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ちょっと休憩していかない?
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「酷い顔ね……」
シャワーから上がって鏡を覗き込んだ紗美は、憂鬱そうに言った。
泣きすぎて赤く腫れた目元、細かな切り傷、痛々しいあざ。
すっぴんでも可愛い自信はもちろんあるが、これはちょっと酷い。
そのうえ、感情が爆発した恵叶にさらに酷くされた。
自分のものとばかりにキスマークを散らされて、何かの病気みたいになっている。
「キスマークなんて初めて付けられた……。もういいわ、疲れた。そろそろ何か食べなくちゃ……」
尖塔の屋上で泣きじゃくって殺し合いを止めたあと、紗美と恵叶は近くのてきとうなホテルになだれ込んだ。
元々、異世界は観光地として成り立っている。ホテルを見つけるのは容易かった。
ベッドにもつれ込み、何度も熱に溶かされていると、途中、ふいに恵叶が手を止める場面があった。
最初はそういうプレイかと思ったが、恵叶は固まったまま動かない。
「けい、と……。ね、どうし……」
「少し待ってて」
「何で、お願い。やだ……」
恵叶がベッドから下りて、いよいよ紗美から離れる。悲しくてぐずぐずになっていると、恵叶が戻ってきた。
「紗美、ごめんね。夢中で気付かなかった……」
恵叶が心の底から申し訳なさそうに言う。つられて視線を落とすと、ベッドが真っ赤に染まっていた。
私、初めてだっけ……?
わけのわからない疑問を持ったとき、恵叶との銃撃戦が頭をよぎった。
そういえば、銃弾をかすめていたのを忘れていた。思い出したら、じわじわと痛みがぶり返してくる。
「うっ、お腹痛い……」
「だいぶ今更感。……救急箱あったから、持ってきたわ。世界観強化のための小道具だと思うけど、ちゃんと使えるから」
「え、縫うの? そこまでしなくても……」
恵叶がにやりと笑った。
「この後、おとなしく休息を取るのならね。でも紗美、まだ動くでしょ?」
「……」
かあっと顔に熱が集まって、何も言えなくなった。
……意地悪。
ビッと糸を持つ恵叶。その手つきを見ながら、紗美は何気なく訊ねた。
「でも恵叶、縫った経験あるの?」
「……」
「……恵叶?」
「……」
「ねえ、あるのよね!? 無言止めて! 怖い! ……やだ、待って!」
もう、めちゃくちゃ痛かった。気絶するかと思った。
復讐したくて「恵叶の傷も縫ってあげる」と経験ゼロで申し出たが、「私はたいしたことないから平気よ」と笑顔で拒否された。
ムカつく。たいしたことないのもムカつく。
「言っとくけど、だいぶ手を抜いてあげてたんだから」
「それを言うなら、私だってかなり手を抜いたわ」
この一幕を挟んだせいで涙は止まり、今度は何故かぶちぶち文句を言いながらエッチする流れになった。
疲れて一眠りしようとしたところで、髪がごわごわになっているのに気付いた。
雨に打たれてそのままだった事実を思い出した途端、眠気など吹っ飛んで、紗美はシャワー室に飛び込んだ。
で、今に至る。
少しでも現実にあらがおうと、鏡の前で四苦八苦して、ギリ及第ラインをクリアしたところで、紗美は部屋に戻った。
今まで内装など全く見ていなかったが、ファンタジーらしく魔道書が積んであったり、水晶ドクロや鎧が置いてある。
その鎧の隣で、ルームサービスを頼んだ恵叶がコーヒーを飲んでいた。服もちゃっかり買ってきたらしく、すっかり着替えている。
紗美のもあるわよ、と恵叶が投げてきた服に着替えながら、紗美はきょとんとした。
「恵叶、いつシャワー浴びたの?」
「紗美が寝てる間」
そう言って、涼しげにカップを持ち上げる恵叶。
こんな状況に陥っても、クールを保ち続けている恵叶に少し呆れながら、紗美はシャッとカーテンを開ける。
てっきり夜だと思っていた紗美は、日光の眩しさに目を細めた。
「これは……どの時点の昼間なの。今いつ?」
「おいで」
手を引かれ、紗美はぽすっとベッドに座らされた。恵叶に後ろから抱きしめられる。
「紗美、これからどうする?」
「うーん……」
仕事に失敗したうえ、一般人に仕事内容をばっちり見られるという大失態。もう守護天使には戻れない。
「……ん? 恵叶って一般人じゃないわよね?」
「……まあね」
「とりあえず、もう嘘は無し。お互いについてさらけ出しましょ」
提案すると、恵叶が服の中にするりと手を入れてきた。
「今以上に?」
「そういう意味じゃないわよ、馬鹿」
紗美は恵叶の手をべちべち叩きながら、
「じゃあ、最初は私から。仕事で恋人のふりしなくちゃいけないとき、同僚とキスしてたわ。……ごめんね?」
「……そいつの名前教えて」
「嫌よ。殺すでしょ」
シャワーから上がって鏡を覗き込んだ紗美は、憂鬱そうに言った。
泣きすぎて赤く腫れた目元、細かな切り傷、痛々しいあざ。
すっぴんでも可愛い自信はもちろんあるが、これはちょっと酷い。
そのうえ、感情が爆発した恵叶にさらに酷くされた。
自分のものとばかりにキスマークを散らされて、何かの病気みたいになっている。
「キスマークなんて初めて付けられた……。もういいわ、疲れた。そろそろ何か食べなくちゃ……」
尖塔の屋上で泣きじゃくって殺し合いを止めたあと、紗美と恵叶は近くのてきとうなホテルになだれ込んだ。
元々、異世界は観光地として成り立っている。ホテルを見つけるのは容易かった。
ベッドにもつれ込み、何度も熱に溶かされていると、途中、ふいに恵叶が手を止める場面があった。
最初はそういうプレイかと思ったが、恵叶は固まったまま動かない。
「けい、と……。ね、どうし……」
「少し待ってて」
「何で、お願い。やだ……」
恵叶がベッドから下りて、いよいよ紗美から離れる。悲しくてぐずぐずになっていると、恵叶が戻ってきた。
「紗美、ごめんね。夢中で気付かなかった……」
恵叶が心の底から申し訳なさそうに言う。つられて視線を落とすと、ベッドが真っ赤に染まっていた。
私、初めてだっけ……?
