最初に好きになったのは…声

高宮碧稀

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第2章*放課後の図書室に

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次の日、もちろん図書室に向かった。
冷房が入っているせいなのか、思いの外にぎわっていた残暑残る季節の昼休み。
足を踏み入れてすぐ右手のカウンター内で、マルは何人もの生徒に話しかけられながらくるくると動き回っていた。
女はいいとして、意外と男どもが話しかけているのが面白くない。
肩までの髪を触ってる奴を見かけたところで、ガマンなんてできなかった。

「ねぇっ、オススメある?」
そういってマルを振り向かせた俺は…うん。自覚してる。きっと、世界一子供っぽい。
でも、昨日の今日でマルがどんな態度をとるのかも、正直気にはなっていた。 
マルは、笑顔のまま振り向いて、そのままちょっと固まった。
すぐに伏せ目がちに顔を落とし、かすかに震える声を出した。
昼休みの喧騒で、気がついたのはたぶん俺だけ。
「本…あんまり読まないみたいだし、これとか?」
そういいながら、カウンター内の棚から薄い文庫本を差し出した。
他の生徒からも要望があるのか、あらかじめオススメを数冊用意しているようだった。

正直、ちょっと不満だった。
振り向いて固まったってことは、マルはまだ俺の声を聞き分けられない。
俺は、きっと、すぐにマルの声がわかるのに。
その声に血が騒ぎ、心がもっとと乾くのに。
「面白いの?」
わざと一瞬だけ、その手に触れるようにして本を受け取る。
マルがピクリと身を強張らせたのを、誰よりも近くで感じて、少しだけ溜飲が下がった。
「…短編集だから読みやすいよ」
笑顔はちょっとぎこちなかったけど、平静を装ってマルが答えた。
ただ、視線は一度もあわない。
かわいそうなくらい俺と目をあわせられないマルが、急に愛おしくなった。
まぁ、原因は俺なんだけど。
彼女の心が少しでも楽になる言葉をかけてあげたくて口を開いた時、いくつもの無粋な声が重なった。

「リュウが図書室なんてめずらしい~」
見たことない女に、黙ってろと思う。
名前を呼んで欲しいのはお前じゃない、とも。
「クーラー目当てだろ!!なぁ?リュウ?」
去年同じクラスだった男子も加えて話しかけてくる。
残念。マル目当てだよ。

「良かったら読んでみて」
周りからの一方的な声かけを談笑しているとみなされたのか、そういってマルは俺から離れていってしまった。
一生懸命普通に振る舞おうとする姿を、もっとみたかったのに。 
きっと、誰かに言いふらしたんじゃないかって心配してるだろう。
そんなことしてないって遠回しに伝えて、少しでも心を和らげてあげたかったのに。
俺の言葉が染み込むみたいに、マルに浸透する…その様子を、見たかったのに。

まぁ…うん。
俺が追いつめてるんだけど。
「俺だってたまには本読むんだよ」
マル以外どうでもいいんだけど、一応受け答えぐらいはしておく。
全身で、マルを感じながら。

「マルちゃん~これ借りるんじゃなくて、返すんだってばっ」
男子生徒に指摘されてマルが焦ってる。
「…えっ!?あっ!!ごめん!!」
マルも、こっちが気になるんだろうか?
そう思うと、歪んだ独占欲が少しだけ満たされた。

少し離れて、悪目立ちしないように観察する。
男女問わず、色んなヤツらがマルと話す。マルに触れる。
公立の図書館よりは騒がしいけれど、それでも場所柄、声は控えめ。
聞き取れない小さな言葉を拾おうと、マルが男子生徒に顔を寄せるだけで…胸のあたりがムカムカする。
つい、割って入りたくなる。

髪を手を、あまつさえ二の腕を、気安く男に触らせんなよと苛立つ。
二の腕は俺も触ってねぇ!!…つか、触りてぇ。
中坊みたいな子供じみた嫉妬。
俺のって訳じゃないのに。
………まだ。

隣のクラスの男子が、ふざけてマルの髪に手ぐしをすべらせたあたりで、見ていらなくなった。
「いらない。これ返す」
そう言って、マルが持ってきた文庫本をやや乱暴にカウンターに置いて入り口に向かった。

“マルを絶対手に入れる”と、強くそう思いながら。




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