私が月になる

琴音

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12. 幸せの策略

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健全な隣人関係の構築宣言から、およそ1カ月が経とうとしている。

最近の隣人は、やたらとプレゼントが多い。
買い過ぎたのでと、じゃが芋をダンボールいっぱい持ってきたのには辟易した。
ひとり暮らしの男子学生がいう、買い過ぎたのレベルではない。
「じゃがいもってカレーに肉じゃがにシチュー、使い道いっぱいあるでしょ」
笑顔でそう言われたら、断りようがない。
無駄にしないように、コロッケ、ポテトサラダとメニューを増やし、
腹を空かした狼さんに、せっせと食べさせた。
うまいうまいを連発して、お礼に人参やほうれん草を置いていく。
あれ?私って、うまく策略に嵌まっているのでは。
遠回しに、次はほうれん草のお浸しが食べたいなのサインでしょうか。
まっ、いいか、あえて策略に嵌まるのも悪い気はしない。
うまいと頬張る君の笑顔に免じて許してあげる。

君はよく食べるし、よく笑う。
君が笑うたびに、部屋の澱んだ空気が霧を晴らすように活性化する。
明るくなった部屋に相応しくカーテンを変えよう。
景品で貰った大きめのマグカップに花を飾ろう。
くたびれたローファーを捨て、ちょこっとヒールの高い靴を買おう。
迷ってたジャケットの色をビタミンカラーのオレンジにした。
ちょっと勇気を出して派手な色に挑戦してみるのも悪くない。
「ぼくもオレンジにしようかなぁ」
「やだよ、一緒に外を歩けなくなるじゃん」
「えっ、全然OKだよ」まだまだ、難題山積ですが取り敢えずはヨシとしますか。

きんぴらが好きだと言ったので、手をガサガサにしながら牛蒡を剥いた。
水でアクを抜いたり、刻むのも結構手間が掛かる。
パックの惣菜で充分満足だったのに、週1の定番メニューになってしまった。
「ヤバイよね、講義中おならが出そうになった」
そんな冗談が言えるようになったのが不思議だ。
君は素直で自分に正直だ。そんな君を見て私も変わっている。
苦手だった整った顔面も、少しづつ克服している。
気が付けば、身構えたり気を使ったりしないで、自然体で接することの出来る存在になっていた。
それは彼の性格によるところが大きい。
隣りで他愛のないことで笑いあっている。
そんな小さな発見が嬉しくて、それを幸せというのなら、この時間が永遠に続くことを祈ろう。
この笑顔をスクショして、心のフォルダにしまっておこう。
<レベル97>
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