わけのわからない疑問を持ったとき、恵叶との銃撃戦が頭をよぎった。
そういえば、銃弾をかすめていたのを忘れていた。思い出したら、じわじわと痛みがぶり返してくる。
「うっ、お腹痛い……」
「だいぶ今更感。……救急箱あったから、持ってきたわ。世界観強化のための小道具だと思うけど、ちゃんと使えるから」
「え、縫うの? そこまでしなくても……」
恵叶がにやりと笑った。
「この後、おとなしく休息を取るのならね。でも紗美、まだ動くでしょ?」
「……」
かあっと顔に熱が集まって、何も言えなくなった。
……意地悪。
ビッと糸を持つ恵叶。その手つきを見ながら、紗美は何気なく訊ねた。
「でも恵叶、縫った経験あるの?」
「……」
「……恵叶?」
「……」
「ねえ、あるのよね!? 無言止めて! 怖い! ……やだ、待って!」
もう、めちゃくちゃ痛かった。気絶するかと思った。
復讐したくて「恵叶の傷も縫ってあげる」と経験ゼロで申し出たが、「私はたいしたことないから平気よ」と笑顔で拒否された。
ムカつく。たいしたことないのもムカつく。
「言っとくけど、だいぶ手を抜いてあげてたんだから」
「それを言うなら、私だってかなり手を抜いたわ」
この一幕を挟んだせいで涙は止まり、今度は何故かぶちぶち文句を言いながらエッチする流れになった。
疲れて一眠りしようとしたところで、髪がごわごわになっているのに気付いた。
雨に打たれてそのままだった事実を思い出した途端、眠気など吹っ飛んで、紗美はシャワー室に飛び込んだ。
で、今に至る。
少しでも現実にあらがおうと、鏡の前で四苦八苦して、ギリ及第ラインをクリアしたところで、紗美は部屋に戻った。
今まで内装など全く見ていなかったが、ファンタジーらしく魔道書が積んであったり、水晶ドクロや鎧が置いてある。
その鎧の隣で、ルームサービスを頼んだ恵叶がコーヒーを飲んでいた。服もちゃっかり買ってきたらしく、すっかり着替えている。
紗美のもあるわよ、と恵叶が投げてきた服に着替えながら、紗美はきょとんとした。
「恵叶、いつシャワー浴びたの?」
「紗美が寝てる間」
そう言って、涼しげにカップを持ち上げる恵叶。
こんな状況に陥っても、クールを保ち続けている恵叶に少し呆れながら、紗美はシャッとカーテンを開ける。
てっきり夜だと思っていた紗美は、日光の眩しさに目を細めた。
「これは……どの時点の昼間なの。今いつ?」
「おいで」
手を引かれ、紗美はぽすっとベッドに座らされた。恵叶に後ろから抱きしめられる。
「紗美、これからどうする?」
「うーん……」
仕事に失敗したうえ、一般人に仕事内容をばっちり見られるという大失態。もう守護天使には戻れない。
「……ん? 恵叶って一般人じゃないわよね?」
「……まあね」
「とりあえず、もう嘘は無し。お互いについてさらけ出しましょ」
提案すると、恵叶が服の中にするりと手を入れてきた。
「今以上に?」
「そういう意味じゃないわよ、馬鹿」
紗美は恵叶の手をべちべち叩きながら、
「じゃあ、最初は私から。仕事で恋人のふりしなくちゃいけないとき、同僚とキスしてたわ。……ごめんね?」
「……そいつの名前教えて」
「嫌よ。殺すでしょ」
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