ」
カイからのLINEを見てる間に、本人が飛び込んできた。
「なに、どうしたの」
「大家のばあちゃん、ボケっちゃてるわ。不動産屋に連絡し忘れてダブルブッキング」
「なに?よくわかんないよ」
事情を詳しく聞くと、カイが更新を伝えていたにも関わらず、大家が不動産屋に連絡しなかったため、新しい入居者が決まってしまったということだ。
利用している沿線は、大学のキャンパスが多い。
このアパートも、古い割には掲載後、すぐに埋まるほどの人気物件である。
学生にとっては、格安の家賃は何ものにも代えがたい魅力に違いない。
「えーー、次の人いつ引っ越してくるの?」
「あさって」
「なにそれ、どうするのよー」
「緊急避難先、ここ」
カイは床に人差し指を差して懇願している。
「しょうがないなぁ~」
やったー!宝くじでも当たったかのような喜びようである。

翌日、会社に行ってる間に、カイは一人で引っ越しを済ませた。
大きめのダンボールが、2つ部屋の隅に置かれていた。
必要最小限だと言っていたが、洋服など分かりやすく仕訳けてある。
要領の悪い私と違って、てきぱきと手際よく荷解きをこなす。
このカラーボックス使うねとか言って、小物をしまっていた。
「この間、テーブルとか処分したから、荷物少ないめ、楽ちん」
ウキウキ気分で言われても、これは"おままごと"じゃないんだよ。
「部屋狭いけど、ベットはダブルにしなくちゃね」
はぁ~なんでそうなる、どこでなにをなにしてそうなった。

その日のうちに、カイはネットショップでダブルベッドをポチってしまった。
数日後には、一部屋の大半がベットの異様な光景が出来上がった。
「睡眠は大事だし、別の意味でもベットは大事」
カイの言葉に深い意味はないのかもしれない。
ちょっとドキマギして、慌ててキッチンに行って洗い物をする。
手伝いに来たカイの右手が肩に触れると、鼓動が高まった。
「いまベットの使い心地、試す?」
「そんなことは致しません」
「え~そんなことってどんなこと~」
「洗い物の邪魔です」
追い払って、洗い物を再開する。
普通の幸せ、普通の時間。
カイが与えてくれたもの、高価なものでも珍しいものでもない。
手を伸ばせば、そこにあったのに手にできなかったもの。
恋愛に関しては百戦錬磨のカイにとって、たぶん私は簡単な女だ。
カイが意図しなくても、その言葉一つに何気ない仕草に、喜んだり泣いたりして、
まるで子供のようだ。
だけど、いまは彼が優しく揺らすゆりかごに身を委ねていたいと思う。
隣りにいること、そばにいることが大事でしょとカイが言った。
そんなこと私が一番わかってるよ。

「やっぱ、硬いスプリングにして良かったネ」
「そうだね」硬い、硬くないの判別はつかなかったが、一応、同意はしといた。
「ねぇ、ゆりっちって○沢まさみに似てない?」
いきなり、何を大それたことをほざいているのだ。
恐れ多くも、あれほどの美人女優に似てるなどと、血迷ったか。
謝れ、○沢まさみ様に謝れ。
「下から見ると、やっぱ似てる」
事を致した後に、じっくり顔を観察して言うな。
正面でも下からでも、片鱗もないわ。
「まっ、○沢まさみを下から見たことないんだけどね」
「やめてくれないかなぁ、そうやってジッと見るの。落ち着かないんだよ。その顔」
「いまさら、取り替えられないじゃん」
「じゃあ、この間のお面でも被ってて」
「あれ、メルカリで売った、もうない」
そうやって邪険に扱わないと、君は遠慮なく踏み込んでくる。
心の中をザワつかせ、私を変えていく。
知らないでしょ、私を変えられるのは君だけなんだってこと。

難易度高めの<レベル93>
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

男性向けフリー台本集

氷元一
恋愛
思いついたときに書いた男性向けのフリー台本です。ご自由にどうぞ。使用報告は自由ですが連絡くださると僕が喜びます。 ※言い回しなどアレンジは可。 Twitter:https://twitter.com/mayoi_himoto YouTube:https://www.youtube.com/c/%E8%BF%B7%E3%81%84%E4%BA%BA%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E6%B0%B7%E5%85%83%E4%B8%80/featured?view_as=subscriber

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...