女暗殺者の嫁もまた暗殺者

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悪い奴ら

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 犯罪都市の外れに、一軒の小さな家がある。
 この民家は、どこのマップにも掲載されていない。そもそもが私有地だからだ。
 ジャンプするにも地主の許可が必要で、観光客は立ち入り禁止になっている。
 そこに続く道を、一人の女の子が歩いていた。
 キイ、と扉を開けて、女の子は家に入る。
 音がしないよう、扉を閉めようとしたところで、家の中から声をかけられた。
「勝手に出歩いたら危ないよ、アリ-」
 アリーと呼ばれた女の子、アリアは跳び上がった。
 その拍子にキャップを落としてしまい、拾い上げながらぼそぼそと言い訳する。
「……ごめんなさい、帝夜ていや。……でも、どうしてもこの目で見てみたかったの」
 はあ、と嘆息したのは、人の良さそうな男性だった。三十代半ばの見た目。シンプルだが値の張るアクセサリーと服はセンスが良く、細身の体に合っている。
 顔立ちが柔和なので、言うことを聞かない娘に呆れる、父親のようだった。
「それで、どうだった?」
「……強かった。二人とも、すごく」
「そうか……。そうだね」
 帝夜は悲しげな顔をすると、アリアの肩に手を置いた。
「……彼らなら、助けられたはずだ」
「……うん」
「本気で助ける気があれば、悲劇を防げたはずだ」
 ……でも、そうはならなかった。
 アリアの胸にずきりとした痛みが走る。
 もう何度も経験した心の痛みだ。
 あの事件から四年が経つのに、かさぶたになる前にいつも剥がされ、血が流れ続けている。
 アリアはTシャツの裾をきゅっと握ると、おずおずと訊ねた。
「ねえ、盗んだデータはどうだった? めぼしい奴はいた?」
「今、調べてるよ。アリーのためだからね」
 その言葉に、アリアは身を乗り出した。
「私にも見せてくれる?」
「いや、駄目だ。見て気持ちの良いものじゃない。わかってくれ。僕はこれ以上、アリーに嫌な思いをしてほしくないんだ」
 アリアはこくりと頷いた。
 自分の手で仇を探したいが、その賢さゆえ、自分の幼さも理解している。それにアリアは、帝夜を信頼していた。
「何か食べて、少し休んでおいで」
 うん、とアリアは階段を上がり、自分の部屋に戻っていく。
 小さな寝室のど真ん中には、複雑な機械やツールキットがあった。
 異世界では、こういった物は全て持込不可になっている。ここにあるのは、異世界で一から作りあげ、独自に改良した物だ。
 アリアはベランダに出ると、涼しい風に吹かれながら、空に向かって呟いた。
「待っててね。パパ、ママ……」

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