最初に好きになったのは…声

高宮碧稀

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第3章*俺だけのはずなのに

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マルへのかき消された言葉が知りたくて、じっと男を見てたけど言い直す気配はない。
マルの方をみていた男が、不意に嫌みのない笑顔をこちらにむけてきた。
内容を聞き返すのがなんだか悔しくて、違うことを聞いてみた。
「卒業生…ですか?」
「そう。今大学2年生よね?」
…マルが答えたので、カチンと来た。
男は、優しい笑顔をマル…いや“チョビ”にむけなおして頷いている。
「タマキくんは、在校中に一番本を読んだの」
雷を忘れて、マルが生き生きと話し出した。
「生徒総会で見たことない?副会長だったよね」
“最初は生徒会長に立候補するように言われてたんだよ”と、誇らしげに続ける。

マルが、ここでやっと男のシャツを離してほっとはしたけど…俺の心中は穏やかじゃない。
「タマキくん」って…名字?それとも名前?
俺が、欲してやまない小さな願望を、ほかの男にあっさり先越されたくはない。
満面の笑みで、一生懸命に話すマルは可愛いけど、その様子に目を細める余裕はなかった。
「だいぶ遠ざかったね」
一瞬、俺とマルの距離かと思ったら「タマキくん」は外を見ていた。
確かに、もう雷は聞こえてこない。
マルはやっと安堵したように息をついた。

「チョビ、定時ででれる?」
マルに向き直って、柔らかな口調で「タマキくん」が尋ねた。
「あ、…うん」
歯切れの悪い返事。チラリと伺うようにこちらをみた。
小動物みたいでかわいい。“小”じゃないけど。
「どっか行くの…?」
二人で。
最後は言いたくなかったから、はぶいてみた。
「俺が食事に誘ったんだよ」
“…あんたには聞いてない”子供じみた嫉妬だって、十分わかってたからもちろん言わなかった。
「じゃ、今日は本はいいよ」
せめて、大人ぶっていった。
それを聞いたマルは“用意してあるから待ってて”と言い残して準備室に消えていった。
必然的に二人になる。

「えっと…篠原くん?は、チョビが好きなの?」
先に口を開いたのは「タマキくん」だった。
まさに、一瞬遅く「マルのことが好きなんですか?」と聞く気だったのに。
「……マルに…」
最高にカッコ悪い。声がかすれた。
「マルにまだ言ってないから…」
じっとこちらを見ている目を、正面からとらえた。
「先に、他の人にいいたくない」
カッコ悪くても、それは譲れなかった。

「…なるほど」
マルを想う俺の気持ちが、この人に伝わってないはずはない。
それはわかってるけど、言葉に出すのはマルに伝える時だ。
「俺も…聞きたいことが」
どうぞ…と言わんばかりに、メガネの奥の目が細められた。
「タマキは…下の名前ですか?」
瞬間、インテリっぽい印象に似合わず、ぶはっと吹き出して…
「下の名前は篤弘あつひろ、玉木篤弘だよ」
笑いながらそう言った。

しょーがないだろ。気になったんだから!!

「玉木さんは…どう思ってるんですか?」
おかしい。こんなの、マルにまつわる会話じゃない。
マルを好きな物好きなんて、俺だけのハズなのに…
唇が動いて、玉木さんが何か言おうとした、ちょうどその時。
「待たせてごめんなさい。どこにおいたのか、わかんなくなっちゃった」
相変わらずの優しい声を振りまいて、マルが帰ってきた。
玉木さんは、軽く困ったような、でも楽しそうな顔をして…静かに言った。
「また今度」
マルは“何が?”という顔をしている。
「…なんでもない」
じっとマルが見てくるので、視線をそらしてつぶやいた。
「男同士の話」
逆に玉木さんはマルの視線を捕まえる。
不思議そうな表情から、ふわりと笑顔を咲かせたのを見て、ちょっと後悔。
その笑顔、正面から見たかった。
わかってる。
意地を張って視線を外した俺が悪い。
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