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彼女の片想い**

イヤ、絶対。3

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キツく抱きしめられて、何が楽しいのか執拗に耳を食べられて。
飽き足らずに首筋まで存分に味見をされた。
チクリとした感覚があったから、さすがに抗議の視線を送ってみたけど……
「キレイについたよ」
笑顔で返された。
『何が?』なんて聞かなくてもわかる。
「跡……つけないで……」
しかも、見えるところに。
ちゃんと不機嫌そうに言えてるだろうか。
恋人同士なら、恥ずかしくてもうれしい所有の証。
今の関係ではとてもよろこべるはずないのに……その痛みさえ、本当はうれしいなんて。決して悟られてはいけない。

坂本くんの機嫌はだいぶ良くなったようだったのに、首筋のキスの跡をたしなめた途端にまた急降下した。
「だれか、見られたくない人でもいるの?」
『だれか』?そんなの決まってる。
『だれにも』見られたくない。
恥ずかしいのはもちろん、ずっと彼氏がいないと公言しているのに。
『だれに』つけられたかを詮索されては困る。
坂本くんだなんて知れたら、この関係が終わってしまう。

力が入らずに、壁にもたれたまま崩れ落ちてしまいそうだったのを、両足の間に陣取った坂本くんの片足が支えている。
もはや坂本くんの差し入れられた太ももにまたがって軽く座っているような有り様だ。
背中に回した片手は、坂本くんのアウターの後ろ身ごろをしわくちゃにしてしまったと思う。
もう片方の手は変わらず、恋人のように指を交互に重ねて繋がれたたままだ。
力を入れすぎて少しだけしびれている。

「ねえ、だれに見られたくないの?」
坂本くんがなぜか辛そうに眉根を寄せた。
そう見えたけど、そのまま顔を近づけて、おデコをくっつけてきたので近すぎて焦点が合わなくなってしまった。
互いの鼻もすり合わさって……今まですごくドキドキしていたのに、心臓がもっと早く動けるんだと知った。
唇も、触れてしまいそう。
少し顔を傾けて鼻の障害を抜けたら、きっと唇も合わさってしまう。
「さ……かもと……くん、もう少し、はなれ……」
「キスしたい」
やっと合った焦点で見つめ返した瞳が、真剣な色をたたえてる。

『イヤ』って言わなきゃ。
『イヤ』って。
『好きな人がいい』って。
1番近くで視線が絡んで私を見てるのに、りこちゃんを想うなんてイヤだから。

「……美夜ちゃん。好きな人がいるって本当?」

その言葉に、胸のあたりが縮んだ気がした。
ああ、きっと。二次会で先輩たちから聞いたんだ。
詮索を煩って口を滑らせた自分を呪った。

「そいつとなら……キスするの?」
違う。その人は違う人が好きだから。
「そいつとなら……朝まですごす?」
違う。勘違いしてしまうから。
「そいつなら、跡つけても嫌がられない?」
違う。だって、その人は坂本くんなの。

数センチの距離で一度、キュッと目をつぶって坂本くんが体を少し離す。
目を開けて、視線を合わせて、顔を傾けて……
大好きな人が、また近づく。
キスされると思って、今度は私が目をギュッと閉じたけど……唇が注がれたのは、頬だった。
さっきと同じで、かなり唇に近い位置に心臓が跳ねた。
そのまま横に唇を滑らせて。
また、首筋の同じところをキツく吸われた。

その甘い痛みに、しばらく、髪を絶対にあげられないって覚悟した。
そして、心の奥で歓喜してる自分に……絶望した。
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