最初に好きになったのは…声

高宮碧稀

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第2章*放課後の図書室に

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「からかってない。その…キスしたあとに、ごまかしたのは認めるけど…」
せめてふざけた行動じゃないってことだけでも伝えたい。
そう思って言い訳したけど、マルは信じない。

「私としなくても、不自由してないでしょ?からかってないなら…“年上”とか“先生”とかだと燃えるものなの?」
自分の不誠実さのせいとはいえ…これは、ちがうっていっても、信用してもらえない。
「別に“年上”とか“先生”が好きなんじゃない 」
マルが、好きなだけだ。
「…わかった。なかったことにしていい。もう、軽々しくそんなことしない」
淡々と、そう告げた。
声は少しふるえたけど。…ダセェ。
本当は全然軽々しくなかったけど仕方がない。

卒業まで、もうしない。
マルに、本気を伝えたい。
その気持ちだけでも、真剣さだけでも、ちゃんと伝わったのか…マルがふわっと笑って、ホッと息をついた。
さっそく拷問だ。できれは、挑発しないでもらいたいんだけど。
そんな笑顔を見たら、祈らずにはいられない。

抱きしめて、キスをして…
いつか、龍って呼んでもらえますように。

でも、この想いを軽く扱って欲しくない。
「何もしないから、図書室にきていい?」
最大の、譲歩。姿までは隠さないで。
せめて、見つめていさせて。
そんなの、ガラじゃないってわかってるけど、願わずにはいられなかった。
「それはもちろん!!来てくれたら嬉しいのよ」
にこにこ笑って意気込んで答えてくれるけど、キスとかしなければでしょ?
それが難しいんだってば。
人の気も知らないで、マルはすがすがしく笑って注文をつけてくる。
「本も読んでね」
しかたなくうなずく。
数日前すすめられた文庫本を、今日は借りて帰ろう。

「もう大人をからかっちゃだめよ?」
すぐに表情に出て、言い訳も丸め込むのも下手な、たいした大人じゃないくせに。
「…本気ならいいの?」
「本気でからかうとか、もっとだめだよ!!」
………はぁっ。
からかうとか、ちょっかいだすとか、そこからは離れないわけね。
まぁ、今はいいか。
ゆっくり、マルの中に染みていけばいい。
俺の言葉が、俺の存在が。
今はまだ、祈りでしかないけど…

それからの俺は、毎日放課後に図書室に通った。
時間は、ちょっと遅め。
そして、最新の注意を払う。
浮かれた様子をなるべく隠して、極力だるそうに歩く。
人に見られたら、色々と面倒だから。
毎日繰り返しても飽きないこの習慣。
マルに、会いにいく。
この時間にめったに人は来ないから、俺だとわかってて、マルは優しい笑顔とやわらかなその声で俺を迎えてくれる。

バカみたいだけど…毎日思う。
時間が、止まってしまえばいいのにって。
放課後の図書室に…ずっとふたりでいられたらいいのにって。

マルが…早く俺を好きになればいいのにって。
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